インタビュー
BtoB企業の営業・マーケティング担当者なら誰もが直面する課題—「いかに効率的に見込み顧客を商談へと導くか」。本記事では、900社以上のBtoB企業を支援してきた株式会社Cone代表取締役・佐藤立樹氏に、従来のコンテンツマーケティングとは一線を画す「コンテンツセールス」について伺いました。顧客の課題を深く理解し、1対1で価値ある情報を提供することで商談化率を劇的に高めるこのアプローチは、迷惑営業に頼らない新時代のBtoBセールス手法として注目を集めています。なぜ従来のナーチャリングでは成約に至らないのか――。その答えと解決策がここにあります。
株式会社Cone 代表取締役
立命館大学卒業後、2019年株式会社Coneを設立。資料作成代行サービス 「c-slide」、記事作成代行サービス。「c-blog」などのBPO事業を展開し、BPOサービス比較サイト「b-pos」をリリース。BPO事業は累計支援企業900社超、比較サイトは累計掲載200社超の経験から、コンテンツマーケティング、コンテンツセールスについての情報を発信。(X:https://x.com/rk310117) BeMARKEでの連載記事 https://be-marke.jp/author/449
―― まず、会社の成り立ちについて教えていただけますか?
実は事業(コンテンツセールス)とは少し関係ないかもしれないんですが、私が就活を楽しくなくて、会わないなと感じていたことがきっかけです。将来何がしたいんだろうと考えた時に、今CTOをしている親友がいて、彼と一生一緒に働いていくことが私の人生の幸せだなと思ったんです。就職してしまったら、良くて週1回しか会えない。人生で一番長い時間を占める仕事を一緒にできたら良いなと思い、起業しました。
最初は何もできなかったので、動画制作などさまさまな提案をしていました。提案のパターンを蓄積していくうちに、資料作成のノウハウを持った人材が入社してきて、「じゃあ、資料作成を企業に提案していこう」というのが始まりです。
―― 最初から資料作成に特化することを考えていたのですか?
最初はクリエイティブ制作の会社として、Webも作れて動画も作れて資料も作れるという形で企業に提供していたんです。しかし、業界を見渡すと、CHOCOLATさんやGoodpatchさんなどのデザイン会社と勝負して勝てるわけがないと感じました。
そこで、私たちが最も得意とする「資料作成」に特化することにしました。資料作成代行の会社として見たとき、競合他社はそれほど強くなかった。クリエイティブ制作会社はたくさんあるけれど、「資料の会社」と言われた時に私たちを思い出してもらえるようにしようと決めました。市場に穴が空いていたんです。
主力サービスの資料作成代行サービス「c-slide」。年間支援企業は200社を超える。
―― 最初の顧客獲得はどのように進めたのですか?
リスティング広告が効果的だと分かったんです。「資料作成代行」というキーワードでリスティング広告を出していた企業はあったものの、LPやCVの動線設計がしっかりしていませんでした。基本的には紹介ベースでやっている企業が多かったので、Web戦略で差別化できると考えました。
最初は月10万円程度の広告費でしたが、毎月10件以上の問い合わせをいただけるようになりました。その後、「BtoBコンテンツ制作」という文脈に変えていき、1年目で100社を突破して、現在では900社以上のご支援をさせていただいています。
――それでは本題に入りたいと思います。そもそも「コンテンツセールス」とは何でしょうか?
誰もが言っている言葉ではありませんが、簡単に言うと「コンテンツマーケティングの営業バージョン」と考えてください。コンテンツマーケティングは、広告で自社のサービスをバンバン出すのではなく、有益な情報をお客さんに検索面で届けて、中長期的に商談化を目指す施策です。
コンテンツセールスも同様に、アウトバウンドでもインバウンドでも「いかがですか?」と電話で営業するのではなく、お客さんが求めている情報を資料や記事で提供して、商談化や受注を目指すコミュニケーションスタイルのことを指します。
出所:「コンテンツセールスハンドブック」より
――従来のコンテンツマーケティングとコンテンツセールスの違いはどこにあるのでしょうか?
コンテンツを提供するという点では同じですが、大きく異なるのは誰に対してどのように情報を届けるかです。コンテンツマーケティングは基本的にはコンテンツSEOがメインで、不特定多数の潜在顧客へのコミュニケーションです。
一方、コンテンツセールスは、接点を持ったお客さんに対して必要な情報を1対1で届けていくものです。簡単に比較すると、検索面で誰か分からない人に対して有益な情報を届けるのがコンテンツマーケティングで、1対1の接点で有益な情報を各自にメールで届けていくのがコンテンツセールスです。
出所:「コンテンツセールスハンドブック」より
―― それは一種のナーチャリングとも言えるのでしょうか?
