インタビュー
THE MODEL型の分業化が進む組織では、部門間の「分断」がボトルネックとなり事業成長を鈍化させている場合があります。組織運営のボトルネックを見つけ解消し「売れる組織」を構築している企業は、どのような取り組みを行っているのか。
本企画では株式会社immedio 浜田英揮氏が聞き手となり「売れる組織」づくりに挑む企業へ取材を行いその取り組みをご紹介します。
今回はSansan株式会社 Sansan事業部セールスディベロップメント部部長 兼 事業企画部部長 原田京昌氏をお迎えし、チームのプレゼンスを高める取り組みから部門間連携を強化し成果を出す戦略の立て方まで、詳しいお話を伺いました。
Sansan株式会社 Sansan事業部 セールスディベロップメント部部長 兼 事業企画部部長
株式会社リクルートにてメディア営業・事業スタッフ・全社スタッフおよび関連会社の統轄などに従事した後、 2023年4月にSansan株式会社にジョイン。入社後は営業DX サービス「Sansan」やインボイス管理サービス「Bill One」などの法人向けサービスにおいてインサイドセールス組織の責任者を務める。また新卒メンバーのオンボーディング組織の責任者として本配属に向けたトレーニングも担当。現在は、Sansan事業部のインサイドセールス組織と事業企画組織の責任者としてSansanプロダクトの成長に向き合う。
ーー浜田氏:まず、原田さんが現在ご担当されている業務を教えてください。
原田氏:2023年12月からSansan事業部 セールスディベロップメント部(以下、SD部)といういわゆるインサイドセールスの部長と事業企画部の部長を兼任しています。
事業企画はバックヤードとして受注登録から、HRBP※として事業部の人事を管掌、PMMとしてプロダクトと営業組織をつなぐ営業企画・推進という役割まで、幅広い業務を行っています。
※HRBP(Human Resource Business Partner):経営者や事業責任者のパートナーとして、企業・事業の成長をサポートする戦略人事のプロ。
ーーSD部と事業企画部を兼任することはどのような意味があるのでしょうか。
兼任には大きな意味があると思っています。
SD部部長として仕事をするなかで、SDの活動は営業企画に似ていると感じています。商談をフィールドセールスに渡すだけではなく、営業の起点をコーディネートする役割としてSDを位置づけています。
イベントや展示会などさまざまな施策で獲得できたすべてのリードにアプローチするというのでは、深いポイントにはつながりません。例えば「営業生産性」というテーマのイベントに製造業の営業部長様が訪れたとして、どのような課題を持ち業績はどのように推移しているかを調査しイメージした上でコールする。そうした仮説思考をもとにした施策設計こそ次につながると思います。
そういう意味でSD部では、セグメンテーションはもちろん仮説志向など幅広いスキルを伸ばせると考えています。
SD部の営業企画的な側面と、全体を俯瞰して見ている事業企画には共通点が多く親和性が高いことから、相乗効果があると思っています。
ーー事業企画が営業企画を見ながら、SD企画、マーケティング企画とも連携しているという体制でしょうか。
そうですね。営業部のなかに営業企画組織を置いていないため、当社では事業企画が担当しています。事業企画部のなかのPMMが、プロダクトと営業をつなぐ架け橋という意味で営業企画に近い役割を担っています。この機能をいかに強化していくかということが課題ですね。
ーー2023年6月にSansanは事業部制組織になったとのことですが、どのような変化があったか教えてください。
SD部でいうと、5月まではSansan、Bill Oneなど、すべてのプロダクトのアポイントを取るという方針でした。
6月以降、事業部制にしたことで、Sansan事業部のSD部はSansanというプロダクトのアポイントしか取れない、というようにプロダクトを中心とした事業戦略・組織体制に大きく切り替えました。
ーーSansanが事業部制を取り入れたのは、どのようなねらいがあったのでしょうか。
それぞれのプロダクトをより成長させたいということが最大のポイントだと思います。
Sansan事業部であれば、Sansanのプロダクトに集中できることで戦略がよりシャープになっていく。プロダクトの成長スピードを加速できるというメリットがあると思います。
複数プロダクトを担当する場合はどうしても優先順位をつけてしまうことがネックでした。優先順位付けによってプロダクトの成長に差が出てしまうリスクを避けるためにも、事業部ごとに戦略を立てて推進する体制が適していると考えています。
ーー事業部制にすることでバッティングが起こることもあるのではないですか。
