インタビュー

営業DXを“文化”にして変革を加速!三井住友カード社に聞く、営業DX推進のカギ

営業DXを“文化”にして変革を加速!三井住友カード社に聞く、営業DX推進のカギ

営業DXを推進するもののツール活用や部門間連携に課題を感じるマーケターや営業担当者は少なくないでしょう。営業DXを推進し成果を出す秘訣とは何か。

今回、営業DX推進によって業務効率化と売上拡大を実現した、三井住友カード株式会社 西山泰幸氏と営業マネジメント部、ビジネスマーケティング統括部の皆さんに詳しいお話を伺いました。

  • 三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部 グループ長 西山 泰幸(にしやま・やすゆき)

    三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部 グループ長

    西山 泰幸(にしやま・やすゆき)

    2010年に入社後、個人カード獲得に関わる営業を経て、2017年4月より営業統括部(現営業マネジメント部)にて法人営業のデジタル化・効率化を推進。2023年9月より現部署へ異動し、構築したデジタル基盤を用いてBtoB領域のマーケティング企画・推進に従事。

目次

キャッシュレス化を背景に「法人営業の高度化」を目指す

ーー営業DXに取り組むきっかけや課題について詳しく教えてください。

西山氏:当社では2017年頃から「法人営業を変えていこう」という動きが本格化していきました。

その背景には、社会全体のキャッシュレス化の流れがありました。国の後押しもあり一気に普及が進んでいったのです。

個人のお客様のカードを持ちたいというニーズはもちろん、店舗などでカードを使えるようにしたいというニーズも急増しました。また企業の「コーポレートカード」導入のご相談も増えてきました。

社会全体のキャッシュレス化の流れに合わせて、BtoCだけではなくBtoBの領域もより高度な営業をする必要があるということから、営業改革がスタートしました。

三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部グループ長 西山泰幸氏
三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部グループ長 西山泰幸氏

西山氏:2017年当時、法人営業はアナログでした。名刺は紙で管理しテレワークはほとんど普及していなかった。当社は金融業のため情報セキュリティがとても厳しく、デジタル活用が進みにくかったのです。

ただ「お客様へ高度な営業提案をしていく」というミッションを達成するためには、インフラを整備する必要がある。そこで営業体制の再構築と、テレワークができる環境整備やSFAや名刺管理ツールの導入といったインフラ整備を同時に進めていきました。

ーー営業DX推進にあたっては、トップダウンで進めていかれたのでしょうか。

西山氏:会社全体の方針自体はもちろんトップダウンで、経営方針をもとに動いていく体制です。その後の具体的なアクションについては、現場のメンバーで考えながら決めています。

まず最初に「SFAを導入して営業を高度化する」という方針を定め、アクションをスタートしていきました。その後、SFA活用を中心として周辺領域にも広げていき、現在では形になってきたと考えています。

ーー営業DX推進にはマーケティングと営業の連携が重要になりますが、どのような体制で進めていったのでしょうか。 

西山氏:当社のBtoCの部門ではマーケティングを実行していたものの、BtoBの部門においてはこの1〜2年でマーケティングに注力しはじめたところです。 法人営業の領域は営業のみの時代が長期間続いていました。 

組織としては、BtoBマーケティングに必要なメンバーを部門横断で集め、マーケティングチームとして形成していったという流れがあります。

私は元々、営業マネジメント部に在籍していて、昨年マーケティングの部署に異動しました。現在は、営業にいかに成果を出してもらえるマーケティングができるか、という観点で連携の方法を模索しています

営業DXのはじめ方

ーーSFA導入にあたってはROIをどう示すか、導入後に現場にどれだけ浸透できるかという点に苦労される企業も少なくありません。三井住友カード社ではどのように進めていかれたのでしょうか。

「営業を変革する必要がある」という強い意志で進める

西山氏:SFA導入にあたっては、ROIを提示し経営層の理解を得るというステップを踏みましたが、「営業を変革するために必要なツールだ」ということを理解してもらい導入が決まりました。費用対効果以上に、「営業を変革する必要がある」という課題感を会社全体で持っていたため、プロジェクトを進めていくことができたと思っています。

