Tips/寄稿
「もうダメかもしれない」
新規営業に手を尽くしても反応はゼロ。広告を回しても問い合わせは来ない。営業代行にも依頼したが、受注にはつながらない。
会社の口座残高は底をつき、気づけば個人カードでの広告費も積み上がっていた頃、私は「倒産」という言葉が頭をよぎる状態になっていました。
この記事では、そんな私の小さな会社が、BtoB営業を立て直し、安定して商談・受注を得られるようになるまでに実行した3つの施策を紹介します。
とはいえ、これは「特別な施策」ではありません。むしろ、営業部を持たない小規模な会社だからこそ機能した、現場視点の施策です。
もし今、「紹介頼みの営業から抜け出したい」「成果の出る営業チャネルを持ちたい」と思っている方がいれば、少しでも参考になる部分があれば幸いです。
以前、筆者は個人事業主や一人社長といった小規模事業者に向けて、外注や業務委託を活用しながら、少人数でもチームとして機能する体制づくりを支援していました。
提供していたサービスは、大きく3つに分かれます。
いずれも、筆者自身がかつて現場で悩みながら実践してきた経験をもとに体系化したもので、内容には自信を持っていました。
しかし、最大の課題は「新規営業」です。
BtoB営業の経験がほとんどなかった私は、リードの集め方も商談の進め方も分からず、すべてが手探りの状態でした。知人に見込み顧客を紹介してもらうことはあっても、いざ打ち合わせになると話が脱線し、気づけば雑談のまま1時間が終わってしまうようなことも多々ありました。
「営業は向いていないから諦めよう…」
売り込むのも、断られるのも嫌になり、できればやりたくない。だから私は、自分の強みであるサービスづくりと提供に集中して、「営業はプロに任せた方がいい」と考えるようになりました。
会員同士をマッチングしてくれる営業支援サービスや、成果報酬型(デポジット制)の営業代行などをいくつも試すことに。
けれど、そこで待っていたのは、期待とは程遠い現実でした。 紹介されるのは温度感の低い相手ばかり。商談では、こんな言葉を投げかけられることもありました。
「こういうサービスって、実績ないと厳しいよね」
「で、これって何の価値があるの?」
「1万円くらいなら試してあげてもいいけど」
基本的に見下されているような感覚。 こちらは真剣に届けたいと思っているのに、伝わらない悔しさばかりが残りました。
広告も出してみました。GoogleやFacebookの広告を運用してみましたが、問い合わせにはつながらず、費用だけが消えていく状況です。
ウェビナーにも取り組みました。広告やウェビナー集客代行サービスを使い、まったく接点のない新規リストを集めて開催してみました。研修やコンサルティングで扱う、実践的なノウハウやメソッドを公開し、参加者からの反応も良好で満足度も高かったです。 それでも、5回開催して個別相談につながったのはたったの2件。受注は0件でした。合計で100万円以上の集客費を溶かしました。
気がつけば、個人のカードで180万円、法人カードで50万円。合計230万円の借金を抱え、会社の口座にはほとんど資金が残っていない状態でした。まさに「倒産」が現実味を帯びてきた瞬間です。
そこで、筆者は営業のやり方そのものを見直し、3つの施策に取り組みました。結果として、ようやく安定して商談・受注につながる流れを構築できたのです。 ここからは、その転機となった3つの施策をご紹介します。
以前は、研修からコンサルティングまでを一括で提供するフルパッケージのみを販売していました。価格は年間300万円。内容には自信がありましたが、金額を提示した瞬間に表情が曇り、話が前に進まないことがほとんどでという状況です。
当時は気づいていませんでしたが、初対面で信頼関係も築けていない段階で、いきなり300万円という金額を提示しても、意思決定は難しいという、ごく当たり前のことを見落としていたのです。
そこで、価格設計を根本から見直すことにしました。単純な値引きではなく、入口商品(フロントエンド)として切り分け、顧客が低リスクで試せる構成に変更したのです。
ターゲットである小規模事業者が心理的に「これなら出せる」と感じる価格帯を探り、目安になったのが30万円というラインです。業務委託や外注を活用した体制づくりをテーマに、4回完結の研修プログラムを再構築。価格を30万円に設定しました。
また、スモールビジネスの経営者には「いきなり全部やってもらう」よりも、「メソッドを学び、内製化していきたい」というニーズが多かったため、講義型のサービスがより適していると考えました。
従来は1on1での個別研修が中心でしたが、これを社内メンバー複数名での参加に変更し、1社あたり月1回、4回で完結するパッケージに。これにより、サービス提供側としても月に複数社を対応できる体制を整えました。
結果として、この30万円の研修プランは「まずは試してみたい」というニーズに応え、初対面でも受注につながるケースが増えました。導入のハードルが下がったことで、商談時の緊張感が減り、信頼関係を築いたうえで追加提案がしやすくなったと実感しています。
なお、単価が100万円を超えるようなサービスは、フロントエンド商材として切り分けて提供することで、初対面の段階でも意思決定を引き出しやすくなります。
弊社で価格帯ごとの導入傾向を調査したところ、10万円前後の商品は導入数こそ多いものの、「とりあえず試す」という姿勢で終わることが多く、その後の追加発注につながりにくい傾向がありました。
