インタビュー

MagicPod躍進の秘密~セールスとCSが一体化した顧客サポートモデルとは

MagicPod躍進の秘密~セールスとCSが一体化した顧客サポートモデルとは

AI技術を活用したソフトウェアテスト自動化プラットフォーム「MagicPod」の開発・運営を行っている株式会社MagicPodは、サービスの導入企業が500社を超え、急成長を遂げています。その成功の背後には、独自のセールスとカスタマーサクセス(CS)を一体化させた顧客サポートモデルが存在。今回は、その顧客サポートの成功の秘密について、同社のセールス・カスタマーサクセスチーム責任者である舩橋利帆子さんにお話を伺いました。

  • 株式会社MagicPod セールス・カスタマーサクセスチーム チームリーダー 舩橋利帆子(ふなばし・りほこ)

    株式会社MagicPod セールス・カスタマーサクセスチーム チームリーダー

    舩橋利帆子(ふなばし・りほこ)

    上智大学文学部を卒業後、株式会社リクルートやエン・ジャパン株式会社で広告営業、ライター、編集のキャリアを積む。前職のベンチャーではWebサービスの新規立ち上げを担当。プライベートでは、個人・法人に向けた選書のほか、算数・理科・文書作成ソフトの講師、映像製作の請負なども行なっており、副業支援サービス主催の年間アワードを3年連続受賞。持っている資格は10を超える。New York出身。

MagicPodが急成長した4つのポイント

  • SalesとCSを同じチームにして導入前から導入後まで一丸となってサポートができる体制を整えている。また、自社独自で作成している顧客ヘルススコアや解約率が評価の対象になるのでセールスの際に無理に売らない。
  • CSチームは企業毎の担当制ではなく、問題に応じて特化した担当者をアサイン。エンジニアを直接担当につけることも。たらい回しがなく解決までのスピードが速い点が評価されている。同時に、スピード解決と顧客の問題の根本解決にどれだけ貢献できたかが評価の対象になる。
  • 料金プランをシンプルにしている。セールスは金額交渉の担当者ではなく、ソリューションを提供する窓口。そのため、交渉術の学習ではなく、製品知識、テスト自動化に関する知識のブラッシュアップに専念できる。個別の値引きをしない。
  • ヘルプページの管理もCSが担当。顧客ニーズを反映させられるヘルプ作りができている。一問一答のヘルプではなく、提案も行うヘルプページになっている。

目次

セールスとCSを一体化させたチーム構造

――セールスとCSを同じチームにするという発想のきっかけは何ですか?
私が入社した当時、MagicPodにはエンジニアしかおらず、営業やサポートに特化したメンバーはいませんでした。しかし、事業が拡大するタイミングで、営業とカスタマーサクセス(CS)の両方を担当する形で組織が作られました。最初はスモールスタートで、自然に営業活動とCSが一体化した体制になったんです。

特に当社のお客様の多くがエンジニアで、彼らは製品自体の品質を重視しています。製品の良さを理解してもらえれば、セールストークで無理に売り込む必要はなく、実際の利用体験が顧客の意思決定を促すことが多いのです。これが、CSと営業を分ける必要がないと代表(伊藤望氏)が考えていた大きな理由です。

私たちは、製品が自然に売れるようにトライアル期間のサポートを重視しています。

特にBtoB SaaSでは、製品の導入後も継続して利用されることが非常に重要なので、トライアル段階からCSチームが顧客と深く関わり、最適な体験を提供することが、その後のビジネス成長に直結していると考えています。

現在、チームは5名で構成されており、セールス担当者が1名、CS専任者が1名、テクニカルサポートが1名という形です。さらに、私自身がCSとセールスを兼務しているほか、セールスマーケティングの役割を持つメンバーが1名います。全員が何らかの形でセールスやCSに関わり、顧客との接点を効率化しています。

――成約数が増えるにつれて、1人あたりの担当業務が増えてくると大変ではありませんか?
確かに、業務が増えることはありますが、顧客対応はエンジニアの方々と話すことが多く、メンバーにとって楽しい部分でもあります。そのため、担当業務が増えても、モチベーションを保てているのが強みです。ただ、人数が少ないため、複数の業務をどう効率的にこなすかという課題は常に意識しています。

また、CSとセールスが共通したCRMツールを使うことで、顧客情報の一元管理ができ、情報の共有がスムーズに進んでいます。このようにツールの面でも連携が取れているのは大きなポイントです。さらに今後は、セールス的な役割を果たすメンバーを増やすことも検討しています。

