Tips/寄稿
営業活動の効率化の手段としてたびたび話題にあがるインサイドセールス。エンタープライズ企業(大手企業)やスタートアップ企業では、当たり前のように導入されている営業体制ですが、導入していない中小企業からすれば、「効果はあるんだろうけど正直分からない」というものになってしまっているかと思います。
そこで、本記事では「中小企業はインサイドセールスを導入すべきなのか?」「導入するならどのように?」という問いに対する回答をしていきます。
著者が代表を務める株式会社Coneでは、営業2名体制で月間100件の問い合わせに対応しており、実際に私たちが実践した方法を紹介していきます。
インサイドセールスとは言葉的には「非対面での営業活動」を指しますが、昨今はフィールドセールスも非対面での営業活動が中心となっており、あまりこの定義ではしっくりこない人も多いと思います。
本記事のインサイドセールスの定義は「商談獲得のための営業活動を行うパート」のことを指すこととします。では、このインサイドセールスはなぜ注目を集め、BtoB営業の“当たり前”になったのか。
インサイドセールスとはSalesforce社が提唱した「The Model(ザ・モデル)」という営業活動におけるプロセスの一部です。
これまでは一人の営業担当が見込み顧客にアプローチし、商談を実施、受注するという営業プロセスでした。このプロセスを一人ですべて行うのではなく、ひとつひとつの営業プロセスをパートに分けて、そこに担当を振り分けた分業体制がThe Modelです。
The Modelを取り入れることで、一人ひとりがそれぞれの目的に応じた業務だけに時間を投下できるため、営業活動が効率的に行えるようになります。
The Modelを取り入れることで、一人ひとりがそれぞれの目的に応じた業務だけに時間を投下できるため、営業活動が効率的に行えるようになります。
インサイドセールスの役割は、アウトバウンド(BDR)にしろインバウンド(SDR)にしろ「商談獲得」です。見込み顧客に対して、フォーム・メール・架電などさまざまな手段を活用してアプローチを行い、商談を取り付けて、フィールドセールスに商談をトスする、業務です。
アウトバウンドでは、ターゲットリストの精査からアプローチ。インバウンドでは、マーケティング部と連動してホットリード(自社商材に対して興味関心が高くなっている見込み顧客)の選定からアプローチを行います。その後、獲得した商談相手の情報をフィールドセールスに共有します。
つまり「準備→アプローチ→商談獲得→フィールドセールスへの情報共有」がインサイドセールスの業務です。
インサイドセールスを含めた分業体制は、導入するメリットがありますが、反面その難しさも理解しておく必要があります。
インサイドセールスを導入し、営業プロセスを分業することで、一人ひとりが各業務に集中できるため、各人の業務に対する専門性が高くなり、実施できる業務量が増えます。
例えば、これまで、アプローチ準備、実施、整理、商談準備、商談、整理などすべてを一人で担っていた営業プロセスを
インサイドセールス | アプローチ準備、実施、整理(共有) |
フィールドセールス | 商談準備、商談、整理 |
と分解することで、インサイドセールスは自分の業務にリソースを“全振り”できるため、アプローチ数が極端に増加し、商談獲得のための専門性が高くなっていく、ということです。
また、フィールドセールスも、架電業務を取り払い、例えば商談が1日2件しかできなかったのを5件できるようになり、営業組織全体で効率の良い営業活動を実施できます。
その反面、実は「引き継ぎ」業務が生じていることを無視できません。インサイドセールス→フィールドセールスへの、顧客情報や事前にヒアリングした課題などの情報の「引き継ぎ」業務。
この情報が正しく伝達されていないと、顧客側からすれば「一度伝えたことを再度伝える時間の無駄」が生じるため、受注率が悪化してしまう可能性があります。このコミュニケーションのルールなどを明確に策定する必要があるため、インサイドセールスを効果的に導入するのは容易ではないのです。
インサイドセールスは営業プロセスが分解されているため、各部門の「KPI」や「行動量」が可視化しやすい傾向があります。そのため「組織が課題に気づきやすい」といったメリットがあります。
例えば「平均的な成果」と「ある月の成果」が以下の数字だとします。
リード数 | 商談数 | 受注数 |
---|---|---|
平均的な成果 | 100件 | 40件(40%) |
ある月の成果 | 100件 | 20件(20%) |
上記の表では「平均的な成果」では商談化率が「40%」なのに対し、「ある月の成果」では「20%」へ変化しています。
