基本ノウハウ
営業のデジタル化は、業務効率化、生産性の向上やノウハウの可視化を実現し、売上の向上を目指す取り組みです。顧客の購買行動や働き方などの変化により、企業を取り巻く環境でデジタル化が進み、営業活動にもデジタル化の推進が求められています。
本記事ではデジタル化とDXの違い、デジタル化の必要性から、デジタル化へのステップ、代表的なツール、デジタル化推進の課題と対策を解説します。
営業のデジタル化とは、デジタルツールを活用して営業活動を効率化し、売上の向上を目指すことです。
営業活動の流れを細分化すると、下表のようになります。デジタルツールを利用してこうした活動の一部の効率化や成果の向上、営業体制の刷新を図ります。
営業活動の流れ | 細分化したタスク |
---|---|
【1】戦略関係の設計 | ・営業戦略の策定 ・営業行動計画の作成 ・顧客の獲得 ・アプローチ先の検討 など |
【2】商談前・商談中 | ・アプローチ先へアポ取り(日程調整) ・事前調査 ・関係の構築 ・商談準備 ・訪問時の移動 ・商談実行 ・議事録の作成 ・商談記録 など |
【3】商談後 | ・見積もり対応 ・提案書作成 ・契約実行 ・後追いフォロー ・訪問後の案件情報入力 など |
【4】社内への報告 | ・案件進捗に関する報告書資料作成・営業進捗MTG ・売上計画への反映 など |
【5】契約後 | ・カスタマーサポート ・契約継続への取り組み など |
デジタルツールはメール配信ツールやテレビ会議システム、SFA/CRMの営業活動を管理するツールなど多岐にわたります。さまざまなITツールにより、従来の電話でアポイントを取り、直接訪問し商談から契約に至るまでの工程が、デジタルで代替・管理できるようになりました。
デジタル化とよく似た言葉として、DX(デジタルトランスフォーメーション)があります。ほぼ同じ意味で用いられるケースもありますが、それぞれの意味と目指すところの違いについて整理しておきます。
DXは、経済産業省「デジタルガバナンス・コード2.0」の中で次のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
引用元:経済産業省 デジタルガバナンス・コード2.0
DXの最終目標とは、製品やサービスにとどまらない業務や組織・企業風土に至るまでの「変革」と、それによる「優位性の確立」であることが示されています。そしてデジタル技術は、そこで活用すべき手段ということになります。
一般にデジタル化(またはIT化)という場合、DXのような大規模な変革までは目指さず、業務の工程にツールなどのデジタル技術を利用し、効率化と生産性の向上を図ることを指す場合が多いようです。DXが企業の競争力向上のための総合戦略であるのに対し、デジタル化はそのパーツであり、手段・過程の1つであるといえるでしょう。
現在企業の営業活動が直面している目前の2つの課題と、今後深刻化すると考えられる時代背景的な2つの課題から、デジタル化の必要性と効果について説明します。
BtoB企業における購買行動は、訪問してきた営業担当者から直接情報を得る形から、顧客が主体となりインターネット上で情報収集をする形へと変わってきています。顧客は営業担当者に接触する前に、商品の選定、絞り込みを終えている場合が多くなりました。さらに、リモートワークの普及により、営業活動自体もデジタルツールを利用してオンラインで行うことが求められるようになりました。
企業はこうした購買行動の変化に対応したアプローチができなければ、変化に適応した施策を行う競合企業に後れを取ってしまうでしょう。そのため、SFA/CRMやMAによる顧客行動の取得、Web広告やHPでのコンテンツ配信、メールやSNSを利用した情報発信など、デジタル化による営業領域の拡大と新規顧客層の獲得を目指し、顧客とのやり取りも含めてデジタル化を促進していく必要があります。
無駄な時間を削り生産性を上げることは企業にとって喫緊の課題です。HubSpot Japan株式会社の第4回「日本の営業に関する意識・実態調査2023」によると、日本の法人営業担当者が業務時間の中で「無駄」と感じる時間は全体の22.37%であり、現状の業務に課題を感じている営業担当者の多さが伺えます。デジタルツールの導入は、顧客選定から日程調整、商談から契約までの一連の営業プロセスに関する業務効率化を実現します。
