Tips/寄稿
前回の記事「営業DXの切り札 - デジタルセールスルーム(DSR)とは?」では、デジタル化が進む中でのDSRの必要性や概要について説明しました。DSRは、デジタルとアナログを融合させた新しい営業スタイルを実現するためのプラットフォーム。BeMARKEの記事ランキングで1位を取り続けたことから、企業の営業DXを強力に推進する新しいツールとして注目を集めているのが分かります。
本記事では、弊社openpageにおける支援の中で見えてきた、DSR導入によって営業現場がどのように変化するのか、実際の営業のユースケースを深掘りしていきながら、営業組織としてのメリットを紹介していきたいと思います。
従来のアナログ営業では、商談は営業担当者と顧客との「対面コミュニケーション」が商談の中心でした。商品の説明や課題のヒアリング、提案資料の共有など、営業活動のほとんどがリアルな接点の中で行われます。そして、その商談の記録は営業担当者個人のメモやSFAへの簡易的な入力などでしか管理されません。営業現場ではSFAの入力漏れが頻発し、必ずしも組織的な管理がなされていたわけではありませんでした。
この状況では、商談の一部始終を可視化することは困難となります。提案内容の良し悪しや商談の進捗状況の判断は、営業担当者個人の経験と勘に頼らざるをえないものでした。顧客との接点が属人的となるため、営業ナレッジの共有や横展開も表面的になりがちで難しい。営業マネジメントも商談における提案内容を事細かに把握しているわけではないので、マネジャーの経験値を話すだけのフォローとなります。その結果として、組織としての営業力を高めていくことに限界がありました。
一方、DSRを導入した営業では、商談のあらゆる提案をデジタル化し、クラウド上に集約管理することができます。
DSRでは、商談の議事録や提案資料、ヒアリングや依頼の内容など、あらゆる営業提案情報がデータベース化され、営業と顧客双方が場所を選ばずにアクセス可能になります。DSRの実態はお客様に合わせた営業提案用の専用Webページなのですが、このDSRに記載された提案内容から商談の経緯を時系列で把握でき、案件の進捗や成約の可能性を客観的に判断できるようになります。
また、サイトの形で社内の誰もがその情報を共有できる特徴から、属人的な営業スタイルからの脱却と、組織営業力の強化が可能になります。担当者の休暇や突然の欠勤の際でも、引き継ぎがスムーズに行え、顧客対応に齟齬をきたすリスクを低減できます。
筆者自身、体調不良でお客様の商談を欠席せざるをえなかった日がありました。ただし、これまでどのように商談を進めてきたか、今回の商談ではどんなアジェンダで何を議論するかがDSRで詳細に記録されており、商談プロセスごとの営業の段取りをルールとしてまとめていたため、スムーズに他の営業担当が代わりに進めることができました。
DSRによる営業の見える化、デジタル化によって、営業活動の標準化と平準化を進めていくことができることが分かるエピソードだと思います。
DSRは、単なる営業支援ツールではありません。むしろ、営業組織に変革をもたらす「エンジン」と言えるでしょう。
DSRに集約された営業データは、生成AIなども活用した分析を加えることで、さまざまな営業ナレッジとして昇華させることができます。商談の進め方やセールスコンテンツの型化、顧客フォロータイミングの最適化、営業パイプラインの改善など、これまで属人的だった営業ノウハウの多くを「見える化」「再現可能な形」にしていくことが可能になるのです。
DSRにはそれぞれの営業担当が顧客に対しどのような提案やヒアリングを行い、情報提供してきたのかの履歴が詳細に蓄積されます。優秀な営業担当者の行動パターンを詳細分析し、それをDSRに落とし込むことで、個人の経験やスキルに依存しない、再現性の高い営業モデルを作り上げることもできるでしょう。
さらに、DSRのデータを顧客起点でひもといていくことで、より効果的なカスタマージャーニーを設計することも可能です。openpageでは法人営業における顧客側の購買体験を「バイヤージャーニー」と呼び、後述する購買プロセスに合わせたDSRの提案設計を行っています。
参考:DX時代の受注率向上に必要な「バイヤーイネーブルメント」とは?|openpage藤島氏に聞く
顧客にとって、従来は営業担当者ごとにバラバラだった¬顧客接点や提案内容を、購買の状況に応じてDSR上で統合して確認ができます。顧客の業務改善や課題解決につながる情報を、DSRを通じて営業が提供していくことで、顧客にとっての購買体験も飛躍的に高めていくことができるのです。体験が良くなるほどさまざまな関係者によって複数回視聴されてゆき、顧客の興味関心や導入意欲が見える化していきます。
