インタビュー

「マーケも商談数を追う」営業・マーケの連携強化で売れる組織に|ジーニー 水谷氏に聞く

「マーケも商談数を追う」営業・マーケの連携強化で売れる組織に|ジーニー 水谷氏に聞く

THE MODEL型の分業化が進む組織では、部門間の「分断」がボトルネックとなり事業成長を鈍化させている場合があります。組織運営のボトルネックを見つけ解消し「売れる組織」を構築している企業は、どのような取り組みを行っているのか。

本企画では株式会社immedio 浜田英揮氏が聞き手となり「売れる組織」づくりに挑む企業へ取材を行いその取り組みをご紹介します。

今回は株式会社ジーニーの水谷しょうへい氏をお迎えし、組織として成果を出すための目標設定からインナーコミュニケーション活性化の方法まで、詳しいお話しを伺いました。

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  • 水谷 しょうへい(みずたに・しょうへい)

    株式会社ジーニー GENIEE SFA/CRM事業部 マーケティング部 マーケティングセクションチーフ

    水谷 しょうへい(みずたに・しょうへい)

    2007年PR会社に入社後、株式会社アマナ、電通アイソバー(現 電通デジタル)、コンサルティング会社に所属、コンテンツ企画とデータ分析を用いて100社以上のマーケティングを支援。2020年4月より現職。 GENIEE SFA/CRM事業本部 マーケティング部マーケティングセクションチーフとして、主にGENIEE SFA/CRMのセミナー講師などを務める。

目次

営業・マーケティング組織の変遷

ーー浜田氏:まずは水谷さんの現在の組織についてご紹介をいただけますか。

水谷氏:GENIEE SFA/CRM事業本部ではTHE MODEL型のマーケティングを行っています。リード獲得から始まりインサイドセールス商談を生み出しフィールドセールスにタッチして商談が決まればカスタマーサクセスチームが支援を行うという、一般的な流れを敷いています。それぞれのチームがKPIを持って動いており、弊社の各プロダクトごとにこの組織体制を採用しています。

マーケティングは営業の応援団という立ち位置だった

ーー水谷さんは主にSFA/CRMを担当されているのでしょうか。

メインはSFA/CRMのマーケティングに携わっていますが、弊社は複数のプロダクトを自社で開発提供している背景からMAの領域も担当しています。弊社はベンダーなのでプロダクトをご提供しつつ、私たちが自社製品の一番のユーザーであるというもう一つの立場から、営業とマーケティング組織を見ているというのは、特徴的かもしれないですね。

株式会社ジーニー GENIEE SFA/CRM事業部 マーケティング部 マーケティングセクションチーフ 水谷 しょうへい氏
株式会社ジーニー 水谷 しょうへい氏

営業とマーケの連携でいうと、セールスの商談内容を動画や音声で記録し管理する仕組みを導入、マーケがそれを見ながら顧客理解を深め業務に生かすといった取り組みを強化していますね。

こうした連携は2-3年前からで、それ以前はどちらかというとマーケティングは営業の応援団のような立ち位置だったように思います。弊社のようなIT企業だけでなく、に新規事業や立ち上げたばかりの会社は、営業が強くトップダウンで組織を動かすのが主流だと思います。

私が着任した当時も製品導入の検討確度が高い顧客のみを管理し、その他の見込み顧客へのアプローチについては、優先度が必然的に下がってしまっていたように思います。もちろん、MAを活用してはいましたが、自社のナーチャリングのスタイルを確立できておらず、MQL・SQLの定義も曖昧なまま、マーケティングはとにかくリード数を多くたくさん名刺を集めることがミッションでした。

この取り組み自体は間違いではないと考えていますし、一般的にもマーケティングはリード数、CPAを追うことを評価指標にされている企業が多いと思います

高い目標を掲げたことで、営業・マーケティングの連携が必要に

転機が訪れたのは、これまで以上に高い目標やKPIを設定するにあたってどのように達成するのか現場として試行錯誤したことがきっかけです。人員を増やせないが目標は高くという状況で目標達成するには、生産性を上げるしかない

しかしひとり一人の成長スピードにはばらつきがあり、生産性を上げるには限界があります。

そこで営業とマーケティングがお互いに助け合い連携する仕組みを作ることで、組織全体の生産性を上げていくことが重要だと思ったのですね。

個人のKPIを追うのは当たり前として、他の部門のKPI達成をどのように助け全体で成果を出すのか。事業部長も含めチームで話し合った結果、マーケティングも商談数をKPIとして追うべきだということを決めました。現在の商談・与件の積み上げと目標に対する不足分をマーケティングが常に把握する方針に転換したことで、営業とマーケティングの連携を意識し始めましたね

