基本ノウハウ
近年注目を集めているマーケティング手法の一つに、グロースハックというものがあります。しかし、比較的新しい考え方であるため、グロースハックという言葉を聞いたことがないという人も多いのではないでしょうか。ここでは、グロースハックの概要や詳しい実践の方法などについて、詳しく解説します。
グロースハックとは、マーケティング及び商品・サービス開発の手法を指す造語です。商品やサービスを作って終わり、宣伝して終わり、とするのではなく、リリース後もさまざまなデータやユーザーの声を集計。それを元に改善点を探しながら、商品・サービスをカスタマイズしていく、一連の流れを指す言葉です。
例えばいつも見ていたサイトがある日を境に違う見た目に変わっていたり、操作の手順が簡略化されていたりといった経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか。これこそまさしくグロースハックの成果といえるでしょう。
グロースハックは、改善していくことを前提として商品・サービス開発を行っていくためリリースまでの時間を短縮できたり、データを元に改善を行うため効果UPを狙いやすかったりといったメリットがあります。
グロースハックが注目される理由には、近年の価値観の多様化や技術革新のスピード向上による、商品・サービスの短命化が挙げられます。従来であれば、一度良い商品・サービスを提供すれば長くユーザーに愛され続けることができましたが、最近ではそうはいきません。すぐに飽きられてしまったり、競合他社が出す新たな商品・サービスに乗り換えられてしまったり、厳しい戦いをしなければならないことも珍しくはないのです。
だからこそ、常に改善を図り変化するニーズに対応しながら、競争優位性を確保していくことが必要不可欠。短い期間で商品・サービスのリリースができ、改善を重ねながらより良いものを作っていくグロースハックは、まさしく今の時代に即したマーケティング手法といえるでしょう。
グロースハックはマーケティング手法の一つに分類されますが、従来のマーケティングと大きく異なるのが、各種施策の結果を商品・サービス開発にまで落とし込むという点です。
旧来の一般的な組織であれば、マーケティング部門と開発部門はそれぞれ独立した部隊であり、仮に商品・サービスが思うように売れなければ、マーケティング部門は「開発した商品が良くないから」と思い、開発部門は「マーケティングが良くないから」と思ってしまうこともあるでしょう。
しかしグロースハックの場合には、それぞれの部隊を横断しながら施策を推進していきます。マーケティングの目線からもっとユーザーに刺さると思われる機能を開発したり、開発の視点からもっとユーザーに刺さると思われる宣伝を考えたりなど、全社一丸となって一つの商品・サービスの普及に努めていくのです。
従来のマーケティングであれば、作って終わり、宣伝して終わりだったかもしれませんが、グロースハックの場合は作り、宣伝してからすべてが始まります。その点が、マーケティングとグロースハックの大きな違いといえるでしょう。
グロースハックを実施し、成功させるためには、以下の6つのステップが必要です。ここでは、それぞれのステップについて解説します。
【1】商品・サービスの開発
【2】データの収集・分析
【3】仮説の設定
【4】改善策の実践・検証
【5】機能やサービスの実装
【6】高速で【2】~【5】を繰り返す
まずは、ユーザーが求める商品やサービスを開発します。グロースハックは商品やサービスをリリースして終わりではなく、リリース後に改善し続けることが前提になります。そのため、最初から完全な状態でリリースするというよりは、ある程度の段階でローンチしてユーザーの反応やデータを見ながら改善するという姿勢でいると良いでしょう。もちろん、ユーザーが満足しないレベルの商品やサービスであれば、そもそも利用されずに改善点も分からなくなってしまうので、そのバランスは注意が必要です。
商品やサービスを提供し、運用しながら、ユーザーの属性や行動といったデータを収集・分析します。商品やサービスを利用するユーザーの年齢や性別、特性といったデータも大切ですが、それ以上に力を入れて収集したいのが行動データです。ユーザーがいつ、どこで、どんな行動をとっているのか。その行動は望ましいものであるか、そうでないのか。課題を明らかにした上で改善施策を実施するためには、ユーザーの行動データの収集と分析が必要不可欠です。このデータが不正確であったり、不十分であったりすると、その後の改善施策も見当違いなものとなり、グロースハックにつながらなくなってしまいます。データの収集と分析は正確かつ丁寧に行うようにしましょう。
ユーザーの属性や行動のデータを収集し、分析して課題を把握した上で、改善のための仮説を立てていきます。例えば「コンバージョンするユーザーは、サイト上の〇〇コンテンツを閲覧する傾向がある」といった行動データに対して、「〇〇コンテンツへの導線を強化すれば、コンバージョン率を高められるのではないか」といった仮説を立てます。仮説の設定には論理的な思考が求められます。データの分析と仮説の立案を何度も実施し、経験を積むことで、より正確な仮説を検討できるようになるでしょう。
