インタビュー

広告運用担当者が陥りがちな3つの罠とは?アナグラム 二平氏に聞く、広告運用“手法”に溺れず成果を出す秘訣

広告運用担当者が陥りがちな3つの罠とは?アナグラム 二平氏に聞く、広告運用“手法”に溺れず成果を出す秘訣

Web広告でリードを獲得し商談や受注につなげたいと広告運用に取り組むものの、思うような成果につながらないと悩む広告運用担当者やマーケターは少なくないでしょう。インターネット上に手法やノウハウがあふれるなか、自社商材に最適な施策を選択するのも容易ではありません。

最適な広告施策によって成果を出すためにはどのような考え方が必要なのか。

今回「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88」を出版されたアナグラム株式会社 二平燎平氏に、広告運用で成果を出すための秘訣をお聞きしました。

  • アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー 二平 燎平(にへい・りょうへい)

    アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー

    二平 燎平(にへい・りょうへい)

    BtoB中心に数十社以上の広告運用を経験。前職での中小企業向けERPのセールスやCS、マーケティングなどTheModelの全工程に従事した経験と運用型広告の知見を合わせた売上を伸ばすBtoBマーケティングコンサルティングに定評があり、アナグラム社では主にBtoB向けの支援や情報発信を担当。2024年3月に新刊「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88 (できるMarketing Bible)」を出版。

目次

BtoBマーケの基礎を知らず広告運用するのは“もったいない”

ーー書籍出版の背景を教えてください。

当社はBtoB企業を中心に100社近くの企業を支援しています。そのなかで「もったいない」と感じる場面がたくさんあります

BtoBマーケティングの基礎的な知識が欠如したまま広告運用し、成果につなげられないケースが少なくないのです。セオリーに沿って進めればもっと伸びるはずなのに、施策自体がダメだと見限ってしまうケースもよく見ます。

「基礎的な知識を知るだけで数字は改善されるはず」という考えのもと、私はBtoB営業と広告運用の経験を生かしてノウハウをX(@BtoB_hachiware)やnoteで発信してきました。発信を続けるうちに注目される機会も増え、より多くの方に書籍として届けたいと考えたことが出版のきっかけです。

広告の具体手法について解説した書籍はまだ多くありません。この書籍を読むことで知識をつけて「もったいない」ケースを減らし、広告運用を成果につなげてほしいという思いで執筆しました。

アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー 二平燎平氏
アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー 二平燎平氏

広告運用の成果が出ない!担当者が陥りがちな3つの“罠”とは

ーー広告運用担当者が“もったいない”状況に陥ってしまうのは、具体的にどのような原因が考えられるのでしょうか。

【1】顧客理解をせずに施策を行う

1つ目は、顧客理解が不十分なまま施策を行い成果につなげられないということです。

顧客のビジネスや商材、業務を理解せずに、顧客に刺さる表現やクリエイティブをつくることは難しいでしょう。

また顧客の業界用語や普段使っている言葉、表現を把握するのも重要です。顧客の業界ならではの言葉や表現を知っているか否かで、広告の効果が大きく変わります。

BtoBビジネスにおいても最後は「人」が決めるため、顧客理解が欠かせません。

【対策】顧客インタビューなどを行い理解を深める

顧客理解を深めるためにも、私のチームでは必ず顧客インタビューを実施しています。エンドユーザーへのインタビューが理想ですが、営業担当者へのヒアリングでも十分効果的です。

トップセールスほど顧客と向き合い、課題を理解している。競合他社との比較や自社の強み、顧客に刺さるワードもよく知っています。

顧客インタビューを行うか否かで、顧客解像度はかなりの差がでます。

広告運用担当は営業経験者が最適

ーー広告運用担当者はどのようなキャリアのある人物が適していますか。

BtoBビジネスにおける購買プロセスや流れなどを理解している営業経験者が適していると思います。BtoBビジネスの一連の流れを理解しないと、どのようなメッセージを広告に落とし込めば良いのか分からないでしょう。

