インタビュー
営業DX推進によって成長を続ける企業に、実際の取組みや課題感、成果についてお聞きする本企画。
今回は、「守りのDX」と「攻めのDX」の2段階で部門を超えた業務改革に取り組む、株式会社明電舎 DX推進本部 業務改革推進部長の進藤勝昭氏に詳しいお話を伺いました。
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株式会社明電舎 DX推進本部 業務改革推進部長
1992年に明電舎に入社。営業管理部門、経営企画部門を経て2002年に新規事業部門に異動。CVCファンドの運営やベンチャー企業への出資、新規事業立ち上げなどに携わる。2008年に経営企画部にて中期経営計画の重点施策であるM&A・パートナーシップに取り組む。2013年より事業部門の統括部門に異動。2021年に国内インフラ業務改革プロジェクトの計画立案のとりまとめ。2022年からDX推進本部の業務改革推進部に異動。MEIDEN業務改革活動に参加し、事業・生産モデルに応じた業務改革を進めている。
ーー営業DXに取り込まれたきっかけについて教えてください。
21年の4月に全社プロジェクトとして「国内インフラ業務改革プロジェクト」を立ち上げました。業務改革により手戻り防止、工程改善等を行い、お客様満足度と収益力の向上を目指す活動です。
営業部門を含めた、明電グループ全体の業務プロセスとシステムの見直しが目的です。
ただ営業部門に限ると、実はその前の2018年から「営業業務改革プロジェクト」を立ち上げ活動していました。そこで課題として挙がっていたのが「営業の業務効率化を“営業部だけで進めようとすること”は難しい」ということです。
営業業務の効率化を進めるには、技術部門や工場などと協力する必要があることに気づいたのです。特に、SFA(営業支援システム)を導入した際には、営業部内だけで入力し管理するという運用だったため、他部門への情報共有ができないという課題がありました。
営業部門とその他の部門が連携できていないことで、二度手間が発生することも少なくなく効率化につながっていないということも課題でした。
そこで2020年9月に「国内インフラワーキング」を立ち上げ、「営業業務改革プロジェクト」の際に出た課題をすぐに拾い上げて展開するという流れをつくりました。
ーーSFA導入によってどのような状態を実現することを目指されていたのでしょうか。
実現したかったのは主に次の3つです。
しかし現実には営業部門が保有する顧客接点情報量が少なく、目指す姿をすぐに実現するのは難しかった。
その背景には、社会インフラや産業インフラ事業を展開する明電舎は長いお付き合いをしているお客様が多い一方、新規のお客様へのアプローチや接点情報の管理ができていないことが挙げられます。
またシステム活用の面では、部門ごとに異なるシステムを導入していることでサイロ化し、必要な情報をすぐに取り出せない状態であることも課題のひとつです。
ーーどのようにボトルネックを発見し改善されていったのでしょうか。
2013年から2020年まで、私は事業部門の統括ラインの部長でした。2018年に立ち上げた「営業業務改革プロジェクト」の事務局とは情報交換を続けていましたので「どうすれば課題が解決できるか」を常に考えていました。
そして21年の4月から、私がDX推進本部の部長になり本格的に「営業を含めた業務改革プロジェクト」を進めていきました。
ーー営業DXの推進者には、事業戦略や現場を理解している人物が適任でしょうか。
そうですね。営業部門を含めた社内各部門とのネットワークが広く、事業部門全体を俯瞰でき、現場と業務を知り各部署と連携を図れる人物が適しているでしょう。
これまで、IT系のプロジェクトでは、情報システム部門がシステムをつくり環境を整備していました。しかし今回の「業務改革プロジェクト」では、ITスキルだけではなく事業マネジメント力や業務そのものを知っているといった現場勘も求められます。
そのため今回はIT専門チームに加えて、事業部門から見積書や提案書を作成するメンバーや、技術の経験者、研究開発部門の経験者など多彩なメンバーによってチームを編成したこともポイントです。
得意領域の異なるメンバーでチームを編成することで、課題に対して最短でアプローチできると考えました。
18年のプロジェクト立ち上げの際は、営業担当者だけで議論していたため「課題出し」はスムーズに進んだものの、課題に対する「対策」までアプローチしきれなかった。
SFAを導入しても使いこなせないと意味がない。当時は、SFAと社内のシステムをどうやってつなぐのかについて解決策を考えられるメンバーがいなかった。新たなチーム編成によって、課題解決のアイデアが出るようになった点は評価できると思います。
ーー営業業務改革プロジェクトを進めるにあたり、「営業DX」をどのように定義されていましたか。
「営業DX」というと営業部門だけで進めるものというイメージがあります。
