Tips/寄稿
「毎月、何百万円もの広告費がないと成果は出ない」と思っていませんか?
これまで私は、多くの企業の運用型広告をはじめとしたWeb広告をサポートしてきました。月に膨大な広告費を使用する企業から、「月に数万円から始めたい」という企業まで、さまざまな広告予算規模の企業と仕事をする中で実感したのは、スタート時の予算の大きさは必ずしも成功と比例しないということです。
むしろ重要なのは、限られた予算をいかに効率よく使うか、戦略的に考えることです。ビジネス戦略でよく知られる「ランチェスター戦略」の考え方は、広告運用にも応用できます。大手と同じ土俵で戦うのではなく、差別化、一点集中、ニッチ市場での局地戦など、弱者が強者に勝つための原則を広告運用にも応用することで、限られた予算でも十分な成果を出せるのです。
Web広告の良さは、小さく始めて、成果が出る方法を見つけながら予算を増額したり、時には減額したりできることにあります。今回は、ランチェスター戦略に基づいた、限られた予算で成果を上げるためのリスティング広告のポイントを5つご紹介します。
限られた予算でリスティング広告を始める場合、以下の5つのルールを元に広告戦略を考えてみるといいでしょう。
限られた予算で大手企業と同じキーワードで勝負することは、ほぼ不可能です。例えば「クラウドストレージ」や「会計ソフト」といった一般的なキーワードでは、大手企業がこぞって広告掲載をしており、すでにそれらの企業で埋め尽くされている状態です。
このような状況では、差別化戦略が不可欠です。こんな時は、業界全体に共通するようなキーワードではなく、特定の業種やニーズに特化したキーワードを選びましょう。例えば、「データバックアップ」ではなく「医療機関 データバックアップ 法令対応」などのように、特定業種に特化した差別化キーワードの方が効果的です。
差別化のポイントは、まず自社の強みとなる「大手にはできない価値」を見つけることです。業界特化、地域特化、特定の問題解決に特化するなど、自社だけの強みをもとに、狙うキーワードを決め、広告メッセージの中心に据えましょう。クリック単価の低減だけでなく、問い合わせの質も向上する可能性が高まります。
少ない予算で多くのキーワードを狙うと、どのキーワードも中途半端な広告表示になり、十分なデータが集まりません。戦力の逐次投入は失敗の基です。
私がよく目にするのは、企業が提供する全ての商品やサービスに対してキーワードを設定し、限られた予算を薄く広く配分してしまうケースです。この方法では、どのキーワードも十分な結果を得られず、効果測定や最適化ができないまま予算が使われていきます。
まず自社の最も競争力のある商品・サービスに予算を集中させることで、効率的な広告配信ができるようになります。例えば、多くの研修プログラムを持つ企業なら、最も強みを持つ研修だけに絞るといいでしょう。単一のキーワード(またはキーワード群)に予算を集中させることで、十分なデータが集まり、継続的な改善が可能になります。
限られた予算では、まず1つの商品・サービス、1つのターゲット層に絞って集中的に運用し、成功モデルを作ってから徐々に拡大していく方法をお勧めします。自社の最も強い商品・サービスから始め、そこで得た知見を他に応用していきましょう。
市場全体ではなく、自社が得意とする小さな市場セグメントで確実に勝ちに行く戦略が、限られた予算では効果的です。
大手企業が広くカバーする市場全体で戦うのではなく、隙間を狙うことが重要です。例えば、単に「オフィスチェア」ではなく「長時間作業 腰痛対策 オフィスチェア」という特定の悩みに特化したキーワードを選ぶと良いでしょう。こうしたニッチなキーワードは競合が少なく、クリック単価も安い傾向にあります。
局地戦のポイントは、細分化された市場で「この領域なら私たちが一番」と言える立ち位置を確立することです。地域、業種、規模、特定の課題など、市場を細分化する軸はいくつもあります。自社が最も価値を提供できる「小さな池の大きな魚」になることを目指しましょう。
限られた予算では、情報収集段階の方を狙うよりも、購入決断に近い段階にある方々を優先的に狙うことが重要です。
初期の情報収集段階では「業務効率化」といった一般的なキーワードで検索する傾向がありますが、購買検討段階に入ると「業務効率化ツール 導入費用 相場」「効率化ソフト 比較表」といったより具体的なキーワードを使う傾向があります。後者のキーワードに予算を集中させることで、問い合わせから商談、成約に至る確率を高めることができます。
接近戦で重要なのは、見込み客の「購買意欲」を示すシグナルを見極めることです。価格、比較、事例、レビュー、導入方法などのキーワードは、購入検討が進んでいる証拠です。また、広告文やランディングページでも、初心者向けの基礎情報よりも、導入事例や具体的な価格情報など、決断を後押しする情報を提供することが効果的です。
大手企業は往々にして、予算の制約がないため24時間365日広告を出稿していることが多いですが、時間帯や曜日によって効果に差があることを見落としているケースがあります。限られた予算で効率を最大化するには、この「時間」という軸での打ち手を考えることも非常に有効です。
まず時間帯と曜日によるパフォーマンス分析から始めましょう。GoogleやMeta広告の管理画面では、時間帯や曜日ごとのパフォーマンスデータを簡単に確認できます。多くのBtoB企業は平日の業務時間内に広告を出稿することが一般的ですが、自社のデータを分析すると思ってもみない発見があるかもしれません。
例えば、意思決定者が静かに情報収集する傾向がある早朝や夕方以降の時間帯の方がコンバージョン率が高いケースや、月曜日よりも水曜日・木曜日の方が問い合わせにつながりやすいといったパターンが見つかることがあります。実際に、法人向けのSaaSを提供している弊社のクライアントでも、あえて土日や平日夜間を狙って広告を配信することで高いパフォーマンスが出ている事例があります。
広告プラットフォームの「曜日と時間帯の入札調整」機能を活用することで、同じ予算でもより効率的な運用が可能になります。
また、季節要因も見逃せません。多くの業界では、年間を通じて需要の波があります。例えば、年度末に向けて税金対策のための発注が増える業界や、来年度の予算取りに向けて情報収集が活発になる業界などです。こうした業界特性を把握し、需要が高まる時期に合わせて予算を調整する方法も効果的です。
他にも、時間に関する広告の調整方法があります。広告文やランディングページの内容も、時間帯によって調整してみましょう。例えば、業務時間中なら「今すぐお電話ください」という直接的なメッセージが効果的かもしれませんが、夜間なら「資料をダウンロード」といった広告閲覧者の状況を考慮したアクションを促すのが現実的です。
陽動作戦のポイントは、「競合が見落としている機会」を見つけることです。時間帯、曜日、月初/月末、繁忙期/閑散期など、さまざまな軸で考えることで、限られた予算でも効果的な運用が可能になります。少額の予算だからこそ、こうした細やかな戦略が大きな差を生み出すのです。
予算が少ないからこそ、このようなランチェスター戦略にのっとり、「強者とは異なる戦い方」を工夫することが成功の鍵です。大手にはまねできない独自の価値提供と戦略的な広告運用で、限られた予算でも確実に成果を上げていきましょう。