一方で、20〜30万円程度の価格帯は、ある程度の意思決定と期待値を伴うため、導入後の継続的な提案や高単価サービスへの展開(バックエンド)につながりやすいという傾向が出ています。
次に取り組んだのは、サービスの内容を「誰が見ても一瞬で理解できる状態」にすること。私はもともと口頭での説明が得意ではなく、言葉で伝えようとしても本当に伝えたいことが曖昧になってしまう経験を何度もしてきました。だからこそ、説明しなくても「これ、うちに必要かも」と直感的に理解してもらえる資料づくりを目指しました。
そこで必要になったのが、「サービスの言語化」です。
研修やコンサルティングといった無形サービスは、「組織力を高めます」「伴走支援します」といった抽象的な表現になりがちです。 でも、それでは伝わりません。そこで、「この研修で具体的に何ができるようになるのか」を、ひとつひとつ明確に言葉で定義し直しました。
たとえば、全4回の研修内容を以下のように絞り込みました。
「全4回の研修を通じて、経営者が自分の業務を整理し、業務委託や外注に任せられる作業を切り出せるようになります。そのためのWBSシートとマニュアルの作り方を実践的に学び、最終的には自分にしかできない仕事に集中できる体制を構築できるようになります」
このように具体的に言語化した上で、それを「資料として見せた瞬間に理解できる形」に落とし込みました。
具体的には、サービス紹介資料の中に「研修のアウトプット事例」を図で示しました。
・研修を通じて実際に作成されたWBSシートの見本
・委託業務のビフォー・アフターのフロー図
・経営者の作業時間がどう削減されるかを示したタイムチャート
こうした図解を資料に挿入し「この研修を受けると、こういう成果物が手に入る」という状態を視覚で伝えられるようにしたのです。
「具体的に言語化した表現を、ビジュアル化する。」ここをこだわりました。
よくある「矢印で抽象的なステップを並べただけの図解」ではなく、実際のアウトプットを見せる。これが納得感につながりました。資料を見せた瞬間に「なるほど、こうやって棚卸しできるのか」「こうやって外注できるようになるんだ」と具体的にイメージできます。
このような直感的に理解できる状態を目指しました。結果として、口頭での説明に頼らなくても、資料だけで商談がスムーズに進むようになりました。特に初対面の商談では、言葉よりもビジュアルの方が信頼を得るスピードが早いと実感しています。
3つ目に取り組んだのは、「すべての営業プロセスの中にウェビナーを挟む」体制づくりでした。
多くの企業では、ウェビナーをリード獲得の手段として使っています。ノウハウを講義形式で共有し、興味を持った人に個別でサービス説明をする、という流れが一般的です。筆者も当初はこの形式でウェビナーを開催していましたが、受注にはつながらず、広告費だけが膨らんでいく一方でした。
そこで構成を抜本的に見直し、サービスの全体像・実績・料金までをウェビナー内でしっかり伝える方針に切り替えました。そして、ウェビナーの最後には「今すぐ申し込みたい」「相談してから検討したい」といった、参加者の温度感に応じた行動を促す導線を設計。購入意欲の高い方だけが次のステップに進む流れをつくったのです。
この形にしたことで、個別相談に来る人はすでにサービスを深く理解し、前向きな状態で来てくれるようになり、成約率は80-90%に。クロージングなども不要になり、営業の負担が大幅に軽減されました。
具体的には、ウェビナーの中で以下の3点を丁寧に組み入れました。
さらに、ウェビナー終了後には分岐型のアンケートを配布しました。
「今すぐ申込したい」「相談してから検討したい」「今回は見送りたい」など、参加者の意向に合わせて次のアクションが分かれるアンケートです。
「申込したい」を選んだ方には、そのまま利用規約の確認とカード決済ページに自動で遷移させ、その場で決済が完了できるように設定しました。
「相談したい」を選んだ方には、TimeRexで個別相談の日程調整ができるように設定しました。
「今回は見送りたい」を選んだ方には、その理由を回答してもらい、今後のウェビナー改善に生かせるフィードバックを収集できるように設定しました。
この導線で実施したウェビナーでは、3名の方から個別相談希望があり、そのうち2件が受注に至りました。そして何より重要だったのは、この流れを再現性のある「型」として確立できたこと。同じ設計で複数回開催しても、安定的に成果が出せるようになったのです。
もちろん、すべての商材がその場での申込に向いているわけではありません。BtoB商材の場合、一般的には商談を挟み、契約書を取り交わしたうえでプロジェクトがスタートします。そのため、単価が30万円前後のものであれば、その場で申し込みまで進める設計も可能ですが、50万円を超えるような商材は、一度個別相談を挟んだ方が現実的です。
どの価格帯の商材でも、ウェビナーを営業プロセスに組み込むことで、参加者の理解と共感を深めた上で次のステップに自然につなげられます。そして、個別相談に来る時点で購入意欲が高いため、無理なクロージングなどが不要になりながらも、成約率は高まるのです。
本記事では、倒産寸前だった小さな会社がBtoB営業を立て直すために取り組んだ、3つの具体的な施策をご紹介しました。
いずれも特別なノウハウではなく、現場視点での地道な改善を積み重ねることで、営業の成果は徐々に安定していきました。
商談につながらない営業活動に悩んでいる方にとって、本記事が現実的な打ち手を考えるきっかけとなれば幸いです。