営業・マーケティングが連携しひとつの目標を追う

マーケティングの「リード獲得数を評価しない」

ーー商談・与件の定義は、それぞれどのように設定されているのでしょうか。

商談の定義に関しては都度調整を行っています。基本的にはBANT情報を前提に、予算感を把握した上でアポが組まれた状態だと定義しています。そのため、ごあいさつのアポは商談に入れていません。商談を行った結果、予算感や課題感、導入検討時期など複数の定義とマッチしているものを与件と定義しています。

ーーマーケティングは商談と与件を追っているのですか。

リード獲得数を当然追いながら、成果指標は商談と与件の件数です。

ーー商談・与件という目標にどのくらい振り切っているのですか。

リード獲得数は評価しない、というところまで振り切っています

実際は、商談・与件を創出するために必要なリード数を目標として設定しています。ただ評価はあくまで商談・与件につながったのかという点です。例えば1000リード獲得を目標とし3ヶ月で達成したとしても商談になっていなければ評価されません。

ーーマーケティングのKPIとしてターゲット企業リードのみ評価するというのは聞くことがありますが、商談と与件に振り切っている企業は少ないと思います。

私がSansanでインサイドセールスをマネジメントしていたときはアポと商談、与件をあわせて追っていました。インサイドセールスにおいても商談、与件を追うのは難易度が高いなか、マーティング組織が商談・与件を追うというのはアグレッシブな目標設定ですね。

この目標を設定した当初はマーケティングとしてコントロールすることが難しく、なぜこんなに必死で展示会や広告、資料請求施策などでリード獲得しているのに商談が生まれないのか、という葛藤はありましたね。

(写真左から)株式会社immedio 浜田氏、株式会社ジーニー 水谷氏
(写真左から)株式会社immedio 浜田氏、株式会社ジーニー 水谷氏

営業との対話によってマーケティングの盲点に気付く

ただ、そうしたときこそ営業とマーケティングがコミュニケーションをとることの重要性を実感しました。意外と対話できていない組織が多い気がします。

まず営業に、どのようなリードを渡したら商談を増やせるのか聞きました。すると「こんなリードが良い」という要望がたくさん出てくるのですね。聞いて初めて分かることがたくさんあったことに驚きました。

「担当者と決済者のギャップを事前に把握したい」という営業のニーズ

そのなかで営業から「リード獲得の前段階で温度感に関する情報を得る仕組みを作れないか」という要望があり、それをきっかけにフォームの改修やコンテンツ設計の見直し、ナーチャリング強化につながりました。

当時の営業マネージャーの話で特に印象的だったのが「個人の興味関心度合いよりも、会社として検討しているかどうかをフォームで聞いてほしい」ということをズバッと言われたことです。BtoBの営業現場では、個人の見解と組織としての見解が分離することが多いのですが、お恥ずかしながら、当時のマーケティング部門ではそこまでのお客様の購買行動をイメージできていませんでした。

ーーそれが現在のフォームの項目に生かされているのですね。

インサイドセールスと話したときも「担当者さまが意欲的だとしても会社や決済者がやる気にならないと何も進まない、このギャップによって営業リードタイムが大きく変わってくる」と言うのですね。実際に会社がやる気になっているときは受注までスピーディーです。

当然、営業としても温度感が高いお客さまの優先度を上げたい、という声が多くありました。

その経験を経て、マーケティングは数字を見てその変動や推移にばかり意識をとられがちですが、実は数字より「定義」の問題だったことに気づきました。

※定義とは:誰に対してのマーケティングなのか?

フォームの項目数を増やしてもホットリードならCVRは増える

営業の要望に合わせてフォームを改修すると項目が増えてしまいます。リード獲得を目標にするなら、フォームの項目数は少なければ少ないほど良い。ただ私たちは商談・与件獲得という目標にアラインしていくと決めていたので、フォームの項目を増やすという決断をしました

しかし結果的にはフォームの項目数を増やしてもCVRは増えました。マーケティング戦略を「組織としてしっかりと導入を検討している顧客」にフォーカスしフォームまでの導線設計などを改善したことで、CVRは改善しインサイドセールスのコミュニケーションの質も高まりました。

