基本ノウハウ
生産性の向上は事業目標を達成するのはもちろん、企業が成長する上で必要な要素です。営業部門においても同様に重要ですが、「どこから手をつければ良いか分からない」という方も多いでしょう。
本記事では営業生産性とは何か、効率化との違いを踏まえながら解説します。生産性が低下する理由のほか、向上させる方法と成功事例もあわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
営業生産性とは投資と成果、2つのバランスを見る指標であり、営業ROIとも呼ばれます。ここでは基礎知識として、次の3つについて解説します。
後述する営業生産性を向上させる施策を深く理解するためにも、1つずつチェックしていきましょう。
営業生産性は「業績÷コスト」の計算式を使うことで、具体的な数値の測定や比較が可能です。計算式は「アウトプット÷インプット」とも表現されます。
営業生産性におけるアウトプットとは業績や売上成果を指し、インプットはアウトプットを生み出すために投入した費用や時間です。小さなインプットで大きなアウトプットを生み出せると、生産性が良いと判断できます。
営業生産性を計算する際に大切なのは、要素ごとに細分化することです。例えば世界的なトップ企業の1つであるマッキンゼーでは、下図のように細かく分解しています。
※1出典:Makinsey&Company|日本の営業生産性はなぜ低いのかより
細分化することで課題がどこにあるか見えてくる、とマッキンゼーは伝えています。営業生産性の向上は個々の担当者へ高パフォーマンスを求めるだけでなく、営業全体から詳細へ考えを巡らせながら改善策を検討することが大切であるといえるでしょう。
残念ながら日本の労働生産性は、世界的に見ても低水準の状況が続いています。時間あたりの労働生産性は38か国中27位、1人あたりの労働生産性は38か国中29位といずれも1970年以降の調査で最も低い順位※2です。この順位は主要7か国(G7)の中でも、最下位※3となっています。
※2出典:公益財団法人日本生産性本部|労働生産性の国際比較2022より
※3出典:Makinsey&Company|日本の営業生産性はなぜ低いのかより
日本は今後ますます少子高齢化が進み、人材の確保や育成の難易度がさらに上がります。それは営業においても同様であり、時間あたり・1人あたりの生産性を向上させないと事業存続も難しくなりかねません。
企業が成長し続け未来に生き残る上で、営業生産性の改善は早期かつ積極的に取り組みたい課題といえるでしょう。
生産性向上と効率化の違いは、その目的にあります。効率化とは業務に必要な人的・時間的リソースを下げること、いわゆるインプットを減らす施策です。つまり効率化は、生産性向上を実現する手段の1つとなります。
営業生産性が低い理由として挙げられるのは、主に次の3つです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
営業生産性が低い理由の1つに、目標やプロセスが不明瞭という状況があります。そもそも営業戦略が立案されておらず、「数打てば当たる」というスタイルの営業を続けているケースです。このようなケースでは生産性向上の実現はもちろん、顧客の購買行動が変化した近年では売上そのものが見込めません。
また見込み顧客の属性や検討段階など、状況に合った営業手法がルール化されていないケースも多いでしょう。
個人のスキルや経験に任せた属人的な営業スタイルでは、生産性が低い営業担当者は放置気味になり、トップセールスに売上を頼る形になります。このような状況ではトップセールスが異動・退職した瞬間に売上が大幅に落ち、事業存続の危機に陥りかねません。
部門全体で安定的かつ継続的に成果を出すためには、目標やプロセスを明確化し、属人的な営業スタイルから脱却する必要があります。
営業生産性が低い原因は、書類作成や会議の時間が多い点にもあります。そもそも営業担当者は下記のように、こなすべき業務が多種多様です。
顧客に直接関連のある業務 | 顧客との関連が薄い業務 |
---|---|
・商談
・見積書の作成 ・営業データの入力 ・契約書の作成 ・問い合わせ対応 ・納品 ・請求 など |
・社内会議
・打ち合わせ ・勉強会 ・日報の作成 ・経費の精算 ・研修資料の作成 ・会議場所への移動 など |
そのため日本の典型的なBtoB企業の営業担当者は、顧客へ営業活動できるのが勤務時間の約10〜25%といわれています。一方海外企業の中には社内業務を削減し、勤務時間の半数を営業活動にあてられるよう、営業生産性を改善させたところもあるようです。
※4出典:Makinsey&Company|日本の営業生産性はなぜ低いのかより
日本の営業部門も海外の先進的な企業のように、担当者がコア業務に集中できるような施策を打ち出す必要があります。
