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コミュニケーション設計から始めるWeb広告クリエイティブ・LPの基本

コミュニケーション設計から始めるWeb広告クリエイティブ・LPの基本

BtoB企業が運用型広告で成果を上げるためには、第1回第2回で解説したようにターゲットの検討段階に応じたコンバージョンポイントの設計や、商材・サービスに合った適切な媒体・施策の選定が欠かせません。
そして、それらと並んで重要なのが「クリエイティブ」や「ランディングページ(LP)」です。広告をどのように届けるかだけでなく、届いた先でどう見せるかによっても、広告の成果は大きく変わります。

「こうすれば必ず成功する」といった万能な方法はありませんが「これを見落とすと失敗しやすい」という落とし穴が潜んでいるのが広告クリエイティブです。本記事では広告クリエイティブとLPの基本を押さえ、限られた広告費を効果的に生かすために意識すべきポイントを解説します。

目次

ポイント1. 課題解決の選択肢に入るためにも、まずは情報整理から

デザインの前に、まず「何を伝えるか」を整理する

広告クリエイティブやLPの話となると、表現やデザインの話に議論が集中してしまうことがしばしばあります。たしかに言葉やビジュアルといった表現は、見込み客との接点において大切な要素です。しかし、そもそも伝えるべき情報が整理されていなければ、いくら表現を工夫しても効果は上がりません。

まずは、誰にどのような情報を届けたいのかを整理しましょう。

顧客視点で「価値ある情報」を届ける

BtoBマーケティングにおいて、顧客の購買行動は多くの場合、業務上の課題解決を目的としています。そのため、広告クリエイティブも単に目を引くデザインでは不十分です。自社の製品やサービスを「課題解決の手段」として認識してもらい、選択肢に入れてもらうためには、顧客の置かれた状況や検討段階に応じた適切な情報提供が求められます。

そもそも多くの人は、Web広告を積極的に見ようとしておらず、むしろ“邪魔なもの”と感じていることが少なくありません。だからこそ、広告を「業務改善や課題解決につながる情報」として認識されるよう設計する必要があるのです。

見込み客の課題に合わせたコミュニケーション設計を

効果的な情報提供を行うには、「どんな状況の人に、どんなメッセージを届けるか」という視点が欠かせません。
どのような情報を価値と感じるかは、相手の立場や状況によってさまざまです。ある人にとっては当たり前の内容でも、別の人には新たな気づきになることがあります。あるいは、一部の専門家にとって画期的な情報でも、対象となるマーケットが狭ければ効果を発揮しにくいケースもあるでしょう。

すべてのひとが価値を感じるものを作ろうとすると、かえって誰にも響かない無難な仕上がりになってしまうこともあります。だからこそ、「この広告施策で最もメッセージを届けたい相手は誰か?」を定め、その相手にとって価値のある内容とは何かをていねいに検討することが重要です。

見込み客の状態を5段階で捉える

見込み客の状態を段階的に捉える視点はコミュニケーション設計が有効です。
たとえば、見込み客の状況を次のような5つのステージに分類して整理することで、「どのようなセグメントに対して、どのような情報を届けるべきか」が明確になります。

顧客の状態必要なコミュニケーション
LV1:課題に気付いてない課題の存在を啓蒙し、潜在的なニーズを喚起する
LV2:課題を自力で解決しようとしている自力で解決する非効率さ、自社製品による効率的な解決策を提案する
LV3:課題に対して異なる製品カテゴリを想起する自社製品カテゴリの必要性を訴求し、代替手段との差別化を図る
LV4:課題に対して自社製品カテゴリの競合を想起する自社製品の独自性や強みを訴求し、選ばれる理由を明確にする
LV5:課題に対して自社製品を想起する行動のハードルを取り除き、導入を後押しする

特にLV1~3の段階では、自社製品の存在が認知されていないため、検索結果での接点を持つのが難しい状況です。こうした層には、Meta広告などプッシュ型の施策で接点を創るのが有効でしょう。その際に使用するメッセージの内容が、広告成果に直結する重要な要素となります。

