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【入門】ABMとは?必要性が高まる理由やメリット、進め方からツール活用まで分かりやすく解説

【入門】ABMとは?必要性が高まる理由やメリット、進め方からツール活用まで分かりやすく解説

近年、BtoB企業における効果的なマーケティング手法の1つとして注目を集めている「ABM(アカウントベースドマーケティング)」。ABMとはターゲット企業からの売上の最大化を目指す手法です。BtoBマーケティングを行う上で、ぜひ把握しておきたい手法の一つです。  今回はABMの概要から必要性が高まっている理由やメリット、進め方、ツール活用などを解説します。この記事でABMを正しく理解し、マーケティング戦略に活かしましょう。

目次

1.ABM(アカウントベースドマーケティング)とは

ABMの意味やリード(見込み顧客)を軸としたマーケティング手法「デマンドジェネレーション」との違いについて解説します。

ターゲットにした顧客(アカウント)からの売上の最大化を目指す手法

アカウントベースドマーケティング ー 特定企業への個別アプローチで売上を最大化する手法 ー

ABMとは、「ターゲットに設定した顧客(=アカウント)からの売上の最大化を目指す手法」です。ABMのポイントは、幅広い企業にまんべんなくアプローチするのではなく、大きな売上につながりそうな企業に絞ってアプローチすること。ABMでは、売上を上げる大きなポテンシャルを秘めた企業をターゲットとして設定し、マーケティング部門と営業部門が協働で課題やニーズを解決していくことで、売上の最大化を目指していきます。

デマンドジェネレーションとの違い

従来の、リード(見込み顧客)を軸としたマーケティング手法に「デマンドジェネレーション」があります。デマンドジェネレーションとは、メルマガやDM、セミナーなどを通してリードの獲得・育成・絞り込みを行い、営業社員に引き渡すマーケティング手法です。そんなデマンドジェネレーションとABMとの違いは、「アプローチの対象」です。デマンドジェネレーションのアプローチ対象はこれからリードになってもらいたい多数の新規顧客であるのに対し、ABMのアプローチ対象は厳選した既存の大口顧客や大口顧客と類似する新規顧客が中心です。

ファネルも下記の通り、ABMは三角形、デマンドジェネレーションは逆三角形になっています。これはデマンドジェネレーションが商品を認知してもらった見込み顧客を徐々にその数を絞りながら育成するアプローチであるのに対し、ABMは最終的に発注してもらうべき人を特定してから、その人に発注してもらうために関係構築が必要な複数の関係者を特定してアプローチするためです。

デマンドジェネレーション

デマンドジェネレーションが定置網を張り、誘い込んだ大量の魚の中からお目当ての魚を選別するのに対し、ABMは釣りたい魚が泳いでいる小さい範囲で仕掛けを施し、釣りたい魚やその魚が餌としている魚を追いかけるイメージです。

関連記事:デマンドジェネレーションとは?リードジェネレーションをはじめとする3つの要素を解説

2.ABMの必要性が高まっている理由

実はABM自体は決して目新しい手法ではありません。では、なぜ近年その必要性が高まっているのでしょうか。ここではABMの必要性が高まっている理由を2つ紹介します。

  • マーケティングツールの発展により最適なターゲティングが可能に
  • 事業部制組織の課題

マーケティングツールの発展により最適なターゲティングが可能に

ABMが注目される背景の1つにSFAやCRM、MAといったマーケティングツールの発展が挙げられます。

ABMを実践するためには、詳しい顧客情報や進捗状況の一元管理および部門間の共有が必須です。それらの情報をもとに、ABMでは最適な企業をターゲットに設定し、適切なアプローチを実行する必要があるためです。

マーケティングツールの発展により、顧客情報や進捗状況などの情報を簡単に蓄積・共有・分析できるようになり、適切なタイミングで最適なアプローチを実行しやすくなりました。つまり、豊富な機能を搭載するマーケティングツールがABMに取り組みやすい環境を整えたのです。

関連記事:SFAとは?CRMとの違いや現場に定着させるためのコツを紹介

事業部制組織の課題

ABMは、事業部間での連携や情報の共有がうまくいかないという事業部制組織の課題解決に役立ちます。事業部制組織では、事業部ごとにマーケティングプロセスが完了するため、隣の事業部が何をしているか把握していないケースが珍しくありません。例えば「A事業部がアプローチに苦戦していた対象が、B事業部の顧客だった」といった非効率的な事態が起きています。

