基本ノウハウ
定性調査におけるスタンダードな手法の1つとして、ユーザーインタビューがあります。しかしなじみがない方からすると、「誰に何を聞くのか」「どのように始めれば良いのか」など疑問が多いでしょう。
本記事ではユーザーインタビューとは何か、目的や見込み顧客インタビューとの違い、種類を解説します。具体的な手順や成功させるコツも、あわせて紹介しています。ぜひ参考にしてみてください。
ユーザーインタビューとは、自社製品・サービスのユーザーに対して質問や対話を行い、ユーザーの課題やニーズを深掘りする定性調査です。数値化できるデータを扱う定量調査とは異なり、ユーザーの行動理由に迫れます。
ユーザーインタビューの基礎知識として、以下の3つを解説します。
ユーザーインタビューの目的は、ユーザー像やニーズの解像度を上げることです。得られた情報は、以下のようなプロダクト開発における仮説の立案と検証に役立ちます。
なお定性調査であるユーザーインタビューは、定量調査と併用・補完し合う関係にあります。定性調査はユーザーの「なぜ」を深掘りすることで、顕在化されているニーズだけでなくユーザー自身も気づいていない潜在的ニーズの発掘が期待できるため、仮説立案や定量調査の裏付けに活用されます。
ユーザーインタビューを対象人数の違いで分けると、以下の2つになります。
それぞれのメリット・デメリットは、下表の通りです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
デプスインタビュー | ・ユーザー理解が深まりやすい ・関係を築ければ、踏み込んだ内容も聞きやすい |
・個人の先入観やバイアスに影響されやすい |
グループインタビュー | ・グループダイナミズム(※1)により、思わぬ気づきや発見が生まれやすい ・多様な意見を聴取できる |
・ハイレベルなスキルセットを要するモデレーター(※2)が必要 |
※1:参加者の発言が互いに刺激となり、話し合いの活性化につながる状態
※2:話し合いの場を活性化させ、進み方をマネジメントする人員
DIに向いている内容は、主に以下の3つです。
特にペルソナやカスタマージャーニーマップの検討時に役立つでしょう。一方FGIは、自社製品やサービスの使用実態や評価などについて、幅広い意見を聴取したいときに向いています。
ただし価値観の多様化や複雑化によって、グループダイナミズムの発生率は低下しつつあるのが現状です。また情報過多な生活から、自身の意見を整理・言語化する難易度が上がっています。そのため近年では、FGIよりもDIを実施する企業が増えつつあります。
ユーザーインタビューと見込み顧客インタビューの違いは、対象者や活用シーンにあります。
ユーザーインタビューは、見込み顧客も含めた全ユーザーが対象者です。営業やマーケティングにおけるターゲットの解像度向上だけではなく、商品企画やUI/UXデザインにおける仮説立案・検証でも利用されます。
見込み顧客インタビューでは、まだ自社製品・サービスの利用に至っていない顧客が対象者です。見込み顧客の課題とその背景にある状況を聞き取り、顧客解像度を高め、自社の製品・サービスにより興味・関心を持ってもらうにはどのようなコンテンツの提供が効果的か検討するために活用されます。
見込み顧客インタビューの進め方や具体的な活用方法を詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:『コンテンツマーケティングを成果につなげる「見込み顧客インタビュー」のすすめ』
ユーザーインタビューは下記の3種類に分類されます。
それぞれの特徴、メリットとデメリットを解説します。
構造化インタビューは、事前にすべての質問項目を準備し、それに沿って行う一問一答式のインタビューです。
短時間で多くの回答が得られる点、多くのユーザーから同一基準の情報を得られるためデータの集計・比較しやすい点がメリットです。一方でユーザーの回答の意図や背景を深掘りできない点がデメリットといえます。
半構造化インタビューは、事前に準備した質問項目に加え、相手の回答に対して深掘りする質問を入れるインタビューです。
事前に決めていた質問から最低限の聞きたい内容を押さえつつ、その回答に至った背景を質問することで意図を深掘りできる点がメリットです。一方でインタビュアーのスキルによって、得られる情報量に差が生じてしまう点がデメリットといえます。
非構造化インタビューは、質問項目を決めずにテーマのみ決めて自由に質問するインタビューです。
回答の自由度が高く、新たな意見や気づきを得やすい点がメリットです。一方で話が脱線しやすい点、データの比較や分析に時間がかかる点がデメリットといえます。
ユーザーインタビューを行う手順を、3つのステップに分けて解説します。
事前に必要なのが、以下に挙げる2つの準備です。
対象者の募集(リクルーティング)は、次項「ユーザーインタビューのリクルーティング方法」で解説します。
機材や会場の準備として必要なものは、以下の通りです。
場所は社内の会議室や外部のミーティングスペースなどを押さえ、対象者がリラックスしてインタビューに臨めるよう整理整頓しておきましょう。