従来の営業では「受注数が10件」という結果そのものは変化していないため、課題に気づきませんでした。しかしインサイドセールスを導入し、KPI管理をすることで「商談化率が悪い」といった課題に気づきます。
KPIを各パートが追うことができて、これまでブラックボックス化していた営業活動の課題が見える、というのは簡単に理解できます。が、実際「分かる」と「やる」のではまったく感覚が違ってきます。
従来ひとりですべての営業プロセスを担っていたときは「この案件はまだ商談化しないほうが良いから、また時間がたってから連絡しよう」とした見込み顧客を、分業体制を敷いてしまい、インサイドセールスが目標の「商談数」を追うことにより、とりあえず商談化してフィールドセールスにつなぐという事象も発生します。
そのため、効率化のための分業体制が、実は無駄な工数を生んでしまう可能性もあるため、この分業体制自体をうまくコントロールできる人材が必要になります。
では、どんな企業がインサイドセールス体制(分業体制)を導入するべきなのか、について考えてみましょう。
インサイドセールスを導入して成果の出やすい組織条件は以下の3つです。
インサイドセールスを導入すべき企業の1つ目の条件は、マーケティング部が広告やコンテンツマーケティングで獲得してくるリード数(見込み顧客数)が多い状況の企業です。リード数が多いほど、リードの「興味度合い」が多岐にわたります。
購買意欲が高い顧客を優先して対応すべきなので、インサイドセールスがアプローチをして「選別」をしてフィールドセールスに商談をトスすることで効率的な営業活動が可能になります。
一方で、問い合わせ数や資料請求数が少ない場合は、ひとつひとつのリードの重要度が高いため、インサイドセールスどうこうではなく「営業」が1社1社丁寧に対応すべきです。
導入に業務フローの変更が必要になるような「業務システム」など、導入ハードルが高く高単価な商材は、顧客側の検討期間が長くなります。そのため、インサイドセールスが常に見込み顧客と接点を維持し、課題が大きくなってきたタイミングで商談を打診することで受注につながる可能性が高くなります。
しかし、ひとりの営業担当が、膨大な数の見込み顧客の状態を把握し、最適なタイミングでアプローチするという業務を、商談などの他の業務と並行して実施するのは無理があります。
一方、クラウドソーシングなどで発注されるような「スポット業務の依頼」といった検討期間が短い商材では、インサイドセールスが架電してフィールドセールスにトスするといったプロセスを踏むよりも、営業がそのままヒアリングして受注して納品するほうが適しています。トスする過程でタイムロスが出れば、その見込み顧客が競合に流れてしまうリスクが高くなってしまうからです。
検討期間が長い商材はインサイドセールス体制の導入に向いていると言いましたが、検討期間が長いということは、その期間の中で自社商材への購買意欲を高めるアプローチが必要です。そのリード(見込み顧客)の購買意欲を高め、商談へとつなげるアプローチのことをリードナーチャリングと言います。
リードは獲得したものの商談につながっていない未商談リードや、一度商談したものの受注に至っていない失注顧客に、再度興味を持ってもらい商談に引き上げるのがマーケティング部とインサイドセールス部の役割です。
ただ、どの状態の見込み顧客に対してどのアクションを実施するのか、などのルールをマーケティングとインサイドセールスが連携して決定・実行する必要があるため、分業体制による営業活動の効率化を実現したい場合は「リードナーチャリングが分かる・できる」人材が社内にいるのか、が重要なチェックポイントです。
インサイドセールスを導入する企業の最低条件を見てきましたが、多くの企業にとって「要らない」か「難しすぎる」のどちらかであることが分かったと思います。
上記で解説した最低条件に当てはまるのは、無形商材を扱う大手企業 or SaaS提供スタートアップ企業であり、日本の企業のほとんどを占める中小企業にとってはむしろ使いこなせず、自社をむしばむ体制なのではないかと考えています。
しかし、分業体制の「良い部分」だけを切り取って応用できるとしたら……
このセクションでは、中小企業にとってのインサイドセールスの「解」を見つけていこうと思います。
まず、インサイドセールス導入のメリットとデメリットを整理すると以下のようになります。
分業による営業活動の効率 | 営業プロセスの管理 | |
---|---|---|
メリット | 業務を切り分けることで専門性・業務効率UP | 各プロセスのKPIが見えることで課題が発見しやすく対処しやすい |
デメリット | 引き継ぎのコミュニケーションの難易度が高く受注率低下の可能性 | 目標が分散することで無駄な商談が増え逆に生産性低下の可能性 |
つまり、
⇒「営業プロセスの可視化は必要で、業務は切り分けないほうが良い」ということです。