トスアップする仕組みはありますが、基本的には各事業部は担当プロダクトのことだけ考え行動することを優先しています。そのなかでバッティングすることもあると思いますが、今は事業成長を加速させることを第一に考えていますね。
ーーSansan事業部のマーケティング、SD、営業、各部の主なKPIを教えてください。
前提として、営業のフェーズをP1からP7まで分けたパイプラインがあり、その件数を各部とも共通指標として設定しています。未達の場合はどこに問題があるのか定量的に可視化できる仕組みにしています。
マーケティング部は、パイプラインから逆算したリード数を追うことがメインミッションです。もちろんSMB向けとエンタープライズ向けのリード獲得手法は異なるため、それぞれのKPIを持ちながら進めています。
SD部は、マーケから来たリードをどれだけ商談化できるかということをKPIにしています。ご挨拶アポではなく、きっちり課題をヒアリングし推進者を特定した状態を評価するような目標設定にしています。営業フェーズに乗った質の高いアポイントを供給することがSD部のSMB領域におけるメインミッションです。
一方エンタープライズ領域では一定の受注金額まで見据える必要があるため、推進者と握れている金額、つまり見積もり手前の金額を目標に設定しています。
そしてフィールドセールスは受注額に向き合う、というように各部のKPIを設定しています。
ーー企業によってはインサイドセールスをマーケティング配下に置く場合もあれば営業部に置く場合もあります。またエンタープライズ向けのBDRは営業と密に動き、SMB向けはマーケティングと動く、というように組織におけるインサイドセールスの位置づけは難しいと感じています。
SD部におけるインサイドセールスの位置づけや意味をどのようにとらえていますか。
例えばSD部を営業部配下に置くと、営業の補佐になってしまう懸念があります。どうしても序列ができてしまう。受注がほしい営業が主導し、SDに「アポ数増やして」という図式になりがちです。またマーケティング部配下の場合も「マーケティングが獲得したリードに全部対応して」となります。
そういった形はもちろん間違いではありません。
ただSD部を独立させ、営業企画的な機能として位置付け、SD目線で施策の優先順位をつけることで最も効果的な戦略を立てられると私は考えています。それが理想のSDの在り方ではないでしょうか。
SDとは、司令塔としてファネル全体を俯瞰し正しく采配する仕事だと思っています。
一方でSD人材の採用や育成にはまだまだ課題があります。外部から採用するにもいきなり司令塔を担える人材はなかなかいない。新卒採用においても営業やマーケティングに引き抜かれがちという現実があります。
そのためSansanでは司令塔たるSDを育てるために、はじめのオンボーディングで徹底的に学び育てることを体系化しています。オンボーディングでは一定のアポ数をクリアしないと本配属しない、1〜2ヶ月かけてプロダクトに関する情報をインプットする、ということを行います。
またハードとソフトでいうと、ソフト面の教育も重要だと思っています。ハード面でさまざまな研修によって育成・成長させていく仕組みもありますが、それ以上にソフト面を充実させることが重要です。
私は「SDのプレゼンスをいかに高めていくか」ということをメンバーにずっと問い続けています。SDは営業の下請けではない、自分たちが主体的にやる司令塔なんだと常に語りかけています。
現状では、インサイドセールスを導入している企業はまだ少ない。しかしこれからさらに分業化が進み、インサイドセールスという職種はもっと盛り上がっていくと思います。そうした未来を見据え、今、Sansanのインサイドセールスから世の中に情報発信していくことが、SD部のプレゼンスを高める重要なファクターだと考えています。
そうしたSD部のプレゼンスを高めるプロジェクトのひとつに、SD部によるnote編集部の運営があります。
このnoteでは、SD部の取り組みや社員インタビューなどの情報を発信しています。自分たちの仕事に意味や意義を感じて、それをアウトプットし世の中に発信することで「自分たちの仕事はすごい」「価値あることをしている」と再認識できると思います。
ーーSD部によるnote編集部は、会社としてのブランドコミュニケーションの一環というより、SD部として原田さんが立ち上げた独自企画なのでしょうか。
メンバーによるプロジェクト立ち上げ施策のなかで、私は「SD部のプレゼンスを向上させる」というテーマを持って取り組んできました。
その「プレゼンス」というキーワードにシンパシーを感じてくれたメンバーがプロジェクトをどんどん立ち上げていったという経緯があります。メンバーが自主的に立ち上げた企画の一つにnote編集部がある、という流れですね。