「リード獲得数を評価しない」ことによる影響

ーー質の低いリードが入ってくるとインサイドセールスの工数を取られるだけなので悪循環に陥りがちです。質の高いリード獲得に絞る勇気は非常に重要ですね。

それを可能にしたのは、事業部が「リード獲得数を評価しない」と決めてくれたからですね。リード獲得数と商談数の両方を評価する場合は、一方を犠牲にしてもう一方を上げるという構図になり、ゴールが揃わないので分裂も起きやすいのではないかと思います。

そこをはっきりマーケティングも商談・与件を追うと決めたことで、極論、商談数の目標を達成したのであればリード獲得数は未達でも良いと考えられるようになりました。

営業・マーケティングで一緒に商談を生みにいこう、お客さまに興味を持ってもらうために何ができるのか、ということに意識を統一できたことは大きい変化です。

マーケティングから営業に働きかけることで顧客解像度を上げる

逆に、マーケティングから営業に働きかけたことで施策の精度を改善したこともあります。

インサイドセールスがお客さまとどのようなコミュニケーションを取っているのか、録音データを聞いたら基本的にBANTしか取りに行っていないことに気づきました。そこで私は「なぜその予算になったのか、なぜ商談が進まないのか」その背景を聞いてほしいと伝えました

なぜかというと、商談を増やすという目的のもとコンテンツマーケティングを実施するためには、お客さまの状況や背景を理解しないと適切なコンテンツを届けられないのです。

そこでインサイドセールスからお客さまに聞いてもらったところ、決裁者がデジタルマーケティングに懐疑的であったり実は過去に導入に失敗した経験から予算がつかなかったりと、担当者とその決裁者の乖離があることが分かってきました。これはBtoBならではの特徴ですよね。営業の協力を得て顧客の内に眠っている「WHY」をとりに行ったことでその後のコンテンツマーケティングに役立ちました。営業部門単体の活動だと今のお客様の課題に対しての提案に頭が入ってしまい、動機や背景からわかる本質的なニーズ調査に意識が回らないことも少なくないのではないかと思います。

AIやツール活用で業務効率を上げつつ仕事の質を高める

ただ、インサイドセールスへの要望が増えたことで作業工数を圧迫してしまう課題が新たに生まれました。

そこで弊社では、、AIやツールを活用して業務効率化を図っています。営業とお客さまのやり取りをGENIEE SFA/CRMに搭載されたAIアシスタントがAIで要約したものをSlackに通知するということを行っています

ーーSlackに通知を送るのは自社プロダクトで行っていらっしゃるのですか。

はい。GENIEE SFA/CRMには、AIアシスタント(リンク)という機能とSlack連携という機能がありまして、それを活用しています。

これまではマーケティング担当者がSFAを確認しに行っていたところを、Slackとの連携によって手間を省くことができました。これまでは1件1件動画や音声、毎日更新される営業活動報告に目を通して、そこからマーケティング部門がニーズを言語化していたので、ニーズやトレンドの把握に膨大な時間がかかっていましたが、

AIアシスタントの導入で、サマリーを出力し気になる案件情報をSFA/CRMでさらに深掘りするという動きができるようになったので、大きく生産性が向上しました。

チームメイトのKPI達成を助ける情報を発信する

日報をSlackで共有し、部門を超えた連携を強化

日報をSlackで送ることをルールにしており、業務報告だけでなくナレッジ共有や部門を超えたコミュニケーションのきっかけになっています。

お互いの日報を見ることで、業務における気付きを与え合ったりそれが戦略に落ちることもあり、想像以上に重要なツールだと思っています。

ーー日報はフォーマットがあるのでしょうか。

はい。本日の活動と学びや気付きなど、シンプルな項目ですね。

サービスに対するお客さまの反応について書かれた日報に、製品担当者が即座に対応
サービスに対するお客さまの反応について書かれた日報に、製品担当者が即座に対応

ただシンプルながらも、営業が上げた課題感に対してマーケティングや事業開発部門コメントし、それを見た各部門のマネージャー職が会議体を作って、というように実務につながることもよくあります

しかもそれを部門や役職を超えたシームレスなコミュニケーションとして行えるのが良い点ですね。

情報をストックできることや、全社員が見ていることによる意欲向上も大切な要素です。

またコメントやスタンプの数、月間の投稿数などをスコア化していて、コミュニケーションの活性化を促しています。盛り上がっているならもっと情報共有しよう、という好循環が生まれていると思いますね。

このように、誰かのために役立つ情報を発信し続けることで、普段の業務における取り組み方にも変化があると思います。情報を抱え込まずに出し続けることも大切なポイントですね。

