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システム導入の遅れがもたらす企業リスク~CRM・SFA導入のベストプラクティス01

システム導入の遅れがもたらす企業リスク~CRM・SFA導入のベストプラクティス01

まだCRMやSFAを導入していない、あるいは適切に活用できていない企業に向けて、業務効率の低下や顧客データのその先の利活用が不十分であることのリスクを解説します。顧客データの統合がなぜ企業にとって重要なのか、投資効果を焦らず確実に進めるための戦略を考察します。

解説:株式会社フライク 代表取締役 大瀧 龍

富士通株式会社にてシステムエンジニアとプリセールスエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、地元福岡のセールスフォース代理店に転職し、SaaSツールの導入提案やITソリューションを活用した営業支援に従事。その後、freee株式会社で九州支社長および広島営業所長を歴任し、IPOも経験。2019年11月、3rdコンサルティング株式会社(現・株式会社フライク)を創業し、2021年に社名を変更。企業の「IT参謀」として、業務フローの最適化、課題の特定、ツール選定から導入後の伴走支援まで一貫したサービスを提供。大手から中堅・中小企業、ベンチャーまで多様なクライアントを支援し、事業成長を実現するITパートナーとして活動中。

株式会社フライク 代表取締役 大瀧 龍|BeMARKE(ビーマーケ)

目次

はじめに

企業にとって、顧客との関係を深め、営業活動を効率化するためのシステムであるCRM(Customer Relationship Management)やSFA(Sales Force Automation)はBtoBビジネスだけでなく、BtoCビジネスでも導入している企業が増えてきました。
私は、企業にとってCRM・SFAを導入していることは最低限のマナーだと考えています。しかしながら、導入効果に具体的な数値的根拠がないからとCRMやSFAの導入を先送りにしている企業も少なくありません。

突然ですが、学校に机と椅子はありますよね?

授業を受けるにはそれらは必要不可欠であり、学習するのに最低限必要なアイテムの1つです。もし、「机と椅子を導入して学力がどれだけ向上しますか?本当に必要なのでしょうか?」と問われたら、驚いてしまいませんか?

私はCRMとSFAに対して短期的な費用対効果を求めるのは、学校に机と椅子がない状況・学力向上にどれだけ寄与するか?を聞いていることと同じと考えています。

本連載では、CRM・SFA導入のベストプラクティスを解説し、システム導入が遅れることによるリスクや、導入の効果を最大限に引き出すためのポイントについてご紹介します。長期的な視点での成長を見据えたシステム基盤の重要性を、一緒に考えていきましょう。

CRM・SFAの基本機能と期待できる効果とは?

まずは大前提となるCRMとSFAの言葉について解説をします。

CRMとは

CRMとはCustomer Relationship Managementの略で、日本語訳をすると「顧客関係管理」と略されます。顧客情報を一元化し、顧客との関係性を深めるためのシステムです。

さまざまな種類のツールがありますが、基本的な機能は大きく分けて以下の3つです。

【1】顧客情報の一元化

顧客の連絡先、購買履歴、問い合わせ履歴など、顧客と企業の接点となる情報を1つのシステムで集約します。

【2】顧客対応のパーソナライズ

一元化された顧客情報を活用し、個々の顧客ごとにカスタマイズした提案やサポートを提供することが可能です。これにより、企業は顧客満足度を高めるための活動を積極的に展開できます。

【3】部門間の情報連携

顧客と企業は1つの部署だけではなく、複数の部署、複数の人間が1顧客と接点を持つことになります。そのため、営業・マーケティング・カスタマーサポートなどの複数部署にまたがる情報を一元化します。これにより、各部署の担当者は、すべての顧客情報を閲覧・共有できる基盤が整い、一貫した対応が可能になります。

CRMとは(株式会社フライク)|BeMARKE(ビーマーケ)

SFAとは

SFAはSales Force Automationの略で、日本語訳をすると「営業支援システム」と略されます。
営業支援システムによって、営業案件の進捗管理、見積作成、顧客とのやり取りの記録など、営業プロセス全般を管理し、営業担当者の業務をサポートする機能がSFAです。代表的なSFAの1つにSalesforceなどが挙げられます。

