基本ノウハウ
Webマーケティングは近年、BtoB領域でも広がりを見せています。しかし馴染みがない方にとっては、「なぜそこまで注目されているのか」「実際に取り入れる場合、どこから手を付ければ良いのか」などの疑問があるでしょう。
本記事ではBtoBにおけるWebマーケティングの重要性や、2023年最新のトレンドを解説します。成功・失敗事例を踏まえたコツや注意点も、あわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
まずは基礎知識として、以下の3つを押さえていきましょう。
Webマーケティングとは、Web上で完結するマーケティング施策です。見込み顧客の獲得から育成まで幅広いシーンで活用でき、表示回数やクリック率などから効果測定と施策の改善を素早く行える特徴があります。代表的な手法は、以下の通りです。
BtoBにおけるWebマーケティングの重要性を理解するために、以下の2つを見ていきましょう。
BtoBビジネスとBtoCビジネスの違いは、下表の通りです。
BtoB | BtoC | |
---|---|---|
顧客数 | 少ない | 多い |
購買単価 | 高い | 安い |
購買の目的 | 課題の解決 | 体験や保有、課題の解決 |
購買を決定する主要人物 | 担当者や決裁者など複数 | 本人1人 |
検討期間 | 長い | 短い |
BtoBとBtoCとではビジネスの特徴が異なるため、マーケティングの戦略や施策の方向性も変わってきます。
例えばBtoBマーケティングでは顧客数が少ない分、取引金額が大きい既存顧客と長期的かつ良好な関係を維持する施策が重要になります。対してBtoCマーケティングでは、不特定多数の認知獲得から売上につなげるためにオフライン広告などのプロモーション施策が有力です。
BtoBマーケティングの詳しい内容は「BtoBマーケティングとは?全体像がつかめる図解と実践的なフレームワークで分かりやすく解説」をご参考ください。
BtoBでWebマーケティングが重要になった背景には、顧客の購買行動の変化があります。以前は営業担当者が企業にとって貴重な情報源でしたが、現代ではインターネットで顧客自ら調べ製品・サービスの比較検討が可能です。Webで何をどのように情報提供するかが、売上を左右する時代になりつつあります。
また、企業が売上を拡大していくためには、大量の見込み顧客を効率的に創出する、PDCAを素早く回して施策を改善するといった営業組織の生産性向上が必要です。しかしテレアポや訪問営業など従来の営業方法だけでは、1日にアプローチできる人数は限定的な上、効果測定が難しいデメリットがあります。
Webマーケティングの施策は大量かつパーソナライズしたアプローチが可能であると同時に、分析や効果測定を経て確度の高い見込み顧客を確保しやすいメリットがあります。さまざまなWebマーケティング施策を通じて継続的に接点を持ち続けられる点も、検討期間が長いBtoBビジネスにおいて有効です。
Webマーケティングを経て受注確度が高い見込み顧客が引き渡されることで営業担当者も商談に集中でき、業務効率化と生産性向上を実現できます。顧客数が少なく検討期間が長いBtoBビジネスだからこそ、企業全体で成果を上げる上でWebマーケティングは重要な戦略といえます。
BtoBマーケティングとWebマーケティングの違いは、目的や施策を展開する範囲にあります。BtoBマーケティングは受注までの各工程を最適化するための手法であり、オンラインとオフラインはもちろん、営業活動の改善も含まれます。
一方BtoBにおけるWebマーケティングとは、Webの範囲内で上記のプロセスのいずれかを改善する手法です。BtoBマーケティングに、BtoBのWebマーケティングが内包されていると考えると分かりやすいでしょう。
ただしほとんどのBtoBビジネスは、リード獲得から受注までの過程で「営業が商談する」という工程を経ます。そのためBtoBのWebマーケティングは、あくまで商談までの工程について成果を最大化・効率化する手段とも表現できます。
Webマーケティングには特徴が異なるさまざまな施策があるため、何を実現したいのかを整理してから取り組む施策を選ぶことが大切です。ここでは下表に挙げる9つのWebマーケティング施策について、概要や特徴などを解説します。