しかし当社の考え方としては、あくまでサプライチェーン全体のなかでの営業という位置づけであり、営業部門がお客様との重要な接点であり情報発信の起点でありつつも全社的に取り組んでこそ営業DXだと考えています。
ーー会社の中では、どのようなプロジェクト名で進めているのでしょうか。
実は、DXプロジェクトを立ち上げたときに「DXと名付けるのはやめよう」と当時の統括役員と決めました。DXという言葉だけが先行することがないように「業務改革プロジェクト」と呼ぶことにこだわりました。DXという言葉は、定義の幅が広く曖昧になりがちであるため、業務改革といった方が伝わりやすいと考えています。
ーー社員の皆様への浸透度合いはいかがですか。
この活動は3ヶ月に1度の定期報告会や、営業部門長の会議、個別の情報交換の場で繰り返しプロジェクトの説明をし、関係者へ理解を促すよう努めています。
私は自分の役割の1つは“宣教師”だと思っています。そのくらいの気持ちで伝えようと行動しないと、このプロジェクトによって「自分たちの仕事が変わる」という世界観が伝わらず理解もされない。そのため、あらゆる機会を使い全社的に浸透するよう行動し続けています。
ーー「営業を含めた業務改革プロジェクト」をどのように進めたのでしょうか。
業務改革プロジェクトにおいては、大きく2段階に分けて進めています。
第1段階は「守りのDX」として、営業から調達・出荷、保守・運用まで社内プロセス全体での顧客情報の一元管理を目指し、独自システムを自社開発しました。さらに独自システムとSFAをデータ連携させ、部門を超えたデータ共有を進めました。
第2段階は「攻めのDX」として、CRMを導入し、顧客接点情報の利活用を進めています。
下図にプロジェクトの全体像をまとめています。
社内プロセス全体のなかで営業の関連業務である「仕様指示・図面管理・受注予想」という3つの重点課題を設定して業務改革に着手しました。
その際には営業部門だけでなく、その他の部門が保有するデータも一元管理し共有することで、業務プロセスを改善することを目指しました。
社内の顧客データ管理のために、プロジェクト管理システム「プロすけ」を自社開発しました。生産管理システムを含めたサプライチェーンマネジメントは、当社のビジネスにおける競争領域です。自社開発にこだわり、進化させ続けていこうと考えています。
このプロジェクト管理システムと、営業部門が活用しているSFAのデータを連携しました。部門を超えたデータ連携を進めることで、技術部門や生産部門等とのデータの共有化が進むと同時に、SFAの登録件数も増加しました。
データ活用によって、会議体の見直しや長期納品への対応改善、帳票業務の集約など業務改善が進んだことで、営業担当者がSFAの利便性を実感し登録件数増につながるという良い循環が生まれています。
明電舎の歴史においてはじめての取り組みですが、これまで以上に情報共有のスピードが上がっていることを実感しています。
ーーシステム開発に関して、どのような体制で進めていたのですか。
これまで社内システムに関しては、子会社の明電システムソリューションに発注していました。ただ「作業指示を行い、システムを作る」という形では、「どのような課題があり、なぜ作るのか」といった深いコミュニケーションは難しい。スピードも上がらないという課題もありました。
そのため業務改革プロジェクトのシステム開発においては、DX推進本部内に専門の開発チームを設置しました。明電システムソリューションから5名ほどの開発者に参加してもらっています。
それによって、プロジェクトの全体像と課題感を開発者と共有でき、DX推進本部とチームとしての一体感も高まりました。システム構築のスピードも従来と比較し2倍から3倍になっていると思います。
そのスピードには関係者が「なぜそんなに早いのか」と驚くほど。周囲の反応や評価が見えることで、開発者のモチベーションアップにもつながっているようです。
開発の要件定義や関係各所との調整は、DX推進本部が担当し、開発に集中できる環境をつくっていることもポイントです。
「守りのDX」によって、社内にある顧客データの一元管理と共有が進み基盤ができたところで、CRMを導入し、顧客接点情報の利活用を進めることになりました。
当社はインフラ事業を行っているため、お客様との関係は数十年単位の長期間にわたります。それだけの長期間、いかに接点情報を維持・発展していくのかが重要です。
しかしこれまでは、営業から生産、工事も含むすべての部門で接点情報を管理する仕組みがないことが課題のひとつでした。事業成長のためには、あらゆる接点情報を全社的に共有する必要がある。
そこで名刺を会社共有の資産とし接点情報を一元管理し、その接点情報の分析や部門間共有によりビジネス機会を拡大させる施策に取り組むことになりました。
顧客情報の管理ツール導入においては、ベンダーに一方的に発注するのではなく“共創”することを意識しました。
「攻めのDX」を実現するには今までにないシステムを構築する必要がある。そのためにも、当社の考え方に共鳴し“共に創る”スタンスのベンダーを探していたところ、Sansan様から前向きな回答をいただきSansanを導入することにしました。
