インタビュー

売れる組織=メンバー全員が“売ろうとする”覚悟がある組織|EVeM 富家氏に聞くマーケ組織づくり

売れる組織=メンバー全員が“売ろうとする”覚悟がある組織|EVeM 富家氏に聞くマーケ組織づくり

THE MODEL型の分業化が進む組織では、部門間の「分断」がボトルネックとなり事業成長を鈍化させている場合があります。組織運営のボトルネックを見つけ解消し「売れる組織」を構築している企業は、どのような取り組みを行っているのか。

本企画では株式会社immedio 浜田英揮氏が聞き手となり「売れる組織」づくりに挑む企業へ取材を行いその取り組みをご紹介します。

今回は株式会社EVeM Marketing Directorの富家翔平氏をお迎えし、マーケターとして大企業とベンチャーそれぞれの組織づくりに取り組まれている経験をもとに「売れる組織」づくりの秘訣を伺いました。

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  • 富家 翔平(ふけ・しょうへい) 株式会社EVeM Marketing Director

    株式会社EVeM Marketing Director

    富家 翔平(ふけ・しょうへい)

    2013年に大阪経済大学を卒業後、大手通販会社にてマーケティングを経験した後に、広告代理店にてマーケティングコンサルタントとして従事。 2018年にコニカミノルタジャパン株式会社に入社しBtoBマーケティング・セールスの経験を積む。施策実行の責任者や組織の責任者として、事業部マーケティング組織の立ち上げを牽引。企画部門の責任者として20名のチームをマネジメントしながら、全社マーケティング組織の立ち上げを担った。 2023年9月にベンチャーの急成長を支えるマネジメントトレーニング事業を展開するEVeMに入社。自身もベンチャー企業の中に身を置きながら「マーケティング×マネジメント」の力による成果創出に挑戦している。

目次

大企業からベンチャーへ

ーー浜田氏:まずは富家さんの現在の仕事についてご紹介をいただけますか。

富家氏:EVeMは、チャレンジをカタチにすべく事業成長に挑戦されているベンチャー企業を中心に、マネジメントのトレーニングサービスを提供しています。魅力的で社会的に価値のある事業を展開しているのに、組織の規模に比例して噴出し始めるマネジメントの課題を解決できずに悩まれている企業はたくさんあります。実務で即活用でき、かつ再現性のある「マネジメントの型」をノウハウとして提供することで、ベンチャー企業の挑戦をエンパワーメントするべく活動しています。

そんなEVeMは4期目の会社です。そこに一人目のマーケターとして入社しました。

リード獲得から受注、継続のお取引やご紹介をいただくための活動など、全体の工程を見て、他メンバーと連携しながらやるべきことをとにかくがむしゃらにやる! という仕事をしています。

株式会社EVeM Marketing Director 富家翔平氏
株式会社EVeM Marketing Director 富家翔平氏

ーー大企業のコニカミノルタジャパンからベンチャーのEVeMへ転職された理由が聞きたいです。

BtoBマーケターとして戦略を立て施策を実行していくなかで、マーケティング組織を任せていただくようにもなりました。「BtoBマーケティング」の実行力を高めていくためには、マーケティングに関するスキルだけでなく「マネジメント」も非常に重要であると感じました。打ち立てた理想や目標、戦略を絵に描いた餅にしないためには、メンバー全員で実行していくための「マネジメント」が重要です。そんなこともあり「BtoBマーケティング」という軸と、「マネジメント」の軸を自身の強みとして磨きたいと思っていました。

EVeMはまさに「マネジメント」の分野で、業務マニュアルレベルに言語化されたノウハウとトレーニングで“マネジメントの負”を解消しようとしています。ここなら自分のやりたいことと社会貢献の両方を実現できるし、なによりマネジメントに悩みを抱える人の役に立てる! と思ったのが転職のきっかけでした。

