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BPO・コンサル・研修会社が陥る新規開拓の落とし穴と解決のヒント

BPO・コンサル・研修会社が陥る新規開拓の落とし穴と解決のヒント

「営業代行に依頼したが成果につながらない」「広告費をかけても商談が生まれない」
――これはBPO・コンサル・研修業界でよく聞かれる新規開拓の悩みです。紹介や既存顧客からの継続受注は得意でも、ゼロから新しい顧客を獲得する仕組みづくりに苦戦している企業は少なくありません。

本記事では、多くの企業が無意識に陥っている4つの「落とし穴」を明らかにし、それぞれの解決策を具体的に解説。数々の失敗を重ねた筆者の実体験をもとに、新規開拓を成功に導く現実的なアプローチをお伝えします。

目次

新規開拓で失敗を重ねた実体験

「営業代行に頼ったが成果が出ない」「広告を回したのに商談につながらない」――こうした声は非常によく耳にします。

私自身も独立したての頃、ある営業代行会社から「毎月、御社のターゲット(決裁者)と最低5件はアポを取ります」と言われ、高額契約を即決しました。営業トークは見事で、大きな期待を抱いていたのです。

しかし、実際に入ってきたアポは月に1〜2件。しかも決裁者ではなく、ターゲットから外れた相手ばかりでした。解約もできず、年間契約のコストを無駄にしてしまったのです。

その後、別の経営者と話していた際に「同じ営業代行を使って同じように苦しんでいる」と打ち明けられ、二人で「やっぱりうまくいかないよな」と苦笑いしたことがありました。こうした失敗は決して珍しいものではなく、多くの会社が同じ「落とし穴」にはまり続けているのです。

私も大学生の頃から社会人経験ゼロで事業を始め、身銭を切っては数々の失敗を重ねてきました。その過程で学んだのは、新規開拓には共通する落とし穴があり、裏を返せば、そこを避ければ成果につながるということです。以下では、その具体的なポイントを整理してお伝えします。

空想のペルソナを設定している

空想のペルソナを設定している(株式会社ENVY)|BeMARKE(ビーマーケ)

多くの企業が最初に陥るのが、推測や過去の経験だけで作り上げた「空想のペルソナ」に頼ってしまうことです。

「この業界なら決裁者はきっとこういう人物だろう」
「以前の顧客はこうだったから今も同じはずだ」

こうした思い込みで描いたペルソナは、実態とズレていることが少なくありません。

さらに危険なのは、一度作ったペルソナを更新せず、何年も使い続けてしまうことです。市場環境も顧客の課題も、自社サービスの提供内容も常に変化しています。数年前の理想の顧客像をそのまま使い続けていては、成約率は下がり、LTV(顧客生涯価値)も伸びなくなります。

だからこそ大切なのは、「本当に買ってくれる人は誰か?」を常に問い直し、現実のデータをもとにペルソナを更新し続けることです。これは一度決めて終わる作業ではなく、商談録画や顧客とのやり取りを何度も振り返り、受注に至った相手とそうでない相手の違いを分析する泥臭い検証の積み重ねです。

上図のように、同じサービスでも「フリーランス」「マーケティング責任者」「経営者(役員)」と対象が変われば、成約率もLTVもまったく異なります。つまり、現実の数字に基づいてターゲットを見極めなければ、どれだけ良い施策を打っても成果は出ないのです。

新規開拓を成功させる第一歩は、空想のペルソナを捨て、データに基づいた現実のペルソナを継続的に更新することにあります。

第一想起が取れていない

どれだけサービスの品質が高くても、見込み客の頭に最初に浮かぶ存在になっていなければ選ばれません。WACULの調査レポートでは、BtoBの購買で10社中およそ5〜6社が「最初に思い浮かんだサービス」をそのまま導入していました(全体55.3%、ソフトウェア48.0%・ハードウェア56.6%)。第一想起であるかどうかが、そのまま成約確率を大きく左右するのです。

逆に言えば、第一想起を取れていない状態とは、見込み客の候補リストにすら入っていないということです。広告や営業を重ねても「そもそも思い出されない」かぎり問い合わせは増えず、成約率は上がらないまま機会損失が積み重なっていきます。

ポジションを言語化する

ポジションを言語化する(株式会社ENVY)|BeMARKE(ビーマーケ)

