インタビュー
米企業のOpenAIが開発したAIチャットサービス「ChatGPT」の登場は、多くの仕事に大きな影響を与えるといわれています。単なる業務効率化にとどまらず、企画・開発など創造の分野にまで活用が期待されると共に、「今後どのようにAIと付き合っていくべきか」については懸念の声も上がっています。
株式会社ウィットの代表取締役・渥美英紀氏は15年以上にわたってBtoBマーケティングに関する研究やコンサルティングに従事されてきました。知見に基づいてノウハウを体系化した書籍を6冊出版されており、ChatGPTのBtoBマーケティング活用についてもいち早く注目し、独自に研究を進められています。
本記事では「ChatGPTは今後のBtoBマーケティングにどのように影響するのか」について、また実際に活用するために必要なことは何かについてお話しいただきました。
ーーChatGPTはBtoBマーケティング全体で活用できるのでしょうか。
自社内での実験を経て、私たちも実際にお客様のご支援を始めていますが、ほぼすべてのプロセスに何かしらの形で活用できる状況だと思います。作戦を練るところから、Webページ・原稿・ホワイトペーパーを作る、コンテンツマーケティングやメールマーケティング、広告の運用、営業の引き渡しまで、ほとんどに使えそうな目処が立ってきています。こうした情報発信を通して、多くの方にChatGPTを活用いただけたらと考えています。
ーーChatGPTの登場で「私たちの仕事がなくなる」という話も、「まだまだそんなことはない」という意見もありますが、実態はどうでしょうか。
仕事がなくなるかどうかまでは判断がつきませんが、私は「これを使わない未来はないだろう」と思っています。AIやChatGPTに類するツールは、そう遠くない未来に使って当たり前になるでしょう。ChatGPTの無料バージョンであるGPT3.5のレベルでも、相当に活用が可能です。いち早く慣れる、またはどの業務に使えそうかを研究して乗り遅れないようにすることが大切だと考えます。
例えば問い合わせフォームから連絡があったとき、「3日以内に営業から連絡します」のような面白みのない自動返信メールを送っている企業は多いでしょう。ChatGPTを利用すれば、メールが来た瞬間にChatGPTと相談しながら返信文を作成し、個別にパーソナライズされた形で返せます。プロンプトを正しく書けば新人でも簡単に対応できるようになります。
問い合わせメールを返す、広告の文章を考える、ランディングページのコピーを考えるといったChatGPTの活用法も蓄積されてきています。具体的な活用例については、この後で実際にご紹介していきたいと思います。
多くの人はChatGPTで「効率化」を一番にやろうとしがちですが、最初から効率化を目指すのは困難です。効率化を進めるためには業務設計が整理されていなければならず、事前準備も必要だからです。
ChatGPT活用のファーストステップとしては、叩き台の文章を作る、そこからバリエーション展開を増やすといった作業になります。こうした作業は即戦力レベルですぐに可能です。まずはChatGPTの実力を試して、自社の業務にどこまで組み込めそうかを考えると良いでしょう。
例えばABテストを実施するとき、ChatGPTであれば簡単に複数のバリエーションが作れます。しかしバリエーションを増やせば付随する作業も増え、試行回数も増やさなければなりません。こういった作成以外の工程について、ChatGPTですぐに効率化するのは難しいでしょう。
ーーChatGPT活用の上での注意点はありますか。
情報の正確性はほとんど担保されていないので、エビデンスのチェックが大切です。再学習される可能性も考慮して、機密情報や個人情報の入力に関しても注意が必要でしょう。
アウトプットされたものが法律に触れる可能性も考えなければいけません。薬事法に違反していないか、他社の商標を犯していないかを社内または外部の専門家と相談する必要があります。コピーの作成で「病気が治ります」のような使えない文章が生成される可能性もあります。
さらにBtoBマーケティングや製品の細かい内容になってくると、素人では分からない嘘が入る場合もあるため、社内でレビューできる体制が必要でしょう。
叩き台やバリエーションを作るのがファーストステップであると話しましたが、プロンプトとインプット情報を整理し、アウトプット情報を定義することで、同じ型・テンプレートで多くのことを実現するのがセカンドステップになります。
メール対応を例に挙げると、「◯◯に関する問い合わせの返信には◯◯というプロンプトを入力する」と型を決めておいて、「日程を決める」「予算があるか聞く」「提案文を入れる」など内容に応じてアウトプット情報を定義することで、一気に大量の文章作成が可能になります。