こうした取り組みを通じ、営業組織全体の生産性とパフォーマンスを継続的に引き上げていく。営業だけではなく顧客にとっての体験も最大化していく。DSRにはこのような営業変革のエンジンとしての役割が期待されているのです。
DSR導入によるメリットは、営業データの急激な増加にも表れています。
従来のSFAでは主に取引先情報に加えて、商談ステージ、受注金額といった定量データを管理するのが精一杯でしたが、DSRではそれらに加え、提案内容や顧客の反応、やりとりの記録など、これまで可視化されにくかった営業情報までもデータ化されます。
従来のSFAによる営業データは、レポート・ダッシュボードを作成するための定量情報管理が中心となり、営業担当の連絡回数や受注の金額といった社内用の管理データが中心でした。もちろん定性情報の管理項目はあるのですが、営業担当からすれば普段の営業商談のプラスαの入力作業となるため、実態としては入力に抜け漏れ発生しがちで管理しきれていない営業組織のほうが多い印象です。
DSRは、顧客に向けての提案を「お客様向けのサイト」としてまとめて提供します。そのため、このDSRを通じて、これまでどのような提案をしてきたのか、どうアクションしてきたのかといった定性情報が大量に蓄積されます。営業データのボリュームが増えれば増えるほど、現場の意思決定をデータドリブンに、合理的に行えるようになります。
例えば、案件ごとの具体的なコミュニケーションのプラン、毎回の商談提案の進め方、ヒアリングの中身を営業データ分析し、営業マネジメントの最適化や営業育成の優先順位づけが可能です。
「ヒアリングはXXまで聞いたほうが良い」「2回目の商談のアジェンダにはXXの話も追加しよう」「◯◯さんは初回商談後のネクストアクションを改善すべき」など、営業の詳細にまで踏み込んで改善ができます。
あるいは、顧客の反応データから、どのようなアプローチが刺さるのかを類型化し、よりインパクトのある営業コミュニケーションを設計できます。データに基づいた科学的なPDCAサイクルを素早く回していくことで、営業プロセス全体の改善スピードは劇的に向上するでしょう。
「XXの情報がよく読まれているので、初回商談でXXの進め方を徹底しよう」「XXのような顧客の反応が良いので、XX業界へのフォローを優先しよう」など、顧客起点の営業改善が行えるわけです。
加えて、DSRに集まる情報は顧客の事業や業界の課題解決につながるインサイトの宝庫とも言えます。顧客からヒアリングした課題や、提案した製品への反応などの詳細情報が言語化されるからです。
これを経営や事業部門にフィードバックしていくことで、自社の製品・サービス開発や差別化戦略にも役立てることができるはずです。営業組織から企業全社の戦略を牽引していく。そんな展開も十分に考えられるのではないでしょうか。
DSR導入による営業変革は、すでに目に見える成果として表れ始めています。
これまでopenpageとの取り組みでDSRを本格導入した企業の事例を見てみると、平均で受注率が10%以上アップ、商談化率が25%以上アップ、顧客データ量が70%以上アップといったさまざまな数値で顕著な効果が確認されているのです。
現場の営業担当者からは、「提案力やフォロー力が格段に上がり、再現性を持って商談をまとめられるようになった」「顧客の事業課題起点で商談を進められるようになり、お客様から信頼してもらえるようになった」といった声がありました。
DSRは顧客に対しての提案の進め方を細かく言語化できるソリューションのため、型として再現性を持った営業を実現できます。また、DSRは営業だけでなく顧客にも提案や情報を共有し、あくまで顧客を起点に伴走していくためのツールのため、顧客の課題解決をする意識が大きく高まります。
営業マネジャーからも、「メンバーの行動やスキルが可視化されるようになり、育成すべきポイントが明確になった」「DSRのデータを使ってチーム内のベストプラクティスを共有。全体の営業力が向上してきた」と、DSRの導入効果を実感する声があがっています。
DSRにより提案やヒアリングなどの詳細な情報が蓄積されるため、マネジメントの効率や品質が高まっている報告は非常に多くいただきます。
経営層からは、「提案内容や顧客の反応など、これまでブラックボックスだった営業の現場が可視化され、戦略的な判断材料として活用できるようになった」との評価もありました。従来の営業手法以上に取得可能な営業データを起点に、トップダウンの戦略展開とボトムアップの現場改善を同期させ、営業組織全体の変革スピードを引き上げられると大きな期待を寄せるお客様もいます。