そうですね。コンテンツマーケティングでリード獲得をして、コンテンツセールスで商談化・受注を目指すという流れです。これまでMAでナーチャリングをしていたのを、コンテンツセールスというやり方でやっていこうということです。
従来のナーチャリングやメルマガ、オウンドメディアの記事配信などは1対多数のコミュニケーションですが、コンテンツセールスはお客さん一人ひとりのためのお役立ち情報を提供することに違いがあります。
実は、メルマガやホワイトペーパーがそのまま商談化するとは思えません。情報に価値があってクリックしているのに、そこにサービスの提案をされても、「記事を見ているだけなので」とサービス導入の検討はできていません。
接点を持ったお客さんに対して必要な情報を提供し、かつサービス関連の情報も提供することがコンテンツセールスです。発注がまだ先のお客さんよりも、ある程度商談に近いお客さんに対して行うものかもしれません。
―― 具体的なコンテンツセールスの実践方法について教えてください。
一例を挙げると、営業が商談した動画を私たちに共有してもらい、そのお客さんが発注にあたって抱えているハードルや課題をくみ取り、それを解決できるお役立ち資料を作成します。
例えば、「営業資料作成」で発注を検討しているお客さんが、プロダクトのどこが刺さるのかが分からず、どう営業支援を落とし込めば良い資料ができるのかわからないという課題を抱えているとします。そこで「このようなコンセプトのまとめ方をして、こういう構成で営業資料にまとめましょう。弊社と一緒にやる場合は、以下の項目をまとめていただくと効果的な営業資料が作れます」というホワイトペーパーを作成します。
それをお客さんに送ることで「こうすれば良いんだ」と検討のハードルを乗り越えてもらえます。さらに、そのホワイトペーパーを同じような課題を抱えている他のお客さん(ハウスリスト)にも送ると、「一度相談させてください」という商談に発展していきます。つまり、最初は1対1で作っていくことが大事です。
――その方法はかなり画期的ですね。商談の動画からどのようにしてコンテンツを生み出すのですか?
私たちは、営業が商談したものをAIの議事録サービスに読み込ませて、ChatGPTなどを使いお客さんの課題感を抽出し、そこからホワイトペーパーを作成しています。それをお客さんに送り、さらに一斉送信もしています。これがコンテンツセールスの実践例です。お客さんには「これを見ながらやれば、できるようになります」と伝えるので、非常に喜ばれます。
――この方法の強みは、メルマガやお役立ち記事と違って、自分の会社に直接役立つ内容だということですね。
その通りです。しかも、この内容は発注の前段階で必要なコンテンツになります。単なる初心者向けの一般的な情報(例えば「電子帳簿保存法とは」のような基礎知識)ではなく、発注のハードルになる部分や社内での検討を進めるために必要な知識を補足するお役立ち資料になります。私たちはこれを「セールスコンテンツ」と呼んでいます。
――このやり方で成果を上げるためのポイントは何でしょうか?
私たちは「コンテンツワーク」というツールを使って成果を上げています。コンテンツセールスをするためには、お客さんが何に興味があって、どれくらいの検討度合いなのかを把握できるツールと、最適な情報提供の両方が必要です。MAとコンテンツで実現することもできますが、私たちは専用のツールを開発しました。
このツールでは、Webページに資料をまとめて、お客さんがどの資料に興味を持ったかを把握できます。例えば、お役立ち資料を追加したとメールで知らせても、実はそのお客さんがサービス資料を最後まで読んでいた場合、商談化のチャンスです。従来のMAだと、単に記事をクリックしただけで電話営業するのは効果的ではありません。
私たちのツールは、コンテンツを集約して、お客さんがサービスに本当に興味を持っているかどうかを把握し、適切なタイミングでポップアップを表示して商談を促すことができます。
――つまり、お客さんの行動に応じて適切なコンテンツを提供する仕組みが重要なんですね。
そうです。例えば、「中小企業」というタグが付いたコンテンツをクリックした人に対して、関連するコンテンツを自動で送ることができます。これまでのMAスコアが高くなった人にメールを送るというやり方ではなく、お客さんの具体的な興味関心に基づいてコンテンツを送ることで、より効果的に商談へとつなげることができます。
――コンテンツセールスを導入する際の課題として、リソースの問題が気になります。どのように解決すべきでしょうか?
基本的には、マーケターがコンテンツを作ることを推奨しています。スムーズなマーケティング部との連携ができれば良いでしょう。実は、コンテンツセールスがうまく機能すると、電話営業のリソースを開放できるメリットがあります。
出所:「コンテンツセールスを導入するメリット(営業の脱属人化)」|BeMARKEより
私たちは「コンテンツ大臣」を置くことを推奨しています。営業は商談して受注に向かう動きをするので、コンテンツを作る能力はあまりありません。そこで、AIツールを活用した効率的な方法を提案しています。商談の議事録をAIに読み込ませてお客さんの課題を抽出し、それをマーケティング担当者に渡してコンテンツを作ってもらうという流れです。
これまでホワイトペーパーを作っていたリソースを、このセールスコンテンツ作りに振り向ければ良いので、大きな問題はないと思います。
――コンテンツ大臣は各社に置くべきということですね。
そうです。マーケティング部から1人選出してもらうイメージです。
――実際のクライアント企業の事例を教えていただけますか?
