基本ノウハウ
ユーザーシナリオを作成すると、自社製品・サービスの開発や改善に役立つ情報が得られます。しかし初めて作る方は「どのように書けば良いのか」「似たような手法もあるが、何が異なるのか」など疑問も多いでしょう。
本記事ではユーザーシナリオとは何か、カスタマージャーニーマップといった類似用語との違いを踏まえながら解説します。具体的な書き方や無料で使えるテンプレートも、あわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
まずはユーザーシナリオの概要や、構成要素について解説します。基礎知識を押さえたい方は、1つずつチェックしていきましょう。
ユーザーシナリオとは、ユーザー体験を可視化したものです。具体的には自社製品・サービスとの出会いから、購入や利用などゴールとなるアクションにたどり着くまでの行動・心理の変化を見ます。ユーザーシナリオを作成するメリットは、以下の3つです。
ユーザーの行動や心理の変化を点ではなく線でとらえるため、重要な課題や施策の実行タイミングを見抜きやすくなります。また可視化されることでチームメンバーと共通認識を持ちやすくなるため、プロジェクト進行中の手戻りが少なくなる点も大きなメリットといえるでしょう。
ユーザーシナリオの構成要素は、下表の通りです。
構成要素 | 内容 | |
---|---|---|
ペルソナ | 誰が | ユーザーシナリオの主人公であり、具体的かつ詳細なターゲット像 |
スタート | どのようなきっかけで | 自社製品・サービスを利用するのに至った背景や感情 |
ゴール | 何を達成するために | ペルソナの人物が最終的に実現したい内容 |
プロセス | どのような行動を起こすか | スタートからゴールまでに起こす一連の行動 |
特にペルソナは土台となる部分であり、詳細を詰めておくとユーザーシナリオの作成もスムーズに進みます。具体的な作り方や注意点について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「ペルソナの作り方とは?徹底解説【無料設定シートダウンロード】」
ユーザーシナリオの書き方を、3つのステップに分けて解説します。
まずはプロセス以外の構成要素を設定します。例えばCRMを扱っている企業でユーザーシナリオを作成する場合、下表のような方向性が想定できるでしょう。
ペルソナ | ・30代男性 ・BtoB企業のマーケティング担当者 ・マーケティング部門に配属されて3か月経過 |
スタート | ・エクセルによる顧客管理に慣れてきたものの、なんとなく使いにくさを感じている ・便利なツールがあれば試してみたい ・予算はなるべく抑えたい |
ゴール | 費用対効果の高いツール(CRM)を導入する |
なおペルソナの設定やスタート・ゴールなどの想定には、ユーザーインタビューが役立ちます。具体的な進め方や成功のコツなどを知りたい方は、こちらの記事もぜひ参考にしてみてください。
関連記事:「【3ステップ】ユーザーインタビューのやり方|目的や種類から成功させるコツまで解説」
【ステップ1】で設定した内容に基づき、プロセスのステップごとに詳細なアクションを書き出しつつ、ユーザー心理の分析も進めます。前述したペルソナを踏まえた例は、下表の通りです。
行動プロセス | アクションの詳細 | ユーザーの心理 | |
---|---|---|---|
1 | ツールの調査 | ・CRMツールについてWeb検索する ・各ツールのWebサイトを閲覧し、機能や価格を比較する |
・エクセルと似たような操作だと導入しやすいかも ・あまり機能が多すぎても、有効活用できなさそう ・予算に近い価格のツールがある、少し試してみたい |
2 | トライアルの実施 | ・複数のCRMツールについてトライアルを申し込む ・トライアルを通じて、機能や使い勝手を評価する |
・Aは機能がたくさんあるけど、その分どこを見れば良いか分かりにくい ・Bはエクセルと操作が似通っていて、操作に早く慣れるかも |
3 | コストと利益の評価 | ・導入候補のCRMツールにおける料金プランやランニングコストを比較する ・マーケティング部門の予算と照らし合わせて、費用対効果を評価する |
・Aは予算外だから導入は難しいな ・Bは他よりも少し料金プランが高めだけど、カスタマイズ性やサポートの充実性を考えると妥当かも |
4 | 導入準備 | ・提供元と契約や導入手続きを行う ・ツールのセットアップとカスタマイズを実施する |
