基本ノウハウ
近年、営業部門において高い成果を上げる仕組みとして注目を集めているのが「セールスイネーブルメント」です。セールスイネーブルメントを導入した企業の中には営業部門の成果に加え、採用や人材育成面などで改善を実現したBtoB企業もあります。
今回はとくに自社の営業力を底上げしたいと考えているBtoB企業のマーケティング担当者および営業マネージャーへ、セールスイネーブルメントの概要や注目されている背景、導入により期待できる効果などについて解説していきます。
セールイネーブルメント(Sales Enablement)とは、端的にいうと「成果を出せる営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組み」です。営業研修やOJTなど継続的に優秀な営業社員を輩出する仕組みはすべてセールスイネーブルメントに該当します。以下、セールスイネーブルメントの具体的な取り組み例をまとめてみました。
取り組み例 | 概要 |
---|---|
営業データの蓄積・分析・活用 | ツールを活用してデータを蓄積し、適宜共有(可視化)する。データは分析した上で、広く営業社員へのアドバイスに活用したり、営業社員自身も自らの営業活動の参考とする。 |
採用活動の見直しおよび改善 | 採用基準・ペルソナを明確化し、優秀な営業人材を確保する。 |
新人営業社員への研修 | 新人であっても一定の成果を上げられることを目標に研修プログラムを組み、実施する。 |
管理職研修 | 部下の営業社員の成績を伸ばせるように、管理職向けにマネジメント力を伸ばす研修を実施する。 |
営業力強化研修 | 営業社員を対象とした、営業力強化のための研修・セミナーを定期的に実施する。 |
営業活動の抜本的な見直し | 効率的に成果を上げるために、営業手法や案件管理方法などの営業活動に関することを抜本的に見直す。 |
公正な評価システムの構築 | 営業社員の活動を定量的なデータとして把握し、公正に評価できるシステムを構築する。 |
これらの取り組みを通してセールスイネーブルメントを実施することで、会社全体の営業力の底上げや成果の可視化による営業の効率化といった効果を見込むことができます。
なお、セールスイネーブルメントを効果的に実施するためには、営業に関する各種情報(顧客情報や案件進捗度合いなど)の蓄積と可視化が必須だと押さえておきましょう。
近年、セールスイネーブルメントが注目されている背景には何があるのでしょうか。背景を把握し、セールスイネーブルメントの理解を深めましょう。
「個人の裁量によるところが大きい」「各営業社員のノウハウや情報が広く共有されづらい」という特徴を持つ営業は、属人化しやすくなっています。そして営業の属人化は営業社員間に実力の差が生まれやすいという問題を生みます。
この実力の差がBtoB営業部門で発生すると、取引先から「前の担当者の方が良かった」という理由で取引が中止されるケースもあります。取引先を失うことは会社にとって大きな損失です。こうした営業の属人化による損失を抑える1つの解決策として、会社全体の営業力の底上げ効果が期待されるセールスイネーブルメントは注目を集めているのです。
昨今、MAやSFA・CRMといったツールの普及により、リードの質と量が向上しています。しかし、向上するリードの質と量に対し、営業が対応しきれていないケースも少なくありません。例えば、インサイドセールスが獲得したリードをBtoB部門の営業社員に引き継いでも、営業社員は既存顧客の対応に追われ、リードにアプローチできない問題が発生しています。
こうした現状に対し、営業を効率化し、リードへの対応を十分に行うためにセールスイネーブルメントが注目されています。
SFAやWeb会議システムなどが発展し、今までブラックボックス化していた営業活動が可視化できるようになったこともセールスイネーブルメントが注目される理由として挙げられます。
SFAやWeb会議システムが普及する以前は、各営業社員がどのようなアプローチをしているか、商談でどんな内容を話したかなどを正確に把握することが困難でした。しかし、さまざまなサービスが開発され、失敗事例や成功事例といったナレッジ、実際の商談風景など営業活動を記録・共有しやすくなっており、組織としての営業力を向上させようという動きが増えています。
関連記事:SFAとは?CRMとの違いや現場に定着させるためのコツを紹介
セールスイネーブルメントに注目が集まる背景として、SFAの登場による取得データ増加の影響が大きいものの、営業力の構成要素が変わってきたことも関係しています。インターネット普及以前の営業力の構成要素は、商談における説明のうまさや人付き合いのうまさといった人間的な魅力であり、標準化が困難でした。
