インタビュー

【THE MODEL2.0】営業・マーケの分断を解消し「売れる組織」にする3つの取り組み|immedio 浜田氏に聞く

【THE MODEL2.0】営業・マーケの分断を解消し「売れる組織」にする3つの取り組み|immedio 浜田氏に聞く

THE MODEL型の分業化が進む組織では、部門間の「分断」がボトルネックとなり事業成長を鈍化させている場合があります。組織運営のボトルネックを見つけ解消し「売れる組織」を構築している企業は、どのような取り組みを行っているのか。

本企画では「売れる組織」づくりに挑む企業へ取材を行いその取り組みをご紹介します。

第1回目は、ウェブフォーム連動型の商談獲得自動化サービス「immedio(イメディオ)」を提供する株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏に、営業・マーケティング分断の理由や「売れる組織」の特長についてお聞きしました。

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  • 株式会社immedio 代表取締役 浜田 英揮(はまだ・ひでき)

    株式会社immedio 代表取締役

    浜田 英揮(はまだ・ひでき)

    新卒入社した三井物産では主にIT分野での新規事業を担当。Harvard Business School留学後、M&A推進室にて幅広い事業分野の投資案件の実行に当たる。2016年にbitFlyerに参画し、US拠点でCFO/現地拠点長を務める。2019年からはSansanに参画し、Bill Oneのプロダクトマーケティング及びインサイドセールス部門のマネジメントを担当。2022年にimmedioを創業。ICC京都2023 SaaS Catapult2位入賞、東洋経済「すごいベンチャー100 2023」選出。

目次

BtoB企業における営業・マーケティング組織の課題とは

営業・マーケの分断はなぜ起きるのか

ーー営業マーケティングの分断というのは、なぜ起きるのでしょうか。

日本でもTHE MODEL型の分業体制を取り入れる企業が増えるなか、営業・マーケティング・カスタマーサクセスなどそれぞれの担当範囲を明確に分けたことで連携よりも分断が起きてしまっているといえます。

営業とマーケティングがそれぞれ別のKPIを追っており、KPIに関して量的な合意形成のみで質の議論ができていない、ということが分断が起きる要因のひとつです

株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏
株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏

【要因1】MQLの定義をマーケティングのみが行っている

MQL(マーケティングクオリファイドリード)の定義は、マーケターが決めているケースが多いでしょう。しかしMQLの先にはSAL(セールスアクセプテッドリード)があり、マーケティングと営業の間でリードの質に関する合意形成が必要です。その点を重視せず「営業はMQLに全部当たるべき」「MQLを商談化できないのはインサイドセールスと営業の責任」という考えが多くの組織に見られます。

このように、マーケティングと営業の間でMQLの定義について合意できていないことが分断の要因のひとつになっていると思います。

【要因2】COOやCROがいないことで経営層が分断に気づけない

CEOの下に営業部長とマーケティング部長を置いている組織の場合、社長へのレポート時に、マーケティングはリード創出数を報告するものの営業はこのリードでは商談につながらないと報告するケースがあります。社長としては、営業・マーケティングそれぞれの成果のみを伝えられても総合的な判断が難しいでしょう。

社長が的確な判断を行うためにも、営業部長とマーケティング部長の上にCOOやCROを配置しマーケティングから営業、カスタマーサクセスまで全体を見るということが重要です。

アメリカではこういった組織形態は多くありますが日本ではまだ少ない印象です。またCOOがいても統括範囲が広くマーケティングと営業の連携状況まで踏み込んで見ることが難しい状況もよく見ます。

逆にCOOやCROを配置し営業とマーケティングを統括できれば、分断は防げると思っています

牽引力のあるCOOやCROがいると分断は起きない?Sansanのケース

ーーこれまで浜田さまご自身が組織に所属されるなかでそういったご経験があったということでしょうか。

そうですね。Sansanでは取締役の富岡圭さんがCOOをされていて組織全体を統括されていました。また事業企画やCOO室など専任チームを下に配置し、ファネル全体を見てらっしゃいました。牽引力のあるCOOがいる組織は、部門ごとの分断などの問題は起きづらいということを実際に感じました。

【要因3】営業・マーケティング間のキャリアチェンジや移動がないことで交流が生まれない

インサイドセールスから営業、営業からカスタマーサクセスへのキャリアチェンジはよく見聞きするのですが、マーケティングに移動する、もしくはマーケティングから他の部門に移動するケースは少ないと思います。営業からマーケティングへの移動もあまり多くはありません。