インタビューガイドの準備
ユーザーインタビューの前には、下表の項目をまとめたインタビューガイド(企画書)も準備します。
記載項目 | 内容 |
---|---|
背景 | インタビューを実施するのに至った課題や、情報収集後に起こしたいアクション |
目的 | インタビューを通じて確認・検証したいこと |
対象者 | インタビュー相手の基本情報 |
対象人数 | 対象者の構成や順番など |
質問項目 | 対象者から聞き取りたい内容 |
時期 | インタビュー結果が必要な時期や、繁忙期以外など対象者に配慮した時期 |
インタビューフロー | インタビューの進め方 |
上記は紙面に印刷し、補足情報などを手書きで追記しながら、進め方をシミュレーションすると良いでしょう。
インタビュー時の大まかな流れは、以下の3つです。
いきなり本題に入るのではなく、日常会話などで場の空気をなごませ、相手の緊張感をほぐすことが大切です。ユーザーインタビュー時は普段と違った雰囲気の中で話す必要がある上、インタビュアーと初対面のケースが多く、初手から本音を話すことは難しい状況です。
より有益な情報を引き出すためにも、基本情報に関連した会話などから始め、少しずつ信頼関係(ラポール)を構築しましょう。
アイスブレイク後は、インタビューガイドに沿って質疑応答を進めます。対象者が回答しやすい順番で、かつオープン・エンド型の質問を中心に進めるのがコツです。
タイプ | 特徴 | 質問の例 |
---|---|---|
オープン・エンド型 | 自由回答できる質問形式 | 「CRMを使用して業務を効率化する上で、どのような課題や困難を経験しましたか? 「CRMを使いこなすためには、どのようなサポートが必要だと感じますか?」 |
クローズ・エンド型 | Yes/Noで答えられる質問形式 | 「CRMの使いやすさや操作性に満足していますか?」 「CRMを使ってリードの追跡や販売プロセスの管理は効果的に行えていますか?」 |
クローズ・エンド型だけでは回答が表面的で、深掘りするためには質問攻めになってしまいます。すると対象者はストレスを感じ、話す事自体に気が進まなくなりかねません。質問の仕方に関するコツの詳細を知りたい方は、後述の「ユーザーインタビューを成功させる5つのコツ」をぜひ参考にしてみてください。
営業トークと同様に、ユーザーインタビューもクロージングが大切です。全体が終了するときだけではなく、以下のような言葉を質問1つひとつの終わりに伝えると、「ちゃんと話を聞いてくれている」と相手は信頼感を抱きます。
インタビュー終了後は今後のスケジュールなどを簡単に説明した上で、協力に対する感謝の言葉を丁寧に伝えましょう。
ユーザーインタビューで得た情報は、あらかじめ設定した目的に沿って分析を進めます。具体的な流れは、以下の通りです。
特にペルソナやカスタマージャーニーマップの作成などで活用し、ユーザー理解を深めると良いでしょう。それぞれの作り方や活用方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてチェックしてみてください。
関連記事:「ペルソナの作り方とは?徹底解説【無料設定シートダウンロード】」
関連記事:「BtoBにおけるカスタマージャーニーマップとは?【無料テンプレ配布中】ペルソナ記入方法付き」
ここではインタビューの対象者を集める工程、いわゆるリクルーティングについて下記3つの観点から解説します。
対象者の選定手順は、以下の通りです。
対象者の要件は、目的やインタビューで明らかにしたい内容に即して決定します。
例えば「Webサイトを通じた問い合わせ数の増加に向けて、ペルソナ解像度を上げたい」という目的があった場合を考えてみましょう。このケースにおける対象者の要件は、「Webサイトを通じて問い合わせ・利用に至った既存ユーザー」が想定されます。
対象者の調達方法は、主に以下の2つです。
対象者の変更などに対して臨機応変に対応できるのは人脈の利用ですが、工数を削減しつつ効率的にインタビューしたい場合はサービスの活用がおすすめです。
なお対象者を調達する際は、インタビューに向いている人を見極めることが大切になります。具体的には次のような特徴がある人を、優先的にセッティングしましょう。
上記以外の人だと、インタビューしても「考えたことがない」「よく分からない」で終わってしまう可能性があります。そのため対象者を調達する際は、相手の人となりも可能な範囲で把握することが大切です。
ユーザーインタビューにおける謝礼の金額は、以下に挙げるさまざまな要素で左右されます。
相場は60分のデプスインタビューの場合、対面では5,000円〜、オンラインでは3,000円〜です。相手の役職や職種などによっては、数万円になる場合も少なくありません。またパネル会社を利用する場合は、上記の金額に加えて数万円が発生すると想定しておきましょう。
なお謝礼の支払方法は、下記のように現金以外の選択肢もあります。
予算を踏まえながら、ユーザーが「参加して良かった」と感じるような謝礼を準備しましょう。
