基本ノウハウ
マーケティング用語として近年、「MECE」という言葉が使われる機会が増えました。用例として「MECEに考える」「MECEの状態」など、プレゼンや研修などで耳にすることもあると思います。
この記事では、MECEという言葉の意味や概要を解説し、物事を分かりやすくMECEに考えるための方法やその際の注意点などをご紹介します。
MECEとは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の頭文字をとって略した用語です。日本語にすると「漏れなく、ダブりなく」となり、「物事に必要となる要素をすべて挙げ、かつ重複を避けて考えること」を指します。
ビジネスで有用とされるMECEの考え方ですが、私たちは日々の生活のなかでもMECEを応用しています。子どもの入学時に学校で使うものをそろえるとき、学校生活全般に必要な上履きや制服、学科に必要な筆記用具やノート、体育に必要な体操着、給食で必要なランチョンマット……などのように、学校で行うさまざまな活動ごとに必要なものリストを作ることもMECEの考え方の1つです。
MECEという言葉を深く知らなくても、普段何気なく行うことのなかで、自然とMECEの考え方が用いられているのです。
ビジネスでは、業務のなかでさまざまな課題に立ち会うものです。それらの課題を解決に導くためには、漏れやダブりのない考え方が求められます。
そのためには複雑な課題を、要素ごとに分解することで分かりやすいものにしていく必要があります。漏れやダブりがないように分解を行うとき、MECEの考え方が役に立ちます。
漏れやダブりがある状態のまま課題解決を試みても、二度手間になったり、堂々巡りを繰り返したりしてしまうかもしれません。MECEは、ビジネスにおける課題を明解に切り分ける際に、要素の漏れやダブりをなくして効率的にするための重要な考え方といえます。
MECEの考え方は、ロジカルシンキングを行うために役に立ちます。ロジカルシンキングとは物事を根拠と結論に分け、ロジック(論理)に基づき矛盾のないよう筋道立てて理解していく思考法です。MECEもまた、客観的かつ論理的に大きな物事をシンプルに分類し、矛盾なく整理することです。
このときロジカルシンキングによって結論を導くには、根拠となる各要素に漏れやダブりがないようにする必要があります。説得力ある結論を提示するために、MECEの考え方が深くかかわってくるのです。
MECEとは、全体を要素に漏れやダブりがない状態に分解して考えることですが、ここでは具体的にどんな状態がMECEであるかを例でご紹介します。
マーケティングであり得る事例として、アパレルの商品をMECEの考え方で分類してみましょう。
まずはアパレル全体でとらえてから「アウター(上衣)」「トップス(シャツやTシャツ)」「ボトムス(パンツやスカート)」のようにカテゴリに分けます。そこからさらに、「ブランド」や「対象となる年代」「対象となる主な性別」などでさらに分類していくと、分類の漏れが発生しにくくなります。ちなみにこの分類に用いた手法を、「トップダウンアプローチ」と呼びます。
加えて、以下では分類の仕方によって漏れやダブりが発生してしまった(=MECEではない)例についてもご紹介します。
例えば、ある店舗の対象顧客を年代で分類するとします。このとき、「成年」「子供」「高齢者」「主に男性」「主に女性」のような分類を行いました。
このケースでは漏れはなくせますが、「女性」「男性」という分類にはそもそも「子供」「成年/高齢者」が含まれるほか、「成年」という言葉にも「高齢者」が含まれるため、要素ごとに顧客層のダブりが生じています。
ある店舗で、顧客の来店状況を要素分解しました。このとき「来店者数」×「来店頻度」で計算した場合、ダブりは発生しないものの、「来店1回あたりの購入価格(客単価)」の要素が含まれておらず、顧客の来店状況把握に必要な情報について漏れが発生しています。
対象顧客の「成年」を、さらに「男性」「女性」「社会人」「学生」という要素に分類したとします。この分類では、性別や職業でこれらに当てはまらない人が漏れています。また、「男性/女性で、社会人/学生」という人も大勢いる点や、「社会人をしながら学校に通う人」もいる点などから、広範囲でダブりが発生してしまっています。