施策 | かかる費用 | 成果が出るまでにかかる時間 | 成果のインパクト |
---|---|---|---|
Webサイト改善 | △ | ◯ | ◯ |
SEO | ◯ ※内製の場合 |
☓ | ◯~△ |
ホワイトペーパー制作 | ◯ ※内製の場合 |
△ | △ |
事例コンテンツ制作 | ◯ ※内製の場合 |
△ | ◯ |
SNS運用 | ◯ | ☓ | ☓ |
メールマーケティング | ◯ | ◯ | ◯ |
ウェビナー | ◯ ※内製の場合 |
△ | △ |
SNS広告 | △ | ◯ | △ ※潜在層向けがメインのため |
リスティング広告 | △ | ◯ | ◯ |
Webサイト改善とは、見込み顧客の受け皿となる自社サイトをブラッシュアップする施策です。特に改善によって成果に直結しやすいのは、コンバージョンに近いサービスページの改善とお問い合わせフォームの改善(EFO)です。
他にも、Webサイトを改善するにあたっては以下のようなチェックポイントが挙げられます。
改善にはサイト分析やコンテンツの変更・追加などに人的・金銭的コストを要し、成果が出るまでに時間もかかります。しかしWebサイトは企業の顔となるだけではなく、見込み顧客の集客先として設定される拠点でもあり優先度は高いといえるでしょう。
サイト改善のポイントやEFOについて知りたい方は、以下の記事をぜひ参考にしてください。
SEO(検索エンジン最適化)とは、検索上位の掲載を通じて自社サイトへの流入数を増やす施策です。上位表示するためには、顧客の悩みを解決する良質なコンテンツの制作・改善を中長期的に行う必要があります。
ターゲットは検索キーワードによって異なるものの、潜在層から顕在層にまで幅広くアプローチ可能で、継続的にコンテンツを配信することで以下のような効果が期待できます。
デメリットは、効果が表れるまでに時間がかかる点です。新規サイトでは効果が出るまで1年以上、既存サイトでも3カ月〜半年はかかるケースも少なくありません。
内製と外注どちらを取るかによって必要な人員体制も変わってくるため、ノウハウが不十分で不安がある場合はSEOに強いマーケティング支援会社へ依頼するのも良いでしょう。SEOの基礎知識について振り返りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
ホワイトペーパー制作とは、見込み顧客の課題解決につながる有益な情報を資料としてまとめて提供する施策です。ホワイトペーパーのテーマとしては、以下の例があります。
ホワイトペーパーの提供は自社サイトにダウンロードページを設ける、あるいはメルマガなどからダウンロードページへ遷移させる方法が主流です。顕在層の獲得施策としてはインパクトが薄いものの、フォーム入力を通じた顧客情報の獲得や興味関心の醸成に向いています。
自社特有のノウハウがある場合は内製することで、低コストかつ独自性の高いホワイトペーパーを作成できるでしょう。ホワイトペーパーの作り方などについて知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
事例コンテンツ制作とは、自社製品・サービスの導入事例を掲載する施策です。掲載先としては、以下が挙げられます。
既存顧客へインタビューし、得られた声を踏まえて制作するため、内製化しやすい傾向があります。見込み顧客からしても自社と似たような業界・業種の事例があれば、導入後のイメージがわきやすい分、成約の後押しにつながるでしょう。
導入事例の重要性や作り方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
SNS運用とは、主に認知拡大やWebサイトへの流入増加を目的としてSNSを活用する施策です。利用すべきSNSは商材によって異なりますが、主に以下の5つが活用されています。
ただしアカウントのフォロワー数が増え、SNS特有の拡散力を生かせるようになるまでには非常に多くの時間がかかります。内製化できれば低コストで運用可能なものの、定期的な効果測定とコンテンツ配信を中長期的にできる人員体制を整えることが必要です。
SNSを活用したマーケティング戦略について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