部門間の移動が多く人的交流が活発であれば、コミュニケーションが取りやすく相互理解も生まれやすい。しかし移動がないことで人的交流が生まれづらいことが分断の要因のひとつになっていると思います。

ーー実際に部門間の移動があることで営業・マーケティングの相互理解は深まるものでしょうか。

はい。移動した人物が、部門間で調整が必要なときの仲介役として力を発揮することはよくあります。Sansanではマーケティングから営業への移動は少ないですが、営業からマーケティングへの移動は時々見ました。一方向の移動だとしてもコミュニケーションの取りやすさは格段に上がりますね。

カルチャー醸成、コミュニケーション強化にはコストがかかることも

ーー部署移動やキャリアチェンジの他に交流する方法はありますか。

会社の工夫次第という面はあります。社員同士の飲み会補助や組織力向上支援サービスの導入などが効果的な場合はあるでしょう。

ただカルチャー醸成にはコストや時間もかかるため見極めが重要ですね。

ーー分業型組織においては連携のための働きかけがない限りは分断が起きてしまうものでしょうか。

基本的には、対策なしでは分断が生まれると思います。THE MODEL型の仕組みにおいては、分断解消、部門間連携にむけた取り組みや工夫は必須でしょう。

株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏

【弊害1】責任の所在が曖昧になり改善できない

ーー分断によってどのような弊害が起きているのか、詳しく教えてください。

営業・マーケティングの分断によって、MQLを明確に定義できずリード数は足りているけれど受注が足りていない、といった状況に陥ることはよくあると思います。成果につながらないときに、マーケティングが渡したリードの質が低かったのか、商談につなげる営業力が低かったのかなど、組織として責任の所在が分からないことは改善にもつながらないため問題です。

【弊害2】組織としてのボトルネックを可視化できない

責任の所在が曖昧なことでさらなる分断が生まれることもありますし、ボトルネックを可視化し改善するための力が働かないことも問題です。

やはり各部門のKPIの定義を明確化し、未達時にはどこを改善すべきか可視化する仕組みが必要です。

責任の所在を“曖昧なまま”にしてしまう理由

ーー責任の所在を曖昧なままにしてしまう理由は何でしょうか。

やはり自部門だけは目標達成している、だから来期も予算を使いたいという心理はそれぞれに働いていると思います。別の部署がその点を指摘してもそれこそ喧嘩になりかねません。自然に任せておくと責任の所在は曖昧になりがちですね。

ーーそうなると全体を統括する部署や人物が必要ということでしょうか。

そうですね。基本的にはオペレーション専門のチームを置いて徹底的に可視化させることが必要です。ただ最終判断を行うためにもCOOやCROを配置したほうが良いと思います

【弊害3】個別の施策にROIがあるように見えるが、実際は目標達成できていない

例えば、展示会出展のコスト500万円で1000名のリードを獲得できたとして、リード獲得単価5000円で費用対効果が高いように見えます。しかしそこからの商談化率は3%だとすると費用対効果が高いとはいえない。

これはひとつの目標に向けた連携ができていない状態です。

責任の所在を曖昧にしたままMQLや商談の定義を明確化できない結果、実は質の低い施策に投資してしまっているということが起きてしまいます

営業・マーケティング組織の課題の傾向

営業・マーケティングの分断の起きやすさは組織規模に比例する

ーー浜田様がこれまで多くの企業様を見てこられたなかで、営業・マーケティング組織の課題にはどのような傾向がありましたか。

社員数が20-30名から40-50名くらいの規模の企業では、社長と社員の距離も近く分断は起きにくいと思います。ただ社員数100名、200名の規模でマーケティング部長や営業部長がいる、といった場合には分断が起きやすくなってくるでしょう。

営業・マーケティングの分断の起きやすさは基本的には組織規模に比例すると思っています。

組織によって“分断の起き方”が異なる

また組織形態によって分断の起き方も異なると考えています。

上場企業の多くが事業部制をしいていますが、その場合、事業部内の営業とマーケティングの距離は縮まるのです。逆に今度は事業部間に分断が起きてしまうということがあります。