例えば営業先へ直接訪問する「訪問営業」を行っている企業の場合、オンライン営業を取り入れることで訪問先への移動・待ち時間が削減でき、1日のアプローチ数を増やせます。デジタルツールの活用で、商談の日程の調整や資料の送付などもスピーディーに進められ、一度の商談にかかるリードタイムも減らせるでしょう。
さらに日々の報告書や見積書、議事録などを簡単に作成できるデジタルツールを導入し業務効率化を進めると、社内のコミュニケーションなど「無駄」と感じられる時間を短縮でき、提案内容や資料のブラッシュアップなどの業務に時間を使えます。
参考:HubSpot Japan株式会社「日本の営業に関する意識・実態調査2023の結果をHubSpotが発表」
少子高齢化が進む日本社会では、労働力人口の減少が今後も続きます。人手不足はより深刻化するでしょう。それに対応するためには、一人ひとりの生産性の向上に加えて、組織全体として生産性が上がる仕組みづくりが必要です。そのためにはこれまで個人が持っていた有益なノウハウを可視化し、組織に蓄積するシステムが欠かせません。
営業支援ツールを活用することで、これまで見えていなかった個々の営業活動や商談でのやり取りのデータが数値化・グラフ化されて見えるようになり、営業オペレーションと成果を可視化できます。また、顧客・案件情報のデジタルデータ化で営業プロセスとパフォーマンスについての情報共有ができ、担当者の急な不在時にも対応が可能になり、属人化を防ぐことにもつながります。
営業成果を可視化・分析できるようになると、優秀な営業担当者にはどのような特徴があり、どのように商談を成功させているのかといったノウハウを蓄積できます。こうしたノウハウは新人の育成プロセスの改善や、営業担当全体のスキルの底上げにも活用できます。成果を出せる営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組みである「セールスイネーブルメント」の実現にも営業のデジタル化は貢献します。
関連記事:「セールスイネーブルメントとは? 注目される背景や期待できる効果を解説」
経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」の中で、2025年以降、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムを使い続けることによって企業がデジタル競争の敗者となる危機が指摘されています。
企業によっては、過去に導入したシステムに長年にわたってカスタマイズが加えられた結果、内容がよく分からないまま何となく使い続けているケースがあります。このようなケースがDXを妨げ、将来の競争力低下を招くと指摘しているのです。
つまり、デジタル化は一度実施すれば安心というものではなく、常に状況に合わせて新たな技術を活用し、新しいビジネスモデルを創出する、柔軟な対応が求められているのです。デジタルツールを過去に導入している企業でも、現場や顧客の状況に合わせ、常に見直しを図っていく必要があります。デジタル技術に関する情報を継続的に得ていくことで、競争力低下のリスクに備えられます。
参考:経済産業省「DXレポート~IT システム「2025 年の崖」の克服と DX の本格的な展開~」
デジタル化を進めるための3つのステップを紹介します。
営業のデジタル化に取り組む際、現状の営業プロセスのどこに課題があり、まず何からを解決すべきかを確認します。
デジタル化にはさまざまなツールやシステムの整備が必要になりますが、一度にデジタル化を進めるには時間と費用がかかります。自社の営業プロセスの現状を把握し、改善が必要な部分、デジタル化により効率化できるポイントを確認した上で、優先順位をつけましょう。
デジタル化は営業部門に限らず複数部門に関係する取り組みのため、広い視点を持って事前にメリット・デメリットを確認しておくことも必要です。
デジタル化を成功させるためには、達成したい目的を明確にすることが大事です。ツールの導入自体が目的になってしまわないよう、自社の解決したい課題を明確にした上で、デジタル化で達成する目標を設定しましょう。
例えば、自社サイトの流入数に課題がある場合はアプローチする範囲を広げることやWebページを改善すること、顧客からの問い合わせ対応に時間がかかっている場合は問い合わせ対応の効率化を図ることなどが目的に挙がります。これらについて具体的な数値目標を設定すると、デジタル化の効果を検証しやすくなります。
デジタル化の目的が決まると、課題を解決するためのツールが選定できるでしょう。
