Tips/寄稿
問い合わせや商談数は増えている。しかし、受注が決まるのは特定の人の商談に偏り、それらの商談を動かす社長やエース営業の稼働がなかなか減らない。
これは、売上が伸び始めたタイミングで、多くのBtoB企業が直面する構造的な課題の1つです。営業責任者や経営者の方は特に思い当たるのではないでしょうか。
この状態は、営業がうまくいっていないというより、営業のやり方が今の規模に合わなくなってきているサインとも言えます。そして、多くのBtoB企業が課題をしっかりと認識できず“違和感を抱えたまま”、次の打ち手を探し始めます。その結果ありがちなのが、対策として営業代行や広告に投資しても、根本的な改善につながらないというケースです。
今回は、こうした“社長・エース依存”の営業から抜け出すための、「1:n営業」設計の4ステップを解説します。
この状況に直面したとき、多くの企業がまず検討するのは、営業の「量」を増やす施策です。
いずれも間違った判断ではなく、短期的には商談数が増えるケースもあります。
しかし、こうした施策を実施すると、現場では次のようなことが起きます。
結局、営業を増やしても、重要な案件ほど社長やエースが対応することになり、負担は増すばかりです。営業代行への投資は年間契約で数百万円。広告費も月に数十万円。投じたコストに対し、受注は増えていないのです。
では、この問題をどう解決すればよいのでしょうか。
重要なのは営業人数や広告予算を増やすことではありません。社長やエースが1対1で決めている勝ちパターンを、1:nでも再現できる形に落とし込むことです。
人を増やしても、教育コストと時間がかかり、成果が出るまでに数カ月〜半年かかります。その間も、社長やエースが商談に出続けなければなりません。一方で、社長やエースの商談で実際に起きていることを言語化し、型化できれば、少ない投資で営業の再現性を高められます。
1対1で成果をあげている営業を、1:nでも再現できる形に整えるための4ステップです。
それぞれ順に解説します。
STEP1では、実際にエースや社長が成約している商談を振り返ります。対象にするのは、契約に至った商談だけです。
まず、直近で受注した商談を5〜10件ほどリストアップします。数を集めることが目的ではないため、無理に増やす必要はありません。ここで見るのは「エースや社長はなぜ決められるのか」の共通パターンです。
次に、それぞれの商談で顧客が抱えていた課題を整理します。細かく書き出すというより、「なぜその相談が始まったのか」を思い出すイメージです。複数の商談を並べると、似た内容が繰り返し出てくるはずなので、それらを1〜2個の共通した課題にまとめます。
最後に、その課題が解決された結果、顧客がどのような状態になっているかを確認します。ここで見るのはサービス内容ではなく、顧客側の変化です。「何をしたか」ではなく、「どうなったか」を一文で表します。
たとえば、
「紹介に頼らず、毎月の商談数を自社でコントロールできている状態」
といった形です。
このステップで行っているのは、成約している商談に共通する「条件」の抽出です。どんな課題に対し、どんな理想状態を提示できたときに受注するのか。この共通点が、後の説明会で伝える内容の土台になります。
STEP2では、STEP1で抽出した共通点が見込み顧客にとって「自分の話」として聞こえるように、伝え方の立ち位置を決めます。「誰の、どんなメリットの話なのか」を冒頭で明確にするステップです。
ここで多くの企業が陥るのが、「自社は何ができるか」から説明を始めることです。具体的には、「営業支援を行っています」「マーケティングが得意です」といった表現です。
見込み顧客からすると、それが自社にどう関係するのかが分からず、聞く理由が生まれません。
見込み顧客が最初に考えているのは、次の点です。
この段階では、スキル名やサービス内容を詳しく説明しても、自分の話として受け取られにくくなります。重要なのは、「何ができるか」ではなく、それによって相手の会社がどんな状態になるかを先に示すことです。
たとえば、
「商談数はあるのに受注が安定しない状態を改善できます」
「社長が商談に出続けないと売上が止まる状況から抜け出せます」
といった表現であれば、見込み顧客は自社の状況と重ねて考えやすくなります。
BtoBにおける立ち位置の伝え方は、大きく分けて次の2つです。
このうち、1:nで成約率を再現するうえで重要なのは、前者の「自分ごととして理解できる」立ち位置です。最初の段階で「これは自分の話だ」と思ってもらえなければ、その後の説明も届きにくくなります。
