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24時間以内の返信で商談率1.7倍に。製造業が実現した"無料の改善策"とは

24時間以内の返信で商談率1.7倍に。製造業が実現した"無料の改善策"とは

穴の開いたバケツに水を注ぎ続けても、期待した結果は得られない。
この記事はそんな話です。
みなさんの会社でこんな経験はありませんか?

毎月、数十件の問い合わせが届くようになったのに、一向に受注が増えない。マーケティングの施策はどれも順調なのに、売上は伸び悩んでいる。そして、社内の対応は日に日にひっぱくしていく――。
こんなときに大切なのは、問い合わせ数ばかり追いかけるのをいったん止めて、まずは本当の課題を探し、向き合うことです。その大切さを教えてくれたのは、ある製造業のA社との取り組みでした。

  • アルテナ株式会社 代表取締役

    古田 聡

    デジタル広告を専門に取り扱うベンチャー企業にて、マネージャーを行いながら様々なビジネスの広告運用を実施。また、総合商社のマーケティング事業部の事業部長、企業のマーケティングを支援する個人事業を並行して行なったのち、デジタルマーケティング支援会社「アルテナ株式会社」を創業。好きなものは、旅、読書、スノーボード、ゴルフ。

目次

増える問い合わせ、追いつかない対応

製造業のA社は、まさにそんな状況でした。

自社コンテンツやリスティング広告の改善を繰り返してきたことで、少しずつ実を結び、月間10件ほどだった問い合わせは30件を超えるまでになりました。弊社がマーケティング支援を始めて半年、その成果が目に見える形で現れはじめていました。

<支援開始から半年の変化>
・問い合わせ数:月10件 → 月30件

ただ、順調に見えていたA社の状況は、実はそう単純ではありませんでした。問い合わせは確かに増えているのに、成約はいまいち増えていない。社長は「もっと問い合わせを増やしたい」と言い、新しいマーケティング施策を考えていましたが、私たちは本当の課題を探してみることにしました。

そこで見つかったのは、問い合わせを増やすよりも、問い合わせ後の対応に大きな課題があったことです。

返信が遅れ、商機を逃す

実は、問い合わせ対応の一手を担う事務のSさんが、悲鳴を上げはじめていました。問い合わせフォームからの自動返信は「お問い合わせありがとうございます」という定型文のみ。その後の対応は、メールを確認し、内容を読み、適切な回答を考え、情報を手入力して送信する...。専門的な質問も多いため、1件の対応に30分以上かかることも珍しくなかったそうです。

「一件一件、丁寧に対応したいのは山々ですが、他にやらないといけない事務仕事が滞ってしまって...」(Sさん)

実際、問い合わせへの返信が当日中にできず「返信が遅れてすみません」と謝罪のメールを送ることも増えていました。
A社の業界では顧客が複数社を同時に検討し、見積もり費用はもちろん、対応スピードや専門性が総合的に評価され、依頼先が決まります。つまり、24時間以上も返答が遅れると、確実に商機を逃していました。

問い合わせ数を増やすことよりも、まずはこの状況を改善する必要がある。そこで私たちは、具体的な数字を見ながら、現状を詳しく分析することにしました。

「まずは分析」。数字から見つける課題

「一度、数字を整理してみましょう」

私たちはそう提案し、マーケティング施策の改善前後で問い合わせデータの比較を行いました。すると、マーケティング施策の改善により問い合わせ数は3倍になったものの、商談化率はわずか30%。半年前は、問い合わせ数こそ少なかったものの、商談化率は50%ありました。

マーケティング施策の改善前後で問い合わせデータの比較(アルテナ株式会社)|BeMARKE(ビーマーケ)

<施策改善の前後比較>
・問い合わせ数:月10件 → 月30件
・商談化率:50% → 30%
・月間成約件数:5件 → 9件

さらに詳しく分析を進めると、問い合わせから詳細返信までの時間が、成約率に大きく影響していることが分かりました。

データが示した「24時間以内の対応は商談化率60%」の発見

半年前は、少ない問い合わせに対して迅速な対応ができていたため、比較的高い商談化率を保ち商談につなげられていました。しかし、問い合わせが増えたことで、その対応が難しくなっていました。

実際のデータを見てみると、問い合わせから24時間以内に詳細な連絡ができた案件は、商談化率が60%を超えていました。一方、提案までに3日以上かかった案件は、商談化率が15%まで下がってしまいます。
他社が1~3日以内に対応していたものを、A社は長い時には5日ほどたってから対応していました。この初動の遅れが、そのまま機会損失につながっていました。

データが示した「24時間以内の対応は商談化率60%」の発見(アルテナ株式会社)|BeMARKE(ビーマーケ)

<対応時間と商談化率の関係>
・24時間以内の提案:商談化率60%
・3日以上の提案:商談化率15%
・競合他社の平均対応:1~3日以内
・A社の平均対応:3〜5日

