基本ノウハウ
Webマーケティングで「リターゲティング広告」は広く活用されています。一度サイトを訪れたが購入をためらったユーザー、あるいは興味を示しても途中で離脱したユーザーを呼び戻すために、リターゲティング広告は大きな成果を発揮するのです。本記事では、リターゲティング広告の基本から配信の仕組み、そして今後のCookie規制といった課題にどのように対応すべきかまで詳しく解説します。
リターゲティング広告は、自社サイトに訪問履歴のあるユーザーに対して配信する広告です。媒体によってはリマーケティング広告とも呼ばれています。
本章ではリターゲティング広告の基本について解説します。
リターゲティング広告は、一度でも自社サイトを訪れた経験のあるユーザーにめがけて広告を配信できるため、サイトを離脱したユーザーに企業側からアプローチする手段として広く活用されています。「オンラインショップで洋服を検討したが給料日前だったため離脱した数日後、その洋服の広告が目に入ったため思い出し購入に至った」「とある業界向けウェビナーについて参加を迷ったきり忘れていたが、広告で再び案内を目にして思い出し参加申込みをした」のように、リターゲティング広告の活用によって機会損失を減らせるメリットがあります。
また、BtoBビジネスでは担当者がいくつかサイトを確認して導入する製品の調査を進めていたとしても、決算日や体制の問題などから判断が保留になり、その後忘れられてしまうといったケースは間々あることです。こうしたケースで、企業の忙しさも落ち着くだろう頃合いに自社製品のリターゲティング広告を配信できれば、存在を思い出して再度検討してもらう機会にできるでしょう。
リターゲティング広告がどのような仕組みで行われているのか、順序立てて解説します。
リターゲティング広告にはCookieが利用されています。Cookieとは、ユーザーがWebサイトを閲覧しようとする際にブラウザに送られ保存される小さなファイルです。Cookieには1st Party Cookieと3rd Party Cookieの2種類があり、リターゲティング広告には3rd Party Cookieが利用されています。
企業がリターゲティング広告を実施する際には、広告配信会社から発行されるタグを自社サイトに設置します。タグが設置されたページをユーザーが訪問すると、ユーザーが利用しているブラウザに対しアドサーバーからユーザーIDが付与され、有効期限が切れるまでCookieで管理されるのです。このIDによってユーザーが識別されるようになり、ユーザーが訪問した外部サイトでリターゲティング広告が表示されるようになります。
1st Party Cookieと3rd Party CookieはCookieの発行元が異なります。1st Party Cookieはユーザーが訪れた自社サイトのドメインから発行され、3rd Party Cookieはユーザーが訪れた自社サイト以外のドメインから発行されます。1st Party Cookieはユーザー名、ショッピングサイトの“買い物かご”情報、会員登録のために入力した氏名やメールアドレスなどの情報が保存され、二度目のサイト訪問時には自動入力によって入力の手間が省かれるなど、ユーザーの利便性を高める用途で使われます。また、企業側はユーザーの自社サイト内の行動履歴を取得可能です。
一方の3rd Party Cookieはユーザーが訪れた自社サイト以外のドメインから発行され、ドメインをまたいでユーザーの行動を追跡できます。3rd Party Cookieはリターゲティング広告などマーケティング施策に利用されています。
リターゲティング広告の利用によって、以下のメリットが得られます。
訪問履歴のあるユーザーをねらってアプローチできる点はリターゲティング広告の最大の特徴です。新規に流入したユーザーのほとんどがCVに至る前に離脱してしまいますが、その中に自社製品・サービス購入の可能性があるユーザーが多く含まれていたら、離脱を見送るのみの状況は大きな損失といえます。自社サイトを離脱したユーザーに対して繰り返し訴求が可能なリターゲティング広告の活用により、ユーザーを再び自社サイトに導き、見込み顧客の興味・関心度の向上やCV獲得が期待できます。
リターゲティング広告は配信対象であるターゲットの条件を指定でき、◯日前に特定のページを閲覧したユーザーといった絞り込みを行うことで複数の配信リストを作成できます。「製品・サービスの機能や価格表を閲覧したユーザー」「問い合わせを行ったユーザー」のように、ユーザーの購買フェーズに応じた広告配信が可能になるのです。また、訪問履歴のあるすべてのユーザーにリターゲティング広告を実施した場合、課金タイプによっては広告費がすぐ上限に達してしまうかもしれません。こうした費用と配信対象のバランスなども、ターゲットの条件指定によって調整が可能です。