ポイント2. デザインは加点よりも「減点を避ける」視点でチェックしよう

メッセージの設計ができたら、次に重要になるのが「その情報をどのように表現するか」です。これまで、表現よりも先にコミュニケーション設計を重視すべき理由を解説してきましたが、どれだけ優れたメッセージでも、デザインで損をしてしまっては意味がありません。

広告クリエイティブにおいて“絶対の正解”はなく、運用型広告ではさまざまなバリエーションをテストしていく姿勢が欠かせません。とはいえ、避けるべき「デザインの落とし穴」は確実に存在します。
そのため、まずは加点を狙うよりも“減点を避ける”視点でデザインをチェックすることが重要です。デザイン上の基本的なルールやNGパターンを理解しておくことで、不要な広告費の浪費を防ぎ、意味のある検証にリソースを集中させることができます。

読みやすいレイアウトには法則がある

インターネット広告、とくにFacebookやInstagramなどのSNS上では、ユーザーは広告をじっくり読むことはないでしょう。次々と情報を流し見しているため、広告クリエイティブの内容が少しでも分かりにくいと、それだけでスルーされたり、離脱されたりする原因になります。
そんな環境でユーザーの興味を引くには、一目見て「自分に関係ありそうだ」と思わせる構造が必要です。そのためには、視線の動きや情報の順序を意識し、スムーズに内容が伝わるデザインを心がけることが重要になります。

実は、見やすいデザインには一定の“法則”があります。この基本を押さえておくだけでも、デザインによる機会損失を大きく減らせるでしょう。

他社との差別化は必要ですが、情報のレイアウトで無理にオリジナリティを出す必要はありません。大切なのは、「伝わる構造」を守ることです。

Z型、F型、N型を押さえる

ユーザーの視線の流れには、以下のようなパターンがあります。

  • Z型(オーソドックスで扱いやすい)
  • F型(情報を構造化しやすい)
  • N型(縦書きの場合はこの型を扱う)

視線の流れに沿って、最も重要なことや興味を引き付ける情報を視線の開始位置に、補足情報を中間に、行動を促すフレーズを終点に配置していきます。視線の流れに沿って読んでいけば適切な優先度で情報が伝わるかを意識するのがポイントです。

Z型、F型、N型を押さえる(アナグラム株式会社Y)|BeMARKE(ビーマーケ)

これらを意識するだけで、デザインで損をするリスクを減らせます。迷った場合はポピュラーなZ型を意識するだけでも効果的です。

ポイント3. LPのファーストビューでは「誰の、どんな課題を解決するか」を明確に

広告は「興味を持ってもらう」、LPは「不安やハードルを払拭しながらサービスの魅力を伝え、行動を促す」役割があります。それぞれの役割を意識しながら最適化を進めましょう。

役に立たないと思われた瞬間に離脱される

BtoBの見込み客は、LPに訪問した瞬間に「このサービスは自分に関係あるか?」を判断します。雰囲気の良さよりも、「何を解決するのか」を明確に伝えましょう。広告を見て興味を持ってくれたとしても、クリック後の内容が期待とズレていれば、閲覧されることなく離脱されてしまいます。

よくあるのが「◯◯なら◯◯にお任せ」といったコピー。これはカテゴリ名と企業名・サービス名を並べただけで、検討を進めるための情報にはなりません。圧倒的なブランド力や認知がない限り、こうした表現では競合と差別化できず、印象に残ることもありません。

そのため、LPでは「他社と比べて何が違うのか」「なぜ自社が選ばれるべきなのか」といった具体的な判断材料を明示する必要があります。さらに、「もっと詳しく知りたい」と思わせる情報を盛り込むことで、関心を深め、行動につなげやすくなります。

キャッチコピーだけでなく、視覚情報でも伝える

ファーストビューでもうひとつ重要なのが「視覚情報」です。どれだけ言葉を尽くしても、パッと見た瞬間に伝わる印象や説得力は、画像や動画といった視覚要素に大きく左右されます。
キャッチコピーを補完するビジュアルを設置することで、サービスの魅力や訴求ポイントが一層伝わりやすくなるでしょう。