しかし現在、不景気や産業構造の変化にともなって、人間的な魅力だけでは商品やサービスが売れにくくなっており、ソリューション提案のスキルが営業力の構成要素の大部分を占めるようになっています。ソリューション提案のスキルは、セールスイネーブルメントを通して教育し、標準化が可能です。そのため、セールスイネーブルメントへの注目が集まっているのです。
セールスイネーブルメントに取り組むと、営業力の向上や成果の可視化につながります。それぞれ具体的にどのような効果が期待できるか解説します。
セールスイネーブルメントの取り組みの1つに「営業データの蓄積・分析および活用」があります。これはMAやSFAといったツールを用いて各営業社員の営業データ(営業先やアプローチ手法など)を蓄積・共有し、他の営業社員はそのデータを参考に営業活動を行うものです。この取り組みを実施すれば、社内のトップ営業マンのノウハウやメソッド、営業資料を広く共有でき、営業の属人化を防ぐ効果の他、会社全体の営業力の底上げが期待できます。
その他、優秀な人材を確保するための「採用力の強化」や「営業研修の実施」といったセールスイネーブルメントの取り組みも、営業力の向上に寄与します。
関連記事:セールス・イネーブルメントの第一人者に聞く、BtoB企業が営業組織を強くするためにできること
セールスイネーブルメントを導入することで、営業の進捗状況や成果を定量的に可視化できます。これまで営業社員それぞれの感性で取り組んでいた部分が数値として表れるため、定量的な営業分析や適切な評価ができるようになるのです。加えて、営業メンバーの改善点も見える化されるため、適切な研修の提供にもつながります。
関連記事:【営業効率を上げよう】営業分析の4つの手法を解説 メリットや分析ツールも紹介
最後にセールスイネーブルメントを実施する際のポイントを3つ解説します。
セールスイネーブルメントの実施に必須なのが、SFAやCRM、MAといったツールの活用です。
これらのツールを活用することで、顧客情報の管理・共有や案件の進捗など、セールスイネーブルメントの実施に必要な「定量的な営業情報の蓄積および可視化」を実現させることができます。セールスイネーブルメントを実施する土台として、各種ツールの導入を検討しましょう。
なお、「どのツールを導入して、何から手をつけて良いのか分からない」という場合は、コンサルティングサービスを利用するのも有効な方法です。
関連記事:無料で使えるSFA19選 各ツールの特徴や機能を紹介
MA(マーケティングオートメーション)とは?機能や選び方のポイントを解説
セールスイネーブルメントの専門チームを立ち上げることもポイントです。セールスイネーブルメントを生んだアメリカでは基本的に専門チームを設けています。また国内では名刺管理サービス「Sansan」を提供しているSansan株式会社が、他社に先駆けて、専門チームを立ち上げています。そんなSansan社では、セールスイネーブルメント導入効果もあり、優秀な営業担当を採用できるようになった他、有効な研修を実施できるようになるなどの効果がありました。
ただし、セールスイネーブルメントはすぐに効果が上がるものではありません。そのため、専門チームの活動は長期的な視点を持った上で、成果指標を設定することが重要です。なお、専門チームは営業社員やマーケティング担当者、人事採用担当者など各部門から人材を集め、連携を取りながら運用できるような体制を整えましょう。
なんとなく良さそうなプログラム(研修)を社員に受けてもらうだけでは、大きな効果は見込めません。プログラムとひと言でいっても、営業社員が営業に必要な知識やスキルを学習するためのプログラムもあれば、ロールプレイングを行う実践的な営業プログラムもあります。組織として一貫した人材育成の仕組みを構築した上で、営業の実態に即した最適なプログラムを用意し、受けてもらうことが重要です。
また、プログラムは営業社員に受けてもらって終わりではありません。プログラムがどの程度成果につながったのか、営業成績を確認したり、営業社員および管理職にヒアリングをするなどして成果を検証し、PDCAサイクルを回していくことが大切です。
セールスイネーブルメントとは、成果を生み続ける営業社員を育成する仕組みです。セールスイネーブルメントの実施により、営業力の向上はもちろん、これまでブラックボックスだった成果を見える化させることも期待できます。また、導入にあたっては、SFAやCRMといったツールもしくはコンサルティングサービスの活用、専門チームの設置などがポイントです。営業社員の力を上げることで、「より多くのリードを育成して顧客化したい」と考えている担当者は、セールスイネーブルメントの導入を検討してみてはいかがでしょうか。