DSRが営業変革の起爆剤となるためには、システムの導入だけでは不十分です。「商談時の議事録やコンテンツを通じて、いかに顧客接点を強化できるのか」、その営業体験の設計こそが肝だと言えます。
営業プロセスは、(1)顧客が興味を持つ→(2)顧客が検討する→(3)顧客が発注するという購買プロセスに合わせた形で、商談のステップが進みます。それぞれの段階で顧客が必要とする情報ニーズは異なります。DSRの議事録やコンテンツを通じて、顧客の状況に応じて最適化した提案や情報を提供することで、顧客の購買プロセスを確実に次のステップに進めることができます。
例えば、初期の商品・サービスに興味を持つ前後のフェーズでは、顧客の事業課題を明らかにするためのヒアリングや、自社ソリューションの課題解決力を訴求する提案の議事録、顧客課題に応えることを証明できるノウハウが詰まったウェビナーコンテンツなどが有効でしょう。
顧客が検討するフェーズに入れば、顧客にとってのメリットや期待されるROIをより具体的に議論し、議論内容を議事録に記載して提示。あわせて、購買意思決定者のタイプに合わせた稟議情報や導入事例、競合他社との差別化ポイントなど、意思決定を後押しするコンテンツも盛り込んでいきます。
受注獲得に向けた最終局面では、スムーズな契約締結とスコープの確定に向け、見積書や契約書雛形、導入スケジュールやそこから逆算した依頼タスクなどを用意。ときにはトラブルシューティングのためのFAQやセキュリティ対応シート、導入後のオンボーディングプランニング資料なども必要になるかもしれません。
openpageの支援では、商談の議事録を顧客の購買プロセスに沿って準備できる体制作りから始めることが多いです。なぜなら、議事録は汎用資料にはない顧客の課題解決の参考情報となり、顧客にとってみれば自社の状況を打開するチャンスとなるコンテンツとなるからです。
そこから、商談の議事録を補佐するコンテンツを、優先度をつけながら追加し、そろえていくことで、顧客は商談のどの段階でも、適切な情報を迅速にインプットできるようになります。結果として、商談がまとまりやすくなり、商談成約率の向上とリードタイムの短縮化、ひいては顧客満足度の向上につなげていけるはずです。
DSRのもう1つの魅力は、いま利用しているSFAと相乗効果を上げる形で活用できる点にあります。
SFAは、企業の営業活動における定量的なデータを取得・社内管理することを得意とするシステムです。具体的には、商談の進捗状況(商談ステータス・商談ステージ)を管理し、それぞれの取引先との受注金額を管理。このデータ管理基盤を活用し、営業部門のKPI管理やオペレーション最適化に役立てられてきました。
これに対し、DSRは営業活動の定性的データを扱うのが特徴です。提案内容や商談経緯、情報提供として渡している資料や、提案への顧客の反応といった、従来は可視化されにくかった営業の生の情報をデータとして取得します。
このSFAとDSRのデータを統合的に分析することで、営業活動の改善はさらに加速するでしょう。
定量データから、「どの商品・サービスが売れ筋か」「案件規模や利益率が高い顧客は誰か」といったことが分かれば、DSRの定性データを使って「売れ筋商材の訴求ポイントは何か」「大口顧客の購買動機は何か」をひもとくことが可能です。
こうして定量の結果と定性のプロセスを分析し、改善するサイクルを繰り返すことで、営業戦略を合理的にブラッシュアップし、データに基づいてパフォーマンスを継続的に高めていけるはずです。
今後の営業組織は、SFAによる営業予実管理とDSRによる施策展開を連動させるようになるでしょう。例えば、受注が芳しくない商品について、DSRの顧客反応データを分析。効果的な営業改善施策を打ち、SFA上で速やかに成果を確認する。そうした小刻みなPDCAを回していくことで、営業目標の着実な達成を図っていくことができるのです。
DSRの導入は営業組織に大きなデジタル変革をもたらします。アナログ的な属人営業から脱却し、データドリブンな組織営業へとシフトする。それは、単に営業のデジタル化を進めるだけではなく、企業の生産性そのものを高めていくDX(デジタル・トランスフォーメーション)に直結する取り組みだとも言えます。
労働人口が減少していく未来が明確であり、足元で仕事のデジタル化が進み、顧客の購買行動もインターネットで大きく変容する時代において、従来型の足で稼ぐ営業スタイルでは通用しなくなりつつあります。DSRのようなデジタルな営業技術を駆使し、顧客起点で付加価値を提供し続けること。それこそが、これからの営業組織に求められるスタンスだと言えるでしょう。
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