Tips/寄稿
「事業拡大に向けてメンバーを採用したが思うように売上が伸びない……」 「セールスイネーブルメントをしたいが、知見もなければ委託する予算もない……」
このような課題を抱える経営者、営業マネジャーは多いのではないでしょうか。
事業が拡大すればするほどリソースの確保が必要となるため、営業メンバーの採用が重要になりますが、メンバーを採用したから売上が伸びるわけではありません。
筆者が所属する株式会社Coneでも資料作成代行サービス「c-slide」の事業拡大に伴い、メンバーを採用しても売上が上がるどころか下がってしまうという事態に直面しました。そこから営業力を向上させようと、セールスイネーブルメントを目的にさまざまな施策を行い、その結果、今では当時の3倍以上の売上を定常的に創出することができています。
本記事では、できるだけコストかけずに内製で営業力を高めたいと考える、BtoB企業の経営者・営業マネジャー向けに、“完全内製”で実現した当社の事例を交えながら、セールスイネーブルメントの7つの取り組み方法を解説していきます。
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やみくもに改善アクションを行うだけでは成果を向上させることはできません。ここではセールスイネーブルメントに取り組む前に行うべき4つのことを解説します。
セールスイネーブルメントは1人だけでは実現できません。営業チームの全員のモチベーションを高めることが実現のための第一歩です。
そのため、まずはメンバーのモチベーションを高めるために目標を明確にしましょう。
「月間売上:1,000万円」のように、目標が大きすぎると何をすればいいのかがわからず、モチベーションは下がってしまうため、大きな目標を要素分解しKPIに落とし込みます。
目標を明確にした後は、各目標に紐づく課題を明確にしましょう。
ただ数字を見るだけでは本質的な課題を見つけることはできないため、営業メンバーの商談への同席や各メンバーへのヒアリングを通して課題を明確にすることをおすすめします。
課題を明確にした後は、改善アクションの洗い出しと着手する順番の整理を行います。
ここで重要なのが、各アクションがどの課題を解決するために行うものなのかを明確にすることです。施策を続けていくと形骸化してしまうものや効果が見えないものが出てきます。
施策を続けるべきか否かを判断する際は「課題解決にどのくらいのインパクトがあるか」が基準となるため、準備段階から課題にアクションを紐づけることが大切です。
セールスイネーブルメントのゴールは営業メンバー全員が同じ成果を上げることができる状態」です。だらだらと続けていても、このゴールを達成できません。
そのため「どのくらいの期間に、どのアクションを行って、いつゴールを達成するのか」のマイルストーンを作成して取り組むようにしましょう。
ここからは実際に行った7つの取り組みについて、マイルストーンに基づいた以下の順番で解説していきます。
営業資料改善のゴールは、営業トークを型化し、受注率を上げることです。
このゴールを実現するために、以下のステップで営業資料改善を行いましょう。
常に成果を上げているメンバーは、お客様がサービスによる課題解決イメージを鮮明に抱くことができるトークをしているはずです。そのため、営業トークの型化を行うにはそのトークの流れを資料に起こしていくことが効果的です。
成果を出しているメンバーの商談に同席し、トークの流れを文字起こしすることで、営業資料の構成の骨子にしていきます。
営業資料作成においての一番の肝は受注率を上げている要因の見極めです。
c-slideはアウトバウンド営業を一切行っておらず、商談に至る顧客はすべてインバウンドもしくは知人などからの紹介が流入経路となっています。
インバウンドで流入する顧客は顕在化した課題を抱えている場合が多く、具体的な課題をどう解決できるかを求めて商談を設定しています。
成果の高いメンバーの商談に同席すると、課題のヒアリングや資料の具体的な活用場面などのヒアリングを通して資料の構成・活用方法の提案を行っていました。
このように顧客の流入経路や獲得チャネルから「受注率を上げるための要素仮説」を立て、営業メンバーの商談内容から検証を行うことが重要です。
c-slideでは「深いヒアリングからの資料の構成提案」が、受注率を上げるための要素になっていました。
トークを構成に落とし込む段階では、トップメンバーのトークの流れを参考にしながら、受注率を上げるための要因を落とし込むことが大切です。
c-slideでは以下の構成に落とし込みました。
最終の仕上げとして作成した構成をもとに資料に起こしていきます。
営業資料は顧客と対話しながら進めていく必要があるため、1ページごとに情報を詰め込みすぎず概要だけをページ内にデザインすることが大切です。
BtoBの営業において担当者レイヤーの方が商談相手だった場合、担当者レベルでは導入意欲が高くても社内で共有を行った際に決裁権を持つ上司への稟議が通らないといった自体が発生します。
また、外注先を決める場合は3〜5社の話を聞いて比較検討をしないといけない、というルールが社内で設けられている企業もあります。
c-slideでは、直接話をしていない決裁者の同意を得られず比較検討層の取りこぼしが多発してしまっていました。そのため、「比較検討層の受注率を上げ、取りこぼしを防ぐ」を目的に以下の構成で社内検討用資料を作成しました。
社内検討用資料作成の最重要ポイントは、商談後の5分で作成できるようにすることです。数十分かけて作成する必要がある場合、いずれ活用されなくなってしまいます。
必要ページをコピペするだけで完成するよう、営業資料をベースに作成しています。
コンテンツが整備できれば、各メンバーに商談に同席してもらいます。