ABMでは、マーケティングツールを活用して企業単位で顧客の情報を共有可能です。すでに関係を持っている事業部が他事業部に働きかけたり、活動情報から他の事業部が接触の糸口を見つけたりと、事業部間の連携強化が期待できます。

3.ABMには向き不向きがある

ABMという手法自体にデメリットや欠点があるわけではありませんが、ABMが効果的に作用する企業と作用しない企業があります。

ABMが向いている企業ABMが向いていない企業
・相応の売上額が期待できる大企業が顧客の中心  ・売上額の少ない中小企業が顧客の中心 
・複数の商材およびサービスを提供できる ・複数の商材およびサービスを持っていない 
・営業部門とマーケティング部門の連携が可能・営業部門とマーケティング部門の連携が難しい

ABMでは、基本的にはクロスセルアップセルなどの手法を用いて、売上を蓄積していきます。そのため、クロスセルやアップセルを実施できない、複数の商材・サービスを持たない企業はABMに向いていません。

また、ABMは少数企業からのリピート契約・購入が基本です。そのため、売上額の少ない可能性が高い中小企業が取引先のメインである企業はABMを実施しても、十分な成果を上げられない可能性があります。ABMを実施する際には、自社の顧客の規模や商品数などをよく確認するようにしましょう。

関連記事:アップセル・クロスセルとは?違いや注目される背景、活用事例を学ぼう

4.ABMに取り組むメリット

BtoB企業がABMに取り組むメリットは以下の2つが挙げられます。

  • 効率的なマーケティングを実現できる
  • 営業部門とマーケティング部門の連携が深まる

効率的なマーケティングを実現できる

ABMは主に大口の既存顧客(もしくは、大口になりえる既存顧客)をターゲットとして設定し、重点的にアプローチを行います。限られた自社のリソースを、大きな売上につながる可能性の高い企業に集中投下することで、効率的なマーケティングを実現することができるのです。加えて、アプローチする企業を厳選している分、細かく効果測定ができ、改善につなげやすいというメリットもあります。

営業部門とマーケティング部門の連携が深まる

ABMは営業部門とマーケティング部門が協力して実施する手法のため、両部門の連携が深まるというメリットがあります。デマンドジェネレーションに代表されるリードをベースにしたマーケティング手法の場合、分業体制で取り組むケースが多くなります。一方、ABMでは例えば営業部門とマーケティング部門が一緒にターゲット企業を選定し、売上を上げるための戦略を練っていくなど、両部門の連携が自然と増えていくため、その分連携も深まっていくのです。

5.ABMの実践方法と進め方

ABMを実践する方法を8つのステップに分けて解説します。

【STEP1】社内データを整理する 【STEP2】対象となる企業アカウントを選定する 【STEP3】ABMプロジェクトチームを立ち上げる 【STEP4】重要な意思決定を行う人々(キーパーソン)を見つける 【STEP5】施策を選定し届けるメッセージを決める 【STEP6】効果的なチャネルを決定する 【STEP7】ターゲット企業に合わせたキャンペーンを実行する 【STEP8】キャンペーンの効果測定と最適化を行う

【STEP1】社内データを整理する

まずは以下に挙げるような社内データの整理を行います。

  • 顧客データ(顧客数や顧客別売上額推移、商談履歴など)
  • 売上高目標
  • 今後の経営戦略
  • 獲得済みリードの基礎情報と関係性

これらのデータはSTEP2以降の手順で活用されます。時間がかかっても良いので、しっかり整理・収集しましょう。

関連記事:名刺整理の方法は?おすすめ名刺管理アプリ5選と選び方
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【STEP2】対象となる企業アカウントを選定する

STEP1で整理した社内データをもとに、アプローチをかけるターゲットを設定します。ターゲット企業は以下のポイントを含む企業を中心に選定しましょう。

  • 現時点で取引額の大きい企業
  • 将来的に大きな取引を継続的に見込める企業
  • リピーターになる可能性がある企業
  • 平均的な売上高および利益額を上回る可能性がある企業
  • 成長市場で活動している企業

上記ポイントを含む企業は、相対的に規模の大きな企業が多くを占めることでしょう。なお、ターゲットの設定はABMをうまく回せるかどうかを左右する非常に重要なステップです。営業部門とマーケティング部門に加え、場合によっては経営企画部門や事業企画部、役員・経営者などとよく話し合った上で選定することが重要です。

【STEP3】ABMプロジェクトチームを立ち上げる

ABM推進にあたっては、リード獲得、育成から選別に至る一連のプロセスを担うチームの立ち上げや、営業とマーケティングの部門間連携が欠かせません。

商材をターゲットに合わせてアプローチする際、相手の役職や部署によって訴求ポイントが異なります。部門ごとに異なる場当たり的な施策ではABMの効果が薄れてしまいます。