1人目マーケターとしてのプレッシャー

ーー現在のレポートラインは社長ということでしょうか。

はい、そうです。CEOである長村がレポートラインというのと、EVeMの1人目マーケターとして成果をださないと…と勝手にプレッシャーを感じていたのもあり、はじめはとても緊張していました。私と同じように1人目ポジションで入社し、他にマーケターがいない状況で円滑に実務をまわせるようになるまで苦労される方は多いと思います。戦略を考えるのも自分、オペレーションを考え実行するのも自分、ふりかえるのも自分…という環境の苦労と難しさはやはり体験してみないと分からず、今まさに実感する日々を過ごしています。

事業理解・顧客理解をおざなりにして失敗

ーー1人目マーケターとして入社され、周りに相談できるマーケターが少ない環境でどのように試行錯誤されているのでしょうか。

(写真左から)株式会社EVeM 富家氏、株式会社immedio 浜田氏
(写真左から)株式会社EVeM 富家氏、株式会社immedio 浜田氏

私が入社して最初の大失敗で「事業理解と顧客理解をおざなりにしてしまった」ということがありました。どういうことかというと、マーケターとして入社したからにはマーケティングで成果を出さないといけないし、マーケターである自分にしかできないことをやろうとしていたのです。そこで、マーケターがやるべき仕事を、「事業理解」・「顧客理解」・「マーケティング戦略策定」・「施策実行」・「オペレーション構築」に大別したときに、私はまずオペレーション構築を優先すべきだと考えました。CRMの活用やMAツールの導入とデータ整備はマーケティング活動の1丁目1番地だと思っていたので勢いよく進めていました。それらに重点を置きながら、短期的なマーケティング活動の戦略と施策を考えていきました。今思えば当たり前ではあるのですが、事業理解や顧客理解が浅いまま考えた戦略には芯となる中身がないことに気がついていませんでした

EVeMの提供している価値の根幹は何か、お客さまはなにに対価を支払ってくれているのかということへの理解が浅いまま、マーケターとしての仕事をすることに思考が偏っていました。

メンバーからのフィードバックで事業理解・顧客理解の重要性に気づく

長村や他メンバーとマーケティング施策の戦略や企画についてコミュニケーションを図るなかで、事業理解・顧客理解のためにもっとユーザーインタビューの動画を見たりサービスについて勉強したりしたほうが良いよと声をかけてもらっていました。ただ当時は他のアクションを優先し、理解を深めることの優先順位を下げてしまっていました。それによってメンバーが期待するアウトプットと自分がやっているアクションにギャップが生まれてしまっていたと思います。

フィードバックを受けて振り返ってみて、確かに自分がやろうとしていたことは大事かもしれないけれど、マーケターとしてビジネスの価値を生むために今の自分が本当にすべきアクションを考えなおすべき! と思い直しました。

ユーザーインタビュー動画で顧客理解を深める

今は、自分で商談をしたり、商談動画を視聴したり、過去のユーザーインタビューを見ながら事例を読み込んだりしながら自分の頭と言葉で考えたコンセプトを戦略に落とし込んでいます。それをタタキにフィードバックをもらってアップデートを重ねている日々です。周りも「これを求めていた」という感じもありますし、私自身もこれこそマーケターとしてまずはじめにやるべきことだったなと反省しています。

私と同じ失敗をしないために、入社後は少なくとも自分の言葉で伝えられるレベルになるまでは、徹底的に顧客理解と事業理解に割くべきだと思います。そうでないと戦略を考えるにも企画を立てるにも、既存のフレームワークや経験しか頼れず、出されるアウトプットはどうしても中身の薄いものになってしまいます。わざわざ少人数のベンチャーで社内にマーケターを採用しているのは、コアメンバーだからこそ発せる戦略やメッセージに価値があるからです。

このことに気がついてからは、例えば「これから2週間はこの考え方で業務の優先順位を組み立てます!」と宣言し、業務にあたるようにしました。これはあくまでもリソースの割合ではなくマインドの割合として、です。簡単なことではあるのですが、自分のなかでもやもやとしていた仕事の進め方にひとつの拠り所を作れた感じがしています。