各コンテンツの使い方をレクチャーするのはもちろん、営業資料だけではカバーできないイレギュラーなニーズや依頼内容が発生した際の対応を学んでもらうことが主な目的です。
ただ同席するだけでは学びを得ることができないので、以下の2つのポイントを踏まえて運用しましょう。
走り出しの段階では、不明点だらけで質問をしてもメンバーから不明点が出てこない可能性が高いです。最初は「なぜこの話し方をしたか」「なぜこの提案をしたか」など、自ら伝える時間にすると効果的です。
1カ月ほど商談に同席してもらい、ある程度のパターンをストックできれば実践です。初期フェーズは商談に同席し、2週間ほど経過したタイミングで、一人で実施してもらうのがベストです。
c-slideの場合、受注率を上げるためのポイントが「深いヒアリングからの資料の構成提案」なので、商談前にクロージング戦略を立てることが重要でした。
そのため、「壁打ちミーティング」という戦略立案ミーティングを毎日朝イチに実施していました。この時間のゴールは質の高い提案ができるよう、各企業のニーズの仮説を立てることができている状態です。このゴールを達成するために以下のアジェンダで進めていました。
4つ目の提案内容の考案が最重要ですが、最初はメンバー自身が考えることが難しいケースがほとんどです。一緒に考えることで「考え方を理解してもらう」ことができます。
一人で考えることができるようになれば、より商談に集中できる環境を整備するためにも戦略立案ミーティングは撤廃するようにしましょう。
メンバーが独り立ちし、同席なしで商談を行うようになれば振り返りの時間を設けます。
各商談を録画してもらい、チーム全員で録画を見返しながらフィードバックすることで、適切なアドバイスが行えます。
すべての商談の振り返りを行う時間は確保できないため、各メンバーに1~2個の商談をピックアップしてもらい、週2回以下のアジェンダで振り返りを行っていました。
メンバー自身が聞きたいと思っていることが直接的な改善ポイントではないことも多々あるため、動画の中で気になる点は都度、意図の確認とアドバイスを行うことが重要です。
戦略立案ミーティングや振り返りミーティングを通して受注率や売上が目標に近づいてきたら受け渡しの準備を始めます。
推進者が現場を離れた瞬間に成果が下がってしまうという状態を避けるために「課題に気づかせる」仕組みが必要です。
売上だけの大きな目標だけを追っていると、売上の上がり下がりは把握できますが、なぜその結果になっているのかの原因を把握できません。
売上に紐づいた課題をすぐに可視化ができるよう、スプレッドシートで下記の項目を可視化しました。
加えて、「商談後のネクストアクションが明確になっていない」という課題を解決するために与件ごとにBANT情報の項目を用意しました。
BANT情報があることによって、比較検討フェーズのお客様から受注するためにどんなアクションをすべきかのネクストアクションを考えることができます。
最後は定例ミーティングの報告フォーマットを型化し、各目標数値の確認に加え、目標達成のためのアクションや検討中案件のネクストアクションの議論ができるようにしましょう。
目標を達成するためには「目標と現状の乖離状況を認識」し、「改善アクションを考案・実施」することが不可欠です。商談管理シートを活用したアクション管理だけではいつかは形骸化してしまう上に、各メンバーへの意識付けが弱くなってしまいます。
そのため、週1回の定例ミーティングで耳にタコができるほど課題の把握とアクション考案について議論し続ける仕組みの構築が非常に重要となります。
7つの取り組みを行ったc-slideでは、結果的に20%前後だった受注率は50〜60%まで向上し、受注単価も倍以上に向上した結果、月次売上3倍成長を実現しました。
メンバーに受け渡しを行った後も同水準の売上ないしはそれ以上の売上を上げ続けることができているため、「営業メンバー全員が同じ成果を上げることができる」状態を実現できています。
実際の売上推移をグラフに起こしてみました。(詳細数値は割愛しています。)
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
完全内製できるセールスイネーブルメントについて解説しましたが、必ずしも紹介した方法がすべての企業、組織にフィットするとは思っていません。
ですが、アクションに取り組む際のスタンスがどの組織でも同様に重要だと思っています。
良くも悪くも、メンバーはマネジャーを見て育ちます。かける時間はもちろん、マネジャーレイヤーの方が熱量を持って取り組まない限り、メンバーにもその気持ちは伝わりません。
そして、メンバーに真摯に向き合いましょう。取り組みを開始する前に決起ミーティングを開催し、現状と目標を共有した上で「言いたいことは全部言う」ということを伝えるくらいの気持ちが大事だと思っています。
メンバーに圧をかけるのではなく、真摯に向き合い、伴走することが大切です。
最後に一番重要なのは信じることです。
自分の取り組みを本気で信じていないマネジャーに、メンバーが本気でついてくるはずがありません。メンバーのことを信じていないのに、自分のことを信じてくれるはずがありません。
良いチームには信頼関係が必要です。必死で考えた取り組みに対しても、フルコミットしている自分のことも、一緒にがんばってくれているメンバーのことも心の底から信じましょう。
最後は精神論っぽい話になってしまいましたが、この記事が成果の低迷に困っているマネジャーの方のお役に少しでも立てばうれしいです。
※本記事は、「月次売上3倍成長を実現した、営業組織を再建するための7つの取り組み | ConeTent(コーンテント)」をBeMARKE読者向けに内容を一部編集したものです。
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