メールマーケティングとは、メールを利用して見込み顧客を育成する施策です。主に次のような方法があります。
配信するメールは顧客の検討段階に合わせてカスタマイズしやすいため、長期にわたって継続的なアプローチが可能です。また配信内容を工夫すれば、既存顧客のアップセル・クロスセルや休眠顧客の掘り起こしにもつなげられます。
配信先の管理などにはメール配信システムなどのツールの導入が必要であり、多少のコストはかかります。しかし配信内容はテンプレートを作成しておくことで一から作る必要がなくなり、配信作業にかかる業務負担の軽減が可能であるため、工夫しだいで業務を効率化できるでしょう。
BtoBにおけるメールマーケティングの進め方などを知りたい方、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
ウェビナーとはZoomなどを利用して、Web上で開催するセミナーです。オンラインゆえに、全国の見込み顧客へアプローチできる点が最大のメリットです。会場を押さえる費用が不要となるため、機材さえそろえられれば低コストで開催できます。移動にかかる時間や費用がかからない分、顧客側も参加しやすい点もメリットです。
またセミナー後のアンケートも、オンラインツールで対応可能です。紙面アンケートよりもデータの収集や分析を進めやすく、セミナー開催関連の業務を大幅に効率化できます。
なお参加する見込み顧客は認知段階から比較・検討段階までさまざまなため、ウェビナーの開催テーマにもよるものの、必ずしも顕在層の獲得には直結しません。ただしウェビナーを通じて得られた顧客情報や声は、メールマーケティングなど他の施策を展開する際に役立ちます。
ウェビナーのメリットや開催方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
SNS広告とは、各SNSのタイムラインに表示される広告です。次項のリスティング広告と異なり、表示に際して検索や閲覧といったユーザーのアクションを必要としません。その分幅広いユーザーにリーチしやすいメリットがあります。主な課金タイプは、以下の通りです。
課金タイプ | 課金されるタイミング |
---|---|
インプレッション課金 | 広告が1,000回表示されるごと |
クリック課金 | 広告がクリックされるごと |
動画再生課金 | 動画広告が視聴されるごと |
潜在層がメインターゲットのため、顕在層の獲得についての効果は限定的ですが、新しい需要の喚起を狙う際にはSNS広告が活用できるでしょう。SNS広告の導入メリットや主要な媒体の特徴を知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてください。
リスティング広告とは、検索結果画面に表示される広告です。主に顕在層をターゲットとして、自社サイトへの流入や製品・サービスの認知拡大を図ります。リスティング広告に向いている企業や商材の例は、以下の通りです。
配信中は広告がクリックされる分だけコストがかかり、競合他社が強いあるいは多いとクリック単価が跳ね上がるケースも少なくありません。また出稿を停止すると効果がなくなるため、持続的な費用対効果が期待できないデメリットがあります。
ただし即効性はないものの中長期的な効果が期待できるSEOと併用できれば、互いのデメリットを補完する使い方が可能です。リスティング広告とSEOの関係性や仕組みについて知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
ここではBtoBのWebマーケティング成功事例を、3つ紹介します。
jinjer株式会社は、クラウド型人事労務システムを展開するSaaS企業です。サービスのローンチにともなって新たにマーケティング部を立ち上げましたが、メンバー内でマーケティング経験があったのは3名中1名だけでした。
このような状況でアウトバウンド施策だけ進めるのは「いずれ頭打ちになる」と想定し、中長期施策のオウンドメディアに注力します。具体的にはオウンドメディアの指標をCVとしつつ、サービスサイトとキーワードのバッティングを最小限に押さえて流入増加を図りました。
