基本ノウハウ
アカウントプランは、法人営業を進める上であらかじめ作成しておきたい、ABMの手法を利用する上でも重要な営業計画です。しかし馴染みがない方にとっては、「なぜ必要なのか」「どのように作るのか」など疑問があるでしょう。
本記事では営業のアカウントプランとは何か、作成が必要な理由や注意点を踏まえながら解説します。具体的な作り方やチェックポイントはもちろん、作成・実行に役立つテンプレートもあわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
営業のアカウントプランとは何か、まずは基礎知識として以下の3つを解説します。
なおアカウントプランは、ABM(アカウントベースドマーケティング)を展開する上でも必須です。ABMとは何か、概要や進め方などを詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「【入門】ABMとは?必要性が高まる理由やメリット、進め方からツール活用まで分かりやすく解説」
アカウントプランとは、重点顧客と長期的に良好な関係性を維持し、売上を拡大するために作成する計画です。
売上高や取引実績から見て成長性が高く、今後大きな売上拡大が見込める顧客を指します。例えば、取引先の売上高や販売数のうち自社製品が占める割合(インストアシェア)が高い顧客なども、重点顧客に数えられるでしょう。
なおアカウントプランを作成するにあたり、最低限押さえておきたいのは下表に挙げる5W1Hの観点です。
5W1H | アカウントプランの観点 | 例 |
---|---|---|
When(いつ) | ・アプローチを開始するタイミング ・各アクションの行動時期 など |
・2023年□月(決算期〇カ月前) ・□月△日~□月×日 |
Who(誰が/誰に) | ・担当者 ・アプローチする部門や人物 ・営業担当者、営業課長 |
・〇〇部門長、□□課長 |
What(何を) | 提案する製品やサービス |
・製品A ・サービスB など |
Why(なぜ) | ・顧客の購入理由(ニーズ) ・顧客の事業背景 など |
・DX促進による営業生産性の向上 ・新規顧客の創出 など |
Where(どこで) How(どのように) |
アプローチの手段 |
・提案チームを編成 ・商談で当社事例をもとに提案 など |
上記のような観点からアプローチの方向性などを緻密に計画し、アップセル・クロスセルも見据えたアカウントプランを作成して営業活動を進めることで、長期的な売上拡大を図ります。
アカウントプランの作成が必要な理由は、主に以下の4つです。
前提として、重点顧客に集中的なアプローチを行う計画には大きなコストや時間を要するため、見通しを立て企業の投資判断を行う必要があります。アカウントプランは、プロジェクトにおいて必要な人員やリソースを確保するための判断の根拠になります。
アカウントプラン作成の過程で顧客に関する詳細な調査・分析を行うため、顧客の課題を多角的・体系的にとらえる機会になり、営業担当者の顧客理解が深まります。
商談というリアルタイムなやり取りの中でも、顧客が持つ真の課題やより適した提案の方向性に関する気づきを得やすくなり、成約率の向上が期待できるでしょう。
法人向け営業の場合、一社の意思決定にかかる期間が長く単価も高額であるため、既存の取引関係を重視する傾向があります。アカウントプランを通じて相手企業の担当者や関係者を納得させられる提案を行い関係性を築ければ、中長期的な取引が実現しやすくなるでしょう。
明文化した計画は、ABMに基づく営業活動で協力が必須の他部門と方針を共有し、ともに成果を上げる上でも重要です。アカウントプランを共有し、必要に応じて更新していくことで、関係者はより最適なアクションを取りやすくなるでしょう。
アカウントプラン作成時の注意点は、主に以下の2つです。
情報収集や分析に時間がかかる点は、より成果の上がるアカウントプランを作成するために必要な工程と心得ましょう。アカウントプランは中長期的な計画であり、方向性を間違えると将来的に大きな誤算が生じかねません。
なるべく効率的にアカウントプランを作成するためには、前述した重点顧客を絞り込むことが大切です。ある程度の関係性を構築している既存顧客や、成長性などが高い顧客に関するアカウントプランを優先的に作成します。
またアカウントプランを形骸化させないよう、プランニングの考え方を標準化し、実行後は実際に案件化できたかを定量的に把握することも大切です。具体的な方法は後述する「3.アカウントプラン作成における2つのチェックポイント」や「4.アカウントプラン作成後の動き」をぜひ参考にしてみてください。
アカウントプランの作り方を、4つのステップに分けて解説します。
まずはプラン作成にあたり、ターゲットとしている企業の以下のような情報を収集・整理します。
組織図は単に人員や構造を可視化するだけではなく、ステークホルダー(利害関係者)についても明らかにすることが大切です。誰に接触すべきなのか、誰を説得すべきなのか、そのために必要な情報は何かなどの対策を早期に立てやすくなります。
なお企業の経営課題は、部門や立場によって対応範囲が異なる場合があります。決裁者や上層部メンバーごとに「直接的に責任を負う経営課題」「経営課題の解決を阻む阻害要因」についてまとめておくと、どのようなアプローチが効果的であるか提案の方向性を定めやすいでしょう。