さらに問い合わせ内容を見てみると、4つのパターンで問い合わせ全体の9割を占めていることが分かりました。

<問い合わせの4つのパターン>
・見積もり依頼
・製品仕様の確認
・納期相談
・導入事例の照会

無料ツールが変えた、問い合わせ後の流れ

「高額なツールの導入は難しいのですが...」という社長の言葉を受け、私たちは無料で使えるGoogleフォームとGoogleスプレッドシートを活用した改善を提案しました。
まずは無料で試せることをクイックに試す。効果を実感できれば、より高度な改善を検討する、という流れです。

はじめに、従来の問い合わせフォームを選択式と自由記述を組み合わせた形に改修。

無料ツールが変えた、問い合わせ後の流れ(アルテナ株式会社)|BeMARKE(ビーマーケ)

この改修に合わせて、フォームで企業規模、導入予定時期、具体的な課題、必要な資料の種類(4つの種類とその他から選択)など、商談に必要な情報を効率的に収集できる設定にしました。

<新たにフォームで収集できるようにした情報>
・企業規模
・導入予定時期
・具体的な課題
・必要な資料の種類

すぐにメール作成・返信ができる仕組みも整備

続いて、自動返信メールの整備と、必要な資料の種類に応じた返信内容や資料を整理。見積もり依頼なら概算価格を、製品仕様の確認なら詳細スペックと比較表を、というように、顧客の要望に合わせた資料を即座に送れるようにしました。
自動返信メールの後に送る資料送付メールも、問い合わせ内容に合わせて組み合わせることで、すぐにメール作成・返信ができる仕組みを整えました。

「以前は時間をかけて作っていたメールが、すぐに送れるようになったんです」(Sさん)

たったこれだけ?と思うかもしれないですが、この改善を始めてから、商談化率は着実に上がっていきました。

数字で見る、改善後の変化

こうした改善の結果、問い合わせ対応は、平均3〜5日から「即時自動返信+24時間以内の詳細返信」にまで短縮。商談化率も30%から50%へと上昇し、詳細返信から商談、その後の発注までの期間も平均2週間短くなりました。

数字で見る、改善後の変化(アルテナ株式会社)|BeMARKE(ビーマーケ)

<改善後の主な変化>
・初回連絡+詳細連絡:平均3〜5日 → 24時間以内
・商談化率:30% → 50%
・商談〜発注までの期間:8週間 → 6週間
・問い合わせ対応時間:30分/件 → 10分/件

Sさんの業務時間にも大きな変化がありました。新規顧客へのメール対応、資料の再編集など、1件30分以上かかっていた問い合わせ対応が、10分程度で済むようになったそうです。月間の作業時間でみると、15時間ほど費やしていた問い合わせ対応が、5~6時間ほどに短縮できました。

「本来の経理業務にしっかり時間を使えるようになりました」と、Sさんは話します。

また、問い合わせ内容を種別ごとに整理したことで、お客さまがどんな情報を求めているのかをデータ化して把握できるようになりました。その結果、さまざまなマーケティング施策の改善に生かすことができています。

「ボトルネックを探すこと」を習慣にする

「もっと問い合わせを増やしたいです」

私たちは、よくこんな相談を受けます。
今回の件が教えてくれたのは、「本当の課題(=ボトルネック)を見つける大切さ」です。今回の場合、実は問い合わせ数の問題ではなく、その後の商談化率や成約率に課題があるかもしれなかったからです。

問い合わせを受け止める態勢が整っていないまま問い合わせを増やすことは、穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるようなもの。せっかくの機会を逃してしまうことになります。まずは、どこにボトルネックがあるのかを見極めることが大切です。

今回のA社の改善には、時間もお金もそれほどかかっていません。仕組みづくりも1日もかからず終わっています。既存の無料ツールを使い、問い合わせパターンを整理し、資料を組み合わせやすいように整え、返信フローを整備しただけです。

それでも、商談化率は30%から50%へと大きく改善しました。

新しい施策を増やすのは簡単ですが、リソースには限りがあります。まずは今起こっている状況を冷静に分析して、ボトルネックを見極めること。それがマーケティングの改善においては非常に大事だと、私は考えています。今回のA社の件で、それを改めて実感しました。

みなさんの会社の問い合わせ対応は、今どんな状況でしょうか。新しい施策を増やし、問い合わせ数の改善を試みる前に、一度立ち止まってボトルネックを探してみても良いかもしれません。

BeMARKE編集部より

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この記事を書いた人

古田 聡
古田 聡 | アルテナ株式会社 代表取締役

デジタル広告を専門に取り扱うベンチャー企業にて、マネージャーを行いながらさまざまなビジネスの広告運用を実施。また、総合商社のマーケティング事業部の事業部長、企業のマーケティングを支援する個人事業を並行して行ったのち、デジタルマーケティング支援会社「アルテナ株式会社」を創業。好きなものは、旅、読書、スノーボード、ゴルフ。
X:https://x.com/soufuruta

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