ユーザー体験にコミットしたアプローチ

――先ほどの話からも最適な顧客体験の提供を重視する姿勢がうかがえました。具体的にはどのような取り組みをされていますか?
私たちは、売上数字に基づく評価を行わず、顧客体験に焦点を当てています。MagicPodの月間利用継続率は99%とベンチャーが運営しているSaaSとしては非常に高く、これはコミュニケーションを大切にし、顧客との信頼関係を築くことに力を入れている結果だと思います。特に、エンジニアのお客様は、自分が良いと感じた製品に対して積極的にエバンジェリスト活動をしてくださる一方で、悪評が広まるとその影響が大きく残ることがあります。

MagicPodのセールスチームでは、売上数字に基づく個人評価は行っておらず、どれだけ誠実に顧客に対応したか、会社全体の目標にどれだけ貢献したかが評価基準です。そのため、営業担当者同士で顧客を奪い合うことはなく、むしろ「この顧客には自分がより力を発揮できる」と感じる場合に担当を交代することもあります。これは、個々の顧客に対して最適なサポートを提供し、長期的な信頼関係を築くための取り組みの一環です。

顧客の満足度を最大化するためには、単に契約を取るだけでなく、導入後のフォローアップが極めて重要です。特に、エンジニア向けの製品であるMagicPodの場合、技術的な課題に対する理解や解決方法の提供が信頼構築の要となっています。そのため、製品導入後も顧客の成功に貢献することに全力を注いでいます。

 バリューと組織文化の根底にある「誠実さ」

――「誠実に対応する」というのは人それぞれによって受け取り方が変わる可能性がありますが、どのように統制をとっているのでしょうか?
MagicPodの文化の核にあるのが、「Be Sincere」というバリューです。顧客にもチームメイトにも、誠実に対応することを非常に大切にしています。これは、顧客とのコミュニケーションだけでなく、社内のメンバー同士のやり取りにも反映されています。

この「誠実さ」を実現するために、すべてのメンバーが主体的に学び、行動することを奨励しています。特にエンジニアは、ただ自社製品の知識だけでなく、開発全般や関連技術についても積極的に勉強しています。多くのメンバーが競技プログラミングに参加するなど、休日にも自発的に学ぶ姿勢が根付いています。こうした文化が、ユーザーに対する迅速かつ的確なサポートにつながっているのです。

また、もう一つの重要なバリューが「Think Rationally」です。MagicPodでは、他社のサービスやツールも積極的に取り入れ、社内の効率を最大化する取り組みを行っています。これにより、顧客対応のスピードも上がり、問題解決の迅速化が図られています。このようなスピード感を持った行動が、顧客の満足度向上に大きく寄与しています。

Magicpodの3つのバリュー|BeMARKE(ビーマーケ)

Magicpodの3つのバリュー https://magicpod.com/corporate/company/

ヘルプページの管理と重要性

――スピードを意識した取組として、ヘルプページに注力しているということですが、どのようにして顧客のニーズに応える役割を果たしているのでしょうか?
ヘルプページは、顧客サポートの重要な柱の一つです。MagicPodでは、顧客から質問を受けた際、最短で30分以内にヘルプページにその内容を反映させる体制を整えています。CS担当者が直接ヘルプページの管理を行っているため、素早く正確な情報を提供できるのが特徴です。

例えば、リリースノートの更新もCSチームが行っており、要望をいただいたお客様に対しても迅速に対応しています。顧客の声を反映したヘルプページを提供することで、「自分の意見が反映されている」という実感をお客様に持ってもらうことができるのです。顧客との信頼関係が深まり、満足度の向上につながっています。

さらに、MagicPodのヘルプページは、単なるFAQのような一問一答形式ではなく、実際の使用方法に即したガイドが充実しています。特にスタートガイドや活用ガイドは、トライアルユーザー向けに設計されており、ドキュメントを見ればすぐに使い始められる内容です。こうした丁寧なドキュメントは、リードタイムの短縮や顧客のスムーズな導入に貢献しています。

ヘルプページの充実は、CSやセールスの役割も代替する部分があり、少人数のチームでも顧客対応が効率化され、より多くの顧客に質の高いサービスを提供できるのです。

▼MagicPodのヘルプページ

忙しい人でも1時間で手軽にテスト自動化の成果が出るセットアップ(Magicpodのヘルプページ)
|BeMARKE(ビーマーケ)

「忙しい人でも1時間で手軽にテスト自動化の成果が出るセットアップ」

スタートガイド:5.テスト自動化の習慣を最速で定着させる(Magicpodのヘルプページ)
|BeMARKE(ビーマーケ)