顧客の興味を引く話の流れや要点を理解した上で、広告クリエイティブやランディングページを作成することが成果を出すポイントです。

ーー営業経験が豊富ではないけれど広告運用担当に任命された場合は、どのように経験を補ったら良いでしょうか。

とにかく実践しながら、営業担当者とたくさんコミュニケーションを取りヒアリングすると良いですね。営業担当者に、ターゲットの特性や施策を説明しつつコメントをもらい実践するということを繰り返すうちに、顧客解像度が上がるのを実感できると思います。

成果を出すには「顧客」と「広告媒体」の両方の知識が必要

また広告運用で成果を出すには、顧客理解はもちろん広告媒体に関する知識を持つ必要があります。顧客と広告媒体、両方の知識を持った上で施策実行できる人は、まだ少ない印象です。

例えば広告代理店がCPAも妥当なラインで成果を出したものの、契約を打ち切られるケースがあります。これは、リード獲得した後の商談の流れを理解していないために起きていると考えられます。広告媒体の知識だけではなく、顧客のビジネスを理解しないと成果を出せません

社内で広告運用を行う場合は、顧客や商材、市場に関する知識は豊富だと思いますので、広告媒体に関する知識をつけることで成果を出しやすくなるでしょう。

ただ社内運用では手が回りきらないことも多いため、必要に応じて外部のコンサルタントに支援に入ってもらうことも視野に入れると良いと思います。

外部のコンサルタントの支援を受けつつ成果を出す方法

ーー外部のコンサルタントの支援を受けるメリットは何でしょうか。

外部のコンサルタントの支援を受けるメリットは、支援事業者や広告代理店しか持っていない情報を得られることです。広告代理店はケースタディの数も豊富で広告媒体の最新動向などもつかんでいる。

最新情報を得る、外部の視点を入れる、という観点でコンサルティングを導入するケースも多いですね。

ーー外部コンサルタントの支援を受けながら成果を出すコツやポイントを教えてください。

リード獲得後の受注率や商流など、お互いに情報を開示し共有しながら「パートナーとして施策を進めていけるか」がポイントです。

実際に当社が支援し成果に結びついている企業様は、パートナーとしての関係性を構築できているケースが多い。施策の背景から社内の状況、プロダクトリリースの予定まで、詳しい情報を共有いただいています。

アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー 二平燎平氏

【2】CPAに一喜一憂し、リード獲得後を考えない

2つ目は、BtoBマーケティングの流れを理解せずリード獲得で満足してしまうことです。

BtoBビジネスにおいてはリードを獲得して終わりではなく、商談・受注までを見据えて広告を運用する必要があります。しかし実際は、CPAの結果に一喜一憂しその先まで考えていない広告運用担当者が多い印象です。

広告運用担当者がCPAだけ見ていることで、マーケティング部と営業部の分断につながるリスクもあります。

営業担当者としては、製品やサービスに対する検討度合いの高いリードをパスしてもらいたいけれど、実際には温度感の低いリードばかりで、部門間のコミュニケーションも行われないといったケースをよく見ます。これではCPA目標を達成しても売り上げにつながっているとはいえない。

広告運用を成果につなげるには、BtoBマーケティングの流れを理解しインサイドセールスや営業部と連携して動くことが重要です。

【対策】CVポイントごとに適切なアプローチを行う

ーー広告でリードを獲得し商談や受注につなげるには、どのような体制で進めるのが良いでしょうか。

コンバージョン(CV)ポイントごとに適切なアプローチを行うことが重要です。

例えば製品価格表やサービス説明資料の請求など、製品やサービスの検討度合いが高いリードにはすぐに架電するといったアプローチが効果的でしょう。スピーディーなアプローチを実現するためにも、MAの運用やインサイドセールスの体制を構築することが欠かせません。

逆に、Meta広告でリーチできる層は検討度合いが低い傾向にあるため、ホワイトペーパーやセミナーなどのコンテンツが適しています。MAを活用しながら、複数回に分けてさまざまなコンテンツを送り、適切なタイミングで資料請求へつなげるといったアプローチが効果的です。