Sansan導入後は、営業担当者はもちろん役員にも積極的に活用してもらいました。役員は営業サポートやお客様とのご挨拶など名刺交換の機会も多く、またツール活用を社内に印象付けるためにも、業務改革プロジェクトのコンセプトを伝え協力を仰ぎました。
次のステップとして、これまで使っていたSFAとSansanを連携させ、接点情報を管理し利活用できる仕組みづくりを進めました。
当時、当社が導入していたソフトブレーン社が提供するSFAとSansanはデータ連携していなかった。そのため当社も含む3社間で「どのようなデータ連携の仕組みをつくると良いか」というところから協議し進めていきました。
今までにない新しい取り組みばかりでしたが、5月に3社でキックオフを行い、同年の10月にはプレスリリースを出し、データ連携を開始するという異例のスピードで実行できました。
システム連携のイメージは、SFAの管理画面内にSansanへのリンクを設置し、顧客情報管理と名刺管理をひとつの画面で確認できるというものです。
顧客マスターコードの付与によって、顧客情報を整備しデータの精度を向上できたこともメリットのひとつです。
データ活用を進めるためにも、正確なデータをSFAとつなげることが欠かせません。これまで、登録情報の正確さは70%ほどだったのが、Sansan Data Hubとの連携により90%まで改善することができました。今後は海外の顧客情報整備も進めていきたいですね。
ーー外部の企業も巻き込みつつ新たな取り組みをスピーディーに進める秘訣は何でしょうか。
明電舎には「ワンチーム」でプロジェクトを進める意識が企業風土に根付いていることが、新しい取り組みも抵抗感なくスピーディーに進められる秘訣だと思います。
また「課題は何か」「なぜプロジェクトに取り組むのか」を現場のメンバーにもしっかり説明し腹落ちさせることで、前向きに取り組んでもらえるということも重要なポイントです。
実行においては、旗振り役となる推進者の存在も欠かせません。
ーー経営陣とはどのようにコミュニケーションを取られていたのでしょうか。
経営陣とのコミュニケーションについては、3ヶ月に1度開催している報告会で、業務改革プロジェクトの成果・進捗状況をすべて共有した上でフィードバックをもらう、という形をとっており、円滑に進んでいると感じています。
企業としてDX戦略に関する全社方針やロードマップを打ち出したタイミングで、それにひもづく形で営業を含めた業務改革プロジェクトが立ち上がったということもポイントです。
ーーDXの評価指標としてはどのような項目を設定されていますか。
実際にツールやシステムを使っている現場の声を聞くために、アンケートによって「業務内容がどのように改善されたのか」「システムの活用状況と実態」の調査を始めています。それらの結果を定性・定量のデータとして可視化し、経営陣に定期報告会で報告するということを行う予定です。
成果指標としては業務効率化による工数削減も重要な項目ですが、部門を超えた情報共有が進むことで工程見直しなどの改善策を、いかに顧客体験向上につなげられるかという点についても重要な指標としてとらえています。これらを定量的に分析しながらさらに改善を繰り返していきたいですね。
私のミッションはシステムを作ることではなく、業務を変えることだと考えています。業務を変えることでお客様にどのような価値を提供できているのかを指標にしながら、DXを進めています。
ーー最後に今後の展望を教えてください。
今後は明電舎グループ全体として、全社員が名刺管理ツールを使えるように準備を進めています。これまではツール活用の範囲を限定していましたが、これからはその範囲を広げ情報共有を行うことで、グループや部門を超えた改善を行います。
ーー今後もDX推進本部がプロジェクトをリードしていくイメージでしょうか。
DX推進本部がリードしながらも、社内の関係部門との連携が重要だと考えています。
特に保守・運用を行うカスタマーセンターとの連携を強化していきます。カスタマーセンターが保有するデータと、明電舎の「ものづくり」に関するデータを一元管理し共有することが、今後の成長に欠かせない重要なコンセプトです。
営業業務改革プロジェクトを進めるなかで、やはり“人とのつながり”が重要だと思っています。業務改革を通じて、人との出会いとつながりを再びつなぎ直したいという強い思いがあります。
今回のプロジェクトを通じて、工場や生産現場の方々とお会いし顔が見えた状態で、業務を改善しさまざまなプロセスに変革を起こしていくさまを共有できたことが、私にとっての喜びにつながっています。
明電舎の“舎”という字には、「【電気の力で世の中を豊かにする】という志を持った仲間が集う場」という思いが込められています。私はDX推進においても、人との出会いとつながりを大切にすることで新たな事業に挑戦していきたいと思っています。
ーーありがとうございます!