基本ノウハウ
営業の人材育成は年々、難易度が上がっています。部門責任者やマネージャーは育成計画の見直しに乗り出したものの、「どこをどのように変えれば良いか、よく分からない」という方もいるでしょう。
本記事では営業担当者の育成方法や、計画の立て方について解説します。営業部門で働く人材の育成難易度が上がっている原因や、新人・若手を戦力へ成長させるコツもあわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
とある実態調査によると、33.0%の営業組織が育成に課題を感じている※1という結果が出ています。
※1出典:株式会社UKABU|営業育成に関する実態調査2022より
インターネットが普及した現代では顧客の購買行動が変化し、営業担当者の役割が情報提供から価値提供へシフトしました。それにもかかわらず営業スキルにばらつきがあり、一部のトップセールスに頼っていると安定的かつ継続的な売上目標の達成は難しくなります。
まずは多くの営業組織が育成に課題があると感じているのはなぜか、原因を外的・内的の2つに分けて見ていきましょう。
営業担当者の育成難易度が上がっている外的な原因としては、生産技術の発達やグローバル化、異業種の参入などが挙げられます。これらにより製造コストが低下、企業間の差が縮まり、製品やサービスの機能性をアピールするだけの営業担当者では売れなくなっているのです。
その上インターネットの普及により、製品・サービスの情報収集や比較検討を顧客自らが行えるようになりました。逆に情報があふれるあまり「何が自社にとって最適か」が分からず、そもそも自社の課題が不明瞭な顧客すら増えているのです。
そのため営業担当社は単に情報提供するのではなく、伴走しながらともに課題を洗い出し、最適な解決策を提案する力が求められています。このような営業スタイルはソリューション営業とも呼ばれ、これからますます需要が増えてくるでしょう。
営業担当者の育成難易度が上がっている内的な原因としては、リモートワークの普及が挙げられます。
対面でのコミュニケーション機会が減少したことで上司や先輩からフィードバックを受ける、営業会議などで意見を交わすという機会も少なくなりました。その結果新人や部下が営業スキルについて、上司や先輩から学ぶ場が減っているのです。
また以前よりも「1つの会社に勤め続ける」という働き方が減り、人材の流入と流出が激しくなっている点も育成難易度に影響しています。
指導側には新人や中途採用者の戦力化に向けて、早期の人材育成が求められます。しかし教育体制の構築が不十分、あるいは指導側のマネジメント力が不足していると育成が行き届きません。すると新人や若手のモチベーションは低下し、離職につながるという悪循環に陥ってしまうのです。
このような事態を避けるためにも、指導側は現状に合わせて既存の育成計画・方法を見直しましょう。
営業担当者の育成方法としては、主に次の3つが挙げられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ロールプレイングは営業担当者の育成方法として最もスタンダードであり、さまざまな顧客や状況を想定しながら営業トークを疑似体験します。実際に取り組む予定の商談に近い条件を設定することで、リハーサルとしても活用できるでしょう。
またロールプレイングには、次のようなメリットもあります。
ある程度経験を積んだ担当者でも、ロールプレイングを通して自身の営業を振り返って新たな気づきを得られるケースも少なくありません。そのためロールプレイングは新人・若手だけでなく、全担当者を巻き込んで定期的に行いたい方法といえます。
OJTは実務を与えるなかで、営業に関する知識やスキルを学ぶ手法です。実務に即した教育のため、実践的な知識やスキルを身に付けやすい、1to1の教育体制により相手の理解度に合わせて指導できるといったメリットがあります。
リモート環境下であればオンライン商談での同行を増やす、商談内容を録音・録画して共有するといった方法でOJTを進めることも可能です。
ただし1to1の方法ゆえに、学べる知識やスキルは指導者の力量に大きく左右されます。新人や若手の担当者が成長するためには、指導側の継続的なスキルアップも必要です。可能であれば複数人による教育体制を構築し、偏りなく幅広いノウハウを身に付けられるように配慮しましょう。
OFF-JTは実務外の時間に座学や研修などを通して、体系的な知識やスキルを学ぶ手法です。OFF-JTのメリットは身に付けておきたい知識やスキルについて、経験年数や役職など階層別に分けて伝えられる点にあります。
しかしOJTにくらべると、OFF-JTは資料の準備や開催時間の調整など指導側の負担が大きい傾向にあり、実施している企業はあまり多くありません。そのような負担を軽減させるためには、外部の研修を受けられるよう調整するのも1つの方法です。
例えば下記のサイトでは、営業部門に関連する公開セミナーがまとめられています。