2年後にはオウンドメディアを軸に施策を多角化、特にウェビナーやebookに力を入れ、ターゲットの幅を広げることに成功します。スピンアウトした2021年以降も事業フェーズや市場の変化などを敏感に感じ取り、その都度施策を適正化しながら顧客基盤の拡大を進めているとのことです。
株式会社うるるは、BPO事業やSaaS事業などを手掛ける企業です。2019年2月より電話の一次受付サービス「fondesk」の提供をスタートしたものの、電話代行の検索ニーズが少なく、サービスの認知拡大について課題がありました。
そこで同社が実施したのは、記事広告の出稿です。記事広告とは、お役立ち情報など通常の記事と同じような形を取りながら自社製品・サービスを紹介する広告を指します。
同社は電話代行の潜在的ニーズを顕在化させるために、ターゲットが仕事の情報源としている媒体(LIGブログなど)へ掲載しました。その結果月間の指名検索数は30倍に成長し、100件以上の契約も獲得したとのことです。
株式会社バルサーは、無人化・セルフ化機器販売事業やメディア事業などを展開する企業です。Webマーケティングが台頭する前からWebサイトを複数運営し、SEO対策を進めてきました。
パンデミック以後は自動化への関心が高まり、Webサイトへのアクセス数は40〜50%アップ、問い合わせ数も前年比で約2倍となりました。しかし問い合わせ数が増えるにつれて、資料請求のみなど受注確度の低い見込み顧客も多くなり、営業チームの業務が圧迫されます。
そこで同社はリードの質を改善するために、Webサイト改善に乗り出しました。具体的な改善策は、以下の通りです。
またどのサイトにも必ずある、ファーストビューの問い合わせボタンをあえてなくすといった大胆な改善施策も実行します。その結果リードの質向上と、営業対応の負担軽減を同時に実現しました。現在も自社製品・サービスの利用に必要な情報を、Webサイト上で得られるよう日々工夫しているとのことです。
最後に、BtoB企業でWebマーケティングを失敗しないために押さえたい注意点を3つ解説します。
まずは自社のターゲットに対して、Webマーケティングが機能するかを調査しましょう。例えば以下のような場合はターゲットがWebサイトを見ない可能性が高く、Webマーケティング本来のメリットが生きてきません。
場合によっては、展示会などのオフライン施策などを実施した方が有効なケースも多々あります。マーケティング戦略を検討する際は、主要なターゲットと接点を持つにはどのような媒体にあたるべきか、Webマーケティングだけではなくオフライン施策も含めて入念にチェックしましょう。
BtoBのWebマーケティングを失敗しないためにも、専任の人材を採用あるいは外注で確保しましょう。Webマーケティングの業務内容は多岐にわたり、兼務で実施するのは難しいためです。
Webマーケティングに精通した人材が社内にいない場合は、支援会社に外注します。ただしマーケティング支援会社へ業務を丸投げすると長期的にコストがかかる上、社内にノウハウが蓄積しません。将来的な内製化に向けて、専任の社内担当者がノウハウを学習できるよう体制を整えることも大切です。
Webマーケティングを実施する際は、「いつまでにどのようなことをやって、どれくらいの成果が出る見込みなのか」を営業チームや関係部署・上層部に理解してもらうように説明する必要があります。Webマーケティングの施策によっては、成果が出るまでに時間がかかるものも少なくないためです。
例えばマーケティングの進捗によっては、急に商談がたくさん入るケースがあります。逆に受注までの距離は遠いものの、長期的には受注する可能性のある「まだまだ客」が増える可能性もあり、営業チームにも状況を定期的に伝えることが大切です。
また費用対効果が出るまでに時間がかかる場合は、成果創出に向けて施策を続ける上で上層部の理解は不可欠です。逐一成果を報告することはもちろん、マイルストーンを置いて今どの段階にいるのかを明示しましょう。
Webマーケティングはパンデミック以後ますます増え、BtoB領域でも拡大しています。
とはいえ効果がありそうだからとやみくもに手を出しては、どれも中途半端な結果になりかねません。まずは自社理解を深め、Webマーケティングを通じて何を実現したいのかを整理してから取り組むことが大切です。
BtoB領域の売上を上げていきたい企業は営業部門や経営層の理解を得ながら、自社に合ったWebマーケティングを取り入れていきましょう。