基本ノウハウ
営業戦略は売上目標を安定的に達成する上で重要なものです。部門の戦略をきちんと立案しないまま、個々の担当者に判断をゆだねた営業活動を続けていると一向に売上は見込めません。しかし「どこから、どのように見直せば良いか分からない」という方も多いでしょう。
本記事では営業戦略とは何か、営業戦略や営業計画、マーケティング戦略との違いを踏まえながら解説します。立案手順や役立つフレームワークも、あわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
まずは営業戦略とは何か、解説します。営業戦術や営業計画との違いについても、あわせて確認していきましょう。
営業戦略とは営業目標(KGI)を達成するために、限られたリソースの中で「何をするか」「何をしないか」を定めるものです。インターネットにより顧客自らが情報を集められるようになった現代において、戦略なき営業は通用しなくなってきています。
実際に営業戦略の有無がどれだけゴールに差をつけるか、見てみましょう。
営業戦略あり | 営業戦略なし | |
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営業戦略 | ターゲットを選定し、競合他社と差別化 | とりあえず顧客リストにある企業へアタック |
営業スタイル | 受注確度の高い企業へ、ソリューション営業 | 「数打てば当たる」でコンタクト数を重視 |
フォーカスする顧客 | 営業戦略で選定したターゲット(行くべき顧客) | 手当たり次第(行ける顧客) |
フォーカスする案件 | 自社の強みが生き他社に負けない案件に注力 | 売れやすい少額案件に注力 |
結果 | 効率的に新規案件を獲得 | 無駄足が多く、売上アップが望めない |
営業戦略がきちんと立てられている場合は、戦略に沿って効率的かつ効果的なアプローチが可能です。一方場当たり的な営業活動では非効率な上、受注できても少額案件ばかりで大きな売上は望めません。
顧客が購買先の企業を自ら選ぶ時代になった今、安定的に売上目標を達成するためは営業戦略が必須です。
営業戦略と営業戦術、営業計画は階層構造になっています。営業戦略はKGIを達成するために営業活動の方針を決め、大枠のKPIを定めるものです。営業戦術は戦略で定めたKPI達成のために、細分化したKPIを決定し、それに沿って「何をやるか」という具体的な施策を決定します。
また営業計画は営業戦略で定めた細分化されたKPIを達成するために、「誰が」「いつまでにやるか」を決定するものです。
よくある失敗は戦略が立案されず、戦術のみが先行している例です。目指すべき大目標や営業活動の方向性が明確になっていない状況だと、営業担当者は常に手探り状態になります。するとすべきことがされず、逆にしなくても良いことがされる、非生産的な状況に陥ってしまうでしょう。
売上を維持・向上するためには効率的・効果的にターゲットへアプローチできるよう、営業戦略の立案や定期的な見直しが大切になります。
営業戦略は、自社のサービスを顧客に販売し、安定的に売上目標を達成することを目的としています。一方でマーケティング戦略の目的は、市場調査、顧客のニーズの理解、競合分析などを行った上で、最終的に「製品・サービスが売れる仕組み」を作ることです。つまり、営業戦略はマーケティング戦略に基づいて立てるものだといえます。
営業戦略を立てる際に必要な手順は、次の5つです。
それぞれ「理想の状態」と「見直しが必要な状態」も、あわせて解説します。見直しの必要性や改善の余地がある工程を知りたい方は、1つずつチェックしていきましょう。
理想の状態 | 見直しが必要な状態 |
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・既存顧客や顕在・潜在市場を分析している
・分析と仮説検証を定期的に繰り返している |
・市場分析や業界情報の収集が不十分である
・ターゲットが不明確である ・ターゲットはある程度決まっているが、顧客分析が不十分で受注確度の高さに自信がない |
営業戦略の立案で最初に必要な工程は、市場分析やターゲット選定です。社内外の環境を分析し、自社の強みが最大限アピールできる「行くべき顧客」を選定しましょう。
なお既存顧客への営業効率は、新規顧客開拓の5倍といわれています。既存顧客は次の3つに分類し、新規顧客とのバランスを見ながらターゲットを抽出しましょう。
