Tips/寄稿
本記事では、今注目されているDSRの概要や特徴、導入効果などについて詳しく解説し、デジタル時代における新しい営業のあり方について考察します。これから営業DXを推進しようとする企業の担当者や、営業生産性を抜本的に変えたい経営者の方、新しい営業スタイルに興味がある方や、セールステクノロジーをキャッチアップしたい方など、ぜひ参考にしていただければと思います。
近年、デジタル技術の急速な発展により、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化しています。特に、新型コロナウイルスのパンデミックを機に、リモートワークやオンライン会議などのデジタルツールの活用が加速し、営業活動のあり方も大きな転換期を迎えました。
多くの会社がZoomやTeamsのようなWeb会議ツールを活用し、非対面での商談が当たり前になったのは劇的な変化です。営業活動における顧客体験として、足で訪問する商談から、PCの画面、つまりデジタル面を通してコミュニケーションをするという商慣習に変わったのです。
このような状況の中、注目を集めているのが「デジタルセールスルーム(DSR)」です。DSRは、言葉通りデジタルセールスを実現するための最新の営業支援ツールです。昨年のBeMARKEで執筆したDSRを紹介する記事は、DSRの潮流をキャッチアップしようと多くの方々が目にし、ランキングであまたある記事の中で毎月トップを連続して記録し、年間1位のPV数を達成しました。
また、日本を代表する大手企業であるキヤノンマーケティングジャパン社が初のセールステックへの出資をDSRベンダーであるopenpageに対して行い、全社的な営業活動のデジタル基盤として採用。販売パートナーとして名乗りをあげることで日本企業におけるDSRの注目度は飛躍的に高まりました。
営業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための革新的なソリューションとして、DSRは多くの企業から関心を寄せられています。
皆さんの生活の中で、うっすら感じとっているかもしれませんが、デジタル技術の発展にともない、世界のデジタルデータトラフィックは年々増加の一途をたどっています。1日のスケジュールの中で、仕事においてもプライベートにおいても、インターネットにつながる時間は長くなったなという感覚はあるのではないでしょうか。
データで見てみましょう。2020年から現在にかけて、全世界のインターネットトラフィックが3倍以上増加しており、2028年にはさらに現在の倍近くまで達すると予測されています。
プライベートではAmazonやNetflix、LINEなど、買い物からエンタメ、コミュニケーションまで1日中デジタルの体験をすることはおかしくありません。仕事においても、Web会議のツールや、SlackやTeamsのような社内チャットツールなどが仕事の基盤となっています。
実はMicrosoftのWordやPowerPointのようなツールもクラウド化が進み、業務中は常時インターネットに接続されているという状態に企業も変わりつつあります。
このようなデジタル化の加速にともない、営業活動のあり方も大きく変わりつつあります。大きな変化は、従来の対面型の営業スタイルから、オンラインを活用したリモート営業へのシフトです。特に、アフターデジタル時代と呼ばれる現在は、リアルとデジタルを融合した新しい営業スタイルが求められています。
こちらは「アフターデジタル オンラインのない時代に生き残る 著:藤井 保文」にて紹介されていた図を、引用して作成したものです。
従来はリアルの営業活動の中で部分的にデジタルを使う。例えばPDFをメールで送る、SFAにデータを記録するが、あくまで人が対面で商談しコミュニケーションを完結させるというものでした。これは営業DXと言うよりは営業活動における部分的なデジタル化です。
一方、デジタル化の重要性が増した「アフターデジタル」の世界観では、デジタルを起点とした営業活動の中で、デジタル営業がリアル営業を内包するという考え方を取ります。デジタルを中心に営業情報を提供し、リアルで人がサポートする。デジタル中心の営業スタイルです。
しかし、多くの企業では、従来の営業スタイルからの脱却が難しく、部分的なデジタル化にとどまっているのが現状です。対面での商談に依存したアナログな営業プロセスでは、営業の属人化や非効率化が課題となっています。また、営業活動のデータ化が進んでおらず、商談の進捗状況や顧客ニーズの把握が難しいという問題もあります。
これからのデジタル時代を生き抜くためには、デジタルを起点とする営業、つまり営業活動のDXが不可欠です。そこで注目されている最新トレンドが、デジタルセールスルーム(DSR)なのです。
デジタルセールスルーム(DSR)とは、営業活動をデジタル上で行うための仮想の空間です。商談の提案内容をクラウド上に集約し、顧客への情報提供をオンライン中心で行うことで、場所や時間にとらわれない柔軟な営業活動を実現します。
具体的に言えば、お客様ごとにアクセスできる専用のWebページを営業が手元で構築できます。この中に、商談における議事録や提案内容、ヒアリング内容や依頼事項などを整理し、お客様がいつでも閲覧可能な環境として用意。営業商談の後に見直していただく空間を作るという意味で「ルーム」という言葉が使われています。
