基本ノウハウ
ユーザーのニーズが多様化している現代において、ターゲティングは事業の売上を左右する要素の1つです。しかし馴染みがない方からすると、「ターゲティングとは、どのような手法か」「何から始めれば良いのか」など疑問が多いでしょう。
本記事ではターゲティングとは何か、ペルソナとの違いを踏まえながら解説します。重要性が増している理由のほか、具体的なやり方や注意点もあわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
まずはターゲティングとは何か、基礎知識を解説します。重要性が増している理由や、ペルソナとの違いなどもあわせてチェックしていきましょう。
ターゲティングとは、市場を分析して属性情報・行動情報・ニーズなどさまざまな観点からグループ分け(セグメンテーション)を行い、その中から実際にアプローチする相手を絞り込む工程です。
例えばスズキ株式会社は、自動車という大きな市場の中でも、軽自動車ユーザーのセグメントを主要なターゲットに据える戦略を取ったことで有名です。軽自動車ユーザーという特定のセグメントにねらいを定め、集中的に経営資源を投下して高いシェアを獲得し、現在でも小型車の生産・販売に強みを持っています。一方で豊富な経営資源を持つトヨタ自動車株式会社は、複数のセグメントをターゲットに、さまざまなバリエーションの自動車を販売して業界トップの座を維持しています。「自社はどのような市場をターゲットにするのか」を決めることは、マーケティング戦略の基本ともいえる工程なのです。
なおターゲティングはSTP分析に含まれる工程の1つです。STP分析は以下のような流れに沿って情報を整理し、マーケティング戦略立案に役立てるフレームワークです。
STP分析のやり方や流れについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
関連記事:「【具体例付き】BtoBのSTP分析とは?やり方や注意点を徹底解説」
ターゲティングが重要な理由は、以下の3つです。
ターゲティングが重要である理由の1つが、ターゲットのニーズを具体化しやすくなる点です。ニーズが明確であれば、以下の工程における方向性もおのずと固まります。
ターゲティングを行っていない状態では、どのような属性を持ち、どのような状況に置かれているユーザーに対しての製品なのかを絞り込めていないため、ユーザーが何を求めているかを明確にできず適切なマーケティングが行えません。例えば同じ営業職であっても、中小企業に勤める40代の中間管理職と、大企業に入社したばかりの20代新卒の営業社員では、解決したい課題やニーズは異なるでしょう。1つの製品・サービスについて、同じ売り文句、同じアプローチ方法で両者に訴求できるかといえば難しいはずです。
属性や行動の違いによって、ユーザーが持つニーズはバラバラです。仮にすべての希望を叶える製品やサービスを提供しようとすると、開発・販促にかかる費用が莫大になります。また、対象を絞らない製品やサービスは誰のニーズも完全には満たさないため、特定のニーズに特化した競合製品に敵わず、誰の手にも取られなくなってしまいます。マーケティング戦略を効率的に進める上で、ニーズを具体化するためにターゲティングは重要なのです。
ターゲティングが重要な理由は、ROI(費用対効果)の最大化が期待できる点にもあります。そもそもROIの向上はコストを削減しつつ、売上が拡大することで実現します。
前述のニーズが明確になると、ターゲットに対してヒトやカネといった経営資源の集中的な投資が可能です。あいまいなターゲティングで試行錯誤するよりも、企画開発や販促のコストが下がります。またターゲティングがあいまいだと広く浅いリーチとなりますが、ターゲットを絞ると狭く深いアプローチが可能です。結果的にトライアル購入率やリピート率の向上が期待できます。
見込み顧客の減少を引き起こすように感じるターゲティングですが、ターゲットを絞るからこそROIの最大化が実現できるといえるでしょう。
ターゲティングが重要な理由は、経営陣をはじめ、開発やマーケティングなど多様な関係部門の意志決定を統一できる点にもあります。実際にターゲティングの有無によって、どのような違いが出てくるかを部門別に見てみましょう。
部門 | ターゲティングが機能している組織 | ターゲティングが機能していない組織 |
---|---|---|
経営陣 | ターゲットに合わせた戦略立案やリソース配分 | 顧客解像度が低い戦略判断 |
開発 | ターゲットニーズに合わせて開発優先度を決定 | ニーズに合致しない開発 |
マーケティング | ターゲットの興味関心が強い施策を実施 | 量のみを追う施策 |
営業 | 営業プランをターゲットに最適化 | 勘と経験にのっとった属人的な営業 |
ターゲティングが機能している組織では共通認識を持って業務にあたれます。部門同士の連携がスムーズになり、一貫性を持って施策を行えるため、結果的に高い成果につながるでしょう。
ターゲットがアプローチするセグメントを指すのに対し、ペルソナは実際に存在してもおかしくないレベルまで掘り下げてイメージした顧客像を指します。
ペルソナは顧客の属性・行動・価値観などをより具体的に作り込んでイメージするため、セグメントで考えるよりも社内で認識を統一させやすく、また「顧客はどう考え行動するか」の視点も働かせやすくなります。顧客理解を深める過程でペルソナは重要な役割を果たし、どのようなメッセージやアプローチであれば利用・購入につながるかといった、訴求力アップの戦略立案にも役立つのです。
ペルソナの作り方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「ペルソナの作り方とは?徹底解説【無料設定シートダウンロード】」
