セミナーレポート
アドビ株式会社が開催したWebセミナー「インサイドセールスの営業生産性を高めるマーケティングオートメーションの活用法とは?」の内容をレポートします。本セミナーでは、インサイドセールスの仕組みを導入している、もしくは導入予定の事業者向けに、「インサイドセールスの必要性とインサイドセールスにおけるテクノロジー」について、アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 江口 宗吾氏が解説しています。
【登壇者】
江口 宗吾氏(アドビ株式会社 DXインターナショナルマーケティング本部 ビジネスデベロップメント部)
複数の企業においてサービスやセールスを経験し、インサイドセールスのインバウンド部門、アウトバウンド部門に在籍。その後、アカウントエグゼクティブを経てアドビ社に入社し、インサイドセールスとして最前線で業務に従事するとともに、社内の仕組み作りへの参画やWeb講師として講演活動を多数行っている。
本セミナーは、「インサイドセールスの営業生産性を高めるマーケティングオートメーション活用」をテーマに、主に以下の内容で構成されています。
江口 宗吾 氏:インサイドセールスが必要な理由として、顧客の行動や世の中が大きく変わってきていることが挙げられます。新型コロナウイルス感染症の流行による影響はビジネスだけでないのではないでしょうか。
下の表は、顧客の購買活動の変化を表しています。現在、スマートフォンやタブレットの普及により、インターネットを通じて、顧客自ら情報収集をするようになっています。
それにともない、企業も顧客に対してメッセージを届けやすくなり、日常的に人の目に触れる広告の数が増えています。
下は、コロナ禍におけるビジネス課題を表すグラフです。「新規商談や営業活動の減少」が課題として最も深刻で、次に「既存顧客の深耕営業の減少」が挙げられています。
これまでのビジネスでは「対面での顧客接点」が営業活動の中心となっていましたが、その機会が失われたことで企業経営状況に影響を及ぼしたと考えられます。
以下は、デジタルマーケティングとコロナ禍での業績変化についてのデータです。デジタルマーケティングツールを導入している企業の約7割以上が、コロナ禍における業績の縮小を回避しています。
デジタルマーケティングツールを利用している企業は、顧客との関係性構築を重要視しています。顧客のニーズに応じて適切なタイミングで情報発信をしていたことが、業績悪化を食い止める要因になったのではないかと推測できます。
では、顧客との関係性構築を深めるためにはどうすれば良いのでしょうか。まずは顧客側の視点に立って、購買ステージまで戻ってみましょう。
次の表は、「顧客が認知してから、購入してユーザーになるまで」の流れを表しており、上が以前、下が現在を表しています。緑の部分は「情報収集における主な情報源が営業担当者による営業活動」とされる箇所です。
現在はその緑の部分が大きく縮小しています。そして、「顧客自ら情報収集を進める」という流れは、アフターコロナも続いていくと予測できます。企業にとっては、情報収集段階の顧客に対し、いかに適切な情報提供をできるかが勝負になります。
企業のビジネスプロセスについて、以下は認知拡大をしてから受注するまでの一般的なBtoBのプロセスです。
顧客自らが情報収集している部分を、企業のビジネスプロセスに照らし合わせると、「見込み顧客から商談機会」までが重要なフェーズであると分かります。多くの企業でブラックボックス化しやすい部分ですが、しっかりと対応することが大切です。
つまり、「見込み顧客から商談機会」を、しっかりと可視化できている企業は少ないということです。では、なぜ可視化することが難しいのでしょうか?原因として、「マーケティング」と「営業」という2つの領域が混在していて業務範囲が明確ではないことが挙げられます。
また、ブラックボックス化してしまう要因としては、各担当の認識の相違や業務内容の不明確性が考えられます。
<マーケ担当の気持ち>
<営業担当の気持ち>
上記のような相違があると、顧客が情報収集をしている大事な時期に適切なアプローチができません。
インサイドセールスは、マーケティングと営業の橋渡し役となって、各プロセスのボトルネックになっている部分やブラックボックス化している部分を可視化できます。両者の溝を埋めながら、昨今の顧客の購買行動に合わせて「顧客体験」を提供します。