一貫性のある顧客体験を提供するには、営業とマーケティングが共通のゴールやKPIを設定し連携を強化することが重要です。

【STEP4】重要な意思決定を行う人々(キーパーソン)を見つける

ターゲットとなる企業における重要な意思決定を行う人物を見つけ出します。規模の大きな企業では複数人の意思決定者が存在します。今後のアプローチ手法を策定するためにも、キーパーソンの立場や役職を把握しましょう。

直接の接触が難しい場合は、営業による調査や外部の専門業者から情報を購入しキーパーソンを特定します。展示会やセミナーでの名刺交換などのダイレクトマーケティングやWeb広告出稿を通じて接触の機会を創出する方法もあります。

【STEP5】施策を選定し届けるメッセージを決める 

ABMでは、意思決定者やキーパーソンの興味を引くコンテンツを提供することが重要です。意思決定者が抱えているであろう課題を考え仮説を立てた上で効果的なメッセージやコンテンツの選定を行います。

自社の製品やサービスを見直し、意思決定者の課題に対する解決策を提案し価値のあるコンテンツを作成します。さまざまなアプローチを試し、効果を検証しながら最適なメッセージを届けることが大切です。

例えば、ターゲットに選定したリードへのアプローチ方法として、以下のような施策が考えられます。

  • A社との商談履歴やWebサイトのアクセス履歴から、商材Bに関心があると推測する
  • 商材Bに関する情報を適宜メールで送る
  • 状況に応じて営業社員がA社へ電話をかけてアプローチし、顧客化を目指す

ポイントはできる限り、その企業に向けた、オリジナルな施策・方法にすることです。どの連絡手段が最適なのかも含めて、アプローチ施策・方法は細かくかつ十分に検討しましょう。

また選定するチャネルにより届けるメッセージとコンテンツの内容が変わるため、ターゲットとのタッチポイントに最適な内容かどうかを考慮することも重要です。

【STEP6】効果的なチャネルを決定する

意思決定者やキーパーソンが日常的に接触する媒体や属する業界、役職を加味しチャネルを選定します。

チャネルには、メールや電話、Web広告やセミナー、紙媒体などさまざまな種類があります。ABMではアカウントを特定しているため「特定の企業にオフラインのレターを送る」といった方法も考えられるでしょう。

チャネルを絞り込むことでターゲットとの接点を強化し、効率的なABMマーケティングの実践につなげます。

【STEP7】ターゲット企業に合わせたキャンペーンを実行する

最適なコンテンツとチャネルを決定したら、意思決定者やキーパーソンに合わせたキャンペーンを実行します。

複数のチャネルでキャンペーンを展開する際は一貫したメッセージを発信することが重要です。またマーケティングテクノロジーを活用することで、大規模かつパーソナライズ化されたキャンペーンを効率的に実行できるでしょう。

【STEP8】キャンペーンの効果測定と最適化を行う

アプローチ施策後の売上・取引額の変化や接触回数、Webサイトの訪問回数など、施策の目標をどの程度達成しているのかを効果測定します。効果測定の結果を踏まえてPDCAサイクルを回し、適宜アプローチ施策を変更・調整しながらより効率的にABMを実施できるようにしましょう。

6.ABMに役立つフレームワーク

ABM戦略の策定に役立つフレームワーク3つを紹介します。

自社の現状把握に役立つ3C分析

3C(サンシー/スリーシー)とは自社周囲のマーケティング環境を示す言葉であり、市場・顧客(Customer)と自社(Company)、競合(Competitor)の頭文字に由来します。

3C分析はビジネスにおける主要かつ基本的な要素について網羅的に分析することから、マーケティング施策の根幹となる手法といえるでしょう。

3C分析の目的は、成功要因(KSF=Key Success Factor)の発見にあります。3C分析で他社との差別化ポイントや自社が生き残る要因を見つけ、マーケティング施策に反映します。

3C分析はビジネスの成功に向けた施策検討の中で、スタートラインとなるフレームワークといえます。

関連記事:【具体例付き】3C分析とは?目的・やり方を分かりやすく解説

業界内の競合分析に役立つ5 forces(ファイブフォース)分析

ファイブフォースとは、アメリカの経済学者マイケル・ポーター氏が1980年に出版した『競争の戦略』という著書の中で提唱したマーケティング戦略の考え方です。英語ではPorter's Five Forces Frameworkとされ、同じ業界内の外部環境を把握し、5つのForces(影響力)について分析するものです。