デジタル化で達成したい目標が明確になったら、自社に合ったツールを選定します。現状と目標とする状態のギャップを埋めるためのツールを探すことが重要です。
例えば、アプローチする範囲を広げるためには、マーケティングツールやオンライン会議システムの導入を検討します。また、問い合わせの効率化を図る場合は、顧客管理システムや自動応答ツールの導入が候補となります。
ツールを導入する際には、以下の点に注意しましょう。
ツールを導入したが、運用方法について現場の営業担当と事前に協議できておらず、活用されないまま終わるという失敗がよくあります。導入の際は、現場の担当者がどのようなツールであれば活用できるのか事前にヒアリングし、必要な機能の確認と導入後の運用方法を検討しておきましょう
社内ですでに利用しているツールがある場合は、連携可能なツールを選定しましょう。既存のツールと新たに導入したツール間で連携機能がないために、情報を一元管理できないというトラブルを防げます。
また、デジタル化で懸念されるのがセキュリティ対策です。ツールのセキュリティ対策が十分かどうかも事前に確認しておきましょう。
営業のデジタル化において、ツールの導入は必須です。ここでは代表的なツールを紹介します。
SFAは「Sales Force Automation」の略語で、「営業支援システム」と呼ばれます。CRMは「Customer Relationship Management」の略語で、「顧客関係管理」とも呼ばれます。すなわちSFA/CRMとは営業プロセスや顧客関係を管理するツールです。
営業担当者の行動や見込み顧客との接触状況、商談結果、成約率などを一元管理し、チーム全体への共有やパイプライン管理のためのデータ蓄積と、顧客との良好な関係構築の実現に役立ちます。BtoB事業、より正確に言えば販売フローに営業担当者が入る商材の場合、SFAとCRMは一体となっていることが主流です。
SFA/CRMには営業課題の解決につながるさまざまな機能が搭載されています。搭載される主な機能は以下の通りです。
営業の可視化・進捗状況を共有したい場合、定型作業の効率化をしたい場合、および顧客情報を分析し、顧客のフォローを手厚くしたい場合におすすめのツールです。顧客関係の維持・満足度の向上については、営業に限らずさまざまな場面で活用できます。
SFA/CRMを活用できる工程:
関連記事:「SFA導入で営業チームが得られる4つのメリットと成功のポイント」
MAは「Marketing Automation」の略語で、新規見込み顧客の獲得や育成、受注確度の高い顧客の選別を効率化、自動化できるツールです。主にマーケティング領域の活動をサポートします。リード育成・絞り込みを強化したい場合におすすめのツールです。
MAに搭載される主な機能として以下が挙げられます。
MAを活用できる工程:
関連記事:「MAを導入するメリットや注意点を徹底解説!」
ABMツールはターゲットに設定した顧客からの売り上げの最大化を目指す手法「Account Based Marketing(アカウントベースドマーケティング)」を推進するためのツールです。
ABMツールは企業情報のデータベースを持ち、取引履歴を企業単位に統合管理し、分析して客観的な視点からターゲット企業を選別します。MAと併用し、見込み顧客の選定・育成に活用するのが一般的です。
特徴的な機能として以下が挙げられます。
ターゲットとなる企業が大手、大規模中小企業であり、営業部門とマーケティング部門の連携が可能な場合におすすめです。
ABMツールを活用できる工程:
関連記事:「【2023年最新】ABMツール14選|比較ポイントから成功事例まで解説」
上記のツールの他に、営業プロセスをデジタル化するツールを紹介します。
営業プロセス | ツール | できること |
---|---|---|
顧客獲得 (【1】戦略関係の設計) |
Web改善ツール | Webサイトでの行動経路や閲覧履歴、Web広告の流入経路や行動を解析・分析し、Web改善のサポートを行う |
SEO・キーワード調査ツール | 特定のキーワードにおける検索結果の調査・分析、SEO対策のサポートを行う | |
関係構築 (【2】商談前・商談中) |
メール配信システム | 複数の宛先への同時配信などメール配信業務を効率化する |
日程調整 (【2】商談前・商談中) |
日程調整ツール | 商談の日程をメールで調整する |
顧客管理 (【2】商談前・商談中) |
名刺管理システム | 名刺をデジタル上で一元管理する |
