セミナーレポート
BeMARKEは2月28日、「中小企業の営業現場から始める クイックウィンの営業DX」と題したセミナーを開催しました。本セミナーでは、低コストで目に見える変化を生み出す「クイックウィン」の考え方に基づき、営業現場から始める営業DXの考え方や進め方を解説します。また、すぐに始められる具体的なクイックウィン施策も紹介します。
【登壇者】山下 航希(BeMARKE事業責任者)
東北大学卒業。2019年に株式会社リスペクトに新卒で入社。マーケティングコンサルタントとして、SaaSスタートアップから大手機械系製造業まで15社以上のコンサルティング、コンテンツマーケ支援に携わる。マーケティング部門と営業部門をはじめとして複数部門の議論をファシリテートしながら、リード獲得から商談創出までの体制整備に関わる。2022年にグループ会社の株式会社アジタスにてBeMARKEを立ち上げ、事業部長と経営ボードメンバーを担当。
本セミナーでは、DXの全体像をつかみきれずに悩みを抱えている営業責任者や、営業DXを再構築したい方に向けて、営業現場から始める「クイックウィン」の営業DXを紹介します。
始めに、BtoB企業を支援するなかで耳にする、営業責任者の悩みをいくつか紹介します。
本セミナーでは、これらの営業責任者の悩みを解決する「営業起点のDX」の考え方を紹介します。
一般的に営業DXを推進しようとする際の全スコープを下記の図に示しました。
左から、「デジタルでの接触最大化」、「関係性維持の効率化」、「営業力強化と再現性向上」、「顧客満足の再現性向上」と、全部で4つのスコープがあります。
これらそれぞれのスコープにおいて、さまざまなツールやシステムの整備が求められます。さらには、組織や人材配置に関する考え方を抜本的に変えなければ、DX時代には対応できません。全スコープのあらゆる観点から見直しを迫られるのが「営業DX」です。しかし、いちどにすべてを進めるには対応すべき範囲はあまりに広く膨大な時間と費用がかかります。
そこで、「クイックウィンで始める営業DX」に取り組むことをおすすめします。
一般的に、DXを推進しようとする企業が最初に着手する取り組みが「デジタルでの接触最大化」です。具体的には、デジタルマーケティングを活用したリード獲得数の最大化です。
たしかに「デジタルでの接触最大化」も重要です。しかし、すでに取引を開始しているお客様や名刺交換などで接触したお客様に向けて、営業現場でできる施策もあるはずです。
営業起点ですぐに成果につながる施策があるのであれば、営業組織においてはそれらの施策に注力してみてください。
「クイックウィンで始める営業DX」の全体像は下の図の通りです。
まずは売り上げに近い工程で、活用できる資産を用いて小さな成果を出します。営業DXをすべてのスコープに広げて全社変革を目指すのは、その後です。
はじめから全工程においてDXを進めるのは難しいといえます。なぜなら、マーケティングや営業活動は、ひとつの部門で成り立つものではなく、管理部門や製造部門などすべての部門に関連するものだからです。このため、すべてをいちどに変革しようとするとリスクが大きく、プロジェクトが頓挫するおそれがあります。
まずは成果が上がりやすい工程で結果を出した後、スコープの範囲や巻き込む部署を広げていきましょう。
営業起点のDXでは、「クイックウィン」を目指しましょう。クイックウィンの特徴は、すぐに実行可能で、低コストで実施できる、そして、大きな成果につながりにくいが目に見える変化をおこせることです。
本セミナーでは、新規営業の重要度が高い企業を念頭において「営業起点のDX」を解説していきます。具体的には、中小企業、ベンチャー企業、大企業の新規事業チームなどを想定しています。
優先的に取り組むべき施策を考える上で、まずは「自社の営業プロセスのどこに課題があるか」を特定しましょう。
営業課題を整理するために簡単なフローチャートを示します。
このフローチャートによると、実施すべき施策は大きく次の4パターンに分けられます。
パターン1では、営業活動の再現性を高める取り組みの優先度が上がります。