最後にユーザーインタビューを成功させるコツを5つ解説します。
ユーザーインタビューでは対象者の基本情報を事前に集めると、アイスブレイクの話題として使えます。また本題へ入る前に長々と無駄な質問をする必要がなく、聞きたい内容に集中できる点もメリットです。
対象者と信頼関係を築くためには、インタビュー実施に関する基本情報を対象者へ伝えることも大切になります。まとめておきたい基本情報の例は、下表の通りです。
集めておきたい対象者の基本情報 | 伝えておきたいインタビューの基本情報 |
---|---|
・所属企業
・部門 ・業務内容 ・業績 ・業界動向 ・価値観 ・趣味 など |
・日時
・場所 ・目的 ・内容 ・同席人数 ・謝礼の内容や金額 など |
信頼関係の構築は最終的にインタビューの成功を左右するため、上記は丁寧に収集かつ伝達しましょう。
質問項目は以下の手順を踏んで、ユーザーが答えやすいように順番を並び替えることも大切です。
質問の順番は、下記のようなルールに沿って整理すると良いでしょう。
ストーリー(体験)を引き出したい場合は、体験の有無から頻度と聞き進め、最終的に直近の体験について深掘りすると対象者も話しやすくなります。また質問項目によって下記のような重要度を決め、時間配分も設定しておくとスムーズです。
時間が差し迫った場合は必ず聞きたい質問項目を優先し、ユーザーインタビューの目的達成につながる情報を集めましょう。
質問方法のバリエーションが増えると対話も盛り上がり、対象者の本音を引き出しやすくなります。前述したオープン・エンドやクローズ・エンド以外の手法は、下表の通りです。
「CRMがあなたの業務にどのような価値をもたらしていますか?」
→「顧客情報の管理に役立っている」という回答を得た場合の例
タイプ | 特徴 | 質問の例 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|---|
チャンクダウン | 回答を掘り下げる質問形式 | 「CRMを使用して顧客情報の管理を行う際、具体的にどのような情報を入力しますか?」 「CRMの使用後、顧客情報の正確性や更新頻度などにどのような変化がありましたか?」 |
意見や課題の本質部分に近づける | 対象者の考えが深まっていない場合、回答の誘導につながりやすい |
チャンクアップ | 視点を上げる質問形式 | 「CRMを活用することで、顧客との関係構築や顧客ロイヤリティの向上にも何か影響が出ていますか?」 | 課題の範囲が見えてくる | 回答の整理が難しい |
スライドアウト | 視点を広げる質問形式 | 「CRMの活用による幅広い影響や効果について、何か他に挙げられるポイントはありますか?」 | 幅広い意見を聴取できる | 連発すると話題が散漫になりやすい |
尋問のように単調なやり取りが続かないよう、適度に質問方法を変えてさまざまな意見を聞き取りましょう。
対象者との信頼関係を維持する上では以下のような情報を伝え、フォローアップすることも大切です。
自分の意見がどのように反映されたのか、気にならない人はまずいません。込み入った事情や、本音を話してくれた場合はなおさらです。信頼関係の強化につなげるためにも、「役に立った」と実感してもらえるように、短時間でもフィードバックの機会を設けましょう。
ユーザーインタビューを成功させる上で最も重要であるにもかかわらず、難しいのがインタビュアーの熟練度を上げることです。スキルの有無や程度によって、インタビュー時間が同じでも得られる情報量は大きく異なります。具体的に磨いておきたいインタビュースキルは以下の6つです。
構成要素 | 大切な理由 |
---|---|
1 対象の知識や理解 | 質問内容を検討する際、テーマや商材、業界動向などの知識・理解がベースになるため |
2 第一印象 | 第一印象を損ねると信頼関係を構築できず、本音も引き出せないため |
3 姿勢 | コミュニケーションをスムーズに取るため(感謝・信頼・真摯・共感の姿勢) |
4 聞く力 | 「ちゃんと聞いてくれている」と相手が感じ、気持ち良く本音を話せるようにするため |
5 質問する力 | 対話の流れやシーンに応じて、質問方法を自然に使い分けられるようにするため |
6 クロージング | 「参加して良かった」と相手に感じさせ、信頼関係の維持・強化につなげるため |
インタビュー初心者はテクニックよりも、まずは対象の知識や理解を深めることを優先してみてください。すると聞きたいことや、聞くべきことがおのずと見えてくるでしょう。
ユーザーインタビューはプロダクトの企画から利用段階まで、さまざまなシーンで活用できる手法です。仮説の立案や検証に役立ち、時にはインサイトの発見にもつながります。
事前準備としては機材やインタビューガイドはもちろん、対象者の募集も必要です。実際に質問する際はアイスブレイクで緊張をほぐしつつ、相手が答えやすい順番と聞き方でインタビューを進めます。終了後はクロージングとフォローアップを丁寧に行い、信頼関係の維持・強化を図ることが大切です。
ユーザー理解を深めてプロダクト開発に生かしたい企業は、インタビューを積極的に実施しましょう。