特に優良顧客は売上に大きく貢献する、最重要顧客になります。そのため関係強化を図りながら、アップセルやクロスセル、リピートオーダーなどを積極的に狙いたいところです。
理想の状態 | 見直しが必要な状態 |
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・ターゲットや案件ごとに最適な手法をあらかじめ選定し、ルール化している
・マーケティング部門と連携し、効率的かつ整合性の取れた活動ができている |
・場当たり的に手法を選んでおり、ムダ・ムリ・ムラが多い
・マーケティング部門との連携が不十分で、ターゲットへのアプローチに一貫性がない |
次に【1】の分析結果に基づき、顧客・案件ごとに適用する営業手法を選びます。その上で次の3つをルール化し、営業リソースの選択と実行のスピードを上げましょう。
なおパンデミック後は感染予防の観点から対面営業が少なくなった分、非対面の方法も上手に組み合わせて営業活動を進める必要性が出てきています。最新の営業手法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
参考記事:「【2023年最新】営業手法の一覧14選|選び方や進め方のポイントも解説」
理想の状態 | 見直しが必要な状態 |
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・自社に影響があると推測される脅威について網羅的な情報収集・分析を進め、差別化戦略に反映している | ・差別化戦略がなく、攻めの営業ができない
・顕在化している競合の情報は把握しているものの、潜在的な脅威は分析できていない |
競合他社にはない、自社製品・サービスならではの強みを明確化し、訴求ポイントとして設定・周知することも大切です。機能性や料金プランなど顧客が重視する点を踏まえて優位性をアピールし、購買意欲につながる差別化戦略を打ち立てましょう。
また差別化ポイントを抽出する際は顕在化した情報だけでなく、潜在的な参入者や代替品の脅威も考慮する必要があります。後述する5F分析を活用しながら、抜け漏れのない営業戦略を立案していきましょう。
理想の状態 | 見直しが必要な状態 |
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・KGIの達成に必要なKPIを細分化して設定している
・定期的にKPIをチェックするプロセスや体制が整っている |
・明確なKPIがなく、目標の達成度合いを測定・分析できない
・KPIを設定しているものの、実行状況について定期的なチェックが行われていない |
【1】~【3】で分析・抽出された情報をもとに、実現可能性の高いKPIをKGIから逆算して設定します。KPIに至る逆算思考を各部門で一気通貫して表しているのが、セールスフォース・ドットコム社が公開しているTHE MODEL(ザ・モデル)です。
例えば受注数は営業部門で設定されるケースが多いKPIの1つですが、逆算して考えると案件数や受注率に分解できます。また導き出された案件数を達成するために必要なアプローチ数やアポイント数も、さかのぼって考えることで徐々に見えてくるでしょう。
ただし逆算思考には、アポイントからアプローチなど次の段階に移れる確率がどれくらいかを知っておく必要があります。移行率が不明な場合は現状の営業活動を分析・特定してから、KPIの設定を進めましょう。
理想の状態 | 見直しが必要な状態 |
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・営業戦略に沿った営業計画を作成でき、現場の担当者にも周知できている | ・営業戦略はおおむね立案できたものの、現場の担当者に周知できていない
・営業戦略と営業計画の間に整合性が取れていない |
最後に営業戦略の内容を踏まえて、営業計画を立案します。「何をするか」を定めた営業戦略に沿って、「誰が、どのようにやるか」というより具体的な施策を営業計画に反映しましょう。営業計画に落とし込んだ内容はPDCAサイクルを回しながら、定期的にチェックし必要に応じてブラッシュアップすることが大切です。
営業計画の立て方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