DSRは、単なるオンライン会議ツールやファイル共有サービスとは異なり、営業活動に特化した機能を備えているのが特徴です。営業が担当する顧客ごとに、商談の記録や顧客とのやり取りをデジタルデータとして蓄積し、営業もお客様もいつでもどんな商談を双方で行っているか振り返られるようにします。
デジタルデータとして商談情報が蓄積されるため、今話題になっている「生成AI」を活用した分析によって、営業活動の効率化や最適化を図ることができます。顧客の興味や提案の中身を生成AIで分析することで、従来ではできなかった案件ごとの詳細なマネジメントや営業改善が行えるようになります。
加えて、DSRは営業プロセスのデジタル化を促進するだけではなく、営業活動の「見える化」を実現します。営業の提案内容はもちろんのこと、営業が行った提案に対する顧客の反応、顧客が抱えているニーズや購買意欲、関係者間での商談におけるモチベーションがリアルタイムで可視化でき、営業活動における適切な意思決定やアクションにつなげることができるのです。
DSRは、営業活動の歴史の中で必然的に誕生した画期的なソリューションといえます。従来のアナログな営業スタイルから、PCを活用したデジタル営業の時代を経て、今まさにDSRによる営業DXの時代が到来しているのです。
では、DSRは具体的にどのように営業活動を変革するのでしょうか。従来の営業スタイルとDSRを活用した営業スタイルを比較してみると、その違いは一目瞭然です。
従来の営業では、商談の内容や顧客とのやり取りは営業担当者の記憶や手書きのメモに頼ることが多く、情報の共有や引き継ぎが属人的で難しいという課題がありました。
また、商談後の顧客の動きは電話やメールなどで直接確認すること以外、把握する術がなく、商談の進捗状況や受注の確度を把握する上で非効率な面も少なくありませんでした。
一方、DSRを活用することで、営業活動のデジタル化が進み、さまざまなメリットが得られます。商談の記録や提案資料、顧客とのやり取りなどがデジタルデータとして蓄積され、営業チーム内での情報共有が容易になります。
また、顧客の提案への興味具合や意欲、依頼したタスクの進捗や関係者のアクションがデータで把握でき、営業の効率化が図れます。
DSRの大きな特徴は、営業が行った提案についての反応がデジタルデータで直接把握できる点にあります。openpageではカスタマー・レビューデータ(CRD)と呼んでいます。
BtoB法人営業においては一度の商談で発注が決まることはまずなく、提案を受けた顧客は社内で時間をかけて自社の業務の進め方や課題に即した製品・サービスなのか吟味します。また法人は合議制で発注を決めるため上司や経営陣、チームへ共有し、会議での説明というプロセスが必ず発生します。
従来の営業手法では、営業による提案後の顧客の動きがブラックボックスとなり実際の検討状況が見えませんでした。しかし、DSRでは実際に顧客が社内検討を進めるアクションをしているのかをデータで分析することが可能です。DSRには商談後に、顧客がどの時間帯に何の提案資料を何回読み直したかをモニタリングできる機能があり、営業はDSRのレポートから、顧客の反応や動きを把握できます。
このデータは顧客に直接デジタル接触するDSRでしか取得できないものです。openpageでは、DSRベンダーとしてすでに10万人近くの利用データが蓄積されており、ベンチマークとすべきKPIや指標を分析できています。
例えば、受注に至るプロセスの中では平均して10回以上のDSR視聴が確認されており、営業提案の有効性を数字で分析することが可能になりました。
DSRは自社で導入しているChatGPTやClaudeなどの生成AIと組み合わせて活用することで、さらに高度な分析が可能になります。商談データや顧客反応データを解析することで、営業活動の改善点や優先すべき商談の抽出、最適な営業アプローチの提案などが行えます。営業パーソンの経験や勘に頼るのではなく、データ・ドリブンな営業マネジメントが実現できるのです。
DSRを導入することで、営業マネジメントも大きく変わります。従来の営業マネジメントは、営業の口頭報告やSFAの記録を信じるしかなく、実際に顧客が提案にどのような反応を示し検討に向けてアクションを進めているかはブラックボックスとなっていました。しかし、DSRの導入によりカスタマー・レビューデータが取得できることで、商談後の顧客の動きが明確に可視化されます。
これにより、営業マネジメントにおける商談進捗の把握が容易になり、営業パイプラインの精度が向上し、営業マネジャーがチームの状況を把握しやすくなります。現場の営業担当者の感覚に頼らない、顧客起点のデータに基づいて適切なフィードバックやサポートを行うことで、営業チームのパフォーマンスを確実に向上させることができるでしょう。
実際にDSRを導入した企業からは、営業活動の大幅な効率化や生産性の向上が報告されています。DSRにより営業の提案の有効性が明確になるため、どう改善していけば良いのかのPDCAサイクルの精度は格段に上がります。
実際に、openpageでは、営業における提案内容、商談の進め方、ネクストアクションの切り方、情報提供の方法などを改善することで、商談化率を70%まで向上させ、受注率を25%まで改善できています。
openpageに資本提携を実施したキヤノンマーケティングジャパン社は、多くのセールステックのPoCを行う中で、群を抜いて効果があったと評価したのがDSRであり、DSRが新しい営業DXのスタンダードになることを期待されています。