広告の出稿・運用においても、ターゲティングの手法は有効活用されています。ターゲティング広告は、配信相手や出稿媒体などの条件を絞り、ユーザーに合わせて適切な内容を表示する広告です。ブラウザやアプリでの識別情報をもとに、条件を満たしたユーザーへ広告を配信します。全方位に広告を展開するよりもコストを削減でき、CV率の向上も期待できます。
下記は、広告における代表的なターゲティングの例です。
種類 | 条件 |
---|---|
デバイスターゲティング | ユーザーが利用しているデバイスやプラットフォーム |
コンテンツターゲティング | 広告配信するコンテンツ(そのサイトやアプリ)の内容 |
サーチキーワードターゲティング | 特定のキーワードの検索履歴 |
行動ターゲティング | 商品の閲覧・購入などWeb上の行動履歴 |
デモグラフィックターゲティング | ユーザーの性別・年齢・地域・職業などの属性情報 |
ターゲティングを実際にどう行えば良いのか、やり方について下記の2つ解説します。
6Rはターゲティングを行う上で役立つフレームワークです。ターゲットはただ設定すれば良いわけではなく、利益を出せる市場なのか、競合はどうかなど複数の観点から検討する必要があります。
6R | 観点 |
---|---|
有効な市場規模(Realistic scale) | 売上が得られる市場規模か |
顧客の優先順位(Rank) | または、波及効果(Ripple Effect) |
製品やサービスに対する関心が高いか | 成長性(Rate of growth) |
競合(Rival) | 大きな地位を確立している企業はあるか |
到達可能性(Reach) | 容易にアプローチ可能か |
測定可能性(Response) | 施策の結果や効果を測定できるか |
基本的にターゲットとして優先すべき市場の特徴は、以下の5つです。
ただし、ニッチなジャンルで安定した収益を上げる、今後の市場成長を見越して先行投資する、といった方法もあります。
反対にターゲットとして選ぶのを避けた方が良い市場は、以下の3つです。
自社の経営資源とも照らし合わせ、戦略・施策の実現可能性が高く、売上も期待できるターゲットを選んでいきましょう。
ターゲティングの見直しなどを実施する際には、自社にとって受注率の高い「理想の顧客」をターゲットにできれば成功です。まず自社にとって「理想の顧客」を定義するために、以下のような手法で情報を収集・分析して改めて顧客の理解を進めましょう。
収集したデータを分析した結果、特に次のような条件に当てはまる企業は、自社にとって理想的な顧客である可能性があります。
集めた情報はエクセルやスプレッドシートなどで一覧化し、部署内だけでなく他部門とも共有できるよう整理すると良いでしょう。顧客分析のやり方やデータの集め方について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
関連記事:「顧客分析とは?データの集め方から活用できるフレームワークまで解説」
最後にターゲティング戦略における注意点を、2つ紹介します。
ターゲティングでは、すべての人をターゲットにするような考え方は避けましょう。マーケティング戦略やメッセージが散漫になり顧客の心に刺さらない結果、売上につながらないためです。
特に市場規模が大きい場合、すべての顧客を満足させられる製品・サービスの開発は一層難しく、セグメントを考慮しない「無差別型マーケティング」の実施は困難です。前述したトヨタのように、セグメントごとに提供する製品・サービスを変える「差別型マーケティング」もありますが、開発・流通ルートの確保などにコストが非常にかかり、大企業以外が取り入れるのは難しいでしょう。
効率的かつ効果的な戦略を実行するためには、スズキのように顧客層をターゲティングで絞り、リソースを集約させる「集中型マーケティング」がおすすめです。自社の既存顧客や経営資源などを踏まえながら、ターゲットの範囲を見極めていきましょう。
ターゲティングを含んだSTP分析で戦略の方向性を決めたあとは、実際にどう動くかという具体策(4P)に落とし込む必要があります。
4P | 概要 |
---|---|
Product(商品・サービス) | 何を販売するか、また競合他社とどのように差別化を図るか |
Price(価格) | いくらで販売するか |
Promotion(販促) | どのように商品価値を伝えるか |
Place(流通) | どのように顧客へ自社製品・サービスを届けるか |
ただし4Pの各要素が連携できていなければ、ターゲティングの効果を最大化できません。例えばシニア層向けの商材にもかかわらず、Place(流通)がネット通販のみだと売上を上げることは難しいでしょう。
このような事態を避けるためにもビジネスとして成り立つよう、自社製品・サービスの特長に適した施策を検討・実行する必要があります。STP分析の結果によっては、既存製品・サービスの路線変更や新規開発も1つの方法です。
4P分析のやり方や事例について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「【マーケター必見】マーケティングの王道「4P分析」!事例や使い方を解説」
ターゲティングとはSTP分析に含まれる考え方であり、細分化した市場の中でターゲットを絞る工程です。ターゲットのニーズを具体化しやすい、ROIの最大化が期待できるといった理由から、年々重要性が増しています。
ただしターゲティングを始める際は勘や経験に頼るのではなく、データにのっとった分析が必要です。現状を理解し、理想の顧客像を再定義して初めて、自社の製品・サービスと合致したターゲットを選定できます。
マーケティング戦略の効果をなかなか実感できない場合は、ターゲティングから見直してみましょう。