参考記事:「営業計画とは?立て方を例文付きで解説【無料テンプレートサイト3選!】」
営業戦略を立てる際には、前提として自社の現状を正確に把握することが大切です。営業フローの各段階におけるボトルネックを把握し、それを解決するための「SMART」な目標設定をしましょう。その上で意識すべきポイントについて解説します。
S(Specific:具体的に)
M(Measurable:測定可能な)
A(Achievable:達成可能な)
R(Related:経営目標に関連した)
T(Time-bound:時間の制約がある)
業務効率化は、営業戦略の成功に欠かせない要素です。時間の浪費や不必要な手順につながる部分がないか、営業フローを見直しましょう。例えば、既存顧客の対応に大きくリソースを取られていると新規商談の準備にかけられる時間が減り、思うように成果が上げられない可能性があります。こうした場合、顧客管理システムや自動化ツールを活用し、データ入力や顧客管理の手間を大幅に削減することで対策できるかもしれません。このように営業フローを最適化することで、より効果的な営業戦略が立てられるようになります。
新規顧客の獲得を目指すときは、長期的な視点で戦略を立てることが重要です。顧客層の拡大は企業の成長にとって重要ですが、その分、時間と労力がかかります。焦らずに、ブランド認知度の向上と信頼関係の構築に時間をかけ、持続可能な顧客基盤を構築できるような戦略を立てましょう。
営業戦略の立案と同時に、営業担当者の顧客対応スキルを磨くことも大切です。営業担当者は、自社サービスの知識はもちろん、市場の状況や競合との差別化ポイントについても深く理解していなければなりません。また顧客に適切な提案を行うための高いヒアリング力や課題解決力、交渉力も必要です。このため、企業は勉強会のほか、MBO(目標管理制度)やこまめなフィードバックを行い、営業担当者のスキル向上に並行して取り組みましょう。
最後に営業戦略の立案に役立つフレームワークの概要を、7つ紹介します。
詳細な分析内容や活用方法などについて知りたい方は、各項目にあるリンク先のページもあわせてチェックしてみてください。
3C分析とは自社を取り巻くマーケティング環境を整理し、成功要因(KSF)を見つけ出すフレームワークです。具体的な分析項目は、次の3つになります。
営業戦略の立案では、3C分析の情報が市場分析や差別化ポイントの抽出に役立つでしょう。また上記以外にも、次のようなCの情報を増やすとより深い分析が可能になります。
3C分析は自社における現状をざっくりと把握するため、他の手法と組み合わせながら情報の密度を上げていきたいところです。
参考記事:「【具体例付き】3C分析とは?目的・やり方を分かりやすく解説」
SWOT分析も3C分析と同様に、マーケティング環境を整理するフレームワークです。具体的な分析項目は、次の4つになります。
上記はそれぞれ単独で分析するだけでなく、組み合わせて考える「クロスSWOT分析」も有効です。例えば強みと脅威を掛け合わせると、強みをもとに脅威に対応する施策の立案ができます。そのため営業戦略では市場分析や差別化ポイントの抽出はもちろん、適用する手法の選定にも役立つでしょう。
参考記事:「【具体例付き】3C分析とは?目的・やり方を分かりやすく解説」
STP分析は市場について詳しく分析し、アプローチすべき最適な場所を探すフレームワークです。具体的な分析項目は、次の3つになります。
それぞれの分析を進める際に必要なのは、他の手法によって得られた情報です。例えば自社とのマッチ具合が高い市場を見つける細分化の工程では、3C分析やSWOT分析の情報を生かせます。
営業戦略では立案のスタートラインとなる市場分析やターゲット選定で役立つため、3C分析などとあわせて必ず実行したい手法といえます。
参考記事:「【具体例付き】BtoBのSTP分析とは?やり方や注意点を徹底解説」
4P分析は自社製品やサービスの金額設定や、提供・販促方法を明確化するフレームワークです。具体的な分析項目は、次の4つになります。
営業戦略の立案ではSTP分析で導き出された方向性を、4P分析で具体的な施策へ落とし込む際に役立ちます。ただし4P分析は企業目線での分析となるため、押し売りが強くなりすぎないよう顧客目線の3C分析と併用すると良いでしょう。
参考記事:「【マーケター必見】マーケティングの王道「4P分析」!事例や使い方を解説https://be-marke.jp/articles/knowhow-4p」