フィードバック前後の業務配分の変化

ーー事業理解・顧客理解を優先するか、オペレーション構築を優先するかは代表と認識合わせをする必要がありますね。もし代表がMA、SFAの構築を進めてくれと言っていたら間違っていなかった。

そうですね。そこは私からもっと濃い会話をすべきだったと思います。

ーー私も、会社の代表としていうと、良い人材を採用できたら初月は学んでもらっても翌月くらいから成果を出してほしいと考えてしまうかもしれないですね。長村さんが事業理解・顧客理解を優先してほしいとおっしゃったのは素晴らしい考え方だと思います。

EVeMが伝えている「マネジメントの型」のメソッドでもどんなに優秀な人であっても入社後すぐに成果を出すことは難しいと教えているので、社内でも実践し、厳しくも暖かく見守ってくれているのはありがたいですね。

ーー今後、マーケティングチームにメンバーが増えたときに富家さんと同じプロセスをたどるべきだとお考えですか。それとも富家さんがプロセスを言語化して補うのか。

マーケティングチームのなかでどんな役割を担うことになっても、事業理解と顧客理解へのリソース投資は必須だと考えています。むしろ、その想いを強めた失敗経験だったとも言えますね。これは仮にEVeMが大きく成長していって10人目のマーケターがジョインしてくれるような状況になったとしても、その重要性は変わらないと思います。

【大企業の組織課題】「自分がやらなくてもまわる」言い訳ができる環境

ーー転職後のマインド面におけるギャップは、これまでの経験が影響する部分もありますか。

そうですね。前職のコニカミノルタジャパンではマーケターとしてさまざまな事業に関わらせてもらっていました。関わる数が多かったからこそ、事業や顧客理解の重要度を無意識的に下げてしまっていたのかもしれません。

なぜならそれぞれの事業に、事業や顧客にとても詳しい人がいて、私がそのレベルに追いつくことはとても重要だが難しい…。であれば、マーケターとして詳しい人たちのメッセージをいかにマーケティングの文脈で届けていくかに注力したほうが効果的だし、そのほうが役割を果たせると思っていました。

株式会社EVeM Marketing Director 富家翔平氏

そのやり方は組織規模が大きいからこそできる戦い方のひとつであり、ベンチャーかつ少人数体制ではそれはできないことだしやるべきではない、と学ぶことができました。マーケターが顧客理解を深めるには、そのための行動を意識的に実行する必要があります。営業やカスタマーサクセスの方と比べて、お客さまと接する機会がどうしても少なくなりがちですからね。大切なことはだいたいが面倒なことなので、意識する必要がある行動は言い訳をつくってやらない、ということをしがちだと思います。

大企業とベンチャーの両方を経験して感じたことは、「私は事業や顧客に詳しい方のメッセージを届けることに集中します!」や、「マーケティングのHowで貢献します!」と言えてしまうことのメリットとデメリットでした。私はまさに、マインドチェンジができておらずその罠にかかっていました。

【ベンチャーの組織課題】ひとりあたりの業務過多がボトルネックに

優先度「高」or「激高」の世界で「やらない」を決める勇気

ーー逆に、少人数のベンチャーでは事業理解・顧客理解を深めながらも施策の数々をまわす必要がありますよね。

少人数のベンチャー企業は、ひとりあたりの業務範囲が広く量も多くなりがちです。リソースが成果創出のボトルネックになってしまうのは改めて言うまでもありません。優先順位を考えて…と言っても「高 or 激高」としか言えないような仕事が山積みのなかで、「今日やるべきこと」に集中しないといけません。社員数10名、4期目というフェーズでは特に、優先順位というような悠長なことを言わずに、「やるかやらないか」を決める強さと勇気が求められているな…と感じています。

ーーEVeMのマーケティングはどのようなミッションを担っているのでしょうか。

マーケティングのミッションは「EVeMに熱狂するファンを増やすことで商談機会を創出し、受注に貢献する」です。

追いかけている指標は、商談数と受注数、受注金額です。商談と受注はリードソース別に見ていて、マーケティング施策をきっかけにいただいた商談機会やVCからのご紹介、EVeMのプログラムを導入いただいたお客様からのご紹介なども見ています。