基本機能は大きく分けて3つに大別されます。

【1】営業プロセスの共通化と可視化

営業が契約を受注するまでのプロセスを共通化し、それらを営業部全体の共通言語にすることによって、進捗状況を把握できます。
この共通化により、曖昧な報告がなくなり、次の段階へステップアップするための条件を決めることでより精度の高い売上予測を営業マネジャーが把握できるようになります。

【2】成約率の向上

見込み顧客のニーズや期待していることをシステムに報告することで類似案件の抽出や関連資料を検索しやすい状況を作ることができます。その結果、一人で案件を進めて悩むより、検索をして情報収集ができる環境が整えられているため、成約率が上がりやすくなります。

さらに、進行が遅れている案件をマネジャーがいち早く確認することもできるようになるため、チームで案件対応を行い、お客様のニーズに合わせた人選やフォロー体制を作ることができます。

【3】営業データの分析と予測

日頃行っている企業や案件に対する営業活動のデータをリアルタイムで集約できます。そのため、進捗が芳しくない案件や停滞している案件を把握することができるようになります。
また、営業プロセスが社内で共通化しているため、売上予測が立てやすくなるのも利点です

SFAとは(株式会社フライク)|BeMARKE(ビーマーケ)

CRM・SFAはなぜ企業成長に必要不可欠なシステム基盤なのか?

では、なぜCRM・SFAが必要不可欠なのか見ていきましょう。逆説的に考えるとCRM・SFAがなかったらどのような状態にあるかを考えてみると分かりやすいと思います

【ケース1】数年間にわたって利用しているお客様からのクレーム発生

一つ目のケースは、長年利用している顧客からクレームが発生した場合の事例です。CRMを導入していない企業では、顧客情報が分散しているため、対応に不備が生じやすくなります。

例えば、クレーム対応時に過去の購入履歴や問い合わせ内容を十分に把握できていないと、担当者は不十分な背景情報のまま対応にあたることになり、顧客に「自分は重要視されていない」と感じさせてしまう場合があります。さらに、過去の対応記録を探す手間が発生したり、部門間の連携不足により対応が遅れることで、顧客満足度が低下し、二次クレームに発展するリスクも高まります。

また、よくあるのが、解決策が場当たり的になり「再発防止に努めます」といった抽象的な対応で終わってしまうことです。具体的な再発防止策が提示されない結果、顧客の不満が残り、他社への移行リスクが高まることもあります。

CRMを導入している企業では

CRMを活用している企業では、顧客情報が一元化されているため、クレーム対応時にも迅速かつ的確な対応が可能です。例えば、過去の購入履歴や問い合わせ内容を参照しながら応対することで、顧客は「理解されている」と実感します。長期的な関係に基づいた会話ができるため、「この企業に任せれば安心だ」と信頼を感じてもらえるでしょう。

また、CRMにより、過去の経緯に基づいた迅速で一貫性のある対応が可能です。「以前も同様のお問い合わせをいただいております。再度、同一現象が発生し……」といった形で、顧客の時間を無駄にせず、解決への道筋を的確に示すことで、顧客満足度を高められます。

クレーム発生後の対応もCRMを活用できます。
顧客情報が一元管理されているため、クレーム発生時に迅速かつ的確な対応が可能です。これにより、次のような対応が実現します。
フォローアップを設定して「先日の件はいかがでしょうか」といった一貫性のあるサポートを継続することで、顧客は「最後までしっかりサポートしてくれる」と安心し、企業への信頼が深まることで競争優位性も強化されることでしょう。

【ケース2】目標達成に向けた改善アクションプランの策定

2つ目のケースは、目標数字にギャップが生じた際の改善アクションプラン策定に関する事例です。

SFAを導入していない場合、データが分散しやすく分析も遅れるため、目標値と実績に乖離が生じた際に、迅速かつ的確な改善アクションプランを立てることが難しくなります。

例えば、顧客へのアプローチ状況や商談情報が担当者ごとに管理されているため、現在の営業活動の状況が明確に把握できておらず、どの案件を優先すべきかが判断しづらくなります。その結果、計画は「とりあえず進める」にとどまり、リカバリーの効果を予測できないまま実行に移すリスクが高まります。