パターン2では、組織的かつ効率的にアポイントメントを増やすための仕組みづくりに注力すべきです。
パターン3では、インバウンドかつ低予算でリードを獲得する手法を考えましょう。
パターン4の場合は、インバウンドセールスには向かないため、アウトバウンドセールスの効率化や、業界特化イベントをいかに効率的に商談・受注へとつなげられるかを考えます。
まず、パターン1について解説します。商談数は一定数あるため、営業活動の再現性を強化する必要があります。具体的には、受注分析と営業コンテンツへの反映です。
受注分析ではまず、受注案件の一覧を作成します。企業ごとに、属性、従業員数、業界、発注要因といった情報を、簡単な表に一覧化してみてください。
その上で、「どのような傾向があれば受注に結びつきやすいか」、逆に「どのような要素が欠けていたら受注しにくいのか」を見ていきます。分析した結果を営業資料やWebサイトに反映するためにも、この分析は欠かせません。
当社では、表のように、受注案件を企業名、業種、従業員数、職種・役職などで一覧化しています。そうすると、自社がどのような属性のお客様から受注しやすいかが見えてきます。
例えば、「パッケージシステム・SaaS」の業種のお客様が多いことが分かります。なかでも「500名以下」の企業が多いようです。次に多い業種が「医療系」や「化学・素材」です。「化学・素材」の業種の企業は、「マーケティング戦略全般」といったコンサルティングのプランで受注することが多いようです。
これらの分析をもとに、「『パッケージシステム・SaaS』の中小企業に対して個別のWeb施策の提案ができるようなプランを優先的に案内すると、受注しやすいのではないか」、「『化学・素材』のメーカーは、マーケティング戦略の設計に悩んでいるようだ」といった仮説を立てます。
社内でエースセールス、トップセールスといわれる営業担当者は、このような要因がよく見えており、仮説を立てる上でも有効な助言を与えてくれるはずです。営業現場を巻き込みながら受注分析を進め、精度の高い仮説を立てましょう。
受注分析ができたら、次は分析結果を営業コンテンツに反映させましょう。
営業担当者によって受注率に差がうまれるのは、お客様に伝える内容が担当者によって異なるからです。よって、成功事例をベースに、営業資料やWebサイトの見せ方を改善して、営業担当者全員が共通の資料を用いてお客様に同じ内容を伝えられるようにすることが重要です。
営業コンテンツを改善する上でのポイントを紹介します。商品スペックの説明はもちろん重要ですが、ストーリー仕立てのガイドブックのようなものを、ぜひ用意してみてください。
とくに、自社商品の新規性が高く、お客様がまだ商品の必要性を理解していないような場合は、「その商品がどのような課題を解決できるのか」、「いつまでにどんなことを実現できるのか」をイメージしにくいものです。したがって、「製品の選び方がわからない」、「まだ必要性を感じていない」といったお客様の思考や心情に寄り添ったストーリー仕立ての資料を用いて案内できれば、お客様の納得感を高められます。
次に、見込み客のリスト数は一定数あるものの、定期的・継続的な商談創出ができていないパターン2について解説します。パターン2の課題は、休眠顧客が増加しているなか、いかに商談創出力を強化するかという点です。
この課題に対する一般的なアプローチは、これまで接触したお客様の名刺をリスト化してやみくもに電話をかけたり、メールを送ったりするというものです。しかし、このような手法は非効率な上、再現性もありません。
商談を創出するために最初に行うべきことは、自社で所有している名刺を1つのデータベースで一元管理することです。名刺管理ツールなども利用してみてください。一元化されたデータをもとに、メールを送信します。
さらに、送信したメールに反応のあった見込み顧客に対して、営業担当者がアプローチします。メールに反応した見込み客は、多少なりとも自社の商品・サービスに興味を持っているお客様です。そのようなお客様は、営業のアプローチを前向きに受けとめるはずです。