「事業部の壁」の弊害

ーー事業部ごとの分断による弊害はどのようなものでしょうか。

同じ機能を持つ部門同士が横でナレッジを共有できない、営業がリードの取り合いをする、ポジション移動が難しいという弊害がありますね。

ーーそのような場合の改善策はありますか。

企業としては各事業部を競争させ成長しようという意図もあるので、対策はなかなか難しいですね。対策案があるとしたら、各事業部ごとの営業やマーケティングとは別に横串となる営業企画やマーケティング企画を入れてナレッジや情報の共有、コミュニケーションを生む流れを作るというのはあると思います。

逆にトップダウンで連携を促すのは難しいのではないでしょうか。

歴史ある大企業の組織課題

ーースタートアップやSaaS企業の他に、歴史ある大企業の組織課題についても教えてください。

日本の歴史あるBtoB企業はこれまで営業組織しかなく、マーケティング組織はなかったというケースが多いでしょう。これからマーケティングに注力しようという際に、各事業部での取り組みというより全社的な動きをメインにすることがあります。CMをうつ、Webサイトを作る、など施策ありきで最適な人材を当て込む形ですね。それ自体は良いことですが、そうなるとマーケティング部の予算が取れず配分もできない、営業に気を使ってしまう、と存在価値を十分に発揮できない状況に陥るのをよく見聞きします。

また大企業だと中途採用より社内を優先する傾向にあり、マーケターの人材確保や育成が難しいことも課題でしょう。

小さくはじめて成功事例を作り予算を獲得する

ーー大企業でマーケティング組織を新たに設置する場合、どのような方法が良いでしょうか。

うまくいくケースでは、いきなり全社的に大々的にはじめるよりは、新事業や特定のユニットにマーケティング部を作りうまくいったら横展開するという方法をとっていますね。

成功事例があると説得力が出て予算もつきやすいということがあります。

全社的にマーケティングをはじめようとすると、全社のコンタクトデータベースを構築しよう、各部門に承諾を得ようなど大変な話しになりがちです。それよりは比較的小回りが利く小さなチームでまずMAツールを導入してみる、といった取り組みだけのほうが成功確率は高いという印象があります。

分断を解消し「売れる組織」にする3つの取り組み

【1】マーケティングが“1つ先”のKPI(商談数・案件数)を追う

株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏

ーー分断を乗り越え「売れる組織」にできる企業はどのような取り組みをされているのでしょうか。

1つ目は、マーケティングがリード数だけではなく商談数や受注数など1つ先のKPIを追って動くことです。インサイドセールスであれば商談数だけではなく案件数や受注数などを追う

私は前職のSansanではインサイドセールスを管理する立場で、このような取り組みを行っていました。どのように受注数をKPIに設定するのか、セールスとどのように連携するのかといった難しさがあるのですが、営業・マーケティングの分断を解消するためにも必要な取り組みだと思います。

分業体制の例

マーケティングやインサイドセールスが1つ先のKPIを設定する際には、例えばお客様が検討プロジェクトを立ち上げた件数や金額で評価するなど、自部門の働きかけで成果につながる範囲にしぼること、2-3ヶ月など半年より短い期間で計測できる施策にしぼるなどの工夫が必要です。

ーートップダウンで組織として推進することが重要でしょうか。

そうですね。基本的にはトップダウンで進めることになると思います。

「どこに目標を置くか」という観点でシンプルにKPIを設定することが重要ではありますが、実際は目標は複数ありそれぞれが入り組んでいます。例えばアポ数や案件数、パイプライン金額など、各目標数値のバランスを見ながら目標設定するのが現実的でしょう。

例えばマーケティングのメンバーに「明日から商談数でしか評価しない」というのは厳しいため、「商談7割、リード数3割」というような目標設定をするのもひとつの方法だと思います。

ーー 一定期間ごとの指標の改善も必要でしょうか。

半期ごとのトップ層による見直しは必要でしょう。半期実行してみたけれど動きがないという場合は、目標の範囲やバランスを見直すことが大前提です。

【2】マネージメント層と現場、各レイヤーごとに連携を行う

ーー「売れる組織」、2つ目の取り組みについて詳しく教えてください。

各部門の部長同士による予算やリソースなどに関する会議だけでなく、現場の担当者同士でも密にコミュニケーションを取るということが重要です。

Sansanでは、例えばエンタープライズ企業向けの戦略を考えるときに、エンタープライズ担当のマーケティング、営業、IS担当者間のすり合わせ会議を行っていました。ターゲットとなる企業に向け、どのようなイベントやマーケティング施策があるかということを現場担当者同士が密に会話しているんですよね。

