インタビュー

6万社分の顧客情報を活用する仕組みを構築し営業に変革を起こす!NIPPON EXPRESSホールディングス 古江氏に聞く、データドリブン営業のはじめ方

6万社分の顧客情報を活用する仕組みを構築し営業に変革を起こす!NIPPON EXPRESSホールディングス 古江氏に聞く、データドリブン営業のはじめ方

営業DX推進によって成長を続ける企業に、実際の取組みや課題感、成果についてお聞きする本企画。

今回は、コロナ禍をきっかけに営業スタイルを見直しデータドリブン営業への変革を行う、NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博氏に詳しいお話を伺いました。

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  • NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博(ふるえ・ただひろ)

    NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長

    古江 忠博(ふるえ・ただひろ)

    1985年、日本通運株式会社へ入社。主に国際航空貨物業務に従事し、東京・名古屋・ロンドン・シカゴ・シドニー・香港・メキシコシティーで勤務。海外勤務歴は通算17年に及ぶ。メキシコから帰国後の2016年に関東甲信越ブロック統括部長、2018年に経営企画部長、2019年に執行役員中部ブロック地域総括兼名古屋支店長を歴任。2022年より営業戦略本部長として「データドリブン営業マネジメント変革」に取り組み、営業パーソン全員が売れるようになる仕組みを構築するため、2023年1月には、セールスイネーブルメント部を立ち上げた。2024年1月からは、グローバル事業統括責任者として、グローバルでのセールスイネーブルメントの実践に着手している。

目次

コロナ禍に「営業のやり方」を変える必要があったことが営業DX推進のきっかけ

ーー営業DXに取り組み始めるきっかけを教えてください。

当社の場合は、営業DXというよりも「営業のやり方自体」を変える必要があるということが発端です。VUCAともいわれる現在、当社が携わっている物流の分野も保護主義の台頭や企業価値評価基準の変化などの影響を受けており、これまでの営業スタイルを変える必要に迫られています。

またコロナ禍によりお客様に会えなくなったことの影響も大きい。従来の足で稼ぐ営業ができず、どうするかという議論のなかで、営業のやり方を変えようという話が出てきました。

コロナ禍で、お客様の「物流」に対する優先度が変化した

コロナ禍で、お客様の「物流」に対する考え方や優先度が変わってきたことも、営業スタイルを変える理由のひとつに挙げられます。

これまでは、お客様のなかの「物流」の位置づけや優先度は低かった。調達や生産、商流があり、最後に物流という順番ですね。全体のコスト見直しにあたっては物流が影響を受けるという構図です。

しかしコロナ禍で飛行機が飛ばなくなり、船も思うようにまわらない。加えて国際情勢の悪化により通常の航路を通過できない。例えば60日で運べていたものが90日かかってしまうということが頻発していました。そうすると単に安ければ良いというものではない。

コストとしてとらえられていた物流が、今や経営戦略の一環としてとらえる必要が出てきたんですね。

受け身の営業からソリューション営業への変革が求められるように

お客様の物流のとらえ方が変わったことで、営業スタイルも変える必要がある。

今まではお客様からのお問い合わせに回答する、受け身な営業スタイルだったところを、当社から積極的にお客様の経営に関わる課題を提起する営業スタイルに変革させなければならなくなりました。

例えば他社の事例を活用しながら、お客様とともに仮説を立て課題を掘り起こし顕在化させ、その課題に対してソリューションを提案していくといった営業アプローチが求められています。

当社ではこれを「プロアクティブソリューション営業」と名付け、お客様のサプライチェーンにおけるありたい姿からバックキャストするアプローチ手法を採用しています。

営業に必要な情報をデータ化・可視化できていなかった

「プロアクティブソリューション営業」に欠かせないのが、他社事例や今までの営業手法やノウハウなどナレッジの積み上げ、お客様との接点情報です。当社では、これらの情報がまったく可視化されていなかった。

これを営業DXツールを使って可視化し活用することで、営業生産性を向上させ営業アプローチ自体を進化させていこうという流れが、営業DX推進のきっかけであり、今まさに取り組んでいることです。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博氏
NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江忠博氏