例えば、メグリ社の事例があります。彼らはMAをしっかり運用していて、メルマガもポップアップも活用していたのですが、どのようなコンテンツを作れば良いのか、商談につながるコンテンツ作りが分からないという課題を抱えていました。
私たちは、ホワイトペーパーやお役立ち資料コンテンツの作り方として、商談から情報を得る方法と、オウンドメディアでアクセスが良かった記事をホワイトペーパー化する方法を提案しました。A社の場合は、オウンドメディアのCVR(コンバージョン率)が高い記事をホワイトペーパー化し、ハウスリストに興味関心別に送り分け、フィールドセールスがフォローする仕組みを構築しました。その結果、商談化数が増加しました。
――導入後、どのような結果が得られましたか?
特に成果が出たのは失注顧客からの商談獲得です。メグリさんはしっかりと未承諾リードなのか失注リードなのかを区別していたので、失注したお客さんがホワイトペーパーにアクセスした場合、「再度興味を持っている」と判断し、過去に接点があったフィールドセールスが追いかけて商談を獲得できています。
実は、営業担当がフォローしなかったお客さんの8割程度は結局競合に流れてしまうという調査結果があります。しっかりと興味度を引き上げて商談のフローに戻すことは非常に重要です。
参考:記事からのホワイトペーパー制作体制を確立し、スムーズな施策実施を実現。|c-slide
――コンテンツセールスを導入するメリットを教えてください。
最大のメリットは、中長期的な商談数と受注数の最大化です。営業チームにとっては、セールスイネーブルメントがしやすくなります。例えば、営業資料のバージョン1では受注率が7%だったけれど、改善後はどうなったか、というように数値化できます。
感覚的な「このトークだからダメだった」ということではなく、データに基づいた改善ができます。また、コンテンツセールスは、これまで電話営業に費やしていた時間を効率化できます。電話をかけてもつながらず無駄になる時間が多かったのに対し、コンテンツを送っておけば、見なければ見ないだけですが、見てくれた場合はすでにヒアリングがほぼ完了した状態になります。
出所:「コンテンツセールスハンドブック」より
マーケティングチームにとっても、ホワイトペーパーをダウンロードしたお客さんやウェビナーに参加してくれたお客さんが商談に結びつきにくいという課題を解決できます。サービス資料をきちんと見ているか、ダウンロードを複数回しているかなどを把握し、適切なタイミングでアプローチすることで商談化率が向上します。
出所:「コンテンツセールスハンドブック」より
――他のマーケティング・営業手法と比較した時の差別化ポイントは何でしょうか?
MAの運用ができていない企業にとっては特に分かりやすいメリットがあります。従来は、メルマガやコンテンツを送ってもクリックしたお客さんをどう商談化するかは営業チームに任せていました。
私たちのアプローチでは、「デジタルセールスルーム」上でサービスを検討しているかどうかが分かり、サービスに興味がある人には自動で商談打診が走ります。「スコアが何点だから電話しよう」という基準設定が不要で、サービスに興味ある人に対して自動で商談打診が行われ、セールスチームに引き継がれるのです。
――コンテンツセールスを始めたいBtoB企業へのアドバイスとして、コンテンツ大臣に向いている人はどのような人でしょうか?
基本的には、お客さんと接している、または接した経験のある人が良いです。コンテンツの本質は、お客さんが求める情報を提供することです。営業資料は、サービスを検討している人がサービスの情報を知りたくて見るもの。お役立ち資料は、解決策について書かれた情報が知りたくてダウンロードするものです。
お客さんが困っていることを理解できる人がコンテンツを作るのがベストです。マーケターでも営業でも、お客さんの課題を解決できる情報を作れる人をコンテンツ大臣にすることをおすすめします。個人的には、営業経験が豊富でマーケティングに異動した人や、営業企画出身の人が最適だと思います。
――最後に、コンテンツセールスの今後の展望や課題についてお聞かせください。
株式会社Coneは100%インバウンドでお客さんに来ていただくことを大切にしています。BtoCの世界では当たり前のことですが、BtoBではまだ「アウトバウンド営業」が一般的です。接点を持ったお客さんに対しても、接点を持たないお客さんに対しても、電話をかけたりメールを送ったりする「迷惑行動」が続いています。
これを変えていきたいと思っています。Gartner社の調査によれば、購買判断に際してすでに約60%のお客さんが自分で情報を調査しているというデータもあります。いつまでBtoBは迷惑行動を繰り返すのでしょうか。
私たちはコンテンツマーケティングとコンテンツセールスという文脈で、BtoBマーケティングとセールスをサポートしていきたいと考えています。電話営業ではなく、コンテンツを送ることで商談化・受注を目指す考え方を広めていきたいですね。
――ありがとうございました。
参考:コンテンツセールスの詳細については、Cone公式サイト内の専用ページもご参照ください。