PEST分析は自社を取り巻く環境のうち、外部環境の変化を見るフレームワークです。具体的な分析項目は、次の4つになります。
3C分析の市場・顧客に関する情報を整理する際に活用できるため、営業戦略の立案では最も早い段階で取り組むフレームワークといえます。またソリューション営業を展開する上では外部環境の変化により、経営や業務の課題に直面しそうな見込み顧客に目星をつける際にも役立ちます。
トレンドや法改正などによっては突然大きな変化が生じるケースがあるため、定期的に実行し営業戦略の見直しに反映しましょう。
参考記事:「【現役BtoBマーケターが厳選!】現場で本当に役立つフレームワーク10選を無料ダウンロード」
5F分析もPEST分析と同様に、外部環境の変化を見るフレームワークです。具体的な分析項目は、次の5つになります。
上記を見ると分かるように、5F分析の内容はPEST分析よりも自社への影響が直接的です。営業戦略の立案では差別化ポイントの抽出で役立ちますが、目に見える脅威だけでなく潜在的参入者や代替品なども考慮することが大切になります。
参考記事:「【現役BtoBマーケターが厳選!】現場で本当に役立つフレームワーク10選を無料ダウンロード」
ABC分析とは売上構造を分析し、優先的にアプローチするターゲットを決めるフレームワークです。例えば売上への貢献度合いによって、自社サービスの既存顧客をABCのグループに分けます。
上記のうち、優先的にアプローチした方が良いのはAです。またなぜAはそれほど売上に貢献しているかを分析すると、BやCに対する効果的な施策も見えてきます。
さらに売上への貢献度を営業担当者ごとに見ると、アンバランスな売上構造になっていないかの確認が可能です。トップセールスに偏った売上構成になっている場合は、環境整備や育成に力を入れる必要があるでしょう。
このようにABC分析は営業戦略のターゲット選定はもちろん、営業計画へ反映する施策を考える際も役立つフレームワークといえます。
参考記事:「売上分析7つの手法・フレームワークから簡単エクセルでの分析方法まで紹介!」
営業戦略の立案において成果があった具体例を3つ紹介します。
HRシステムを提供しているE社は、展示会や業界イベントへの参加を主な営業活動としていましたが、パンデミックの影響で対面イベントが減少し、新規顧客が獲得できない課題を抱えていました。そこで、オンラインのイベントやウェビナーを積極的に開催する営業戦略を立てました。社内に蓄積されたナレッジを生かして専門的なトピックに焦点を当て、業界のキーパーソンを招待し、魅力的な企画をいくつも打ち出したのです。
結果、都心のみならず地方からも多くの参加者を集めることに成功し、新規リード獲得が倍増しただけでなく、長期的な顧客関係の構築につながりました。
F社は汎用性の高い健康管理ツールを提供していますが、近年、競合他社との差別化が大きな課題になっていました。そこで、営業戦略の一つとして顧客からのフィードバックを基にカスタマイズ可能な製品ラインを開発し、特定のニーズに合わせてオプションを追加できる仕様に変更しました。
結果、競合他社との差別化に成功し、市場シェアの拡大に寄与しました。
企業の採用支援を行っているC社は顧客のリピート率が低いことが課題でした。新規顧客の獲得を試みたものの大きなコストがかかってしまったため、営業戦略を立て直し、顧客管理システムを導入することを決めました。詳細に分析した既存顧客のデータに基づき、顧客ごとにカスタマイズされたフォローアップやプロモーションを実施したのです。
結果、顧客満足度が向上し、リピート率が50%アップしたことに加えて、顧客からのポジティブなフィードバックを導入事例に生かすことで新規顧客獲得にも貢献しました。
営業戦略は目標達成のために設定する中長期的な方針であり、営業戦術や営業計画の方向性を定めるものです。立案や見直しの際は市場分析から丁寧に行い、実現可能性の高いKPIと施策を設定する必要があります。
また営業戦略の立案では、3C分析やSWOT分析といったフレームワークの活用がおすすめです。各手法の分析項目にのっとって情報を整理することで、抜け漏れのない効果的な戦略に仕上がる可能性が高まります。
自社の状況や取り巻く環境に合わせて定期的に営業戦略を見直し、売上目標の安定的な達成を目指しましょう。