アドビでは、インサイドセールスを運用していく上で、「人と組織」「テクノロジー」の2つが重要だと考えています。
当然ですが、インサイドセールス1人あたりが対応できる顧客は限られます。実際、最前線で業務を行っていて、1万件ほどのリストを持っている人でも、しっかりと見えているのはおそらく100人程度かと思います。「人と組織」の限界はここにあり、その限界を補うために「仕組みとテクノロジー」の運用が重要なのです。
ここでいう「テクノロジー」とはマーケティングオートメーション(以下MA)のことで、インサイドセールスになくてはならないツールだと考えています。MAは、インサイドセールスの活動を手助けするだけでなく、顧客の獲得や、認知拡大から受注に至るまで全てのプロセスにおける顧客の動きを可視化できます。
各ステージで顧客の温度感や滞在率、次のステージへの遷移率まで可視化できるため、施策ごとの費用対効果も分かります。すでに多くの企業がインサイドセールスを持っており、MAというテクノロジーを駆使して、ビジネスの拡大に取り組んでいます。
顧客行動の変化によって、企業側も変化が求められています。また、インサイドセールスは今の世の中で不可欠な組織であると考えています。 さらに、インサイドセールスは、人とテクノロジーのセットで運用することで、最大限の効果を発揮していくでしょう。
人とテクノロジーの関係性は、企業によってさまざまですが、人的リソースに余裕がある場合、組織を作るのも効果的です。また、人的リソースに余裕がない場合はテクノロジーの運用が効果的でしょう。最終的には、その両方を活用することで最も大きな効果が得られると考えられます。
まず、インサイドセールスにはさまざまな形があります。インサイドセールスの最適な形は、各企業や目的によって異なります。
最近では、分業型・アウトバウンド型といわれるBDRや、インバウンド型といわれるSDRが多いかと思います。BDRは、新規の開拓から行っていきます。SDRはマーケティングが獲得したリードから対応していきます。
その他に、顧客獲得のみを行っていく「テレアポ」から商談まで行う「オンラインセールス」まであります。アドビは、SDRがメインです。
インサイドセールスを組織する場合は、「自社にとっての課題感」や「インサイドセールスで何を解決したいのか」を考えてから、最適な形を作っていく方が良いでしょう。その際、重要なことが2つあります。
それは、「顧客理解」と「タイミング」です。なぜなら、今は顧客が自ら情報収集をしているからです。顧客のニーズを理解して、最適なタイミングでアプローチをしなければうまくいきません。
顧客の状況は多種多様です。例えば「温度感」については、問い合わせの経路でわります。
Webサイトから直接の問い合わせなのか、展示会で名刺交換をされた方なのか、SEO検索から来た方なのか、資料ダウンロードだけをされた方なのか、などです。そして、それぞれの「知りたいこと」は、どの資料をダウンロードしたかによって、おおよそ判断できると思います。
そして、一番難しいポイントとして「タイミング」があります。「Webサイトを訪れたタイミングではなく、次に来たタイミングの方が本当は良いのではないか」「過去に失注したお客様に再度アプローチするタイミングは半年後が良いのか」など、タイミングについては非常に重要な要素が含まれています。
上の図はアドビがオンラインイベントでのアンケート結果を収集したものですが、約84%のお客様は、今すぐの導入検討ではなく、「興味関心を持っているだけ」や、「情報収集をしている」というデータが出ています。
つまり、「初めて接点を持ったタイミングが顧客になるタイミングではない」ということです。ただ、現時点での購入はなくても、将来的に購買の可能性がある顧客でもあるといえます。そのため、自社への興味関心度をしっかりと育んでいかなければなりません。
では、84%を占めている、「今すぐ導入を検討していないお客様」の対応をせずに放置しておくとどうなるのでしょうか。仮に100件問い合わせがある場合、そのうち84件が常に顧客になりません。対応しなければ、毎月84人の未成約・未商談顧客が増えてしまいます。さらには、この84%はマーケティングチームが時間や予算をかけて獲得した顧客です。いわば企業にとっては「宝の山」であり、しっかりと対応していくことが重要です。