ここで必要なのが、バリュープロポジションを定めることです。バリュープロポジションとは、「顧客が強く求めている価値」でありながら、「競合が十分に提供できず」、なおかつ「自社が確かな実績をもって提供できる価値」を明確化したものです。

例えば、BPO・コンサル・研修業界では「ウェビナーを実施したものの受注につながらない」という課題がよく見られます。顧客は紹介以外で成果の出る新規開拓手段を求めていますが、多くのウェビナー代行会社はSaaS企業向けに特化しており、BPOや研修領域に最適化された支援は十分ではありません。

一方で、自社が「BPO・コンサル・研修領域で、受注につながるウェビナーを設計・運営してきた実績」を持っているのであれば、これこそが差別化された提供価値です。そして、「BPO・コンサル・研修業のウェビナー代行ならセミナーBPO」といった形で、バリュープロポジションを明確に定めることができます。

よく使われるポジショニングマップは、競合との位置関係を整理するには有効ですが、それだけでは「なぜ自社が選ばれるのか」を言語化できません。競合他社との比較の枠組みに偏りやすく、結果として顧客が本当に求めている価値を見落とす可能性があります。

その点、バリュープロポジションは価値を言語化することを前提としているため、営業資料やウェビナータイトルなど、外部に向けたメッセージにそのまま活用できます。顧客視点を踏まえた上で「なぜ自社か」を明確に示せる点が大きな違いです。

そのため、第一想起を獲得するにはポジショニングマップよりもバリュープロポジションの方が適しています。

バリュープロポジションを作る4ステップ

  1. 商談録画や顧客インタビューから顧客が本当に求める結果を抽出す
  2. 自社が証拠を伴って提供できる価値を棚卸しする
  3. 競合が弱い、または届いていない点を特定する
  4. 「誰に・何を・なぜ自社か」を一文にまとめ、社外に出しても違和感のない表現にする

第一想起は偶然ではなく、言語化されたポジションを繰り返し発信することで築かれるものです。

施策を間違えている

施策を間違えている(株式会社ENVY)|BeMARKE(ビーマーケ)

「営業代行に任せてみたものの、紹介されるのは質の低い商談ばかりで成約につながらなかった」「SEOやYouTubeに挑戦したものの、成果が出るまでに数年かかり、途中で撤退してしまった」

これらは、BPO・コンサル・研修業界で繰り返される典型的な失敗です。

こうした失敗の本質は、自社のポジションを前提とせず、安易に施策を選んでしまうことにあります。営業代行に任せると決裁権を持たない担当者との商談ばかりが増え、SEOやYouTubeに取り組んでも第一想起を取れないまま時間とコストを浪費する。つまり、施策自体が悪いのではなく、自社の立ち位置や顧客の購買プロセスに合っていない施策を選んでしまうことが失敗の原因なのです。

解決策は、顧客の購買プロセスを丁寧に把握することにあります。

  • どこでサービスを知ったのか?
  • どのような流れで候補を比較・検討しているのか?
  • 最終的に何が決め手になったのか?

こうした一次情報を商談の中でヒアリングし、見込み客の実際の動きを理解します。このプロセスを把握して初めて、「どの施策に投資すべきか」という的確な判断が可能になります。

特にBPO・コンサル・研修業界では、短期的に成果が出やすい施策は限られています。
例えば、専門性を凝縮して伝えられるウェビナー、決裁者層と直接つながりやすいX(旧Twitter)、権威性を高め第一想起を補強する出版、効率的に認知を広げられるMeta広告などです。

重要なのは、「なんとなく良さそうだから」ではなく、「自社のポジションを強化し、顧客の購買プロセスに沿って成果につながるか」という観点で施策を選ぶことです。

スモールスタートを好む

スモールスタートを好む(株式会社ENVY)|BeMARKE(ビーマーケ)

施策を決めても、「まずは小さく試そう」とスモールスタートを選ぶ企業は少なくありません。リスクを抑えたい、リソースが限られているといった理由からすれば、一見、妥当な判断に見えます。

しかし現実には、情報があふれる市場の中で小規模な取り組みはすぐに埋もれてしまいます。わずかな発信や少額の広告が会社の資産になることもなく、むしろ「やっているつもり」で終わってしまうのです。複数の施策に資金やリソースを分散しても効果はほとんど上がらず、市場での存在感を出すことはできません。