リターゲティング広告は一度自社サイトを訪れたユーザーに対する広告であるため、新規ユーザーよりも自社製品・サービスに興味や関心を抱いている可能性が高く、こうしたユーザーの再訪を促すことで他のWeb広告施策よりもCV数の増加・ひいては獲得単価の低減が期待できます。扱う製品・サービスにもよりますが、リスティング広告と比較してCPAを3分の1程度に抑えられたという事例もあり、適切なリターゲティング広告活用は広告効果を何倍にも高められるでしょう。
リターゲティング広告は離脱ユーザーに働きかけられるメリットの大きい施策ですが、以下のようなデメリットもあります。
リターゲティング広告はユーザーを追跡して広告を表示するため、場合によっては不愉快に思われ、配信の停止を選択されるなどかえってマイナスプロモーションになる可能性があります。ユーザーがサイトを離脱した直後に広告配信があると「追跡されている」という印象を強く与えるかもしれず、遷移先で同一の広告を繰り返し目にすることが不快感につながるおそれもあります。配信のタイミングや頻度についてはユーザーが不快になりにくい範囲内に留め、広告デザインも繰り返しの視認に堪える内容を意識しましょう。
リターゲティング広告は自社サイトに訪問履歴のないユーザーには配信できません。潜在層に向けて認知度の向上を図ろうとするケースや、製品・サービスを認知しているがサイト訪問はまだのユーザーも含めて訴求したいケースにおいては、リターゲティング広告を実施しても成果を上げられないのです。実施前にどのような層をターゲットにしているのかを明確にして、効果が見込めるかどうかを判断する必要があります。
リターゲティング広告は主に2種類の課金タイプがあります。1日あたりの上限金額は設定可能のため、自社の予算状況に応じて利用しましょう。
課金タイプ | 相場 | 内容 |
---|---|---|
クリック課金 | 数十円/1クリック | 広告がクリックされた回数に応じて料金が決まる。 クリックに至るのは広告内容に関心を持ったユーザーであるため、高い費用対効果が期待できる。 |
インプレッション課金 | 数十~数百円/1,000回表示 | 広告が表示された回数に応じて料金が決まる。 予算の管理がしやすい。 |
Google広告を利用してリターゲティング広告を実施する手順について解説します。
リターゲティングを開始するためには、まずGoogle Adsからリターゲティング用のタグ(Googleでの呼称はリマーケティングタグ)を取得する必要があります。このタグをWebサイトの全ページまたは特定のページのHTML内に設定することで、サイト訪問者の情報を収集します。タグの設定により、訪問者の行動をトラッキングし、適切な広告を後から表示できるようになるのです。
Google広告の右上にあるメニューから、ツールと設定>オーディエンスマネージャーを選択します。
左メニューのデータソース>Google広告タグの「タグを設定」を選択します。
データソースの作成画面に移るので、「ウェブサイトへのアクセスに関する一般的なデータのみを収集して、お客様のウェブサイトの訪問者に広告を表示します」を選び、次に進みます。
設定するタグの種類を選択します。タグマネージャーの利用がおすすめです。
Google Ads内でリマーケティングリストを作成します。このリストには、特定のページを訪れたユーザーや、特定の条件を満たすユーザーなどを定義できます。例えば、カートに商品を入れたが購入を完了していないユーザーや、特定の商品ページを閲覧したユーザーをターゲットにできます。
Google広告の右上にあるメニューから、ツールと設定>オーディエンスマネージャーを選択します。次に、左メニューから「分類して表示」を押し、「+」(オーディエンスの作成)を選択します。
「+」を選択すると、作成するオーディエンスの種類を選択できます。
「ウェブサイトを訪れたユーザー」を選び、条件を入力してオーディエンスセグメントを作成します。
リマーケティングのキャンペーンをGoogle Ads内で作成します。キャンペーンを作成する際には、予算、地域、広告の形式などの設定を行います。また、どのリマーケティングリストをターゲットにするのかもこの段階で選択可能です。