84%のお客様の対応として、アドビのインサイドセールスは商談機会を最大化するためにさまざまな対策をしています。追っている目標は現時点では商談金額(有効商談)です。有効商談とは、アポイントを取得し営業担当が商談をして、「このお客様は前向きに検討していただける」と判断した商談のことを指しています。
そのため、ただアポイントをとって営業に渡していけば数字になるというわけではないということです。有効商談の場合のみ、インサイドセールスの成果として評価されるようになっているため、1つの商談あたりの平均商談単価から何件必要なのかが、おおよそ割り出せます。
アクションプランを立てるときは目標から逆算していきます。基本的には「有効商談数」を目標として、そこから逆算して何件のアポイントが必要なのか、電話が何件必要なのかをプランニングしていきます。
例えば、10件の商談を出すにあたって、商談化する確率が50%です。つまり、アポイントは倍の20件必要であり、アポイントを20件取るには大体200件会話をすればアポイントが取れるという計算です。
アドビの場合、電話に加えてメールを中心としたアクションプランを設計しています。
インサイドセールスにとって最も重要なのは、「顧客理解」と「タイミング」の2つです。今、顧客は自ら情報収集するため、タイミングを見極めてコミュニケーションをとっていくことが非常に重要です。
将来的に購入してくれるお客様をサポートして、顧客の持つ興味と意欲をしっかりと育んでいくことが、将来的な売り上げにつながっていくのです。
インサイドセールスの生産性を高めるために、アドビが実践している内容を紹介します。アプローチの前段階としての「アプローチリストの整理」、活動にあたる「有効コンタクト数の最大化」、そして活動の結果に対してどうフォローするかという「リサイクルとナーチャリング」です。
アドビの場合、Webサイト・イベント・展示会で獲得、もしくは、営業担当が名刺交換したものは、アドビのMAであるAdobe Marketo Engageによって、重複確認のためにメールアドレスをキーにして名寄せしています。
その際、企業データベースであるFORCAS(フォーカス)様を利用し、業界・業種・売り上げ・規模といった詳細データを入力していきます。最後に、この肉付けされたデータがSFA(営業支援システム)に入り、ここで初めてインサイドセールスがリードを確認できるという形をとっています。
SFAの振り分けに関して、アドビはいくつかインサイドセールスチームがあるため、チームごとに自動的に振り分けを行っています。例えば、大手の企業の担当者、もしくは中堅、中小企業の担当者、さらには業界などで事前に登録したロジックがあります。
ここからは、インサイドセールスがリストの精査を行っていき、優先順位を付けてアプローチをしていきます。例えば、アドビではキャンペーンの詳細情報を付与してインポートしています。このキャンペーンというのは、「マーケティング活動を施策別に管理する機能」として、イベントであれば参加したのか、登録しかしていないのか、どの資料をダウンロードしたのかなどです。これによって、ある程度対応の優先順位を付けることができます。
MAは、スコアリングという機能によって顧客の温度感を測っています。例えば、お客様がWebを見たりメールを開封したりしていると、アプローチした際に顧客になる能性が高いという判断ができます。
その他、優先順位付けは企業によってさまざまかと思いますが、例えば、ターゲット業界やターゲット部門に送付したメールに反応があった先や、競合製品を使っているユーザーのアクション先などに対し、アドビのインサイドセールスが考えてアプローチしています。
ただし、最も優先度高くアプローチしているのは、お客様がリアルタイムに行動しているものです。この優先順位付けに関しては、「自社にとっての最適」を見つけていってほしいと思います。
ビジネスフローの全体像では、有効見込み客へのアプローチが重要です。アドビでは、有効見込み客へのアプローチこそが、コロナ禍・アフターコロナにおいてお客様と会話をするまでの最適解だと考えています。
見込み顧客が入ってくると、最低でもインサイドセールスが4回はアプローチすると決めています。5回目から着電率が落ちる傾向があるため、4回と決めています。
例えば、電話した際に在宅ワークであることがわかれば、メールでのコミュニケーションに切り替えます。重要なのは顧客体験を損なわないようにしっかりと理解に努めて配慮し、電話やメールを行うことだと考えています。