三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部グループ長 西山泰幸氏

西山氏:SFAは導入後に、現場へいかに定着させるかが課題でした。2018年頃にSFAを導入してから定着化するまで、地道に一歩ずつ働きかけを行ってきました。

他社の例でよく聞くのが、SFA導入後に定着せずに1度諦めて、再度チャレンジするという話です。当社も同様に、試行錯誤を続けながらなんとか定着化させてきました。

それができたのは「デジタル化によって営業の生産性を上げていく」という強い意志でした。特に法人営業の生産性向上は、どの業界においても大きな課題になっています。

ツールの使い勝手や機能性より、営業生産性向上を目指すために何が必要か吟味することが大切ですね。感情論には負けないという強い意志が必要だと思います。

「ルール」と「自由度」のバランスが重要

ーーそのような問題意識を持ちながら、どのように定着化を図っていったのでしょうか。

西山氏:法人営業の領域、特に大企業向けのビジネスでは、最終的には“人”で決まる部分が大きい。いくらSFAで商談管理していても、決定打となるのは担当者のノウハウや顧客との関係構築できているかの影響が大きいのです。

SFAのダッシュボードで商談管理・活動管理をきっちり行っても、成果とリンクしないことも多い。

そのためSFAへの入力や使い方のルールをガチガチに決めるよりは、ある程度は自由度をもたせることが大切だと思っています。営業担当者には“自分なりのやりやすい方法”があるため、そこは自由度をもたせつつ、管理の部分では最低限のルールを伝えるというバランスが重要です。 

ルールをガチガチに決めた結果、現場からすごい反発が来て立ち行かなくなる企業も多いと思います。当社も失敗を繰り返しながら、良いバランスを取れるようになってきました。

ーーSFA定着化にあたっては、現場の管理者などが主導されていったのでしょうか。

西山氏:SFAの教科書にはよく「各部署に活用をリードするキーマンを作るのが成功のポイント」と書いてあるのですが、各部署にキーマンをつくるのは想像以上に難しい。

そこで当社では、アナログな業務に課題を感じて変えたいと思っている人や、デジタルスキルが高い人を巻き込んで、一緒に動いていくという方法を取りました。

名刺管理ツール導入のカギは「個人情報管理の厳格化」

ーーSFA導入後の2020年に名刺管理ツールを導入されたそうですが、導入にあたっての苦労はありましたか。

西山氏:名刺管理ツールに関しては、営業現場のニーズが強く、またSFA活用の観点からも導入したいと考えていました。SFAを導入してもデータを蓄積できなければ、活用できません。そのため、お客様との接点情報をいかにデータ化しSFAで管理・活用できるかという点を重視していて、Sansanの導入を推進しました。

ただ新規ツールの導入にあたってはROIの提示が難しい部分もあり、経営層からなかなかGOが出なかった。

そこで少し見方を変えて、Sansanによって個人情報の管理を厳格化するという方向で話を進めました。

名刺は個人情報に該当するものの、一般的にはその意識が薄れることもあります。特に、個人で利用できる無料の名刺管理アプリも登場し、手軽に名刺管理ができるようになってきています。しかしよく考えると、会社の資産であるお客様の名刺情報が、個人のスマホに入っている状態はリスクですよね。

このように名刺という個人情報の管理を厳格化する、コンプラ強化という観点で、導入が決まりました。

導入後は、ツールの操作性の高さや使いやすさも相まって、スムーズに定着化できましたね。

営業DX推進の歩み=SFA導入から活用までの歴史

ーー営業DXを推進するにあたって、どのような点に注力されましたか。

「SFAにデータを入力する必要性」をいかに示せるかがカギ

西山氏:当社の営業DXの歩みは、SFA導入から活用までの歴史といっても過言ではないと思っています。

大前提としてSFAにデータが蓄積されていないことには、営業DXはワークしていきません。そのため、いかに営業担当者にSFAに活動履歴やお客様の情報を入力してもらうかということに注力してきました

カギとなるのは、営業担当者がSFAに入力する“必要性”をどう示すかという点でした。

SFAの管理者としては、営業担当者にきちんとデータを入力してもらいたいと思っている。しかし営業担当者としてはデータ入力の必要性があまり感じられない。必要性がないことを工数をかけてまでやりたくない、というせめぎ合いが課題でした。

そこで例えば、SFAに入力した情報や数字を役員への報告資料として活用しますよ、その代わり報告資料作成の手間が省けますよ、と“必要性”を具体的に伝えるようにしました。そうした地道な働きかけによって少しずつ営業担当者の理解を得られるようになり、やっとデータ入力の流れができてきた。