ーーChatGPTを活用できず投げ出してしまう方の多くが、プロンプトについてよく分かっていないと思います。プロンプトはどのように考えれば良いでしょうか。
私もアカウントを作って2週間は放置していました(笑)。聞き方次第で適切に回答を得られることや、さまざまな業界・業種・場面に対応した文章を出力できることが分かり、既存のノウハウとChatGPTの組み合わせに可能性を感じて情報発信をしています。
プロンプトを考える上では「どういうアウトプットを出したいか」を頭の中で定義する必要があります。インプットする情報が不正確だときれいなアウトプットにはなりません。ChatGPTに尋ねる前に「どういう情報を入れて、どういう形でアウトプットしたいか」の整理が大切です。
ChatGPTによるライティングの効率化はよく話題に上ります。弊社内でも実験中で、実際にインタビューから原稿を起こす作業をツールで行っています。しかし優秀なライターの方と組んだ場合と比較すると、記事作成にかかる時間はあまり変わりませんでした。
ライティング専用のAIツールを利用すれば、文字起こし、要約、文章化は上手に行ってくれます。しかし「本当にそういう風に喋っていたか」「発言が間違っていなかったか」をもう一回聞き直して整理する時間のうちに、優秀なライターの方はインタビューを聞きながら要点を掴んで書けてしまう。ツールによってある程度は効率化できますが、最終的なエビデンスや魅力的な文章であるかまで考慮すると、自由に喋る形式のインタビュー記事では大きな差は出せない印象です。
一方で事例などの記事は、導入の目的・効果・経緯など書く内容の型が決まっています。フォーマットが用意されていれば、型通りにインタビューを行い、文字起こしをし、そのままChatGPTに箇条書きにしてもらう、あるいは概要文にまとめてもらうなどして、ハイスピードで文章を大量に生成できます。インプット・アウトプットの内容をどうするかをうまく整理できれば、記事の大量生産や、テンプレート型の記事をハイレベルで作成するといったことが実現できるでしょう。
ーー優秀なライターではなく、ライターの習熟度があまり高くない安い制作会社に依頼している場合、「ChatGPTに書かせた方がいい」というケースもありそうですが。
単純に数を増やす目的であれば、そのようなケースもあると思います。ただし、未来では多くの企業が記事をAIに書かせようとすることが想像できます。そうすると、現時点でもAIが書いた割合を数字で測定できると言われているくらいなので、AIに大量に書かせている記事や、汎用的なまとめ記事の検索評価が落ちるような傾向が出てくるかもしれません。
自社のオリジナルの情報や調査データが入るようにするなど、今からでもAIの関与度合いを5割以下程度にコントロールしておいた方がリスクが低いのではないかと考えています。
ーー結局のところ、オリジナリティというか、一次情報を持っている企業が強いということですね。
「本当に価値ある情報を発信できる」「一次情報を持っている」ことは重要です。研究や調査、ノウハウなどの部分をまとめることにエネルギーを注ぎ、テキスト化の段階でChatGPTを利用するイメージの方が、少し先の未来の活用イメージと近いのではないかと思います。
インタビューの内容は動画でもご確認いただけます。
次回の記事「ChatGPTをBtoBマーケにどう生かすのか?活用の3つの具体例と今後の展望」では、実際にChatGPTを使用しながら、BtoBマーケティング活用の具体例についてお話しいただきます。
株式会社ウィット代表取締役。BtoBのさまざまな業界の売上アップ・ブランド強化・営業改善など250以上のプロジェクトを担当。特にリード獲得や売上アップに高い成功確率を誇る。著書に、自身のノウハウをまとめた「ウェブ営業力」(翔泳社、2009)、 「Webマーケティング基礎講座」(翔泳社、2011)がある。2017年には「BtoBウェブマーケティングの新しい教科書」(翔泳社)を上梓。アクセスログ解析システム、メール配信システムなどの開発も手掛けたことから、ウェブマーケ ティングの遂行に不可欠かつ広範囲な分野について専門性を生かした"総合的"かつ"現場に根差した"ウェブマーケティング支援を得意とする。
ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング(株式会社ウィット)
note:ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング
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