6万社分の顧客情報をいかに価値あるものとして活用するかが課題

当社は、6万社分のお客様の課題とそれに対するソリューション、提案のノウハウや成功事例を保有しています。

その顧客情報にいかに価値があるかを組織全体に理解させ、情報共有を習慣化するための仕組みづくりが先決だと考えました。

営業DXは名刺管理から。ナレッジの集約・共有を同時に進める

ツール導入によって全社的に顧客情報を管理

ーー営業DXをどこから進めていったのでしょうか。

まずSansanを導入・活用し、顧客情報を全社的に可視化することから、当社の営業DXはスタートしました。

それまでは営業日報ツールを使っていたもののグループ内でしか情報共有ができず、全社的に情報共有できる仕組みがほしいと考えていました

そのタイミングで紹介されたSansanの「コンタクト機能」が課題解決にぴったりでした。「誰と誰がどこで会い、どのような会話をしたか」という情報をコンタクト機能に記載することで、営業活動状況が手に取るように分かるようになりました。

私としてはすぐにでも導入したいと思ったものの、当社はセキュリティ意識が高く、クラウド型サービス導入のハードルが高いことから、すぐには実現しませんでした。数年後、本社移転のタイミングで膨大な紙の名刺をデータで管理する必要があり、Sansanを導入することになりました。

はじめは現場の抵抗感が強かった

ただ導入してからすぐに活用できたわけではありません。新たな取り組みには、無関心層や、抵抗勢力が少なからず存在します。ましてや、情報を共有する文化が根付いていない状況においては、その傾向は顕著でした。

Sansanについても、組織により利用率が大きく異なっていました。

そのため、はじめはトップダウン型で「単に名刺をスキャンするだけではなく、これまで営業日報ツールやExcelで管理していた情報をすべてSansanに入力しなさい」「とにかく上司はメンバーの入力状況を見なさい」と伝え続けました。

すると、上司の指示で仕方なく入力していたのが、徐々に利便性に気づいていったようです。

情報共有によって新たなニーズに気づき、スピーディーな営業につながる

導入当初、私は中部ブロック地域総括として、すべての営業担当者をフォローし入力内容を毎日2-3時間かけて全部読んでいました。それによって、現場で何が起きているかが手に取るように分かるようになりました。同時にお客様の課題も見えてくるようになったんですね。

あるとき、営業担当者からの報告で、「半導体が不足しているが、その他の材料は充足しており保管場所を探している」というお客様がいらっしゃったため当社が持つ倉庫を案内したという内容を見ました。そこで私は、「同じお悩みを持つお客様がもっといるはずだ」と考え、すべての営業担当者に営業をかけるように指示を出しました。数日以内に全員が動き出し成果につながった、ということがありました。

情報共有の仕組みができることで、これまでの常識では想像がつかなかった新たなアプローチ手法や未開拓の業界へのチャレンジにつながることを実感しました。

上司の声掛けがメンバーのモチベーション向上に

ツールへの入力内容を上司が確認し反応することで、若手営業担当者のモチベーション向上につながるという良い流れもありますね。モチベーションを維持し向上するために、一部、抜擢人事なども行っています。

ナレッジの共有によって「プロアクティブソリューション営業」を実現

ーー営業DXに関して、名刺管理の他にどのような取り組みを行ったのでしょうか。

名刺管理による顧客情報の可視化とあわせて、これまで蓄積されたナレッジを1箇所に集約し共有する仕組みも進めました。営業活動の効率化と生産性向上を目的とし、6万社のお客様に提供してきたソリューションやノウハウを、ツールを活用し集約・共有する仕組みをつくりました

現在は、2,000を超えるナレッジの集約が進んでいます。「お客様にはどのような課題や背景がありそれに対して当社はどのような提案を行い、価値貢献できたのか」を言語化することで、これからプロアクティブソリューション営業を加速させていきたいですね。

自社の価値や強みを言語化できた

これまではリアクティブな営業スタイルだったため、当社の価値や強み、お客様が当社を選んでくださる理由を言語化できていなかった。自分たちが「当たり前のこと」として取り組んできたことを整理できたという点でも評価できると思います。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博氏