新しいキャンペーンの作成を選択し、キャンペーンの目的を設定します。
次にキャンペーンタイプを選びます。キャンペーンタイプは「検索」「ディスプレイ」「ショッピング」「動画」「スマート」「ファインド」の6種類ありますが、中の「ディスプレイ」を選択し、入札単価や配信地域などの詳細を設定してキャンペーンを作成します。
最後に、作成したキャンペーンとリマーケティングリストを紐づけます。これにより、特定のリストに属するユーザーに対して、設定したキャンペーンの広告が表示されるようになります。紐づけが完了したらキャンペーンを開始し、リターゲティング広告が適切なターゲットに配信されるのを確認します。
リターゲティング広告に利用されている3rd Party Cookieは、個人情報保護の観点から欧米諸国を中心に規制が始まっており、従来のリターゲティング広告は今後利用できなくなる可能性が高いと考えられています。
またAppleのブラウザであるSafariでは1st Party Cookieについても最大7日間までの利用であり、7日経つとデータが削除されます。今後ますます規制は厳しくなると予想され、リターゲティング広告を多く利用していた企業は別のマーケティング施策に移行する必要があるでしょう。
【Cookie規制の状況】※2023年9月時点
ブラウザの種類 | 3rd Party Cookieの利用 | 1st Party Cookieの利用 |
---|---|---|
Chrome | 2024年に廃止予定 | 規制なし |
Edge | トラッカーは規制あり | 規制なし |
Safari | 廃止 | 最大7日間 |
このほか、Cookieの規制はMA(マーケティングオートメーション)などのツールを利用したWebトラッキングにも一部影響を与える可能性があります。詳細は下記の記事を参照してください。
関連記事:「MAによるWebトラッキングとCookieの意味を解説」
リターゲティング広告が今後利用できなくなることを踏まえ、企業は別のマーケティング手法を選択する必要があります。代替手法の案として、下記の3つを押さえておきましょう。
今後もCookie規制が進むと考えると、CRMなどを利用して自社に顧客データベースを整備する方法が、外部の環境に左右されず最も影響を受けにくいと考えられます。また、3rd Party Cookieが全面的に規制されるなか、1st Party Cookieについてはまだ活用が可能です。顧客データベースを整備し、営業活動で顧客から直接得た定性的な情報のほか、1st Party Cookieを利用して得たユーザーのサイト内行動の情報なども収集・管理し、マーケティングに活用しましょう。
リターゲティング広告の代替として、Google広告のP-MAXキャンペーンを検討しましょう。P-MAXキャンペーンとは、1つの広告キャンペーンを作成するだけで複数の配信面に配信が可能であり、細かい設定をせずとも機械学習によって自動的に最適な配信を行ってくれるGoogleの新しい広告メニューです。設定した目標に対し、システムが自動でパフォーマンスを改善するように働くため、個別に手動で広告配信を設定するよりも大きな成果を期待できます。ただし細かい調整はできないため、他のキャンペーンと並行して利用するようにしましょう。既存のオーディエンスリストも情報源として活用が可能です。
リターゲティング広告のように「自社サイトを訪問したユーザー」の指定はできないものの、既存顧客と似たユーザーをねらい広告配信できる機能としてFacebook広告の類似オーディエンスがあります。ソース(情報元)となるオーディエンスを指定すれば、類似と考えられるユーザーを自動的に判別しターゲティングを行ってくれます。ただし、オーディエンスのリストには100人以上の登録が必要である点には注意が必要です。
関連記事:「Facebook広告とは?出稿するメリットや成功させるポイントも解説」
リターゲティング広告は、Webサイトの訪問履歴を持つユーザーに向けて配信される広告で、特に自社サイトを離脱したユーザーに再訪を促すための重要な手法です。ただし、リターゲティング広告で用いられる3rd Party Cookieは、欧米を中心にプライバシー保護の観点からの規制が強まってきており、今後はマーケティング活動での利用が難しくなります。1st Party Cookieの活用やCRMを利用した顧客データベースの整備、または別の広告施策を活用し、リターゲティング広告に依存しないマーケティング戦略を構築するようにしましょう。