メール中心でアクションするなか、工夫していることが1つあります。それは、メールのテンプレート化です。効率化を図り、メンバー間で顧客とのコミュニケーションの質に差が出ないようにするという目的があります。
例えば、事例はAll Use Case(オールユースケース)で送るようにします。
そして、ステージ2~4で、業種別・部門・役職別、など後で少し毛色を変えて送っていきます。これらをインサイドセールスが選んだ上で個別にカスタマイズして送付します。
これらのことを、MAでは「Marketo Sales Connect」という別のテクノロジーを活用して処理しています。Outlookと連携してテンプレートをワンタッチで呼び出すことが可能で、自動化とパーソナライズ化が同時にできます。
呼び出したテンプレートは、SFAから名前と企業名をもとに自動的に入力されます。そのため、1~2分でメールの作成ができます。ここから、企業ごとに入っている事例やホワイトペーパーを入れ替えます。
メールのテンプレートを作成するだけではなく、効果の分析も自動でできるため、「どれぐらい開封されたのか」、「クリックされたのか」、「返信されたのか」などを確認できます。
上は少し前のデータですが、薄い青色が電話、濃い青色がメールでのアポイント取得件数です。アドビの在宅ワーク前後でのデータの比較で、在宅勤務開始後にメールでのコミュニケーションに切り替えて、アプローチの数の担保ができるようになったことでメールからのアポイントの割合が60%まで増加しています。
最後に、リサイクルとナーチャリングについて見ていきます。
リサイクルやナーチャリングは、まさに「今すぐ導入検討していない顧客」が対象です。これらの顧客の対応をするインサイドセールスは、「手間をかけずに継続フォローしたい」「返答が本格化したタイミングは逃したくない」という気持ちではないでしょうか。
アドビでは、これらのフォローをする際に非常に重要なのが、「顧客情報」だと考えます。ここで言う顧客情報とは、「見込み顧客を獲得する際に取得できない定性的な情報」のことを指しています。
今、お客様の課題や興味はどこにあるのか、そういった情報の入力の徹底をしています。定性的な情報に対して、MAを活用して自動的にフォローしていきます。
まず、お客様のリードが入ってきてインサイドセールスが電話をします。その際、「新規顧客獲得が課題であるが、今はまだ情報収集段階」という顧客に対して、インサイドセールスはニーズや興味に合わせてコンテンツを送るという対応をします。その後、5つほどのテーマ別キャンペーン登録から、顧客のニーズに合うものや喜ばれるものを選択します。すると、フォローアップのToDoが作成されると同時に、テーマ別の定期メールを顧客に配信していくことができます。
そして、メールが開封、もしくはクリックされるとインサイドセールスに通知が届き、フォローしながら案件を探っていくという流れです。
テーマ別のキャンペーンは、よくある課題や悩みを社内で集めて自社で作成しています。このような流れで、効率的にお客様をフォローしています。
失注案件のフォローも重要です。アドビでは、Salesforce上で営業が商談のステージを失注に変更すると、インサイドセールスに「失注になったので、この後のアクションを考えてください」という内容のメールが届きます。そして、自動的に3ヶ月後のToDoが作成されます。このアプローチが本当に正しいかどうかを営業と連携しながら確認し、半年後や1年後など適切な時期に変更するようにしています。
インサイドセールスは、売り上げ拡大の鍵となる重要な組織です。そして、最適なインサイドセールスは企業によって異なるため、「自社の課題が何なのか」を考えて目標設定をしていくことが大切です。
現在は顧客の購買活動の変化によって、企業はデジタル上で顧客とコミュニケーションを取らなければならない時代になりつつあります。「組織の効率化」に加えて、「顧客コミュニケーションにおけるテクノロジー」がとても重要です。ただ、何が最適かは企業によって異なります。どのようなツールを使ってお客様との関係性を深めていくかを見極めることが重要です。
今後開催予定のセミナー一覧はこちら>>https://jp.marketo.com/events/seminar/
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Adobe Marketo Engageで複雑な購買体験をスムーズに