メンバー間の「熱量の差」が組織分断を生む

EVeMのサービスは「マネジメントの型」というノウハウが価値の源泉になっています。リード獲得施策において、このノウハウをコンテンツとしてどこまで世に出すかという点が難しいですね。もちろん無料で全公開したほうがリードを集めやすいですが、いかにそれを出さないかというさじ加減に悩んでいます。

ーーそれはコンサルティングや教育系のサービスに特有の、難しいマーケティングですね。

入社したばかりの頃は「できるだけすべて公開していこう」と思っていたのですが、今思うとやはり思考が浅かったですね。事業に与えるリスクとリターン、お客様はなにに対価を支払ってくださっているのか、をしっかりと熟考しないといけません。コンテンツの公開方針は、非常に重要なテーマで社内でもずっと議論と検討を重ねています。

株式会社EVeM 富家氏、株式会社immedio 浜田氏

議論するなかで、自分の方針とこれまで事業をつくってきたメンバーの方針にギャップがあり、なぜそれが生まれるのかを考えた時に思ったのは、事業に対する熱量の差でした。同時に、メンバー間の熱量の違いが組織分断につながるのだと感じた瞬間でもありました。

組織の分断が発生し大きくなっていく背景には、事業に対する想いや顧客に対する解像度、役割や物理的なお客様との距離の違い…などによって生じてしまう熱量の差があるのではないでしょうか。分業制という構造上、熱量の差があっても埋めなくてもよいと言えてしまう環境ができやすいのは無視できない課題だと思います。

組織の共通言語を作るために「体験をシェア」することが重要

事業理解・顧客理解が深まったことを示す指標は、自分の言葉で話せるようになることだと思います。例えば、EVeMのサービスを説明するときに「マネジメントトレーニング」とお伝えしているのですが、入社当初は「マネジメント研修」という言葉を使っていました。なぜ、研修ではなくトレーニングなのか、という理由を理解した時に、研修という言葉を使わないようにしようと思いました。こうした些細な表現のズレをなくしていきながら、しっかりと自分の言葉で話せるようになることが大切なのではないでしょうか。

ーーいわゆるバリュープロポジションの策定はビジネスのど真ん中だと思います。代表やチームメンバーとどのように認識合わせを行っていますか。

全メンバーで、提供価値を見つめ直す場を設けていて、役割に閉じず全員が意見を出し合っています

組織規模が大きくなってしまうと、そうしたサービスの提供価値に関する深い議論を全員で…という機会は少なく、事業を共有財産のように感じるのは難しくなってきますよね。こうした取り組みを通じて事業に向き合っていく臨場感を感じられるのはベンチャーならではと思っています。

マーケティング組織拡大のための採用とマネジメント

ーー前職のコニカミノルタジャパンでは、事業部マーケを務めた後に全社マーケをリードされていますが、どのように組織を拡大していったのでしょうか。

全社のマーケティング機能の強化を担う「マーケティングセンター」を立ち上げるタイミングで、私の事業部でマーケティング組織を立ち上げてきた経験とスキルを買ってもらい、全社マーケティング組織の責任者に就任しました。

「全社マーケ」の役割を定義するところからスタートし、3ヶ年の活動計画を示しながら、ハウスリストの統合、BtoBマーケをテーマにした社内コミュニティの立ち上げ、初の自社主催カンファレンスイベントの企画・実行などを行っていきました。同時に各事業部の実行支援部隊としてウェビナーやイベントを運営するチームを作り、支援の範囲と量を拡大していきました。

当初は事業部からの反発もあり、いろいろな壁にぶち当たりながら取り組みました。各事業部の懐疑的な目線のなか、全社マーケの役割や計画を丁寧に何度も何度も伝えることで理解と協力を得ていきました

