Tips/寄稿
前回の記事では、「BtoBマーケティングのセオリー通りに実行しているのに、なぜ成果が出ないのか」について、「商材特性」「市場規模」「認知度」「組織体制」の代表的な4つの“ズレ”から整理しました。
前回記事:"頑張ってるのに成果が出ない"はなぜ起きる?──BtoBマーケティングに潜む"理論倒れ"のワナ
書籍やセミナーで学んだ手法を忠実に実行しているにも関わらず、期待した成果が出ない。この「理論倒れ」の背景には、セオリーが想定する前提条件と自社の現実との間にズレがあることが分かってきました。重要なのは、これらのズレを踏まえて、自社の現実に即した戦略を再構築することです。
今回は、理論倒れから脱却し、自社の実情に合ったマーケティングを構築するための具体的なステップを解説します。
「マーケティングを見直したい。でも、どこから手をつければ...」
実は、この悩みを持つ企業の多くが、いきなり施策レベルの改善から始めてしまいます。
「古いから、とりあえずWebサイトをリニューアルしよう」
「MAの使い方を見直そう」
「展示会の出展を増やそう」
ところが、部分的な改善では、根本的な問題は解決しません。必要なのは、マーケティング全体を俯瞰して、戦略レベルから再設計すること。そのための6つのステップを紹介します。
マーケティング活動の再設計において、最初に取り組むべきは目的の再定義です。
多くの企業で見られるのは、手段が目的化してしまう現象です。「展示会で300枚名刺を獲得する」「メルマガの開封率を20%にする」といった施策レベルの目標が本来の最終目的である受注や売上拡大に置き換わっているケースが頻繁に見られます。
曖昧な目的の例:「新規顧客からの売上を拡大する」「既存顧客との関係性を向上させる」
明確な目的の例:「新規顧客からの売上を年間1億円増加させる」「既存顧客のリピート率を80%以上にする」
目的再定義のポイント:誰が聞いても同じ理解ができ、達成・未達成の判断が明確にできる目的を設定する
チームで「新規顧客からの売上を年間1億円増加させる」という目的を掲げた場合、メンバーが達成のために必要な商談数やリード数が逆算でき、各施策の具体的な役割も見えやすくなります。
目的が再定義できたら、次はその目的達成に向けて、自社の現状とリソースを客観的に把握します。重要なのは、単純な棚卸しではなく、「目的達成を阻む構造的な障害は何か」という視点で整理することです。
把握すべき要素
・人的リソース:マーケティング担当者のスキルと稼働時間、営業チームとの連携体制
・経営資源:予算規模とその配分状況
・保有資産:既存のコンテンツ、顧客リスト、蓄積されたデータ
・現在の成果:既存施策で「できていること」の明確化
例えば、新しいMAツールの導入を検討する前に、現在のリソースで何ができて何ができていないかを把握する。そうすることで、「ツールがあれば解決する課題」と「運用体制の問題」を区別できるようになります。
「うちにはインサイドセールスがいないから、MAを入れても活用しきれなかった」
このような状況を避けるためにも、まずは現状の正確な把握が必要です。
Step2で把握した現状とリソースをもとに、目的達成を阻んでいる課題を特定し、それぞれの課題を評価・整理します。重要なのは、課題を単純に並べるのではなく、「なぜその課題が目的達成を阻むのか」という構造的な関係性を理解することです。同時に、課題解決の手法もイメージしながら、実行難易度を含めて評価していきます。
課題特定と評価の観点
・根本原因の特定:表面的な病状ではなく、根本にある構造的問題は何か
・影響度の評価:各課題が目的達成にどの程度影響するか
・解決手法のイメージ:どのようなアプローチで解決できそうか
例えば、「リードの質が低い」という課題があった場合、「リードの質の問題」「営業へリード情報を渡す基準の問題」「フォローアップ体制の問題」など複数の原因が考えられます。それぞれについて解決手法をイメージしながら、実行可能性を含めて評価します。
