Tips/寄稿
営業スタッフが少ない況では、紹介や口コミ、会社代表のマンパワーを頼りに事業を回している企業も多いでしょう。信頼に支えられた商談は大きな強みです。ただ、それだけでは新規獲得の仕組みがなく、代表の負担が増え続け、いずれ成長の限界が訪れます。
「採用に時間がかかるなら」と営業代行や広告に挑戦してみるものの、時間とコストが失われていくーーそんな課題を抱える企業も少なくありません。
今回ご紹介するのは、BtoB企業がウェビナー施策を起点に紹介頼みから脱却し、信頼を前提とした商談を仕組みとして再現できるようにしたケースです。採用代行事業のD社の実践例をもとに、ウェビナー施策を取り入れる考え方と手順、KPIの見立てについて解説します。
採用代行事業を行うD社は、事業開始から6年。これまで紹介やリピート、口コミからのご依頼で成長してきました。信頼関係のある顧客から次の顧客へとつながる形で新規案件を獲得できているのは大きな強みでしたが、紹介以外では新規開拓ができていない課題が残っていました。
組織体制は、営業から提案、ディレクション、品質管理まで代表が一手に担い、数名のアシスタントが支える形。いわば「代表の目が届く範囲」で成り立つ体制であり、案件が増えれば増えるほど、必然的に代表個人の稼働が増大していく構造でした。
理想は、営業担当やディレクターを育成し、誰が担当しても一定の成果を出せる標準化です。組織を「代表/ディレクター/ワーカー」の3階層に分け、オペレーションと運用マニュアルを整備して責任と成果を役割ごとに分散する。そうすれば代表は品質管理や重要顧客への対応に専念でき、組織としての生産性を高められます。
この体制に移行するには、新規の商談機会を安定的に生み出す仕組みが欠かせません。単にアポイントの量を増やすのではなく、商談前の段階で期待値をそろえ、信頼を形成してから対話へ進める設計が求められます。
D社は、新規開拓の強化に向けてまず営業代行を試しました。フォーム営業やテレアポの代行、会員マッチングでアポイントを提供するサービスのほか、成果報酬型でアポ獲得を担うサービスまで、複数社を検討・導入。数字だけ見れば商談設定は増加しましたが、実際には受注につながらない状況が続きました。
それらのサービスによって設定された商談では、実際に顧客と対話してみると相手の温度感は低く、「必要性はあるが緊急性がない」「社内で検討する」といった理由で停滞。見積提示の段階で「予算外」と切り捨てられたり、当然のように値引きを求められるケースも少なくありませんでした。紹介や口コミから始まる商談で自然に形成されていた信頼が、新規の場では欠落していたのです。
同時に広告施策にも挑戦。Google広告やMeta広告に合計30万円以上を投じ、LPも用意してリード獲得を狙いました。しかし、訴求が弱く、刺さるメッセージを作り切れていなかったことがネックに。結果として獲得できたのは、名前だけが埋められたような形式的リードや、連絡が取れない相手が大半で、正直「価値のないリード」でした。
こうしてD社が痛感したのは、アポイントを増やすことと受注に近い商談を作ることはまったくの別物だという現実です。紹介・口コミに依存してきた企業が、信頼形成の前提を設計しないままアウトバウンドや広告に踏み出すと、同じ失敗を繰り返しやすい。新規開拓では「量」だけでなく、商談前段で期待値をそろえ、信頼を先に築く仕組みが不可欠だという学びが残りました。
数々の施策を試した末、D社が選んだのは、商談に進む前に信頼を形成する接点を設計することでした。そこで効果を発揮したのがウェビナーです。ウェビナーなら、知見や事例、登壇者の人柄までを「1対多」で伝えられます。商談に来る時点で理解と期待値がそろった相手と対話できるため、アウトバウンド起点と比べて受注近い商談を再現しやすくなります。
ちなみに、HockeyStack社の調査によれば「インバウンド型の商談とアウトバウンド型の商談では成約率は1.7倍、収益効率は2倍差がある」そうです。
参考:HockeyStack Labs「Marketing Influence on Outbound Deals」
テーマと誘導文を決裁者の課題に合わせることで、参加者の質を担保しました。その結果、決裁者が参加する場合は商談化率が15〜20%、商談からの受注率が80〜90%というレンジも観測されています(D社での一例。業種/単価/テーマによって変動します)。
※ファネル設計の考え方は、こちらを参照してください。
導入背景、適用条件、限界点までを先に共有することで、商談の場では要件確認と提案に集中でき、温度感の低い対話を避けられます。
※稟議の通し方や外部委託の判断軸は、こちらが参考になります。
申込フォーム→ナーチャリング→商談引き継ぎまでの情報設計を統一。属人性を抑え、再現性を高めました。
※「落とし穴」を避ける設計ポイントは、こちらでも整理しています。
実際にウェビナーを導入してみて、得られた変化は大きく3つありました。
集客→参加→商談→受注のファネルが可視化され、投資判断がしやすくなりました。開催した回によってはROIが数百~1,000%超に達したケースもありました。(特定条件下の一例)。
事前に理解がそろっているため、商談は診断と処方に近い進行になります。値引き前提の比較検討が減り、クロージングに労力をかける必要がなくなりました。むしろ商談では医者と患者(先生と生徒)のような関係性が自然と生まれ、ヒアリングして解決策を提示するだけで受注が決まるようになり、精神的な負担が大きく減りました。
※営業全体の改善視点は、こちらを参考にしてください。
台本・録画・Q&A集を蓄積し、代表以外の登壇や録画配信でも質を維持できるようになりました。「代表/ディレクター/ワーカー」の3階層で役割分担でき、標準化が進んでいます。
最後に、要点を整理しておきましょう。
D社の成功事例が示していることはシンプルです。「信頼を先につくる仕組み」を持てるかが新規開拓の分岐点になります。ウェビナーはその有力な手段の一つで、条件と手順を整えれば、紹介に近い質の商談を安定的に再現できます。