ーー転職や部署異動などで、ひとりのマーケターが新天地に移ったもののうまく成果を出せずに悩む方が多いと思いますが、どこに課題があると思いますか。

そうですね、それはその方が持っている「スキル」とビジネスの環境や組織に求められている「戦闘力」のミスマッチが起きているのではないか、と思っています。必ず発生してしまうものとも思っていますが、それぞれが歩み寄らないと改善しづらいことも課題だと感じています。

例えば、支援会社からイベントマーケターとして入社したものの、求められている戦闘力は違うところにあり、自身の得意領域とのギャップで活躍できない…なんてことはよくあります。ただこの時に、マーケターとしてのスキルセットを生かそうとするあまり、仕事を選り好みしすぎないように気をつけたほうがいいと思います。スキルセットを生かすことが目的にならないように。

ーーそれは採用とマネジメント、どちらに課題があると思いますか。

採用とマネジメント、それぞれの歩み寄りが必要じゃないでしょうか。

採用のミスマッチを防ぐためにもマネジメント層と現場がマーケターに求める役割やスキルについて議論し、言語化することが重要だと思います。加えて、ジョインいただいたあとは期待するアウトプットと背景にある事業や組織の課題を丁寧に伝えることで、コミュニケーションを図りながら軌道修正していくことが大事だと思います。

ーーなるほど。Sansanではエニアグラムとストレングスファインダーを取り入れて全社員の強みを言語化していました。各自がスキルや強みを言語化し、マネジメントと周囲がそれを理解しているというのは重要ですね。

そうですね。組織を拡大していくにあたってそういった工夫は必要です。

各メンバーにどのような特性や強み・弱み、Will、Canがあるかを把握した上で、事業課題を解決し継続的な成果につなげていけるかを考え、適切なアサインメントも含めた、マネジメントを行っていくことが重要だと思っています

売れる組織は、メンバーが課題を自分ごと化し「売ろうとする覚悟」がある組織

「売ろうとしていますか?」という問いに答えられるかどうか

ーー大企業とベンチャーのマーケター、それぞれの立場でそれぞれにアドバイスを送るとしたらどのような内容でしょうか。

まずはかつて分業体制のもと大人数でマーケティングを行っていた自分へ向けて問いたいことがあります。本来であれば「買っていただく」が適切な表現だと理解したうえで、あえて「売ろうとしていますか」という質問ですこの質問に対して自信をもって「はい」と答えられますかと問いたいですね。当時の私はおそらく「はい」と答えていたと思うのですが、環境が変わってベンチャーにいる今の自分からすると「売ろうとする意思や覚悟」が足りていなかったのではないかと思っています。

株式会社EVeM Marketing Director 富家翔平氏

これまでお話してきた通り、大人数かつ分業体制が敷かれた体制のなかにいると「売る」ことよりも自分の役割を全うすることに意識が向きがちだと思います。なんのために役割を全うするのか、マーケティングを実行するためなのか、売るためなのか、仮に同じアクションでも目的が違えばアウトプットも成果も変わりますよね。

オペレーションがしっかりしていれば、そこまで覚悟を持たずとも仕事はまわりますが、もしその環境に少しでも甘えている気持ちがあるのなら行動を変えてみよう、と言いたいですね。

「売る」ために責任を持ってマーケティングの仕事をするという観点では、短期的に施策を重ねることよりも、長期的視点で見たときに今やるべきことを優先することも重要です。あるいは、この瞬間はセミナーの企画というアクションを捨てて、知り合いに1通のダイレクトメッセージを送る方が事業貢献に近づくこともあります。なんのためになにをするか、マーケティングをするためなのか、売るためなのか、ですね。難しいことですが、迷った時に立ち返るようにしています。

少人数体制のベンチャーでは「がんばりすぎずにがんばる」

ーー逆にベンチャーのマーケターに向けてはいかがでしょうか。

アドバイスが欲しいくらいです(笑)。ベンチャーに転身して“持久走”だなと感じました。これまでは切り分けられたタスクをこなすという感覚を持っており、終わらせていく短距離走的な感覚を持っていました。今はできるだけ息切れせず長距離を走るために「がんばりすぎずにがんばる」ことが大事だと思っています。

