インタビュー

歯車を噛み合わせ、組織全体で成果を出す(コニカミノルタジャパン・富家 翔平さん)

歯車を噛み合わせ、組織全体で成果を出す(コニカミノルタジャパン・富家 翔平さん)

BtoB企業のマーケティング担当者に、これまでのキャリアや仕事のやりがいについてインタビューする連載企画「マーケのキャリア」。今回は、コニカミノルタジャパン株式会社でマーケティングセンター マーケティング企画部 部長を務める、富家翔平さんにお話を伺いました。

富家翔平さんのマーケターとしてのキャリアは、大手テレビ通販会社でスタートしました。その後、広告代理店でマーケティングコンサルタントとして経験を積み、コニカミノルタジャパン株式会社にBtoBマーケターとして入社。マーケティング組織を立ち上げ、現在は事業横断型の全社マーケに取り組んでいます。BtoBマーケティングに関する情報発信も積極的に行う、富家さんのキャリアを紐解きます。

  • コニカミノルタジャパン株式会社 マーケティングセンター マーケティング企画部 部長 富家翔平(ふけ・しょうへい)

    コニカミノルタジャパン株式会社 マーケティングセンター マーケティング企画部 部長

    富家翔平(ふけ・しょうへい)

    1990年生まれ。大阪府出身。株式会社ジャパネットたかたのマーケティング、広告代理店でマーケティングコンサルタントを経験した後、コニカミノルタジャパン株式会社にてマーケター・プリセールスに従事。「営業プロセス改革×マーケティング推進」プロジェクトを牽引し、マーケティング組織の立ち上げを担う。マーケティングセンターの新設にともない、全社マーケとして、事業部と連携した戦略的なマーケティング施策の実行による事業貢献に挑戦している。BtoBマーケティング・セールスをテーマにしたイベントやセミナー、メディアへの登壇実績多数。Twitter:@fuke_tomiya

目次

富家さんのキャリアアップのポイント

  • 学生時代から、リーダーとしてチームを勝利に導くのが好きだった
  • プリセールスの経験を通し、先に顧客の役に立ち後の商談へつなげていく経験を積んだ
  • 組織間を調整し、歯車を噛み合わせることこそがマーケティングの役割だと気づいた

チームを勝利に導くのが好き。持ち前のリーダー気質がマーケターのキャリアにつながる

ーー富家さんは、学生時代からマーケターを志していたのですか。

コニカミノルタジャパン株式会社でマーケティングセンター マーケティング企画部 部長を務める、富家翔平さん

いえ、学生時代に「マーケターになりたい」と考えたことは一切ありませんでした。大学では経営にかかわる経済学を学んでいたのですが、今のキャリアにつながっている感覚は全くありません(笑)。どちらかというとサークルをつくったり、文化祭で出し物の企画をしたりすることに精を出していました。

ただ振り返ってみると、子どものころからリーダーとしてチームを引っ張ることが好きで、それが今の仕事に生きているのかもしれません。生徒会長や体育祭の団長など、気が付けばリーダーをやっている性格でした。目立ちたいからという理由ではなく、それが自分の得意なことだと思っていたからです。野球でたとえると、「4番のホームランバッターでなければ嫌だ!」とは思っておらず、いざというときに自ら犠牲になってチームに貢献するバント職人でも構いませんでした。各メンバーが役割を全うし、チーム全体で勝つこと自体によろこびを感じてきました。

マーケティングも、全体を俯瞰しながら、個々のメンバーや各部署の持つ力を最大化し、組織全体を勝利に導く仕事です。勝つために必要であれば、担当が決まっていない業務まで率先して引き受けます。そういう意味では、持ち前のリーダー気質がマーケティングのキャリアにつながっているといえそうですね。

ーーマーケティングに携わるようになったきっかけを教えてください。

新卒で入社した大手テレビ通販会社で、インターネットの部署に配属されたのが、いわゆるマーケティングという仕事との出会いでした。リスティング広告やアフィリエイト広告などを運用し、商品の売上を伸ばすというミッションに就いたのです。CV(コンバージョン)を因数分解し、PV(ページビュー)やCTR(クリック率)に調整を加えると、リアルタイムで売上の数字が変わる。どの変数をどう動かせば、どのくらい数値に影響するかという感覚を掴んだのは、この時期でした。