現場の自発的な働きかけが理想、うまく連携できない場合はトップダウンで

ーー現場レベルでの連携や会議体の設置はどのような流れで行なわれたのですか。

基本的には現場の担当者同士が自主的に動いていましたね。営業が成果を出すためにはマーケティングに自ら働きかけて、営業戦略を理解してもらった上でいかにマーケティングに効果的に予算を使ってもらうかが重要という考えのもとの行動だと思います。

ただそういった自発的かつ自然なコミュニケーションや連携ができない組織もあるでしょう。

例えば営業からマーケティングに対して「予算をこのように使ってほしい」と言うなんて考えられないというような壁がある組織の場合は、トップ層が介入してうまく横をつないであげる、ということはあると思います。

【3】事業企画や営業企画など、組織を俯瞰的に見る部署を設置している

BtoBマーケティング推進における組織のボトルネックを特定するには、マーケティングからインサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスの端から端まで見る部署や人物が必要です。

マーケティングのリードが受注につながり更新されるまで、パネル全体のどこにボトルネックがあるのかを見るには、さまざまなシステムをまたぎつつデータを収集・分析しながら仕組みを作る「Opsチーム」を置くのが理想です。COOやCROがいたとしても、こうしたオペレーションを担うチームがいないことには、真のボトルネック特定は難しいでしょう。

規模の小さい企業にとっては高いスキルを持つOpsチームの設置はハードルが高いかもしれませんが、一定の規模以上の企業は早めに取り入れたほうが良いと思います。

ーーボトルネックを特定するには、専門の「見る部署」がないと難しいでしょうか。

各部署は目標達成に向けた行動に集中しているため、全体を俯瞰で見たときにどの部分に何が足りないかという点は、独立した部署や人物が見るしかないですね。

よくいわれるのは、インサイドセールスがマーケティングと営業の両方を見てバランスを取って、という要望です。しかしインサイドセールスは商談獲得に向けた行動とその準備に忙しく「見る」ことに時間をさくのは難しい。そのためOpsチームを作ることが良いと思っています。

アメリカではRevOps(レブオプス)やSalesOps(セールスオプス)の認知度が高く、人材採用も活発です。レブオプスに関するカンファレンスもたくさん開催されていますが日本ではまだあまり見ません。

RevOps図解

ーー現在の日本の組織でレブオプスに代わる部門というと、営業企画などが近いイメージでしょうか。

そうですね。営業企画、事業企画、業務企画が近い立ち位置だと思います。ただ実際には事務作業やアシスタント業務に忙しく、分析業務に注力できていないことはよくあります。

ーーオプスチームのような分析・改善のため組織に働きかけていくにはどうしたら良いでしょうか。

例えば営業企画部のなかに戦略企画チームとオペレーションチームを分けて設置する、というのもひとつの方法だと思います。ただやはり基本的には独立したオプスチームを作るのが良いでしょう。

実際には難しい面もありますが、経営層に対してBtoBマーケティングの全体感を可視化したダッシュボードを共有するだけでも取り組む価値はあると思います。

THE MODEL2.0に取り組む営業・マーケターの参考となる情報を届けたい

ーー浜田さんには、本企画の“インタビュアー”として「売れる組織」づくりに挑む企業のマーケターや営業担当者へ話を聞き、組織分断のボトルネック解消のポイントや課題抽出の秘訣について深掘り、解説いただきます。

今回の企画スタートにあたってコメントをお願いします。

株式会社immedio代表取締役 浜田英揮氏

近年、日本のBtoB企業にも「THE MODEL」の概念や取り組みが浸透しているのを感じます。取り組みをより効率化するためにも、営業とマーケティング組織をいかに密にアラインさせるかという点が重要です。

課題を乗り越え「売れる組織づくり」に挑む、さまざまな業種・業態、企業規模のマーケターや営業担当の方々に実際の取り組みについてお話しを伺うことで、「THE MODEL2.0」に取り組む方やこれから分業型組織を取り入れようと考えている方の参考になる情報を届けられればと思っています。

ーーありがとうございます!

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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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