商談準備 (【2】商談前・商談中) |
コンテンツマネジメントツール | 商談資料をファイルサーバーなどから探す |
商談実行 (【2】商談前・商談中) |
テレビ会議システム | オンライン上で顧客と商談を行う |
商談記録 (【2】商談前・商談中) |
AI議事録ツール | 商談の議事録を作成する |
契約実行 (【3】商談後) |
電子契約システム | 契約書の発行、捺印を行う |
デジタル化を進めたいプロセスに応じて、参考にしてみてください。
営業のデジタル化を推進する上で、よくある課題とその対策について3つの例を紹介します。
経営層や部門長がツールの導入や業務フローの変化に抵抗感を持ち、デジタル化に対する社内の理解が障壁となる場合です。従来のやり方での成功体験に固執し、デジタル化のメリットがイメージできないことが原因の1つです。
デジタルツールを導入する際、導入から稼働、成果を出すまでの運用方法を事前に計画しましょう。デジタル化は現状を改善するための手段です。デジタル化によりどのような課題が改善できそうか、メリットは何かを具体的にイメージし、社内全体でデジタル化に対する共通認識を持ちましょう。
デジタルツールの導入後も業務効率化が達成できているか確認します。実績や顧客満足度などのデータを分析・社内共有し、デジタル化の効果を評価します。また、社内でデジタル化の効果や課題をヒアリングし、改善を続けていくことも重要です。
社内のITスキルの差によって、ツールの活用が進まない場合があります。ツールを導入しても活用できなければ、業務の効率化、売り上げの向上につながりません。また、ツールを導入したが期待した成果につながらないという場合もあります。
会社全体でツールを活用できるよう、事前に計画を立てましょう。
ツールを選定する際、デジタル化の目的を明確にせず「とりあえず」で選定しないことです。デジタル化で解決したい課題、期待する成果につなげるためには、自社が期待する導入効果があるかどうかを選定基準にしましょう。
ユーザビリティに優れた使いやすいツールを選定することもおすすめです。選定に迷ったら、トライアルやデモで操作感や機能を事前に確認し、導入前後のギャップを減らすと良いでしょう。
導入したツールを社内に定着させるため、研修の実施、マニュアル作成によるサポートを行います。ツールの利用方法やルールを社内で共有します。
ベンダーによるオンボーディングなどのサポート体制が手厚いツールもあります。メールによる問い合わせやユーザーコミュニティーなど、サポート体制はツールによって異なるため、選定の際に自社にあったサポートの有無を確認してみましょう。
デジタル化の必要性は感じていても、既存の業務が手一杯でデジタル化に割くリソースが足りないという場合があります。着実にデジタル化を推進していくには、低コストな取り組みから始めること、人材の確保が必要です。
成果の出やすい工程からデジタル化を進め、結果を出す「クイックウィン」で取り組むことがおすすめです。
デジタル化はさまざまなツールの導入、取り組みが必要となるため、一度にすべてを進めようとすると膨大な時間と費用がかかります。成果は大きくなくても、低コストですぐに実行可能なことから取り組み、目に見える成果を出すことで、社内の理解も得られ範囲も広げていくことができるでしょう。
ツールを初めて導入する場合は、1部署や少単位のグループ内で運用を行い、定着し成果が出始めてから社内に展開していく方法もおすすめです。
関連記事:「中小企業の営業現場から始める クイックウィンの営業DX【セミナーレポート】」
デジタル化の推進にはツールを運用していく担当者やチームが必要です。デジタルに強い人材を社内で育成することが困難な場合、外部から人材の採用を検討しましょう。
社内に専門知識を持った人材がいると、デジタル化を主体的に効率良く進められます。社内全体を巻き込み、知識や技術の蓄積、向上につながります。
本記事では、営業のデジタル化の概要、代表的なツール、そしてデジタル化を推進する上での課題と対策について解説しました。
営業のデジタル化は、デジタルツールを導入すれば良いというわけでなく、自社の課題解決を前提に業務の効率化、生産性の向上の視点で進めることが重要です。そのために、営業プロセスの現状と課題を把握し、目的に合ったツールを選定・導入しましょう。
今後、さらに業務のデジタル化は求められていくでしょう。ツールの導入後も運用方法や成果を確認しながら、デジタル化に対応した営業体制を構築していきましょう。