その後、デジタルマーケティングに関するスキルをさらに伸ばしたいと思い、広告代理店に転職しました。入社後間もなく別の大手総合広告代理店に常駐し、マーケティングコンサルタントとして勤務することになりました。今でも覚えているのは、初めて作成したクライアント向けのレポートを、当時の上司に真っ向から否定されたことです。自分の実力のなさはもちろん、望んでいたとはいえ想像よりも過酷な環境に大きなショックを受けました。圧倒的な実力と実績を持つマーケターたちに揉まれに揉まれ、自分のレベルを相対化できたことでマーケターとして大きく成長できました。

BtoBマーケティングの知識ゼロで、新規サービスを立ち上げ

コニカミノルタジャパン株式会社でマーケティングセンター マーケティング企画部 部長を務める、富家翔平さんのこれまでのキャリア

ーー広告代理店でマーケターとしてキャリアを積む中で、コニカミノルタジャパンに転職されたのはなぜですか。

コニカミノルタジャパンの事業責任者の方から声をかけてもらったのがきっかけですね。当時のコニカミノルタジャパンは、営業プロセスの改革、新規事業の開発や拡大を図ろうとしているなかでした。その一環でBtoBマーケティングの支援サービスを立ち上げようとしており、「チャレンジしてみないか」と言われたのでとりあえず「行きます!」と返答しました。

でも実は当時、BtoBマーケティングについての知識が全くなかったのです。「リード」「MA(マーケティングオートメーション)」「セールスフォース」といった必須単語さえ知らない。クライアントワークの経験は重ねていたものの、健康食品業界や金融業界の顧客が多く、BtoBマーケティングの領域における経験はありませんでした。

ーーBtoBマーケティングの知識がない中、サービスは順調に立ち上げることができたのですか。

全くうまくいかず、文字通り失敗だらけでした(笑)。BtoBマーケティングを支援するサービスを立ち上げるといっても、そもそもサービスの中身も明確ではありませんでした。専任のプリセールスは自分だけだったので、商談をつくるために手段を選んでいる余裕もありません。MAでメールを送り、反応があったリードに順番に電話をかけたのですが、「お前は誰だ」という調子で無下に扱われて……。最後には電話するのが嫌になってしまいました。

そこで思い切って方針を転換し、顧客から「話を聞きたい」と連絡してもらうにはどうすれば良いかを考え、架電をセミナーに切り替えました。マーケティングにおける自社や自分自身の成功経験、失敗経験をノウハウとして伝え、共感していただく中で顔と名前を覚えてもらうようにしました。そうした活動を通じて少しずつ「話を聞きたい」という問い合わせが増えてきて、とてもうれしかったですね。

セミナーで顧客と接点が持てるようになってからは、好循環が生まれていきました。顧客から聞いた悩みを、コンテンツや自社のサービスに反映することで、ほぼ指名で受注をもらうようになりました。リードや商談を取るためだけにセミナーをやっていれば、このような結果にはなっていなかったでしょう。「顧客が求めていることは何か」という問いに向き合い、応えたことがよかったのだと思います。顧客の声を聴き、先に役に立つことで後の商談や受注につなげていくという経験は、その後のマーケティングキャリアにも生きています。

BtoBマーケティングは、組織の歯車を噛み合わせる仕事

ーー現在は、マーケティングセンターの企画部長として、全社マーケティングに取り組まれていると伺いました。

そうですね、マーケティングの責任者として統括する範囲がだんだんと大きくなっていきました。最初は事業部内の一つのサービスにおけるマーケティング担当者に過ぎなかったのですが、マーケティング組織を形づくっていく過程の中で、事業部全体のマーケティングを見るようになりました。現在は、マーケティングセンターの新設にともない、主力事業である情報機器事業のマーケティング全体を推進する役割を担っています。

マーケティングセンターは、事業部と営業部のハブとして、マーケティングの機能を組織の中に組み込むことで事業を推し進めていく組織です。いわゆる「全社マーケティング」と呼ばれる組織や機能なのですが、できたばかりで決まっていないことが多々あります。そのため、「マーケティングセンターとは何をする組織なのか」「全社マーケティングで何を目指すのか」「具体的な目標やアクションは何か」を固め、社内に向けて宣言し、実行するために動き始めた段階です。例えば、社内の顧客資産(ハウスリスト)を活用したクロスセリングの実現などが具体的なテーマですね。