DSRで如実に変わるのが、企業資産として獲得できる「顧客のデータ量」です。従来はSFAで顧客のデータを管理していた組織が多いと思われますが、SFAで管理できるデータには運用上の限界があります。
例えば、取引先データ、商談ステージデータ、取引金額データ、営業担当データなどはSFAで管理しやすい顧客データですが、これを超えた量のデータになると途端にSFAの記録量が減ってしまいます。営業に入力を促進してもなかなか記録されない状態に、思い当たる組織は多くあるのではないでしょうか。
SFAを入れてルールも定めたものの、なかなか営業現場での入力がされず、営業改善につながらないと嘆く組織は少なくありません。そのためSFAの記録項目を簡略化したり、記録する情報量を減らしたりと、本末転倒な取り組みも目立ちます。
一方、DSRは、営業提案やヒアリングを直接書き込んでいくツールのため、SFAで苦手とする定性的な顧客情報の蓄積が飛躍的に進みます。従来はPowerPointやメールで作成していた提案内容を、DSRで作成するだけですぐに営業組織にデータが蓄積されるようになります。
DSRは顧客の反応(カスタマー・レビューデータ)が取得できることが最大の特徴であり、営業提案に対して顧客がどれほど関心を示しているのかを把握できます。
このサイクルを繰り返すことで、合理的に営業の提案内容やヒアリング方法が洗練されていき、最短で営業力の向上を組織的に図ることが可能です。
このように、DSRで営業DXを実現する導入効果は多岐にわたります。顧客の状況や反応が企業資産として蓄積されるため、営業活動の効率化はもちろんのこと、顧客満足度の向上や新たなビジネスの創出など、企業の競争力強化に直結するデータ活用も可能となるでしょう。
自社にDSRを導入する際にまず重要なのは、導入の目的を明確にすることです。営業活動のどの部分を改善したいのか、どのような効果を期待するのかを具体的に定義する必要があります。
openpageではDSR導入そのものを目的とするのではなく、企業における営業課題を明確に言語化し、その課題解決に位置付けてプロジェクトを共に進めることを徹底しています。ツール導入が先攻するプロジェクトは失敗確率が高く、まずは自社の営業課題を整理することから始めるのをおすすめします。
DSRの選定においては、自社の営業プロセスや業務フローに合ったシステムを選ぶことが大切です。単にツールの機能や価格だけでなく、カスタマイズ性やサポート体制なども考慮しましょう。特にDSRベンダーのカスタマーサクセス(導入後の顧客支援)が成功の鍵を握ります。新しいツールの導入は営業現場の調整が必要となりますので、伴走支援の手厚さを重要視すべきでしょう。
弊社openpageは『実践カスタマーサクセス』(日経BP)の書籍を執筆しており、ツールの活用支援のプロフェッショナルとして支援することを約束しています。これまで大手企業から地方の中小企業、またスタートアップや行政など、幅広い企業・組織に対してDSRの導入を支援してきました。
導入支援の中で強く重要性を感じるのは、営業業務フローの変更について、「ハードル」や「ステップ」の考慮です。
営業の日常業務の進め方を変えるのは、DSRに限らず拒否反応を起こしやすいものです。変化のハードルを下げつつ、最終的な営業DXの絵姿に向かってロードマップを描き、営業現場と伴走していけるかが重要となります。その過程のマイルストーンやタスク、必要なノウハウ情報などを完備しているベンダーを選定すべきでしょう。
DSRを効果的に活用するためには、営業担当者の意識改革とスキル向上が欠かせません。デジタルツールに対する抵抗感を払拭し、データドリブンな営業手法を身につけるための教育・研修プログラムを用意することが求められます。
とは言っても、実際に重要なことは商談の議事録を残す、顧客ニーズに合わせた提案を作るという営業の基本です。DSR自体は実はWordより操作方法が簡単なほど使いやすいツールですので、操作は10分程度で覚えることが可能です。そのため、操作自体よりも、どのように顧客に価値のある提案や情報をつくり、提供するのかを磨くことがDSR成功の道となります。
「デジタル時代における営業活動の変革」は、もはやさけられない大きな潮流となっています。さまざまな企業が営業活動のデジタル化を模索し、競争し合う中で、デジタルセールスルーム(DSR)は、営業DXを実現するための強力なソリューションとして注目を集めています。
DSRを活用することで、営業活動のデジタル化による効率化だけでなく、データ分析に基づく意思決定の高度化、顧客の提案反応の見える化によるマネジメントの強化など、さまざまなメリットが期待できます。すでに多くの企業で、DSRによる営業生産性の向上効果が報告されています。データに基づく合理的な営業改善をすでに多くの会社が実現しているのです。
もちろん、前述の通り、DSRの導入にあたっては、目的の明確化や適切なシステム選定、運用体制づくりなど、いくつかの留意点があります。しかし、そうした課題を乗り越え、DSRを有効活用することができれば、競合他社を大きくリードし、顧客の営業体験をより良いものに刷新し、営業活動の大幅な改善と優位性の強化が期待できるでしょう。
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