このような手法をとることで、非効率なアウトバウンド営業の時間を圧縮できます。
メールを送る際には、リストにある企業に一斉配信することも考えられますが、受注分析で判明した「自社が得意とするセグメント」にしぼって配信しても良いでしょう。
このとき、「営業担当者が商談中のお客様にマーケティング部門からもメールを送信してしまう」というミスに注意が必要です。このミスは、名刺を一元化したときにおこりやすいミスです。このような失敗を防ぐためにも、CRMを導入して「営業担当者が商談中の見込み客」と「マーケティング部門からメール配信すべき見込み客」とを機械的にふり分けられるようにしておきましょう。
単にメールを配信すれば商談につながるかというと、そうではありません。
配信するメールには、お客様のミッションに関する情報や困りごとを解決する情報などの「お役立ち情報」を掲載しておきましょう。例えば、ホワイトペーパーやウェブセミナーの案内といった情報です。
お役立ち情報に反応したお客様は、商品・サービスへの温度感が高まっているお客様であると判断できます。このような「温度感の高い」お客様に営業担当者が連絡することで、商談創出の可能性を高められます。
以上のとおり、商談創出力を強化するには、最初に名刺をデータ化して一元管理し、メール配信体制を整えます。メールには、ホワイトペーパーやウェブセミナーなどのお役立ち情報を添えてください。そのメールに対する反応から、課題を抱えているお客様や、自社商品に興味を持っているお客様を見極められます。
そもそも見込み顧客リストが不足しているパターン3では、インバウンドのリード獲得に挑戦してみましょう。
BtoB企業ができるリード獲得施策の代表例は、次の通りです。
これらの施策のうち、必ずしもすべての施策ですぐに成果につながるわけではありません。
コンテンツSEOやSNSの運用は、華やかでお客様から人気のある施策である一方で、速効性や再現性はありません。コンテンツマーケティングも同様に、成果が上がるまで期間と費用を要します。
6つの施策のうち、ミニマムに成果を出して次につなげられる施策はリスティング広告とサービスサイトの改善です。Webサイトを使ったリード獲得に慣れていな企業は、まずはリスティング広告を試してみてください。その一方ですでにWebサイトのアクセス数が1~2万程度ある企業は、Webサイトそのものの改善を優先しましょう。
リスティング広告とは、GoogleやBingなどの検索エンジンの検索結果画面に表示される広告のことです。検索キーワードに応じて出稿できます。
リスティング広告のメリットは、広告費を支払うことで掲載順位をコントロールしやすい点です。また、キーワードを選択できるため、費用対効果を把握しやすいというメリットもあります。
初めてリスティング広告を出稿する際は、Web広告の運用会社に依頼するとスムーズです。リスティング広告のポイントは、自社商品と関連度の高いキーワードをいくつか見定めた上で、まずは成果が出るかをテストしてみることです。成果が出た場合は、投資額を上げて継続的に実施していくと良いでしょう。
次に、サービスサイトの改善のポイントを紹介します。サービスサイトの改善における
セオリーは、コンバージョン(CV)に近い部分から徐々に改善していくことです。
まずは、CVに最も近い「問い合わせフォーム」を改善します。
問い合わせフォームのうち、「必要のない入力項目が多い」、「電話番号やメールアドレスのエラー表示が分かりにくい」といった部分を改善するだけで、離脱率を下げる効果があります。また、問い合わせフォームに記入するお客様のモチベーションは高い傾向にあるので、この部分の改善は引き合いを増加させる効果もあります。
次に、CTA(Call to Action)を改善します。
CTAは、問い合わせフォームのあるページへとつながる導線づくりです。サービスサイトを訪れたユーザーに、問い合わせフォームへのコンバージョンをうながすコンテンツを指します。
もし「お問い合わせフォームに行くにはこちらのボタン」というCTAしか用意していない場合は、「お役立ち資料はこちら」という資料ダウンロードからコンバージョンをうながすCTAを用意してみてください。