ーーマーケティング組織は、他部署との調整が難しそうだと感じますが、いかがですか。

4つの壁を突破し成果創出へとつなげていく

本当に本当に難しくて、たくさんの失敗を重ねてきました。例えば営業に対して「SQL」「MQL」「ナーチャリング」といったマーケティング用語を振りかざし、知らないことを心のどこかで馬鹿にしたり、事業責任者の想いや考えを充分に理解できていないのに、営業戦略やマーケティング施策について評論家のようなコメントをぶつけたり……。その結果、社内から総スカンを食らい「あいつを外せ」と言われたりもしました。今思えば、そう言われても仕方がないことばかりやっていたので、嫌われるのは当たり前ですよね(笑)。ただ、当時は本当に辛かったです。

その数々の苦い失敗を通して、現場の意見を尊重することの重要性に気が付くことができました。顧客や成果にコミットしているのは誰なのだという話です。その人たちの意見も聞かないで理想論や理屈、施策だけを押し付けても、成果はもちろんアクションにもつながりません。まずは現場の想いを無下にすることなくしっかりと聞き、その想いを実現するための方策をマーケティングも一緒に考えて一緒に実行する。それがとても大切なんだと思うようになりました。

ーーマーケティングというと、各指標の数字を分析して施策を立てるイメージが先行しますが、富家さんはより俯瞰的な視点を持っているように感じます。

実は僕は、データに向き合うのが一番苦手です(笑)。もちろん、数字は重要なファクトですし、軽視しているわけでもありません。ただこれまでの経験から、「成果を出すために必要な変数は何か」を考えたときに、数字が常に重要であるとは限らないなと感じるのです。細かく数字を分析して、それらを根拠に改善を重ねていくことももちろん重要ですが、大きな成果を出すためには、細かい数字や単体の施策といったミクロの視点だけでなく、事業や会社の全体というマクロな視点で見て、すべての歯車をうまく噛み合わせることも必要だと考えています。

成果を出すための変数

事業のフェーズ、チームの状態、施策・取り組み、実行力という歯車がすべて噛み合うことで成果は生まれていきます。事業のフェーズにマッチしないチームが組成されている中で単体の施策だけが跳ねても仕方がないですし、そもそもやるべき取り組みをできるだけの実行力がなく、現在のメンバーで「できること」をやっていることも多い。俯瞰した組織がないと、その状況に気が付くことすら難しいこともあります。だからこそ、全体を見渡した上でそれぞれの歯車を噛み合わせるために動くのが、マーケティング組織の存在意義だと考えています。

「組織肯定感」を上げることが、マーケティングのマネジメントにおける最重要課題

コニカミノルタジャパン株式会社でマーケティングセンター マーケティング企画部 部長を務める、富家翔平さん

ーー全社マーケティングの取り組みを行うにあたって、マーケティング組織内部の統率も課題となってきますね。

そうですね、特に「組織肯定感」をどのように上げていくかということに、頭を悩ませています。全社マーケティングの組織や機能はゼロからつくっているため、全社マーケティングとしてやりたいことを関係部署に対して説明し、協力してもらい、実行していく必要があります。

ただ、基本的には各部署から嫌がられます。最初から感謝されることはまずありませんね。理由は、各部署が変化することを提案しており、どうしても現状否定のメッセージが入ってしまうからだと思っています。そもそも全社機能が「従来のやり方にケチをつける人たち」というイメージもあるので、現場からはあまり歓迎されておらず、そうしたリアクションをされて落ち込んでしまうマーケティングメンバーがいるのも事実です。

そうした状況の中では、誰よりも自分たち自身が、自分たちの活動が会社や事業に貢献していると信じられなければ、変化を推進する心が折れてしまいます。僕は勝手に「組織肯定感」と呼んでいるのですが、マーケティング組織として強くなっていくためには、一人ひとりのメンバーが組織肯定感を胸に、マーケターとして成長していくことが大事だと思っています。

それぞれのメンバーの角度と速度、タイミングに合わせて、成長を後押ししていきたいですね。角度は目標とする姿で、速度はその目標に達するまでの時間、タイミングは目標に向けてスタートする時期です。それらを見誤ると、過度なプレッシャーを与えてしまったり、逆に負荷が軽すぎてやりがいを感じてもらえなかったりすることになりかねません。マネージャーとしてしっかりと意識して臨みたいです。