仮説を元に改善策を実施し、その効果を検証します。グロースハックの改善ではA/Bテストがよく用いられます。前述の例でいうと、〇〇コンテンツへの導線ボタンを表示したページと、表示していないページをA/Bテストし、その効果を検証します。効果検証では、コンバージョン率やエンゲージメント率、クリック率などの指標がよく使われます。
実施した改善策を検証して改善効果が見られたら、その機能やサービスを実装します。実装後も継続してデータを収集・分析し、ユーザーの反応を見ながら検証を続けていきます。
一度ユーザーの反応を分析、反映したとしても、そこで終わってはいけません。ユーザーニーズは常に変化を続けており、またそのスピードも早いため、これまでのスピードを高速で繰り返し行っていくようにしましょう。そうすることで、常に最新のニーズに即した商品・サービスであり続けることができるようになります。
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グロースハックを実践する際に活用できる分析手法やフレームワークを紹介します。
ABテストとは、Webサイトやランディングページ、Web広告などで異なる2つ以上のクリエイティブを用意し、どちらの方がより効果が高いか比較検証する施策のことです。サイトやクリエイティブのデザイン、購入ボタンの位置やサイズ、レイアウト、キャッチコピー、商材の説明文などがABテストの対象となります。具体的には、コンバージョンボタンの文言を「見積もりする」と「金額を確認する」で比較したり、商材のキャッチコピーを「業界支持率No.1の〇〇」と「業界シェア6割の〇〇」で比較したりするイメージです。
テストの効果を測る指標はコンバージョン率やクリック率、エンゲージメント率などがあげられます。デザインやキャッチコピーの良しあしは感覚で判断しがちですが、コンバージョン率やクリック率などで効果を検証することで、数字に裏づけられた判断が可能になります。また、サイトのリニューアルのように大規模な改修をせずとも仮説の効果検証が行えるのもメリットです。効果が悪いクリエイティブは、早期にテストを中断すればパフォーマンスの悪化を防げます。
ABテストは継続してPDCAサイクルを回すことで効果を発揮します。メインビジュアルのABテストで最適なクリエイティブを見つけた後は、キャッチコピー、ボタン、説明文といったように、次なる箇所のABテストを実施しましょう。1度実施して終わりではなく、テストを継続することでグロースハックにつながります。
関連記事:ABテストとは?意味がない?注意点・具体的なやり方からおすすめのツールまで紹介
AARRR(アー)モデルとは、ユーザー行動の状態を5つに分解し、その言葉の頭文字をとったフレームワークのことを指します。具体的には以下の言葉で構成されます。
AARRRモデルの言葉 | 日本語訳 | 内容 |
---|---|---|
Acqusition | 獲得 | ユーザーをどこから獲得しているか? |
Activation | 活性化 | どのくらいのユーザーが活性化しているか? |
Retention | 維持・継続 | ユーザーは維持・継続して活用しているか? |
Referral | 紹介 | ユーザーは周りの人に紹介しているか? |
Revenue | 収益化 | ユーザーの行動が収益化につながっているか? |
5つのステップごとに課題を分析し、ステップごとに指標を設定して改善施策を実施します。グロースハックを成功させるためには、5つのステップをバランスよく改善する必要があります。AARRRモデルがあれば、特定の課題ばかりに注目して他の課題の対策を疎かにしてしまう可能性が減り、各課題を組織として共通認識を持てるでしょう。ステップごとに課題を明確にすることで、具体的な改善施策のアクションにもつながりやすくなります。
ファネル分析は、サイトやアプリの離脱率に注目して改善施策を実施するための分析手法です。ユーザー行動を図式化し、各プロセスにおける離脱率を測定することで、離脱のボトルネックが明らかになります。そのプロセスを重点的に改善することで離脱率を減少させ、コンバージョン率やコンバージョン数を増加させるのが狙いです。
ファネル分析で用いる具体的なプロセスとしては、「認知→興味・関心→比較・検討→購入」などがあげられます。例えば比較・検討段階での離脱率が高い場合、競合他社に比べた強みを伝えるコンテンツを充実させるなどの施策が検討できるでしょう。プロセスごとに課題を分析して明確にすることで、改善施策のPDCAも回しやすくなります。
BtoBマーケティングにおけるファネルについては「ファネルとは?BtoBマーケティングでの活用方法を解説」で紹介していますのでぜひご覧ください。
グロースハックについて、その概要や実践方法を解説しました。変化の激しい時代だからこそ、その変化を敏感に察知し、それをスピーディに商品・サービスへと反映させる仕組みをしっかり構築することが大切です。新たな商品・サービスの開発や、既存サービスの改善を検討する際には、ぜひグロースハックの手法を活用することを検討してみてください。