日常生活でもさかんに応用されているMECEの考え方ですが、ビジネスに取り入れるにあたっては、以下の2つのアプローチとフレームワークが用いられています。
なお、ここでご紹介するトップダウンアプローチ・ボトムアップアプローチの2つに優劣はなく、それぞれの特徴に合わせて正しく活用したり、組み合わせて使ったりすることが大切です。2つのアプローチを上手に使い分け、MECEの考え方に生かしましょう。
トップダウンアプローチとはまず全体を提示し、そこから細部にブレークダウンしていく手法です。全体を見て大枠で概要を掴み、詳細な要素をそこに当てはめていくという手順で実施し、「演繹的アプローチ」とも呼ばれます。
例えば、最初に「日本の四季」を考えてみます。それを要素ごとに切り分けるとどうなるでしょうか。「春」「夏」「秋」「冬」と分類できます。このように、全体→要素の順に切り分けていくのがトップダウンアプローチです。
トップダウンアプローチは、全体像が明確で、全体さえイメージすれば切り分けの方向性がはっきり見える場合に有効です。しかしその逆で、切り分けるべき要素が曖昧であったり、全体像がぼんやりしていたりすると、分類しても漏れや重複が発生しやすいため注意しましょう。
ボトムアップアプローチとは、先に要素を挙げてそこから全体像を導き出す手法です。トップダウンアプローチと真逆の方法であり、「帰納的アプローチ」とも呼ばれます。
例えば「対人印象をアップさせるコツ」というテーマでアンケートを取ったとします。その結果で得られた回答に沿って、以下表のように各要素をグループ化します。このように要素を先に集め、その結論の形で全体を求めるのがボトムアップアプローチです。
▼ボトムアップアプローチの例
対人印象をアップさせるコツ | アンケート結果 |
---|---|
目線 | 「相手の顔を見て話す」「目を見て喋る」「体も顔も相手に向けて話を聞く」 |
笑顔 | 「人と笑顔で接する」「笑顔を絶やさない」 |
挨拶 | 「挨拶から会話を始める」「挨拶を欠かさず行う」 |
分解できる要素がはっきりしない場合や、思考によって要素を求めたい場合には、このボトムアップアプローチが役立ちます。ただし注意したいのは、要素の性質が偏っている場合、ダブりが発生してしまう可能性がある点です。また要素をグループ化して全体を導くときに、細部に注意を払わないと漏れの発生を招きます。MECEの状態になるよう、意識して分析を行うことが大切です。
MECEの理解に際し活用されている主なフレームワークを5つ挙げ、簡単にご説明します。
SWOT分析とは、自社の外部環境と内部環境のギャップを整理してビジネスチャンスを見つけ、まとめるためのフレームワークです。SWOT分析のSWOTとは、「Strengths(強み)」「Weaknesses(弱み)」「Opportunities(機会)」「Threats(脅威)」の頭文字です。商品やサービスをこれらの要素に分類し、現状を把握していきます。
関連記事:「SWOT分析のやり方とは?効果的に実施するためのポイントや事例を紹介」
3C分析は、MECEの考え方を説明する際に非常によく用いられるフレームワークです。マーケティングで用いられる代表的な分析技法でもあり、事業を「3つのC」で分析するものです。「Customer(顧客)」「Competitor(競合)」「Company(自社)」のそれぞれを、漏れやダブりのない状態で分析することで市場と自社の関係性を知ることができます。
関連記事:「【具体例付き】3C分析とは?目的・やり方を分かりやすく解説」
4P分析は、マーケティングの戦術策定の際に用いられるフレームワークです。商品やサービスの企画・生産・販売をいかに効率的に行っていくかを、「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「施策(Promotion)」の4つのPに分類して考えるものです。「製品」では商品の品質やデザイン、ブランドイメージなどを検討します。「価格」は値段や支払方法など、「流通」では販売場所や地域、販路などを検討します。「施策」では、宣伝手法やプロモーション活動方法などを検討し、戦術としてまとめていきます。