ーーマーケティング組織を統括する立場として、意識していることはありますか。

組織を構成するメンバーのタイプとアサインメント、WILL(意志)・CAN(能力)の状態を見極めることですね。例えば、立ち上げフェーズの組織にプレイヤータイプしかいないとなると、リーダータイプのアサインが必要です。メンバーの意志や能力もまだまだこれからという場合は、外部からしっかりとしたサポートを得る必要がありますし、意志はあるが能力が満たない場合は、外部からオペレーション機能を補うのが得策でしょう。事業のフェーズや組織の状態を正しく見極めたうえで、適切な解決策を見いだすことを意識しています。

少し別の話ですが、正解が見えないなかで意思決定するしかない状況下では、より所となる価値観がとても重要だと思っています。そのため、マーケティング組織にミッションと行動指針をつくりました。これにより、自分たちがやるべきことややらないことを決める際のスタンスを明確にすることができたのです。迷いが生じにくくなることで、アクションそのもののスピードを上げるのに役立っています。

自らの経験を発信することで、さまざまな組織での議論を深めるきっかけをつくりたい

ーー今後の目標を教えてください。

まずは、全社マーケティングで目指しているものを実現していきたいですね。歯車を噛み合わせるというのは、まさに「言うは易く行うは難し」です。組織間の調整をするのも、現場から信頼を得るのも、一朝一夕にはいかない。時間がかかることにやきもきすることもありますが、焦らないようにと自分に言い聞かせています。

個人としては、全社マーケティングの取り組みについて情報を発信していきたいと思っています。以前、自分自身が悩んでいた経験から、BtoBマーケターとしての仕事の全体感を伝えるnoteを書いたところ、大きな反響をいただきました。「チーム全体に共有しました」という声もいただき、自分のnoteがみなさんのマーケティング活動に役に立っているかもしれないという感覚が芽生えました。全社マーケティングの取り組みについては、手触りのあるコンテンツがまだ少ないと思っているので、僕が自らの経験を発信することで他の方々の参考になればうれしいですね。

ーー最後に一言、メッセージをお願いします。

BtoBマーケターというのは、全体を俯瞰しながら、「これ誰の仕事なの」という仕事を率先して拾い上げ、推し進める人だと考えています。成果を出すには、他部署や他メンバーの力を借りなければいけないため、その分大変なこともあります。でもだからこそ、受注という成果が生まれたときに、全員でよろこび合えるたのしさがあるのです。

今、BtoBマーケティングに携わっている方も、これから携わる予定の方も、チーム全体でよろこびを分かち合えるたのしさを感じて欲しいなと思います。

ーーありがとうございました!

富家さんのある日のスケジュール

7:00 起床。子どもたちの準備と自分の準備を大慌てでこなす
8:30 読書タイムや散歩、Twitterのタイムライン確認などのその日の気分でしたいことに充てる時間です
9:00 出社は週に1回程度なので、在宅で勤務開始。
10:00 定例MTG:活動の進捗や、企画会議、部内への報告など
11:30 メンバーとの1on1:お互いに外を歩きながらオンライン1on1をすることもあります
13:00 施策担当者とイベントの目的や内容を考え、企画概要に落とし込んでいきます
15:00 ハウスリストの統合と活用に関する社内向けの説明会を実施する
16:00 セミナー共催企業との企画に関する打ち合わせ
17:00 Twitterにて、学んだことや気づきをツイートする
18:00 メールチェックと翌日のスケジュール、全体のタスクを確認して、翌日のタスクをセットします
18:30 誰にも邪魔されずに資料作成に集中します
20:00 夕食後、子どもたちをお風呂に入れる。歯磨きなどをして寝かしつけ
21:00 複業でご一緒させていただいている方との打ち合わせやその仕事をします
23:00 ゲーム仲間とボイスチャットをつなげながらゲームする
1:00 就寝

キャリアを培ったと思えるおすすめ書籍

  • 竹村 俊助「書くのがしんどい」
  • 森岡 毅「マーケティングとは「組織革命」である。」
  • 福田 康隆「THE MODEL」

コニカミノルタジャパン株式会社
事業内容:複合機(MFP)・プリンター、印刷用機器、ヘルスケア用機器、産業用計測機器などの販売、並びにそれらの関連消耗品、ソリューション・サービスなど。新規注力事業の強化・拡充のための開発、企画、マーケティングなど。
本社所在地:東京都港区芝浦1-1-1 浜松町ビルディング 26F(総合受付)
設立年:1947年10月
代表取締役社長:一條 啓介
従業員数:3,362名(2022年4月現在)
https://www.konicaminolta.com/jp-ja/

【取材・執筆:山田奈緒美、編集:BeMARKE編集部】


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BeMARKE編集部
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