しかしホワイトペーパーを送ってすぐ架電するといった誤ったアプローチを行っているケースをよく見ます。CVポイントごとにアプローチを変えることが重要です。

SFA/CRMと連携し広告の効果を可視化

また広告施策数が増えるにつれ、どの媒体経由のリードが商談や受注につながっているのかを追えなくなるケースがあります。

リード獲得後の動きを可視化する場合は、広告媒体とSFA/CRMを連携させてトラッキングするのがおすすめです。SFA/CRMと連携し広告の効果を検証・改善することで、商談数や受注数を伸ばしている事例も多いため検討してみると良いでしょう。

【3】自社の状況を理解せずに、“施策先行”で進めている

3つ目は、自社のビジネスモデルや組織体制を理解せずに、施策ありきで広告運用を進めてしまうことです。

例えば次のようなケースをよく見聞きします。

  • 「検索広告が効果的らしい」と聞き出稿するものの、そもそも検索数が少ない商材であるため成果につながらない。
  • ホワイトペーパーでリード獲得し商談を生み出している企業の真似をして、ホワイトペーパーをCVとし広告出稿したものの商談や受注につながらない。

ホワイトペーパーで獲得したリードから商談につなげる「営業力」が強かったり、検索広告にマッチした商材だったりと、施策そのものよりも企業特性や強みを生かした手法を選択していることが成功のポイントという場合があります。

【対策】自社の商材パターンに適した施策を見極める

施策先行で実施する前に、自社の商材タイプを整理し分析することが大切です。

当社では下図のように「カテゴリキーワードの検索数」と「ターゲティング数」で4パターンに分けています

自社の商材タイプを理解する図

例えば「組織コンサルティング」サービスは、ニーズが顕在化していないため検索数は少ないけれどターゲットはとても多い。そのため潜在層向けにホワイトペーパーやセミナーをCVポイントとしMeta広告でリード獲得するのが効果的です。

広告運用のセオリーとしては、顕在層向けの施策からスタートすることをおすすめしているのですが、商材によってはターゲット層や手法を変えるべきということが分かる例です。

また会計ソフトは、ニーズも顕在化しており月間検索数は数万規模にのぼります。ターゲットも広いため検索連動型広告を中心に出稿していくと良いでしょう。ある程度、獲得できたらMeta広告にもチャレンジするという流れです。

図の左上、ERPシステムはターゲットは多くないけれど検索数は多いことから、オウンドメディアでSEO対策したり検索連動型広告に出稿したりするのが適しているといえます。ハードルの低いCVポイントを設定し長期間でリード獲得していく。

左下の船舶管理システムは、これまでにないカテゴリであるため検索数は少なくターゲットも少ない。そのためWeb広告はメイン施策ではなく補助的に活用することになります。

商材パターンによって施策の優先度が異なることを理解せずに、施策先行で進めても成果にはつながらないでしょう。まずは「自社商材がどのパターンに当てはまるのか」「優先度が高い施策は何か」を理解するだけで取り組み方が変わります

「営業力」という変数をかけ合わせ調整する

また自社の営業力や組織体制も考慮に入れる必要があります。

例えばホワイトペーパーからリード獲得し商談につなげている企業は、営業力が高く、組織的なツール活用も進んでいたというケースがありました。この場合、ホワイトペーパー施策のみにフォーカスし真似しても、営業力の高い会社と同じ成果を出すのは難しいでしょう。

会社ごとに「営業力」という変数があることを認識し、セオリーと自社の状況をかけ合わせて調整していく必要があります。

世の中にノウハウやセオリーはあふれていますが、それをいかに自社に落とし込めるかが重要です。調整するにはある程度の経験値が必要であるため、必要に応じて外部のコンサルタントの支援を受けるというのもひとつの方法です。

広告運用担当者がバリューを発揮するために取り組むべきこと

「CPAだけ見る」では成果を出せない。全体最適の視点が必要

ーー周りと差がつく広告運用担当者の立ち回り方について詳しく教えてください。

今はAIの発達によって運用のハードルも下がっています。そのため広告運用担当者としては運用だけ行っていてはバリューを発揮しづらくなっています。広告運用担当者として「CPAしか見ない」という方も少なくありませんが、それでは成果が出ない時代になっています。