マーケティングの仕事は多岐にわたりかつ膨大です。やるかやらないかをはっきりさせることは可能ですが、やると決めたことのなかにたくさんの「やったほうがいいこと」がありますよね。例えば、週に一度のメールマーケティングだって、ちゃんと分析したほうがいいし、コンテンツも用意したほうがいいし、心を込めて件名を書いたほうがいいし、それが成果につながったを確認するためのもろもろの設計もそのオペレーションも回したほうがいいです。

すべて実行できることが理想ですが、できないことばかりです。高い理想を掲げつつも現状を否定しすぎないこと。これまで自分が大切にしてきた「こうあるべき」を捨てる勇気と覚悟を持つことが大事なのではないでしょうか。

現在進行系で苦戦しまくっている私の経験や取り組みをお伝えすることで、一緒にがんばりましょう! というエールになればうれしいですね。

環境が変わっても「フレーム通り」にやろうとすることは失敗のもと

もうひとつ私の失敗でいうと、2023年1月に公開したnote(5年間やってわかった、BtoBマーケターがやるべき仕事の全体感)にあるフレーム通りに進めようとしてしまったことです。事業フェーズやサービス特性、組織ごとに取るべき戦略やアクションは異なるべきなのに、固定観念にとらわれフレーム通りにはめようとしすぎてしまって視野が狭くなってしまいました。

理論やフレーム、定石や経験は、知識や武器として大事にしつつも、それにこだわり過ぎて、なにをやるべきかを見失ってしまっては元も子もない…ということを学びました

事業成長、組織拡大に向けて

ーーこれからEVeMでマーケティング組織を拡大させていくにあたって、富家さんが大企業でのマーケティングの経験をどう生かして行くのか、非常に楽しみです。

そうですね。大企業とベンチャーを比べる構図でお話をしてきましたが、どちらも状況に応じて戦い方を変え、いかに柔軟に対処していくかが大事であることに変わりはありません。分業化はひとつの効果的な手法ですが、構造上発生してしまうデメリットを理解し、手を打ち続けることが重要です。

3人で立ち上げたマーケティングチームが約30人にまで拡大し、全社組織でマーケティングの仕事をしていた環境から1人目マーケターになってみて、たくさんの気づきや学びにあふれています。これからも自身の経験を自分の言葉でお伝えしていきたいと思っています。

また、現在EVeMでは、私と一緒にマーケティング組織を担ってくださるマーケターを募集しています。少しでも興味を持たれた方、ぜひ一緒に働きましょう!

株式会社immedio 浜田氏、株式会社EVeM 富家氏

ーーありがとうございました!

【immedio 浜田氏・取材後記】

富家さんのX(旧Twitter)を拝見していると、さまざまな経験や取り組みをされていてぜひお話しを伺いたいと思っていました。実際にインタビューすると、マーケターのリアルな仕事の現場と奮闘の様子が伝わってきて、悩みを持つマーケターの方の参考になったのではと思いました。

大企業からベンチャーに行きたいという人にもぜひ読んでもらいたいと思います。

事業理解・顧客理解が重要ということに入社後2ヶ月でたどり着いているのが、さすがPDCAをまわすのが早いなと感じました。代表の長村さんが事業理解・顧客理解を優先事項とし周りもサポートしている、その環境も素晴らしいですね。

メンバーそれぞれが学び続けることも大切ですが、やはりビジネスのゴールに向け、いかにマネジメントしアラインするかということが重要だと再認識しました。分業型組織においてもメンバーが1つのゴールに向かい行動できる体制や思想、マネジメントのありかたについては今後も模索していきたいテーマのひとつですね。

マーケターの方はもちろん、マネージャーや部長という立場の方にとっても示唆に富むお話しだと思います。

【「売れる組織」徹底研究 特集一覧】


この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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