スモールスタートの裏側には「成果が出るまでやり切る覚悟がない」という問題があります。複数施策を同時並行で成功させられるのは、大企業のように十分な予算と人員を持つ場合に限られます。予算も人手も限られた中小規模のBPO、コンサル、研修業界の企業が成果を出すには、一点集中で「この施策で勝ち切る」という覚悟が必須です。

USJをV字回復に導いた森岡毅氏も「勝てる戦いに資源を集中せよ」と語っています。これはつまり、マーケティングの本質は選択と集中にあるということです。資源を分散させて中途半端に取り組むのではなく、勝ち筋が見えた施策に思い切って投資する必要があります。

実際、この業界で効果を発揮する施策はそう多くありません。だからこそ、一度選んだ施策は成果が出るまでやり切ることが大切なのです。

覚悟を持ってやり切る方法

覚悟を持ってやり切る方法には、大きく2つのパターンがあります。

1.自社で試行錯誤を重ねる

最低限のコストで、いわゆるPDCAではなく、D(Do=行動)を何度も繰り返す「DDDDDDDCA」のイメージです。失敗を前提に小刻みに試し、その過程で正解を見つけにいく姿勢が求められます。

2.プロに依頼して最短で成果を出す

予算を投じて専門顔の力を借りる方法です。自社で試行錯誤を繰り返すよりも早く成果に近づけ、限られた経営資源を効率的に活用できます。ただし、依頼先の見極めが肝心です。

プロに依頼する場合の判断基準

プロに依頼する場合の判断基準は次の3つです。

【1】試行錯誤とナレッジの蓄積があるか
これまでにどれだけ実践を繰り返し、失敗や改善を積み重ねてきたか。苦労して得たナレッジを持つ会社こそ、成果を再現する力があります。.

【2】丸投げ体制ではないか
「ウェビナーのプロ」「Xのプロ」と名乗っていても、実態は担当者レベルに業務を丸投げしているケースもあります。マーケティング施策は仕組みだけではなく、それを設計・管理する人間の力量で成果が決まります。責任者がどこまで関与するかを必ず確認すべきです。

【3】規模感が近いか
自社と同じくらいの規模感で成果を出している事例がある会社なら、安心して任せられます。大手企業の成功はネームバリューや複数施策の掛け合わせに支えられていることも多く、中小企業にそのまま当てはまるとは限りません。

新規開拓で成果を出すには

要するに、新規開拓で成果を出すには、小さな安心感ではなく大きな覚悟が必要です。選んだ施策に資源を集中し、成果が出るまでやり切る。この姿勢があるかどうかが、成功と失敗の分岐点になります。

まとめ

BPO・コンサル・研修業界の多くの企業が新規開拓で成果を出せないのは、サービスの質が低いからではありません。4つの「落とし穴」にハマっているからです。

【4つの落とし穴】

  1. 空想のペルソナを前提に動いてしまう
  2. 第一想起を取れないまま努力を重ねてしまう
  3. ポジションを無視して施策を選んでしまう
  4. スモールスタートで取り組みが埋もれてしまう

どれも珍しい失敗ではなく、多くの企業が同じ過ちを繰り返しています。逆に考えれば、これらを1つずつ避けていくことで、新規開拓の成功率は大きく変わります。

  • 商談データや顧客の声からリアルなペルソナを更新し続ける
  • バリュープロポジションを言語化して「なぜ自社か」を明確にする
  • 購買プロセスを理解したうえで施策を選び、成果につながるチャネルに集中する
  • 「成果が出るまでやり切る」という覚悟を持つ

新規開拓は派手な近道ではなく、こうした地道な積み重ねの先にしか成果はありません。しかし、その積み重ねを正しく続ければ、確実に「選ばれる立ち位置」を築くことができます。


この記事を書いた人

宮津 駿
宮津 駿 | 株式会社ENVY 代表取締役

関西大学理工学部在学中にWeb制作やECサイト運営を手掛ける。卒業後も事業を拡大し、ウェビナー施策に本格的に着手。初期には成果が出ず苦労するも、他社ウェビナーの徹底分析や海外でのプレゼンテーション研修を経て独自のメソッドを確立。現在は株式会社ENVYの代表取締役としてBtoB向けウェビナー代行サービス「セミナーBPO」を展開中。200社を超える企業支援と3,500回以上の開催代行を通じ、成約率20-30%を実現し、クライアントの成長と収益拡大に貢献している。
X(旧Twitter)アカウント:https://x.com/s_miyatsu

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