ナレッジを共有することで、営業提案準備にかかる業務を効率化

ーーナレッジ共有によって、他にどのような業務改善効果がありましたか。

ナレッジを集約することで提案資料作成にかかる業務を効率化できました。

これまで、提案準備に時間がかかり営業活動に時間を割けないという全社的な課題がありました。そこで業務可視化ツールを使い、営業担当者の業務内容を分析したところ、営業活動以外の業務にかける時間の割合が多いことが分かりました。直接お客様に営業する時間の割合が、もっとも高い営業担当者であっても15%というショッキングな結果でした。

その結果を受け、社内会議を減らす、業務効率化を図るというさまざまな改善案が出されました。そのなかで優先度が高く着手しやすい施策として、資料作成や調査など営業提案準備にかかる工数を削減しようということになったんですね。

良い資料ができればお客様のところに行きたくなる

現在は、集約されたナレッジを参考にすることで作業コストを削減でき、営業生産性向上にもつながっています。工数をかけずとも良い資料ができれば、自然とお客様のところに行きたくなる。そういった良い流れができれば、直接お客様に営業する時間も増えてくると考えています。

営業DXの費用対効果は中期的に見る必要がある

ーー営業DX推進にあたり、どのような指標をもとに費用対効果を見ているのでしょうか。

業務可視化ツールを使い、営業活動全般にかかる時間のデータを出し、人件費をかけ合わせることで削減できたコストを算出する、ということを定期的に行っています。

ただ営業DXを全社的に進めるにあたり、そのコストをどの部門が費用負担するのかは難しいポイントです。財務担当者としては「受益者たる営業部門の負担だ」というのですが、私の立場からすると「事業を行うために必要最低限のプラットフォーム」だと考えている。営業DXツールがないと営業ができない、というほど必要不可欠なものなんですね。

そのため、全社総掛かりで進められると良いのではと考えています。

営業DXの成果はすぐに出るものではない

しかし今年からは、営業DXツールの費用は受益者負担としています。各ツールのIDを支店ごとに割り振り、コストに見合うような成果を出していこうと掛け声をかけています。

とはいえ、効果はすぐに出るものではないため、中期的に見る必要があると思っています。そのバランスは難しいですね。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博氏

「ツール先行」のSFA導入で失敗

ーーツールを導入し活用するための秘訣を教えてください。

ツールはあくまでも手段であり、活用自体が目的化しないように留意することが大切です。

当社は、過去にSFAを導入し失敗した経験があります。この経験は、まさに手段が目的化したことがその要因のひとつだととらえています。

そのため、社内で「営業DXツール」という言葉を使っても「営業DX」という表現をなるべく使わないようにしています。

現場の営業担当者に「なぜ導入するのか」腹落ちさせられなかった

ーーどのような経緯から「失敗」と考えたのでしょうか。

当社は、グローバルで統一された方針に則って業務を進めていこうという文化があります。当時、欧州ではすでにSFAを導入していました。その流れを受けて、日本のホールディングスもそのSFAの導入を決めていたんですね。導入の時点で、目的よりも「ツール先行」になっていました

ツールを何のために導入するのか、現場の営業担当者に腹落ちさせられないまま、入力を指示されているような状態でした。加えて、さまざまな営業プロジェクトが同時進行するなか、実績報告の度にSFA以外のシステムからも情報を持ってくる必要があり、手間は減らずに入力工数だけ増えていく。営業担当者に理解を得られず、活用は進みませんでした。

失敗を生かしてSFA導入に再挑戦。全国の事業所をまわって目的を伝える

一度は失敗したSFA導入に、今また取り組もうとしています。失敗の経験を活かし、今回はしっかりと目的を明確化し現場に浸透させることを意識しています。

まずSFA導入は単なるツールではなく、全社で取り組んでいるナレッジ集約・共有や、セールスイネーブルメントの取り組みの一環であると明言しています。SFAに入力することで営業活動が効率化され生産性が上がる、顧客体験向上のための武器でもある、と全国の事業所をまわりながら伝えています