・従業員全員が使えるよう、分かりやすいマニュアルもあると助かる ・不具合があったとき、なるべく早く復旧できるようなサポートはあるのかな |
アクションごとに、ユーザーの思考過程や要求を1つずつ洗い出していきましょう。
最後に【ステップ2】で想定したユーザー心理のうち、対応が可能なものから、具体的な改善策を検討します。上記の例におけるツールの調査で、「あまり機能が多すぎても、有効活用できなさそう」という心理があったとしましょう。
この場合はカスタマイズ機能を追加して、自社の実情に合わせて使える機能を選択・管理できるようにする改善策が考えられます。または料金プランの種類を拡充し、選択肢の増加を図るのも1つの方法です。
ユーザーの要求にすべて応えられると理想的ですが、現実としては予算やリソースなどの制限から施策を取捨選択する必要があります。途中で頓挫して投じた費用が無駄にならないよう、再現性の高い改善策を検討していきましょう。
ここでは以下に挙げる、ユーザーシナリオと似た用語との違いや関係性について解説します。
カスタマージャーニーマップは、目的・構成要素ともに基本的にはユーザーシナリオとほぼ同じです。違いがあるとすれば、下表の3点になります。
ユーザーシナリオ | カスタマージャーニーマップ | |
---|---|---|
主な視点 | ユーザー | マーケティング |
主な活用シーン | UI/UXデザインの改善 | タッチポイントごとの施策立案 |
主な表現方法 | 文章 | 図式 |
なおユーザーシナリオやカスタマージャーニーマップの内容を、より簡単に表現する方法としてストーリーボードもあります。
4コマ漫画のようにイラスト化したものであるため、プロジェクトの初期段階など企画内容やメッセージを簡単に共有したい場合に利用すると良いでしょう。
ユーザーストーリーは、ユーザー視点で機能の価値を表現した短い一文です。ユーザーシナリオにおける、ゴールとプロセスを非常にシンプルな形にまとめたものと解釈できます。
例えば「ユーザーとして商品をカートに追加することで、購入手続きをスムーズに進められる」という文面がユーザーストーリーです。開発者がユーザーなら、何の機能でどのような目標を達成したいかについて開発段階で定義し、その必要性を示すために活用します。
ユースケースは、ユーザーとシステムのやり取りを可視化したものです。ユーザーシナリオにおける、プロセスの一部をより詳細に記載したものと解釈できます。
ユースケースで示すのはシステム内の複雑な処理ではなく、あくまでもユーザーの操作とそれに対するシステムの反応です。
開発者の機能要件定義や社内外の認識統一に活用できるため、ユーザーシナリオと併用するとプロジェクトの円滑な進行に役立つでしょう。
最後に無料で使えるユーザーシナリオのテンプレートを、3つ紹介します。
ユーザーシナリオ作成シートサンプルは、シンプルな形に整理できるテンプレートです。ペルソナの行動ステップごとに、以下の項目についてまとめられます。
シート右下に設置されている「ペルソナに起こしてほしい行動」を記載してから、そのゴールに向けて順序立てて思考を整理していきましょう。
ユーザーシナリオテンプレートには架空のクレジットカードサイトを想定した具体例も付いており、初心者でも分かりやすくなっています。主な記載項目は、以下の通りです。
ペルソナを詳しく書ける欄も設けられているため、ユーザー像とその動きを一目で確認できる形にしたい方へおすすめのテンプレートとなっています。
BtoBのためのカスタマージャーニーマップは、ユーザーシナリオをもとに見込み顧客へ視点を絞って施策の立案を進めたい場合に役立つテンプレートです。ペルソナがたどるステップや行動などの変化は、上記2つよりもさらに細かく分析できます。
記入の手順や具体例を詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「BtoBにおけるカスタマージャーニーマップとは?【無料テンプレ配布中】ペルソナ記入方法付き」
ユーザーシナリオとは自社製品・サービスの出会いから購入などのゴールまで、それぞれのステップでユーザーが起こす行動や心理の変化を可視化したものです。潜在ニーズの掘り起こしや改善点の抽出などに役立ち、プロジェクトのスムーズな進行や成功に大きく影響します。
カスタマージャーニーマップといった類似用語もありますが、それぞれ視点や情報のまとめ方などに若干の違いがあります。目的に合わせて使い分ける、あるいは併用することが大切です。
自社製品・サービスの開発や改善を進めたい企業は、ユーザーシナリオを作成していきましょう。