アカウントの情報を整理したあとは、営業プランを作成します。競合他社に勝って自社が受注を獲得するための計画を作成し、5W1Hに基づいて実際のアクションにまで落とし込む工程です。
具体的には受注に至るために必要な項目や期間を明らかにし、全体的な営業の流れを設計します。最低限まとめておきたいのは、主に以下の3つです。
なお戦略策定時などは、SWOT分析といったフレームワークの活用がおすすめです。具体的な立て方や役立つフレームワークについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
関連記事:「【5STEP】営業戦略の立て方|役立つフレームワークも解説」
詳細な内容が定まったら、アカウントプランの書面化を進めます。Microsoftのワードやパワーポイントなどを利用し、適宜図解を挿入しながら従業員間で共有できる形に整理することが大切です。具体的には、下図のような項目を見出しにして、詳細を文書としてまとめます。
実用性が最も重要なため、使いやすければフォーマットは自由です。部門問わず共通認識を持てるよう、時系列に沿ってシンプルな形にまとめましょう。
アカウントプランの作成後は、実行しながら適宜ブラッシュアップします。見直しのタイミングは、主に以下の3つです。
提案内容について承認を得られなかった場合や社内外の変化があった場合は、営業プランの組み直しが必要になります。改めて顧客情報の収集や分析を行い、アカウントプランの内容を再検討していきましょう。
アカウントプラン作成時に押さえたいポイントは、以下の2つです。
アカウントプランを作成する際は、営業部門内で考え方を標準化しましょう。計画のクオリティがメンバーによってばらつきがあると、「作っても成果が上がらない」と感じて形骸化しやすいためです。
具体的にはアカウントプランの定義やどのように考えて作成すべきかなど、認識をそろえられるように社内でトレーニングを実施します。このときアカウントプランに記述する重要事項はなるべく絞り、シンプルな枠組みで流れやポイントを可視化するように型を決めておくと、営業担当者の理解をスムーズに促せます。
アカウントプラン本来の効果を最大限引き出し、長期的な売上につなげるためにも、計画の立て方や必要性などの知識をチーム全体で深めていきましょう。
アカウントプラン作成時は、あらかじめ計画内容について他部門へ共有し合意形成しておきましょう。アカウントプランを利用した営業は全社的な取り組みが必要で、他部門の協力が欠かせません。具体的には、営業が以下に挙げるような部門のハブとして動く必要があります。
これらの部門と事前に情報を共有することで各部門のスムーズな連携を実現でき、成果の最大化につながります。いざ計画を実行しようとしたときに思わぬ障壁が生まれないよう、他部門との合意形成は早期に進めておきましょう。
アカウントプランは「作成して終わり」ではなく、以下のようなネクストアクションへつなげることが大切です。
アカウントプラン作成後は、顧客の理想を実現するために必要な事項を継続的に提案しましょう。単に現状の課題を解決するだけでは問題が解消された時点で契約が終わり、大口顧客との取引量を最大化できません。
売上を拡大するためには顧客の将来的な理想像を描き、ともに実現するための施策を提案することが大切です。理想の実現のために解消しなければならない複数の課題に対して複合的な解決策を与えることで、中長期的かつ深い関係を構築できます。
「今よりも良い姿とは何か」というビジョンセリングの観点を持ちながら、提案内容の方向性を定めていきましょう。
アカウントプラン作成後は進捗の可視化やKPIの管理も大切になります。アカウントプランの実行状況を定期的に確認し、必要に応じて見直しをかけるためです。管理すべきKPIは、大きく2つに分けられます。
KPI | 目的 |
---|---|
総取引金額の見込み | ビジネスポテンシャルを見るため |
実際に取引された金額の合計 | 案件化の状況を見るため |
なお営業活動における進捗の入力・共有をスムーズに進めたい場合は、SFAをはじめとしたツールの導入がおすすめです。各ツールの役割や使い方などを詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「MAとSFA/CRMの違いとは?各ツールの役割と活用場面を解説」
アカウントプラン作成には時間と労力がかかりますが、以下のようなテンプレートによって効率化を図れます。
QuipはSalesforceの利用が必要ですが、才流やBeMARKEのテンプレートは無料でダウンロードできます。まずは初期設定の形式を活用し、実情に合わせて使いやすい形へ作り変えていくと良いでしょう。時系列に沿ってまとめて、部門内外での共有に役立ててみてください。
アカウントプランとは重点顧客を攻略し、中長期的な売上の拡大を図るために作成する計画です。顧客の課題やニーズをさまざまな角度からとらえ、複合的な提案によって関係性を深める上でも重要になります。
作成時はアカウント情報の収集・分析はもちろん、フレームワークなどを活用した営業プランの立案も必要です。実行前に他部門との合意形成も進め、部門内外で共有しやすい形に書面化します。
大口顧客との取引量を最大化したい場合は、実現可能性の高いアカウントプランを作成していきましょう。