たとえば、弊社がご支援していたBtoBサービスでは、ファーストビューの画像を以下のように変更することでコンバージョン率が改善しました。

・実際に提供される物品が、より具体的にイメージできる写真を追加
・人物がガッツポーズしている画像から、サービス管理画面のスクリーンショットに変更

他にも、サービスの特徴や伝えたいメッセージに応じて次のような視覚情報も効果的です。

・「コスト削減◯%」→グラフや数字で視覚的に伝える
・「誰でも簡単に使える」→操作画面やデモ動画を見せる
・視覚で伝えるのが難しいサービス→テキストで特徴や選ばれる理由を簡潔に補足する

ファーストビューで「このサービスは自分に関係がある」と思ってもらえるよう、伝え方を少し工夫するだけでも成果は大きく変わるのです。

サービスが解決する課題やシチュエーション、得られる結果を伝える例
(アナグラム株式会社Y)|BeMARKE(ビーマーケ)
サービスが解決する課題やシチュエーション、得られる結果を伝える例

ファーストビューのイメージは「文脈との一貫性」が鍵

ファーストビューの画像選びで注意したいのは、製品の価値や訴求メッセージとの整合性です。
たとえば、笑顔の人物モデルやビジネスパーソン同士の握手シーンといった“ありがちな素材”は、一見すると印象が良く、使いやすそうに見えますが、文脈を考慮せずに起用すると、本来の訴求メッセージをぼやけさせてしまうリスクがあります。

これは、タレントを使った素材でも同様です。たとえ有名人であっても、広告の文脈やメッセージと噛み合っていなければ、逆効果になる可能性があるのです。

まずは、「広告クリエイティブのメッセージ」と「LPのファーストビュー」に一貫性があるかどうかを意識してみましょう。“なんとなく良さそう”ではなく、“伝えたいことが明確に伝わる”画像・動画を選ぶことが、成果につながる第一歩です。

小さな工夫が大きな成果を生む、LPOの可能性

このようにLPO(ランディングページ最適化)は小さな改善でも大きな効果を発揮できる場合があります。
もし、広告アカウントの調整だけでは、広告パフォーマンスの改善が難しいと感じたら、ボトルネックがLP側に移っている可能性もあります。新たな施策として、LPOを検討してみましょう。

なお、ファーストビューのテスト以外にも、さまざまな改善ポイントがあります。以下は一例ですが、もっと分かりやすくなる伝え方はないか、アンテナを立てながらLPを見直してみてください。

  • より詳細なサービス理解を促すために動画を埋め込む
  • CTA(コールトゥアクション)ボタンの配色を目立つようにする例:「資料をダウンロードする」
  • ページ下部に埋もれている魅力的なコンテンツを、上部に移動させる
  • 入力フォームをページ内に埋め込む

まとめ

広告のクリエイティブやLPには、「こうすれば絶対うまくいく」という方法はありません。しかし「これを押さえなければ失敗しやすい」という明確な原則は存在します。
本記事で一貫してお伝えしてきたのは、クリエイティブを「表現」の問題として扱う前に、「顧客とのコミュニケーション設計」として捉え直すという視点が重要であるということです。

見込み客が抱える課題は何か?検討プロセスのどの段階にいるのか?

この問いへの答えが、届けるべきメッセージを明確にし、適切なデザインを検討するための土台となります。

  • クリエイティブは、顧客の課題解決の「選択肢」として機能しているか?
  • 原則に則り「デザインによる損」を防いでいるか?
  • LPのファーストビューは、訪問者へすぐに「自分ごと」と思わせられているか?

もし、今の広告パフォーマンスに課題を感じているなら、新しい広告案を考える前に、一度立ち止まってこの3つを自問してみてください。顧客の視点に立った地道な改善の積み重ねこそが、広告費を無駄にせず、着実に成果へとつなげるための最も有効な戦略です。


この記事を書いた人

仙波勇太
仙波勇太 | アナグラム株式会社 クリエイティブチーム マネージャー

アナグラム株式会社 クリエイティブチーム マネージャー。Meta広告やGoogle 広告をはじめとした広告運用で、幅広い業種のクライアントを担当し改善に導く。ダイレクトレスポンスを目的としたクリエイティブ制作に定評があり、ディレクター・マネージャーとしてクリエイティブチームを率いる。2024年3月に『BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88 (できるMarketing Bible)』を出版。  

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