STEP3では、ここまで整理した内容を誰が伝えてもブレないように、押さえるポイントを3つのキーワードにまとめます。
1対1の商談では相手の反応を見ながら説明の順番や論点を調整できますが、人が増えるほどそれが難しくなります。
だからこそ、「この話のポイントはここです」と伝える軸を先に固定し、全員が同じ切り口で話せる状態を作ります。
キーワードは、「これがあると良くなる」「これがないと困る」という形で語れるものを選びます。プラス(ある状態)とマイナス(ない状態)をセットで見せることで、相手の中に差が生まれ、後半の提案が通りやすくなります。
今回のテーマであれば、キーワードは次の3つに整理できます。
| キーワード | プラス(ある状態) | マイナス(ない状態) |
|---|---|---|
| セールストークの標準化 | 新人でも一定の成約率を維持しやすい。 | 育成が属人的になり、社長やエースの負荷が増える。 |
| 1:n型の営業 | 複数人に同時に伝えられ、営業効率が上がる。 | 1:1の説明に工数がかかり、営業が回らなくなる。 |
| セールス動画 | 動画を見せて育成でき、動画でセールスもできる。 | 対面で教え続ける必要があり、説明会も毎回登壇になる。 |
ここで大事なのは、3つを「正しく教えること」ではありません。この3つが欠けているから今はうまくいっていない、という「見方を揃えること」です。
その土台ができると、後半で伝える手順や事例が、そのまま「欲しい情報」として届きます。
STEP4では、ここまで整理した内容を実際に伝える「説明の場」を用意します。 最初から大きな場をつくる必要はありません。少人数で、話がきちんと届く形にします。 人数は10名程度で十分です。ここで目指すのは、多くの人を納得させることではなく、「自分ごととして受け取れる人」に届くことだからです。
この段階で、網羅的な説明やすべての質問への回答は不要です。 STEP3で整理した3つのキーワードについて、「ある状態」と「ない状態」の差を共有できれば十分です。
この場で重要なのは、理解よりも気づきです。 「うちもここが弱いかもしれない」「このままだと同じ状況が続きそうだ」と感じてもらえれば成功です。
最後に示しておくのは、「続きは個別で整理しましょう」という導線だけです。 売り込む必要も、契約条件を細かく説明する必要もありません。 ここまでの話を聞いて必要だと感じた人だけが、自然に次の行動を選びます。
この形にすると、説明の場は「売る場」ではなく、「必要な人が前に進む場」になります。
実際にこの流れで説明会(ウェビナー)を開催したケースでは、小規模な集客でも次のような結果につながっています。
いずれのケースでも、個別相談では「自社の場合はどこが近いか」「どの部分を調整すればよさそうか」といった点を、事例をもとに具体的にすり合わせました。 営業改善にかける投資としては、集客に数万円〜十数万円、説明会の準備に社内工数が数日。前述の営業代行や広告に年間数百万円を投じるよりも、はるかに小さい投資で成果を出せているのです。
| 施策 | 初期投資 | 期待効果の発生時期 | リスク |
|---|---|---|---|
| 営業人員増加 | 年間500-800万円/人 | 6カ月〜1年 | 採用失敗、育成コスト |
| 営業代行 | 年間200-500万円 | 3-6カ月 | 質の低いアポ、契約縛り |
| 広告 | 月30-100万円 | 即時〜3カ月 | CPAの高騰、継続コスト |
| 1:n営業の型化 | 初期10-30万円 | 1-3カ月 | 設計の手間、初回の試行 |
【参考】株式会社ENVYのnote
※1. 採用支援会社の支援事例はこちら↗︎
※2. 組織開発会社の支援事例はこちら↗︎
営業を伸ばす方法として、人員増強や広告投資が語られますが、それだけでは成果につながりません。エースや社長が成約を勝ち取るパターンを他メンバーでも再現できる形に落とし込む。これが、最も投資対効果の高い営業強化策です。
本記事で紹介したのは、特別な手法ではありません。 成約している商談で実際に起きていることを分析、言語化し、10名規模の説明の場で再現する。この設計により、社長やエース依存の営業から抜け出し、安定した受注体制をつくることができます。
本記事の内容が、自社の営業を見直すきっかけになれば幸いです。