さらに、属人的な対応によるタイムロスと機会損失も発生します。案件にはデモが得意なメンバーや最終交渉に強いメンバーなど、適切なメンバーの得意分野を生かすべきポイントがありますが、案件の進捗状況が共有されていないため、担当者が一人でクロージングまで対応することが多くなります。このように、チームで領域を補完し合いながら受注に導く体制が整っていないことで、最適な対応ができず、結果的に受注機会を逃すリスクが高まります。

また、活動結果がリアルタイムで追跡されないため、どの施策が効果的であったかの判断が難しく、PDCAサイクルが回りにくくなります。その結果、同じギャップが繰り返される可能性が高まり、効果的な改善が進まない状況が生まれます。

SFAを導入している企業では

SFAを導入している企業では、営業活動や案件を前に進めるための活動が一元管理されているため、目標と現状のギャップを即座に把握し、的確な改善アクションプランを迅速に策定できます。

まず、SFAを導入している場合、進捗状況や個別案件の状態がリアルタイムで確認できるため、「どの顧客や商談に注力すべきか」「進捗が止まっている原因は何か」といった判断を即時に行えます。ギャップの原因をデータに基づいて分析し、適切な対策を早急に講じることで、チーム全体が確実な目標達成に向けて効率良く動ける体制が整います。

次に、営業活動が全員に可視化されているため、「案件を進めるために必要なアクションは何か」といった具体的な指針をチームで共有し、一貫した行動を取ることが可能です。このため、改善に向けた営業活動がスムーズに展開され、目標達成への確度が高まります。

さらに、施策実行後、その効果をリアルタイムで追跡できるため、進捗に応じて柔軟に調整や改善が行えます。データを基にPDCAサイクルを迅速に回し、効果が見込めない施策は中止、成果が期待できる施策へリソースを集中するなど、迅速な意思決定が可能です。

CRMとSFAは、企業の持続的成長を支える「必要不可欠な資産」

いかがでしょうか?CRM・SFAの重要性をご理解いただけたのではないでしょうか?

企業は、価値あるサービスを継続的に提供し続けることで、存続ができます。
売上を上げ続けるためには、新規顧客を開拓することと、既存顧客が長くサービスを利用し続けることの両軸でのバランスが必要です。

それらを社員の勘や経験だけで実施するのは一昔前のビジネスの進め方です。

CRM・SFAを利活用することで、自社の売上に貢献する顧客が誰であるか、いつからどのようにサービスを利用しているのかを把握できます。
また、苦情や要望があるかなどの顧客に関連する情報も一元管理されております。
それらの情報を駆使して、長く・そして新しいサービスの契約をするために顧客と接点がある社員が顧客を深く理解し、より良いサービスを提供するための基盤と言えるでしょう。

つまり、CRMとSFAは、単なる業務ツールではなく、企業の持続的成長を支える「必要不可欠な資産」と言えるでしょう。

CRMとSFAは、企業の持続的成長を支える「必要不可欠な資産」(株式会社フライク)|BeMARKE(ビーマーケ)

こんな企業は危険信号!SFA導入を阻む昭和型役員と古株上司

ここまで、CRMとSFAの重要性についてお話ししていきました。しかし、システムに明るい若手社員や中堅社員が、システムを導入したいと思っていてもそれを阻害する社員もいることもよくあることです。ここでは、よくある企業の危険信号を2つ紹介します

【危険信号1】 短期的なコスト削減に執着する姿勢が、企業の成長を阻害

経営陣が目先のコスト削減やROIにばかり固執することで、長期的に必要な投資が見送りになっていませんか?
歴史のある企業であれば、販売管理システムや受注管理システムが導入されており、そのシステムがあるから「CRMやSFAは不要ではないか」と誤解しているケースも見られます。
さらに、「自分たちが現場で働いているときは、全部手帳で管理していて、足で稼いで......」なんて昔話を聞かせることも。