これらの取り組みによって、SD部でキャリアを伸ばしたい、SD部で自分のスペシャリティを磨きたいというメンバーも少しずつ増えてきています。こうしたメンバーの変化や反響はとてもありがたいですね。内外におけるブランディングとしても効果を感じています。
ーーマーケティング、SD、営業の部門間連携における課題は何でしょうか。
各部門が実現したい定量目標と、連携部署における定量目標との間にギャップが発生しがちであることですね。これをどの部署がどのような打ち手でいつ解消するのか、そのスピードを加速させる必要があると考えています。
例えばパイプラインの件数に対して営業が求める数字とSD部が考える現実的な数字にギャップがある場合、さらに出力を上げるのか、ツールを活用するのかなど、どのように差を埋めるのかをポジティブに議論する必要があります。
現状では、構造上そうしたギャップがどうしても生じてしまうため、今後は各部が同じ目標を持てるように定量目標の設定をさらにシャープにしていきたいと考えています。
解決の一つの方法として、定期的にモニタリング会議を実施しています。
ーーモニタリング会議はどのように実施しているのですか。
各部署ごとに月間の定量サマリを作成し、事業部内でモニタリング会議を実施しています。
事業部全体でのモニタリング会議は部長レイヤー以上で月に1度行っています。そこで事業企画としての全体の数字、マーケティング、SD、営業、CSそれぞれの定量サマリーをすべて可視化しています。
またマーケティングとSD、営業とSDといった分科会をマネージャーレイヤーにて週次で実施するという、2段階でモニタリングしています。
事業企画では、パネルを並べた上で全体を俯瞰し、どこにギャップが発生しているのか、ボトルネックを可視化し分析、議論しています。
全体を見ながら各部の達成状況を確認するという進め方ですね。
ーー全体を見ながらボトルネックを発見するのはとても高度なスキルや能力が求められると思います。具体的にどのようなツールや体制でモニタリングを行っているのでしょうか。
基本的にはSalesforceをメインに活用しています。Salesforceから定量を抽出しコンバージョンを出して、という流れです。事業企画内の数値分析チームにレポートしてもらいます。マーケティングやSD、CSも各部で分析、レポーティングを行っています。営業は事業企画がサポートするというフォーメーションですね。
ーー今後、より「売れる組織」にするために重視されていることを教えてください。
大上段の事業戦略を分かりやすくシャープにすることが必須だと考えています。
戦略にひもづくKGI・KPIを設計し、その実現に向け各部署ごとに施策を実行できれば、部門間連携におけるボトルネックは解消できると考えています。
複数の事業部があれば、各部ともに独自に取り組みたいこともあるでしょう。
ただ全社としての成長を考えたときには、軸となる戦略や追うべき数字、どのプロダクトを売るのかという戦略を明示し“それしか追わない”という姿勢を示すことが必要だと考えています。そうすることによって、その軸に対して各部がすべきことは何か議論する流れになります。
具体的には、今クォーターのMRRと来クォーターのMRR、生産性(一人あたりの単価)と、メインプロダクトの4項目を、SMB戦略とエンタープライズ戦略の2軸で徹底的に考える。
全体としてこの目標達成しか追わない、という方針を示していきたいと考えています。
この方針を徹底することで、結果的に横串を通す必要性が出てくるでしょう。各部門が横串を通すために何をすれば良いのか、共通言語が生まれることで部門間連携がよりシンプルに強くなるのではないでしょうか。
事業戦略を分かりやすくシャープにした上で、推進段階で課題が発生した場合は、その課題を早期発見できるモニタリングと打ち手の構築を高速に回すことが「売れる組織」づくりに向けて重要であると位置づけ、日々思考しています。
ーーありがとうございました!
SDと事業企画、それぞれの役割と課題をお聞きでき、組織としての強さの秘訣を垣間見ることができました。
SD部を存在感あるチームにするために、司令塔としてのSDを育てていく、しっかりブランディングしていくという考え方が素晴らしいですね。高度なSD人材の採用難易度が高いなか早めに対策し仕組み化している、その取り組み全般は多くの企業にとっても参考になるのではないでしょうか。
SD部の現場を知っていて信頼があるからこそ事業企画ができるという、適材適所の登用をされていると感じました。
事業企画では日々複雑な事項に取り組まれていると想像しますが、戦略をシャープにし分かりやすい目標を全員で追うという方針を徹底されていることが、売れる組織づくりにおいても効果を発揮されていると思います。
全体を俯瞰し采配をふるうチームが中心となり組織としての“水の流れ”を通すということが、大きな組織ほど求められていると思います。