バリューを発揮するためには、広告運用をひとつの手段ととらえ、マーケティング戦略立案からリード獲得後を見据えた施策の設計まで行う必要があります。

BtoBビジネスの場合は、THE MODEL型分業体制をしいている組織が増えてきています。そのなかで広告運用担当者は、CRO(チーフレベニューオフィサー)に近い立場で、マーケティングから営業活動全体を俯瞰し各施策を最適化できるようになると良いと思います。個人的にも、広告運用担当者からそういう人材をもっと増やしていきたいと考えています。

テクノロジーを活用し空いた時間で「領域を広げていく」

またBtoBの広告運用担当者は、MAやSFA/CRM、生成AIなどテクノロジーに関する知識が欠かせません。どのリードにどのようなコンテンツを送るのかなど、リード獲得後の施策設計を行うためにも、ツールを使いこなせたほうが良い。広告は日々進化しているためキャッチアップは必須でしょう。

テクノロジーの進化によって業務工数を削減し空いた時間を、マーケティング戦略や営業との連携のために使うといったように、自分の仕事の「領域を広げていく」ことが求められると思います。

定期的な学びの場で情報を共有し、経験不足を補う

ーー仕事の「領域を広げる」ために、どのように学びの機会をつくっていけば良いでしょうか。

例えば当社独自の取り組みとしては、週に1回、1商材ごとの広告施策を社内メンバーで分析する会を実施しています。

広告施策ごとに分担し、施策の結果をドキュメント形式にまとめてアウトプット。メンバーそれぞれの分析を見て学びつつ、自分の担当外の案件を見ることで業界知識や施策パターンを知る機会にもなります。当社では、1人が一気通貫で企業を支援する体制であるため、1人あたりの案件数を増やせない分を勉強会で補うようにしています。

抽象度の高い視点で、BtoC/BtoBそれぞれの事例から学ぶ

ーー勉強会で得られた知見を実際の案件で生かすためのポイントは何でしょうか。

広告施策勉強会で得た知見を生かすという意味では、BtoCの事例をBtoBの参考にするということを意識的に行っています。広告活用はBtoCのほうが進んでいるため、学びが多い。

また、抽象度の高い視点で考えてみるということも大切です。施策そのものを評価し真似するというよりは、「なぜうまくいったのか」を1段上の抽象度で解釈すると横展開しやすくなります。

例えば、Meta広告ではテキストメインのクリエイティブが効果的なのですが、理由を探ると、Instagramで同様の投稿が流行っていることが分かりました。広告の上辺だけでなく背景を理解した上で横展開することで、成果につなげられると思います。

高い抽象度で見れば、BtoCマーケティングもBtoBマーケティングも大差ないはずですが、別物ととらえる風潮が強いですね。「人を動かす」という意味ではBtoC・BtoBも同じなので、垣根をつくらず相互に学びを生かせると良いと思います。

アナグラム株式会社 広告運用部マネージャー 二平燎平氏

セオリーを学び“正しい努力”を積めば成果を出せる

ーー最後に、広告運用を成果につなげたいと考える広告運用担当者やマーケターに向けてメッセージをお願いします。

広告運用に関するノウハウやマーケティング手法は世の中にあふれています。手法を用いて成果を出すには、マーケティングの基礎知識や型を知る必要がありますただ手法を真似ただけでは成果を出せません

私がその思考に至ったのは、実は学生時代に野球部の監督からいわれた言葉がきっかけです。当時、監督から「“考えない努力”、“方向性を誤った努力”は意味がない」と声を掛けていただいたおかげで、努力の方向性を見直しレギュラーになれました。

施策先行でやみくもに取り組むのではなく、基礎知識を押さえた上で“正しい努力”を積めば成果につながるのはBtoBマーケティングも同じだと思います。すぐに結果が出なくても諦めずに情報をキャッチしながらPDCAをまわし続けることで、成果につなげられると思います。

ーーありがとうございました!

「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88」 二平燎平 (著), 仙波勇太 (著)

「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用で受注を勝ち取る 最強の戦略 88」 二平燎平 (著), 仙波勇太 (著)

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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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