この段階では、課題の構造化と評価に集中し、具体的な実行順序は次のステップで決定します。
特定した課題を踏まえて、限られたリソースをどう配分し、効果的に活用するかの大局的な方針を決定します。
ポイントは、ペルソナ設定や市場分析といった要素は戦略の一部ではあるものの、それ自体が戦略ではないということ。戦略とは、限られたリソースをどのように分配するかをおおまかに決めることです。
戦略設計のアプローチ
・誰に注力するか:限られたリソースで最大効果を得られるターゲットの絞り込み
・何を訴求価値とするか:競合との明確な差別化ポイントの設定
・どのように届けるか:最も効率的で効果的なチャネル戦略の選択
例えば、前回記事の4つのズレを踏まえ、「高単価・長期検討商材」を扱う企業であれば、短期的なリード獲得施策よりも、信頼構築と関係性維持に重点的にリソースを配分する、といった大局的な方針を定めます。
戦略が明確になることで、現場での施策判断に一貫性が生まれ、迷いや手戻りを防ぐことができます。
再設計した戦略を実行に移すための具体的な施策を設計します。
ここで最も重要なのは、目的や戦略からの逆算思考です。施策は常に戦略を実現するための手段であり、単独で存在するものではありません。どれだけ魅力的な施策でも、ターゲット、チャネル、提供価値が戦略とずれていれば、成果にはつながりません。
施策立案の逆算アプローチ
・戦略実現のための手段としての位置づけ:各施策が戦略のどの部分を担うか
・ターゲット・チャネル・提供価値の整合性:戦略で定めた方針との一貫性
・効果測定方法の事前設定:戦略達成度を測る指標の明確化
例えば、「高単価商材で信頼構築を重視する」という戦略があれば、展示会では量より質を重視した丁寧な関係構築、Webサイトでは詳細な技術情報や導入事例の充実、メールでは売り込みではなく有用な情報提供、といった具合に各施策を戦略に沿って設計します。
この前提をチーム内で徹底することで、現場の判断や優先順位に一貫性が生まれ、実行後の効果検証・改善もスムーズに進められます。
最後に、策定した施策を実行し、事前設定したKPIに基づいて成果を測定・検証します。
単なるPDCAサイクルを回すことではなく、マーケティング活動を企業の成長に貢献する本質的な経営手段へと昇華させることを意識しましょう。
実行・検証の仕組み
・事業成果につながる指標設定:商談化率やLTVなど、売上に直結する指標での測定
・現場フィードバックの活用:営業やCSから「創出リードは活用されたか」「コンテンツは顧客に響いたか」を確認
・戦略妥当性の再評価:検証結果を基に戦略や課題設定の見直しを実施
例えば、リード獲得数だけでなく「営業が実際に商談化できたリード数」「受注に至ったリードの特徴」まで追跡し、それを次の戦略・施策設計にフィードバックします。
こうした検証を通じて、マーケティング活動は短期的な施策の集合から脱却し、企業の成長を支える戦略的な経営手段として機能するようになります。
本記事で紹介した6つのステップは、マーケティング改善の基本的な進め方です。自社でこれらのステップを適用する際の具体的な考え方やヒントについては、ホワイトペーパーで詳しく解説しています。
本記事では、理論倒れから脱却するための6つのステップを解説しました。
6つの再設計ステップ
これらすべてを一度に実行する必要はありません。重要なのは、自社の現状に合わせて、最も効果的なステップから始めることです。
どのアクションから実行すれば良いのか。そもそも、自社の本当に改善すべき課題はどんなことなのか。そういった悩みに対して、理論倒れの根本原因から具体的な改善策まで、ホワイトペーパーにまとめました
そのほかにWebサイトの活用を"戦略レベル"で見直すポイントや成果が出ないサイトの"よくある失敗例"なども紹介しています。ぜひ、自社のマーケティング活動を実りあるものにするため、ご活用ください。