関連記事:「【マーケター必見】マーケティングの王道「4P分析」!事例や使い方を解説」
ロジックツリーとは、名前の通り今ある課題をツリーのように分解して書き出すことで情報を可視化し、論理的に考えやすくする手法です。ツリーの構成要素は、1つ下位の要素を合わせたものとなっています。
関連記事:「ロジックツリーとは? 種類や手順、作成時のポイントなどを紹介」
QCDとは「Quality(品質)」「Cost(費用)」「納期(Delivery)」の頭文字を取って略した呼び名で、これら3要素のバランスを見るビジネスの考え方です。QCDというフレームワークでは、ビジネスの成功には事業活動を品質、コスト、納期の3つの観点から考えて行動することが重要であるとしています。QCDのフレームワークは主に製造業の生産管理部門で用いられることが多いのですが、成果物が発生し、納期で動くクリエイティブ系などの業務においても利用されています。
関連記事:「QCDとは?優先順位を決めるときのポイントを解説」
ここでご紹介した例以外にも、MECEを理解するために役立つフレームワークは多数あります。以下の資料では、マーケターがビジネスの現場で活用できるフレームワークを数多くご紹介していますので、ぜひこちらもご参照ください。
MECEに考えることはビジネス、特にマーケティング分野でとても重要ですし、求められる機会も数多くあります。しかし実践にあたっては、気をつけたい点もいくつかあります。
日常生活のなかにも、MECEで考えられることは数多くあります。しかし、世の中の事象の全部をMECEで考えられるというものでもありません。ビジネスで立ち会う課題も、明快に分類できるものばかりとは限らないでしょう。
何に対してもMECEで考えることにとらわれすぎてしまうと、ビジネス課題解決に必要な思考の本質であるロジカルシンキングを見失ってしまいます。
「論理的に分析することを忘れて何もかもMECEで考えることに集中してしまう」「MECEに分類しきれない課題にぶつかると立ち止まってしまう」など、方向性の見誤りを招く可能性があるため注意しましょう。
MECEの最終目的は、物事を漏れやダブりのない状態に分類して整理し、客観的な視点から論理的に考えて課題を解決へ導くことです。漏れがないことやダブりがないことにこだわりすぎてしまい、「きれいにMECEの状態となるよう整理できたらそれで完結」と考えてしまいがちになるため、注意が必要です。
MECEに考えようとするときは、「課題の解決」という目的を見失わないことを大切にしましょう。「ただ完璧にMECEの状態をめざす」のではなく、「どの程度MECEの状態にまで整理できたら、課題解決という目標に近づけるか」を意識してください。
MECEの考え方に役立つフレームワークも先にご紹介しましたが、こちらも「フレームワークを適切に取り入れられた(きれいにまとまった)」ことをゴールに考えがちです。フレームワークを応用する際も、課題解決という目的に向かう際に経過する手段であることを念頭に置きましょう。
MECEの考え方は、ビジネスにおける課題解決に有効なだけではありません。業務のさまざまな場面で物事を分類・整理して検討できれば、相手にとって分かりやすく説得力をもった説明ができることにもつながります。明確な説明により業務連絡における認識の行き違いなどを防止でき、今まで以上に仕事をスムーズに進められるかもしれません。
「状況を整理することが不得意」「自分の考えを主張できる状態にまでまとめられない」など、ビジネスでのお悩みは尽きません。そのような困りごとがあれば、MECEの考え方を意識してみると良いでしょう。今回ご紹介したフレームワークも取り入れながら考えを整理していくことで、分析自体をもっと分かりやすいものと感じられるでしょう。
まずは日常生活のなかで何をMECEに分類できるかシミュレーションを行うなど、いずれビジネスに生かせるようMECEの思考に慣れていくこともおすすめです。