お問い合わせフォームを開くユーザーは「いまこの商品が気になっている」というお客様に限られます。そうすると、その母数は理論上少なくなります。一方で、お役立ち資料をダウンロードしたいユーザーの母数は多いはずです。商品に関連する業界のお客様なら、商品関連のトレンドや市場をガイドしたようなお役立ち資料に興味があるでしょう。よって、潜在的な母数が増えるためCVの数も増えていきます。
サービスページも改善できる余地があります。
BtoB企業のサービスページには、商品概要やスペック、商品写真などは掲載されている一方で、「どのような課題を解決できるのか」、「なぜこの商品が必要なのか」を伝えるような顧客目線の情報は少ないという実情があります。新規性の高い商品を販売している企業はとくに、改めて自社のサービスページにある情報が顧客目線になっているかを見直してみてください。
BeMARKEでは、BtoB企業のWebサイト改善のチェックポイントをまとめた「サイトチェックリスト120」を用意しています。
最後に、パターン4について解説します。見込み客がWeb検索を利用しない場合、ないし潜在的見込み客の母数が限定的な場合にとるべき施策です。
パターン4では、デジタルによるアウトバウンドやイベント接触の効率化に注力しましょう。
テレワークが一般化した今、電話による連絡がしづらくなったため「新規のお客様へのテレアポがうまくいかない」という悩みを抱えている企業は少なくありません。そこで、各企業の問い合わせフォームにダイレクトメールを一斉送信するツールを使って、アウトバウンド施策を効率化しましょう。
その際、単にメールを送るのではなくメールに自社のランディングページのリンクをつけておきます。メールの内容に興味を持ったお客様は、リンクを踏むはずです。リンクを踏んだかどうかで、自社商品に興味があるかどうかを見極められます。営業担当者は、興味を持った見込み客にのみアプローチすることで、アウトバウンド施策を効率化できます。
また、イベント接触の典型的なチャネルである展示会も、コロナ後は来場者数が減少しています。しかし、短期間で多くの見込み客と接触できる展示会が依然有効なチャネルであることに変わりはありません。
一方で、多くの来場者は潜在層で「すぐに御社の商品を購入したい」というお客様に出会えることは稀です。また、数日間の喧騒のなかで、購入意欲が高そうなお客様をすべて把握して管理しておくことも現実的ではありません。
そこで、展示会の終了後、名刺交換したお客様あてにホワイトペーパーなどのお役立ち料を添付したメールを一斉送信します。そして、資料を開封するなど反応があったお客様とそうでないお客様とをランクづけしていきます。反応があったお客様は自社商品に多少なりとも興味があると判断できるので、営業チームが優先的にアプローチします。
展示会後にこのような体制を組んでおくことで、優先度の高いお客様に向けて効率的に営業活動を展開できます。
本セミナーでは営業起点のDXについて解説してきました。営業起点のDXでは、課題に応じてスコープをしぼりクイックウィンを目指しましょう。
商談数を継続的に創出する体制が整っている場合は、営業部の再現性を高める施策が有効です。具体的には、受注実績のある企業の傾向や受注要因を探ることで、営業資料やWebサイトの改善を図ります。
また、案件管理や営業チームの管理、若手営業の育成などに課題がある場合は、営業支援システムを導入して、プロセスごとに細かく案件の状況を分析してみてください。分析結果を営業マネジメントの方針に生かすことで、クイックウィンの営業DXを実現できます。
商談数の創出に課題を抱えている場合は、メール配信ツールを導入して所有している名刺リストを一元管理してください。さらには、ホワイトペーパーやウェブセミナーの案内といったお役立ち資料を送信して、反応があったお客様に対して個別にアプローチしましょう。これにより、営業の効率化を図れます。
各企業の状況に応じて、クイックウィンの営業DXを取り入れてみてください。