5つのそれぞれの影響力の強さや力関係を正確に把握すれば、業界内の構造の特徴や自社の強みを客観的に分析できます。ファイブフォースは、企業が経営戦略を設計したり、競合他社との差別化を図り、適正な利益を確保するうえで役立ちます。

関連記事:【経営戦略】ファイブフォースとは?5つの要素の分析方法・活用方法をわかりやすく解説

ターゲット特定に役立つSTP分析

STP分析は自社がアプローチすべき最適な市場を見つけられる、マーケティング戦略を立てる上で重要なフレームワーク(枠組み)です。顧客やニーズと自社の強みが合致し、かつ他社との競争に勝ち残れる市場を発見するために活用できます。また、分析結果を社内で共有することで方向性のズレも少なくなり、組織力の強化にもつながるでしょう。

分析する要素は、次の3つです。

  • セグメンテーション(市場細分化)
  • ターゲティング(市場の決定)
  • ポジショニング(自社立ち位置の明確化)

関連記事:【具体例付き】BtoBのSTP分析とは?やり方や注意点を徹底解説

7.ABM推進におけるツール活用

ABM推進においては、顧客データの分析が不可欠です。近年のマーケティングテクノロジーの進化により顧客データの分析業務が効率化され、ABMの成功事例も増加しています。ABM推進に役立つツールを紹介します。

ABM推進におけるツール活用①リード獲得・育成②商談③顧客維持、活用すべきマーケティングツールは

MA

MA(マーケティングオートメーション)は、見込み顧客の獲得・育成や営業がアプローチすべき顧客を見つける業務を自動化するツールです。MAはWeb上の行動やメールマガジンに対しての行動などを可視化し興味関心度合いの高い見込み顧客を抽出、Web上の行動に応じてあらかじめ設定した条件に基づきコンテンツを自動配信できます。

ABMでは、商談を進めるために、顧客の必要な情報を適切なタイミングで提供することが大切です。パーソナライズ化したコンテンツを適切に届けるためにも、顧客ごとのシナリオ設計を行う必要があります。

MAを活用することでマーケティングを効率化し、個々の顧客に合わせたコンテンツを届けることが可能です。

関連記事:MA(マーケティングオートメーション)とは?機能や選び方のポイントを解説

ABM

ABMツールは、企業ごとに情報をまとめ、ターゲット企業やキーパーソンの選定やエンゲージメントの測定などに役立つ、ABM戦略に特化したツールです。ターゲットとなる企業や重要な人物の選定にも活用できます。顧客の興味関心などの意図的な行動を分析することでABMを効率的に推進できます。

SFA

営業担当者の行動や見込み顧客との接触状況、商談結果、成約率などを一元管理し、チーム全体への共有やパイプライン管理に必要なデータの蓄積に役立つツールです。 

営業活動履歴から接触有無や頻度、受注・失注事例を抽出でき、ABMのターゲット選定やアプローチのタイミングや戦略策定に役立ちます。

SFAツール活用によるデータの蓄積と分析は営業・マーケティング業務の効率化につながり、部門間連携が欠かせないABMに適しているといえます。

関連記事:SFAとは?CRMとの違いや現場に定着させるためのコツを紹介

CRM

CRMツールは企業と顧客との関係性を管理し、良好な関係構築を実現するためのアプローチを実現するためのツールです。SFAツールが商談から受注に至るまでの営業と顧客の関係性を蓄積したものになるのに対し、CRMツールは、マーケティング活動から営業活動、既存顧客への対応などを包括的に管理できます。

CRMツールを利用して、既存顧客に的確なフォローアップを実施することで、最適なタイミングでアプローチできABMを効率的に進めることができます。受注後のフォロー状況や満足度、リピート率の管理などにも活用でき、顧客関係を強化しLTV向上に役立ちます。

関連記事:CRM選び方ガイド

8.まとめ

ABMはターゲットに選定した企業からの売上を最大限伸ばす、BtoB企業向けのマーケティング手法です。ABMを実践することで、効率的なマーケティングを実現できたり、営業部門とマーケティング部門の連携を強化できたりといった効果が期待できます。

一方、ABMは向き不向きのある手法でもあります。顧客に大企業が多い企業や複数の商材・サービスを提供している企業はABMとの相性が良いと判断されますので、ABMの導入をぜひ検討してみてはいかがでしょうか。


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この記事を書いた人

鈴木 舞
鈴木 舞 | BeMARKE編集長

BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。

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