日報の取り組みによって、誰かのKPI達成に役立つ情報を共有するということが組織連携において重要だと私自身も気付くことができました

1on1で情報発信の大切さに気づく

実は、私は日報が苦手で書いていなかったのです。上司との1on1をきっかけに「その話しをもっとみんなにしたほうが良いよ」と言っていただいたことをきっかけに情報発信したところ反響があり取り組むようになりました。

そうした上司の声かけや同僚からの応援コメントなども社内コミュニケーションを活性化するきっかけになりますね。

まずは、THE MODELの“隣”の部署と仲良く

ーー目の前の業務に追われるなか、他のメンバーに働きかけることの優先順位やリソース配分をどのようにされているのでしょうか。

まず、THE MODELで隣り合っている部門同士のコミュニケーションは意識して行いましょうというところからスタートしました。

THE MODELの図は横並びになっていますが、私はサイクル状で見ると良いと考えています。

組織の本来あるべき姿は各チームが相互作用している状態だと思います。

サイクルだと思えば、部門は違えど同じフィールドに行って同じゴールを目指すチームメイトだという意識は生まれると思います。そういう意味で、組織分断というのは仕組みの問題ではなく意識の問題なのですね。

チームの意識を向上させるために仕組みがあるのであって、仕組みだけあっても形骸化してしまうでしょう。

顧客志向があるなら従業員志向があっても良い

お客さまのためには体を張るけれどチームメイトのためになることはしないという考えの方をよく見るのですが、私は従業員のためのインナーコミュニケーションこそ重要だと考えています。

テクニカルな部分や責任範囲はシェアできませんが、全体の成果を高めるための業務シェアは考え方次第でできると思います。

インナーコミュニケーションを活性化し、戦略的にチーム力を磨く

ーー私がSansanにいたときも、インナーコミュニケーションを活性化させることで自分の組織やサービスに誇りを持つことができ、売ろうという意欲も高まっていましたね。インナーコミュニケーションを活性化することは組織としてメリットしかないと思います。

そうですね。BtoBマーケティングにおいてはパーソナライズ化したアプローチが重要です。パーソナライズの本質は、直接お話ししただけでは分からない、さまざまな観点から多角的に見た上で人物を理解することだと思っています。

パーソナライズにあたりMAなどのツールを活用することは大事ですが、インナーコミュニケーションを活性化することで各事業部が連携し、お客さまを多角的に理解しアプローチすることができると思います。

実際に、こうした取り組みの積み重ねによって自社の組織が変わってきた感覚があり、全体的に士気が高まっていますね。

インナーコミュニケーションを活性化するにも、自発的に動ける現場寄りのメンバーがいると良いですね。そういったメンバーが情報発信したり他の部門の後輩を助けに行ったりするうちに、上層部の目にとまり仕組み化のために動き出す、というような流れがあるとチーム全体の意欲も高まると思います。強制力をもって実施するより、自発的というところがポイントです。

インナーコミュニケーションはそれほど重要な経営資源であり、戦略的に取り組むべきだと思いますね。

ーーインナーコミュニケーションの活性化によってマーケティングも強化できそうですね。 

そうですね。マーケティングの成果は組織全体で作り上げるものだと思います。

私はマーケティングに長く携わってきて、対応範囲は広く顧客理解もする必要があるなかで個人の生産性を上げるのは限界があると思っています。

AIやツールで自動化するにも、お客さまの細かい情報に関しては人間同士のコミュニケーションのほうが精度が良いでしょう。

「売れる組織」をつくるためにも、戦略的にチーム力を磨くことが有効だと思います。

ーーありがとうございました!

【immedio 浜田氏・取材後記】

事業部としてそれなりの規模感でどのように連携していくか、全員が最終的なゴールに向けどのようにアラインしていくか、ということについて目標設定からインナーコミュニケーション活性化の方法まで、本質的なお話しを伺えました。

「マーケターのリード獲得数を評価しない」というのはとてもアグレッシブな評価指標ですが、分業型営業組織の課題を解決するひとつの解でもあると思います。

商談内容をSlackで共有するなど、負荷をかけずに情報を可視化する仕組みを作っていることも重要なポイントですね。目の前の業務に追われるなかでも、ツールを活用し部門連携を強化することで生産性は上げられるという良い事例だと思います。

日報というオープンなコミュニケーションの場を作ることやピアボーナスを贈り合うことは取り入れやすく、組織力を上げたい方の参考になりそうです。トップダウンではないけれどマネージャーがサポートする、絶妙な関わり方がポイントだと思いました。

組織としてインナーコミュニケーションに投資するか否かによって生産性が変わるというのは本質的な提言だと感じました。

【「売れる組織」徹底研究 特集一覧】


この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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