三井住友カード株式会社 ビジネスマーケティング統括部グループ長 西山泰幸氏

西山氏:今は現場の営業担当者の理解も進み、データ化が進んできたことによってマーケティングにも活用できてきています。3〜4年かけて、ようやく営業DXを本格的に推進できる環境が整ってきたと感じています。

コミュニケーションによって部門間連携を強化する

ーーマーケティングはどのように変わりましたか。

西山氏:法人カードに対するニーズの高まりに合わせて、営業の裾野を広げることにしたものの、営業の人員ではアプローチできる数が限られているのが課題でした。そこでBtoB部門でもマーケティングを推進することになったのです。2017年頃から各種ツールを導入しはじめ、データ基盤を構築しインフラを整備できてきており、タイミングも合わせることができました。

ーーマーケティングと営業はどのように連携されていますか。

西山氏:今まさに、部門間連携強化に取り組んでいるところです。よく仕組み化によってフローをつくるといわれますが、結局は人と人とのコミュニケーションが重要だと思っています。

どうしても部門をまたぐので、仕組み化を大前提としながらきちんとコミュニケーションを取るということが、部門間連携には欠かせないポイントだと思います。

仕組み化に偏り過ぎてコミュニケーションをおろそかにすると「本当はここにアプローチしてほしいのに営業が動いてくれない」というようなすれ違いが起こります。そうすると連携不足に陥り成果を出せません。そのため、コミュニケーションが活性化する文化や体制をつくることが重要だと思っています。 

「現場目線の働きかけ」と「トップダウン」のバランスが重要

ーー営業DX推進にあたっては、「一大プロジェクト」として銘打ち社内アナウンスするというようなことはされましたか。

西山氏:一大プロジェクトとして活動するというより、いかに現場に定着化させていくかということを主軸に動いていました。プロジェクトにしたからといって現場のツール活用が進むわけではないので。

鈴木氏:当社は社員同士の日常的なコミュニケーションが活発だと感じます。それがプロジェクトという大きい看板を掲げなくても営業DXが進んでいく理由の1つかもしれません。

経営層との距離も近く、フェイス・トゥ・フェイスで仕事ができる環境や文化だということも影響していますね。

西山氏:営業DXを進めるには、現場に働きかけを行う草の根活動とトップダウンによる指示の両方をバランス良く進めることがポイントだと思います。トップダウンだけだと現場のフラストレーションがたまるけれど、草の根活動だけでも統率がとれない。

営業DXを推進する担当者としては、経営層の意向を確認しながら、現場目線で働きかけを行うということが重要です。

営業DX推進によって、大幅な業務時間削減と売上増を達成

ーー営業DX推進の成果を教えてください。

西山氏:SFAの柔軟な開発機能を使って業務フローを改善することで、大幅な業務時間削減につなげることができました。

営業の仕事はお客様への提案や商談の他に、事務的な業務も多い。その営業事務の部分をSFA上で行えるようにしました。例えば今までは稟議書に、企業の基本情報から交渉履歴、決済の方法まで記載していました。SFA導入後はわざわざ稟議書に転記する必要がなくなりました。

そのように営業や営業事務担当者の業務を効率化したことで、大幅な業務時間の削減につながっています。

大前提として、SFAは、営業担当者がデータを入力する必要があります。そこで営業担当者には、SFAを活用することでこれだけの業務効率化・時間削減につながりますよ、とツール活用の必要性を伝えるようにしていました。

マーケティング強化によってリード獲得の可能性が広がる

西山氏:また、営業とマーケティングのさらなる連携と効率的なターゲティングが可能になったことで、ターゲットへ網羅的にアプローチを行い売上増を実現しました。

マーケティングを強化する以前は、法人カードの領域では一人ひとりのお客様に直接接触するのが最も効果的だと考えていました。しかしマーケティングを実行する過程で、法人カードの領域においても、お客様はオンライン上で積極的に情報取得されているということに気付きました。