「スタートガイド:5.テスト自動化の習慣を最速で定着させる」

――ヘルプページの充実は、企業規模に関わらず多くのBtoB企業が実践できる取り組みですね。そのほかに、貴社のヘルプページの強みはありますか?
他社のヘルプページと比べて、ドキュメントの充実度と更新スピードは強みになっています。多くのヘルプページは、顧客がすべてを読まないと解決できないことが多いですが、MagicPodのヘルプページは、最初に押さえておくべきポイントが整理されており、ユーザーが短時間で解決できるように工夫されています。

私たちは常に「自分たちがユーザーだったらどう感じるか」を意識してドキュメントを作成しています。新機能がリリースされた際にも、実際に自分たちで使ってみて、どこで詰まりやすいかを体験しながらヘルプページを作成するため、質の高い情報を提供できていると自負します。

コミュニティ活動が顧客体験に与える影響

――もうひとつ、企業規模にとらわれない成果を上げている取り組みとして、「ユーザーコミュニティ活動」があるということですが。
当社のコミュニティ活動*は、顧客体験の向上に大きな影響を与えていると考えています。エンジニア同士が集まるユーザーイベントを定期的に開催し、顧客同士が知識や経験を共有できる場を提供することで、ユーザー同士で問題解決を行うケースが増え、当社のサポートチームが直接対応しなくても、コミュニティ内で解決が図られることもあります。

MagicPodのコミュニティ活動の特徴は、単なる問題解決の場にとどまらず、顧客同士の信頼関係やファンベースを築くための重要な要素となっている点です。特にエンジニアの方々は、自ら調べたり試したりすることが多いため、コミュニティで得た知識や経験が大きな価値を持ちます。結果的に、顧客同士が「ファン」としてのつながりを深め、MagicPodのブランド力向上にもつながっているのです。

また、イベントに弊社のエンジニアが積極的に参加し、ユーザーの声を直接聞く機会を設けています。開発チームが実際の利用シーンを理解しやすくなり、短期間で機能改善や新機能の開発へ生かされるケースが多々あります。
*参考:MagicPodミートアップ ヘルススコアNight

▼Slackコミュニティでもユーザー同士が積極的に意見を交わす

Slackコミュニティでもユーザー同士が積極的に意見を交わす(Magicpod)|BeMARKE(ビーマーケ)

シンプルな料金プランとセールスの役割

――MagicPodの料金プランはとてもシンプルですが、さらに値引交渉を排除しているということですが狙いを教えてください。
私たちは、お客様の業務効率化をサポートするために、料金体系もシンプルで明確にしています。料金交渉を行わないことで、顧客とのやり取りが増えることによる負担を減らし、双方にとってのメリットを最大化できると考えているのです。また、顧客によって異なる料金を設定するのは不公平感を生む可能性があるため、すべてのお客様に一律の料金を提示しています。

これは、私たちのバリューである「Be Sincere」を体現したものであり、どの顧客にも誠実に対応するという姿勢を貫いています。価格交渉の手間を省くことで、セールス担当者は製品知識の向上や顧客サポートに集中することができ、結果的に顧客体験の質が向上するのです。

また、セールスチームは、普段から製品知識や業界知識を高めるために、エンジニアチームに2週間ごとにあるリリースのタイミングで新機能を紹介してもらうミーティングを行ったり、Slack【下画像】での情報共有を活用しています。

Slack/GitHub上のチャット/ドキュメント/ソースコードなど、読み書きはすべて英語で行われる(普段の会話は日本語)|BeMARKE
>Slack/GitHub上のチャット/ドキュメント/ソースコードなど、読み書きはすべて英語で行われる(普段の会話は日本語)|BeMARKE(ビーマーケ)
Slack/GitHub上のチャット/ドキュメント/ソースコードなど、読み書きはすべて英語で行われる(普段の会話は日本語)

今後の展望

――今後の成長に向けて、どのような準備を進めていますか?
現在、顧客が増える中で、チームが属人化しないようにするための取り組みを強化しています。最近では、機能要望の管理システムをGithubからProductboardに移行するなど、効率化を図っているところで、新しいメンバーが短期間で活躍できる体制を整えるための取り組みも進めています。

MagicPodの成長は、エンジニアとビジネスメンバーが協力し合い、顧客のニーズに迅速かつ正確に応えることで支えられています。今後もこの体制を維持しながら、さらに効率的なサポートを提供できるように、組織の改善を続けていきます。

――ありがとうございました。


この記事を書いた人

小斎恭平
小斎恭平 | BeMARKE編集部

BeMARKE編集部スタッフ。業界紙記者、教育系フリーペーパーのライターを経験。2015年にローンチした人事担当者向けメディア「@人事」とフリーマガジン「@人事」の定期刊行に編集・ライターとして携わり、現職。2022年からBeMARKEの取材系コンテンツ制作にも関わる。

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