もし、現在使用しているCRM・SFAが古いシステムで、現場で使いやすいとは言えない場合、時代遅れのシステムを使い続けると、顧客情報を閲覧するのに複数画面のチェックやエクセルなどで加工しないと情報が確認できないといった非効率が生まれます。
さらには、顧客データの活用が進まず対応が遅れれば遅れるほど、競合に遅れをとり、ビジネスチャンスを逃すリスクが高まります。

【危険信号2】 経営陣を説得できず、ズルズル長引く意思決定と導入までのスケジュール

CRM・SFAを導入することで業務効率を劇的に改善できることを期待している課長・部長といったマネジャー層。しかし、上司や経営陣を説得することができずに稟議を書いて説明してはダメ出しをされ、システム導入が遅延するといったケースが見受けられます。

システム導入をして、いまできていないことを実施したいが、経営陣を説得させることができずに数カ月……。その間に、優秀なメンバーが現場業務が多く疲弊してしまってまさかの退職の事態に……なんてないですよね?

CRMやSFAのようなシステムは、導入直後に効果が出るものではありません。データを蓄積し分析して、その結果を現場にフィードバックしてから初めて真価を発揮するものです。
導入の意思決定は1日でも早いほうが良いにこしたことはありません。

CRM・SFAの導入による業務効率の変化(株式会社フライク)|BeMARKE(ビーマーケ)

このような危険信号に出くわしている場合は「CRM・SFAを導入することはマイナスをゼロに戻すこと」をしっかりと訴えましょう!!
導入効果を出すのは、CRM・SFAを導入して、企業が本来行いたい業務に注力し、戦略・戦術・行動を実行し、そのPDCAを回すための情報基盤です。

実はこの状態も「マイナスの状態!?」勘違いしている企業にありがちな状況

上司や役員ばかりではありません。導入の判断に対してこうした勘違いも現場ではよく起きがちです

【勘違い企業1】うちの会社はエクセルで十分

エクセルに依存している現状は大きなリスクです。エクセルは表計算ソフトであって顧客管理や案件管理をする専門的なシステムではありません。

顧客情報や営業プロセスをエクセルで管理することはできますが、誰でも変更することができるため、データが誤って上書き・削除されても気づくのが遅れ、最悪の場合データがなくなってしまいます。
さらに、部署によってエクセルファイルが異なって同一顧客情報を管理していることが多いため、同一顧客情報に限らず情報が分散していることで、全社的に情報を一元化できません。

このままでは情報共有が不十分なまま業務は進み、顧客対応の質が低下する可能性があります。

【勘違い企業2】専用システムの導入を検討するがCRM・SFAの必要性を疑っている

KintoneやZohoCRM、SalesforceといったCRM・SFAの専用システムの導入を検討しているものの、「本当にCRM・SFAが自社に必要なのか」という疑念を抱えたままでは、適切なタイミングでシステム導入ができず、競争力を失うリスクがあります。CRM・SFAがない現状は、今後のビジネス成長に大きな障害となるでしょう。

まずは、業務の非効率性や顧客対応の遅れといった「マイナス」の状況を是正し、ゼロベースから健全な情報基盤を構築することが必要です。

いかがでしたでしょうか?CRM・SFA導入が企業にとってなぜ重要なのか、そして導入を阻害する現場でよくあるケースについて解説させていただきました。

次回は、「CRM・SFA導入前に実施すべき課題整理の仕方」について解説いたします。

>>>第2回 CRM・SFA導入前に実施すべき課題整理の仕方

BeMARKE編集部より

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この記事を書いた人

大瀧 龍
大瀧 龍 | 株式会社フライク 代表取締役

富士通株式会社にてシステムエンジニアとプリセールスエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、地元福岡のセールスフォース代理店に転職し、SaaSツールの導入提案やITソリューションを活用した営業支援に従事。その後、freee株式会社で九州支社長および広島営業所長を歴任し、IPOも経験。2019年11月、3rdコンサルティング株式会社(現・株式会社フライク)を創業し、2021年に社名を変更。企業の「IT参謀」として、業務フローの最適化、課題の特定、ツール選定から導入後の伴走支援まで一貫したサービスを提供。大手から中堅・中小企業、ベンチャーまで多様なクライアントを支援し、事業成長を実現するITパートナーとして活動中。

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