マーケティングによって、営業が接触できていないお客様や、確度が低いと諦めていたお客様へアプローチできるようになったのは、営業DX推進の大きな成果だといえます。

(写真左から)ビジネスマーケティング統括部シニアマネージャー 鈴木研吾氏、西山泰幸氏、営業マネジメント部シニアマネージャー 牧野知之氏、部長代理 原田氏
(写真左から)ビジネスマーケティング統括部シニアマネージャー 鈴木研吾氏、西山泰幸氏、営業マネジメント部シニアマネージャー 牧野知之氏、部長代理 原田氏

鈴木氏:法人カードは支払い、つまりどの企業でも日々行われる業務を効率化するという商材の特性から、そのターゲットは、大企業から中小企業まで業種業態を問わず幅が広い。直近のマーケティング活動から、まだまだリード獲得の可能性があると感じました

マーケティング強化にあたっては、Sansan導入によって顧客データのデジタル化と情報のリッチ化が進み、精度の高いデータを蓄積できていたことが重要なポイントだと思っています。数万枚の紙名刺を手動でデータ化し、名寄せするのは不可能に近い。

お客様との接点情報を効率的にデータ化しSFAと連携させた状態を実現できて、はじめて、マーケティングを実行できるといえます。

インフラやカルチャー、スキル…すべてをつないで営業DXを推進していきたい

ーー営業DXについて、これからの展望を教えてください。 

牧野氏:当社のSFAは商談や営業活動だけではなく、契約情報や社内決裁情報など顧客情報を軸にさまざまな情報を集約しています。私は中途入社なので、過去複数社のSFAを見てきましたが、当社ほど営業がSFAを頼りにしている企業は初めてでとても印象的でした。金融業界では情報を取り扱う際は非常に厳しいルールをしいていますが、SFAはリモートアクセス端末やモバイル端末でも利用でき、営業活動における重要なインフラになっていると感じます。

一方、それを活用して営業生産性向上等につなげていくという点に関しては、まだまだ各部署によって活用や運用にバラつきがあるため、今後も地道な営業DX定着化の活動によって改善していきたいですね。

営業DXは“売上で語り過ぎない”ことが推進のポイント

西山氏:私は「営業においては売上などの数字ももちろん重要な要素である」と思っている一方、営業DXという観点では「数字を意識し過ぎないほうが良い」と考えています。

営業DXは生産性や効率、働きやすさを改善するものととらえた方がうまく進むのではないでしょうか。それらが改善された結果、売上増につながるのだと思います。

例えばオフィスを改装したとして、それが直接売上につながるかどうか、因果関係を示すのは難しいでしょう。ただ、社員が働きやすい環境が整備されたことで結果的に売上増につながるということは、実際にあると思います。

牧野氏:私も同様に感じます。SFAは営業が使うツールということもあり、費用対効果として「売上がどれだけ上がるのか」という観点で見られがちですが、売上向上効果を算出するのは非常に難しい。導入後に売上が上がらなかった場合に「効果がないツールだ」とならぬよう、生産性や効率、働きやすさを改善するものととらえるのが良いと感じます。

鈴木氏:私もツール活用やシステム導入に関しては、売上に直結するというより、組織文化の醸成といった領域に近いと思っています。仕事のベースとなる“装備”というイメージですね。それによってどれだけ売上げを上げるかというより、営業活動の土台を整えるととらえた方が良い。

西山氏:現状では「営業DXを“数字”で語り過ぎない方が良い」という認識合わせをマネジメント層とも行っています。そのため社内では、どれだけ生産性向上や効率化に寄与するのかという点を主に見ていますね。

原田氏:生産性向上や効率化の観点では、社内開発の生成AIと連携させてSFAをより使いやすくしたいと考えています。ツール活用やデータ入力が苦手な人を助けるような工夫をしていきたいですね。

ーー登山に例えると、現在の営業DXは何合目くらいでしょうか。

西山氏:AIやテクノロジーの進化によってできることが増え、営業DXが年々アップデートしていると感じています。そのためまだ5合目くらいの感覚ですし、8合目、10合目までいくのは相当難度が高い。

営業DXを推進するためには、インフラやカルチャー、現場メンバーのスキルまで、すべての領域をつなぐ必要がある。どこか突出した領域がひとつあっても営業DXはうまくいきません。

これまでも各領域のつなぎ込みに挑戦してきましたが、まだまだやりたいことがたくさんありますね。

ーーありがとうございました!

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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集者

BeMARKEの編集者。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。上級ウェブ解析士。

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