入力したくなる環境づくり

また入力したくなる仕組みづくりも重要です。上司には入力内容を確認したら必ずフィードバックするよう伝えています。さらに、お客様に評価されたポイントや良い反応を積極的に共有する流れをつくることで、自発的に入力したくなる環境づくりを意識しています。

目指すのは「データドリブン営業マネジメント変革」

SFA導入の目的を伝えてまわるのと同時に、SFA内の営業フェーズをゼロからつくりなおす作業も行っています。目指すのは「データドリブン営業マネジメント変革」です。

経営層が見るダッシュボードと、営業企画やマネージャー、現場の営業担当者が見るダッシュボードをそれぞれ分けてKPIを設定するということを進めています。

「営業的なDNA」がない環境で変革を起こすために

当社の成り立ちは国策会社であり、鉄道駅の近くに事務所を配置しそこへお客様がお荷物を持ってきてくれるという営業スタイルでした。営業するというより、お客様からお預かりした貨物を安心・安全に輸送するための業務と管理を行う会社なんです。

自らお客様のところに出向く「営業的なDNA」がない

そこで私は今、「営業としてのマインドと文化」を育もうとチャレンジしています。「変革」という言葉以上に大変な取り組みですが、今こそ変わるチャンスだと考えています。

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社 専務執行役員 グローバル事業本部長 古江 忠博氏

データドリブン営業によりグローバルでの存在感を増大させていく

4,000人以上の営業担当者が顧客情報を共有

ーー営業DX推進によってどのような成果がありましたか。

営業変革を実現するためSansanの活用推進に取り組んだ結果、全国約1,350の営業部署に在籍する4,000人以上の営業担当者をSansanでつなぎ、導入から4年で100万件以上の顧客情報を蓄積・共有しています。

導入以前は顧客情報の収集に数日かかることもありましたが、導入後はSansan上で必要な情報を確認でき提案までのスピードが向上したとともに、より深い顧客分析が可能になりました。

活用推進においては、全国の事業所の各ブロックに推進担当者を配置しました。

またSansanのカスタマーサクセスの方々が、現場のメンバーに寄り添い伴走してくれたことも、活用が進んだポイントだと思います。現場の営業担当者がツール活用のメリットや使い方を腹落ちするまでしっかり理解し使いこなすことが、営業DX推進には欠かせません

データドリブン営業を加速するセールスイネーブルメント部を創設

2023年1月には、全社的な営業マネジメントの変革を実現するため「セールスイネーブルメント部」を創設しました。顧客データを分析することで、より顧客との関係値を高める戦略を立案するなど、データを起点とした営業戦略の策定に注力しています。

また2024年1月にはセールスイネーブルメント部所管にて、営業活動のバックオフィス機能を持つ「ナレッジセンター」を設立しました。資料作成など営業提案準備にかかる業務をナレッジセンターに集約することで、営業担当者が「顧客への営業活動」に費やす時間を増大させることが目的です。

お客様との関係性を定量的なデータとして可視化する

ーー今後、注力していきたいことを教えてください。

今年1月に発表した経営計画では「顧客志向」をキーワードにしています。

新規はもちろん既存のお客様にしっかり向き合い、“経営レベル”での課題解決を目指しています。そのためにも、お客様企業のトップマネジメント層とのエンゲージメントをいかに高めるかが重要だと考えています。

ターゲットへのアプローチを効率化するためにも、名刺情報をもとにお客様との関係性を定量的に可視化していくことが欠かせません。

役職ごとにスコアで表示

例えばアプローチ先企業のキーパーソンとなる人物の役職ごとに点数をつけて、営業活動の指標とする取り組みもはじめました。企業アカウントごとに関係構築における定量的な目標値を設定し、営業活動をより効率化すると同時に顧客体験を向上させていきたいと考えています。

「データドリブン営業マネジメント変革」によって、グローバル市場で存在感をもつロジスティクスカンパニーの実現に向け、トップラインを伸ばし成長軌道に乗ることを目指していきます。

ーーありがとうございました!

【営業生産性向上のためのDXどこからはじめる?特集一覧】


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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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