自社でのOFF-JTが難しい場合は営業部門や個々の担当者における課題を洗い出した上で、改善のヒントを得られそうなセミナーへの参加を調整しましょう。
営業部門の育成計画は、下表のような手順で立てられます。
手順 | 実施内容 | |
---|---|---|
1 | 営業計画の立案 | 「どのような成果を上げたいか」というゴールから逆算して、必要な人材像を明確にする |
2 | 現状分析 | 必要な人材像と現在の営業担当者にどのようなギャップ(課題)があるか抽出する |
3 | 営業プロセスの整理 | 好業績者の勝ちパターンを踏まえ、2で明確になった課題の改善策を検討・営業プロセスに反映する |
4 | インプット内容の明示 | 営業プロセスの実行に必要な知識、スキルを洗い出す |
5 | 育成プロセスの設計と運用 | 4で明確になった知識やスキルを習得する育成手法を検討・実施する |
育成計画の立案後は、担当者の成長具合や営業目標の達成度合いを踏まえて定期的に見直すことも大切です。
最後に営業担当者の育成を成功させるコツを、5つ紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
営業担当者の育成を成功させるためには、指導側が下表のような新人が陥りやすい悪習慣を理解し、未然に防ぐように動く必要があります。
できる営業の良い習慣 | できない営業の悪い習慣 | |
---|---|---|
1 | 「失敗は成功のもと」と考え、思い切って行動する | 失敗のリスクばかりが先行し、なかなか行動できない |
2 | 自分の行動・言動に責任を持つ | うまくいかないと周りのせいにする |
3 | 安定的にパフォーマンスを発揮できるよう、実現可能性の高い計画を立てる | 成り行きまかせ、行き当たりばったりな計画を立てる |
4 | 定期的にPDCAサイクルを回す | 現状に満足し、成長しなくなる |
5 | 顧客視点で考える・話す | 自分本位のコミュニケーションを取る(ノルマクリアのために押し売りが強くなるなど) |
6 | 過去のデータや経験をもとに、精度の高い仮説を立てられる | 自分に都合が良い仮説と提案により、顧客からの信頼を得られない |
習慣は言葉や行動に表れるため、「でも○○すると、失敗するかもしれません」「これは向こう(顧客)がいけないんですよ」などの言動や態度が見られたら要注意です。上記のような悪習慣に陥っている可能性があるため、早期かつ継続的に介入し、考え方を改められるよう支援しましょう。
営業担当者の育成方法はさまざまありますが、日報で双方向のコミュニケーションを取ることも新人や若手の指導で有効です。
ホウレンソウが大事だと上司・部下ともに理解しつつも、実際は「今忙しいから後で」「忙しそうだから聞きにくい」と互いに実践できていないケースが少なくありません。そのような場合は、日報に「相談したいこと・反省」「上司からのFBコメント欄」などを設けて、口頭以外でも相談しやすい環境を作りましょう。
双方向のコミュニケーションが活発になれば、上司は部下の動きをよく把握し効果的なアドバイスが可能です。部下も上司に見られているという安心感とほど良い緊張感を得られ、前向きに業務へ取り組めます。
営業日報は単なる報告書にとどめるのではなく、コミュニケーションツールの1つとして大切にしましょう。
リモートワークが普及した近年では、営業担当者の育成においてもオンラインツールを活用し、情報共有の回数やスピードを上げることも重要です。情報共有に役立つオンラインツールとしては、主に次のようなものが挙げられます。
特にSFAは案件の進捗状況をリアルタイムで把握・共有し、FB(フィードバック)を行う上で大いに役立つでしょう。
営業では定期的にPDCAサイクルを回す必要がありますが、それは育成においても同様です。営業担当者は自身のスキルアップに向けて、営業マネージャーはマネジメント力の強化を目指してPDCAを回しましょう。
また組織単位では、営業計画や営業プロセスの見直しにPDCAサイクルの適用が有効です。
自社だけでは十分な育成体制を整えられない、あるいは指導者の業務負担が大きい場合は、営業コンサルティングの利用がおすすめです。営業コンサルティングとは営業活動を支援するサービスであり、下記のような人材育成についても支援を受けられます。
また第三者の目が入ることで、自社内だけでは気づけなかった課題を発見・改善できる点も営業コンサルティングのメリットです。
営業の人材育成はさまざまな外的・内的原因により、難易度が年々上がっています。このような状況の中、新人や若手の担当者を戦力へと成長させるためには、働き方や取り巻く環境に合わせて見直した育成方法が必要です。
教育に割くリソースが少ない場合は、情報共有を効率化するツールの導入や営業に特化したコンサルティングも役立ちます。いずれにおいても大なり小なり費用がかかるため、人材育成における課題をしっかりと洗い出し綿密な計画を立てたいところです。
部門全体のパフォーマンスを上げて安定的な売上目標の達成に向けて、営業担当者の育成を進めていきましょう。