生産性が低い理由として、営業活動の管理が不十分なケースも少なくありません。
例えば案件の優先順位が定まっておらず、受注確度の高く大きな売上が期待できるターゲットにアプローチできていない場合があります。また顧客や商談の情報が整理されていないことから、問い合わせ時に適切かつ迅速な対応ができず商機を逃しているケースもあるでしょう。
さらに案件管理の効率化に役立つツールを導入していない、あるいは導入していても上手に活用できていない企業も見られます。
例えば既存の業務フローに合うよう過剰にカスタマイズしてコストが増大したわりには、機能を最大限使えていないケースです。ツールのデータをエクセルにエクスポートして作業するといった、非効率な方法を取ってしまう企業もあります。
上記のような事態を避けるためには営業活動の管理体制を整えるのはもちろん、新しい方法やツールの定着を目指して入念かつ慎重に準備を進めることが大切です。
営業生産性を向上させる方法はアウトプット(業績)を上げる、インプット(コスト)を下げるの2つに大別されます。具体的な施策は主に次の5つです。
なお施策の効果はアウトプットとインプラントのいずれか一方に出るものもあれば、両方に発揮されるものもあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
目標やプロセスを明確化して生産性を上げるためには、営業戦略や営業計画の見直しが必要です。まずは現状の営業活動について個々の担当者へヒアリングしつつ、細分化した営業ROIと照らし合わせながら課題を整理しましょう。
担当者が適切なアクションを実行できるよう、営業プロセスの見える化も進めましょう。トップセールスのノウハウを共有・反映することで、全営業担当者のパフォーマンス向上につながります。
営業生産性を向上させるためには、各担当者のスキルアップを支援する教育体制の構築も重要です。一人ひとりのスキルが上がりパフォーマンスが改善されれば、1人あたりの売上が上がります。すると人件費も下がり、営業コスト(インプット)の削減が進むでしょう。
営業生産性の向上には、業務の効率化をサポートする体制づくりも必要です。例えば書類作成など周辺業務を請け負う支援組織があれば、担当者は顧客への営業活動に注力できます。
また見込み顧客の検討段階を引き上げ、受注確度が高まった時点で営業担当者(フィールドセールス)へパスするインサイドセールスの設置も有効です。いずれにしても各組織が最良のパフォーマンスを発揮できるよう、業務遂行の基準となる営業計画や営業プロセスの整備もあわせて進めましょう。
ツールの導入も業務の効率化を実現し、営業生産性の向上につなげる上で有効な方法です。具体的には次のようなツールが挙げられます。
特に対面での営業機会が減少したパンデミック以後は、上記のようなツールを活用してリモートに対応しつつ、定型業務を自動化して効率を上げることが大切です。特に案件管理をエクセルで進めているという企業は、営業データの入力や共有がスムーズなSFAを導入すると良いでしょう。
最後に営業生産性を向上させた成功事例を、2つ紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
NECソリューションイノベータではパンデミックによって展示会やセミナーが開催できなくなり、例年よりもリード獲得数が70%も減少していました。そこで「営業1人あたりの生産性を上げる」をテーマに、営業DXの推進をスタートします。
ウェビナーやWebサイトを活用して顧客接点を100%デジタル化した結果、新規のリード獲得数が対前年比で1.2倍にまで回復しました。また見込み顧客のうち99.7%はデジタル接点であり、リード獲得コストは対面営業中心の頃より70%も削減できたとのことです。
株式会社三菱UFJ銀行はリモート環境下における営業生産性の向上を目指して、2021年より営業DXサービス「Sansan」の利用を開始しました。2022年には全行員約3万人にスマートフォンを貸与し、いつでもどこでもSansanへアクセス・操作できる環境を整えています。
また同ツールでは複数の情報ソースを元に、最新化する機能が備わっています。そのため顧客データのメンテナンス工数が大幅に削減し、業務の効率化に貢献しているとのことです。
営業生産性の改善は売上目標の達成だけでなく、今後ますます人材確保や育成が難しくなる将来に備えて早期に取り組みたい課題です。しかし日本の営業現場では書類作成や案件管理などが非効率な方法で進められており、生産性が低い現状があります。
このような事態から脱却するためには営業戦略から業務を見直し、個々の担当者が最良のパフォーマンスを発揮できるような環境づくりが必要です。時には新しいツールを導入し、業務の自動化・効率化を図る必要もあります。
営業生産性を向上させたい方は現状を良く分析した上で、実現可能性の高い改善策を検討していきましょう。