業務を「分業」すると非効率になってしまう可能性が高いため、業務を「省略」することで、インサイドセールス導入の大きなメリットである「営業活動の効率化」と「課題の認識」を実現します。
営業プロセスを可視化した上で、インサイドセールスに「人」を充てるのではなく、「コードとコンテンツ」に業務を任せる、ということ。
一人で全プロセスを担当していた業務を以下のように可視化し、
インサイドセールス | 商談獲得 | 架電・メール | 営業担当が対応 |
フィールドセールス | 受注 | オンライン商談 | 営業担当が対応 |
インサイドセールス業務を自動化することで、
インサイドセールス | 商談獲得 | 架電・メール | → 自動返信・日程調整ツール・ステップメールetc |
フィールドセールス | 受注 | オンライン商談 | 営業担当が対応 |
商談化数や受注数などのKPIは追いつつも、そもそもインサイドセールスの業務を省略できます。
例えば、リードが発生したタイミングで、「日程調整ツールのURL」を含む自動返信メールを送付することで、これまで営業担当が顧客と複数回やり取りして商談設定をしていた業務を、「顧客がメール内リンクをクリックして商談の日程を調整する」という1アクションで完了させることができます。
通常「人」が実施するインサイドセールス業務を「自動化」することで業務を「省略」しながら分業体制のメリットを享受できます。
最終セクションでは、弊社株式会社Coneが実践している「省略」の方法を3つ紹介します。
※自社の営業がインバウンドなのかアウトバウンドなのかによっても、省略する業務がまったく変わってくるため、まずは自社の営業プロセスを可視化して「どの部分を省略するのか」を把握する必要があります(Coneはインバウンドの営業体制です)。
問い合わせ後のサンクスページにて、見込み顧客が自分で日程調整できるように日程調整ツールを埋め込みます。日程調整のやり取りは、人がやってもツールがやっても大差がない上に、人の場合はタイムラグが発生してしまうもの。埋め込みによって、サンクスページへの問い合わせ後に「0秒」で表示できます。
日程調整ツールを活用することで、テレアポをする必要もなく、営業担当のカレンダーに商談が自動で追加されます。弊社はこの方法で月間数十件の商談が自動で設定されています。
問い合わせフォームの選択項目に応じて、見込み顧客に送付するメール文面・資料コンテンツを自動で分岐させます。
弊社では「導入検討時期」と「資料ダウンロードの理由」を選択式にしており、この選択項目によって送付するメール文面・資料コンテンツ顧客対応を変えています。
(例:他の会社との比較のため→「他社比較」項目の入った資料コンテンツを送付)
自動化が自社で組めない場合は、フォームの項目だけ用意します。「導入検討時期」が近く「資料ダウンロードの理由」が購買意欲の高い選択肢の顧客を優先的にフォローするだけでも、すべてのリード(見込み顧客)に対してフォローするよりは効率の良い営業活動です。
インサイドセールス導入の目的は「営業活動の効率化」と「課題の認識」ですので、完全に省略できないとしても、営業活動の効率化が少しでも図れるのであれば取り入れる価値があると思います。
参考:
リード獲得後の商談が設定できなかった顧客や、一度商談を実施したものの検討・失注になった顧客に対して「情報提供」を行うインサイドセールス業務を自動化します。
これは、HubSpotなどを導入して条件に合致する顧客に対してお役立ち資料や最新情報などを一斉で送付します。「どうやって?」の部分は以下の記事が詳しいです。
参考記事:HubSpot Marketing Hubの導入・実装・運用プロセスをフェーズ別に解説|SAIRU
ちなみに弊社は、HubSpotの運用難易度が非常に高く感じたため、自社開発ツールの「contentswork」にて未商談リード・失注顧客の掘り起こし、商談後顧客の追いかけを自動で行っています。
中小企業がインサイドセールスを導入するなら、「分業」ではなく「省略」が効果的です。 業務を「分業」すると非効率になってしまう可能性が高いため、業務を「省略」することで、インサイドセールス導入の大きなメリットである「営業活動の効率化」と「課題の認識」を実現できます。
営業プロセスを可視化した上で、インサイドセールスに「人」を充てるのではなく、「コードとコンテンツ」に業務を任せる、ということ。
ヒントは以下の3つ
省略できる部分は企業によって異なりますが、見つけさえすれば貴社だけのオペレーションが構築できるはずです。
※本記事は、「中小企業はインサイドセールスを導入するべきか?「分業」ではなく「省略」を| ConeTent(コーンテント)」をBeMARKE読者向けに内容を一部編集したものです。