インタビュー
日々、営業目標の達成のために頑張っているのに成果が出ていない。そんな悩みを持つBtoBセールスの方に、「もうこれ以上、頑張らなくていい」というのは、『トップ5%セールスの習慣』の著者・越川慎司氏です。
越川氏は、BtoB企業を多く含む815社・2万1,000人の営業パーソンを対象に調査と行動実験を3年半にわたり実施。そこから、優秀な営業パーソン=トップ5%セールスには、“再現性の高い”行動ルールがあることを見出しました。今回、調査データと行動実験から分かったトップ5%セールスの考え方や習慣の一部を紹介いただきました。越川氏がすべての読者に向けて語る、「もうこれ以上、頑張らなくていい」の真意とは。
株式会社クロスリバー 代表取締役CEO
国内外の通信会社勤務を経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてPowerPointやExcelなどの事業責任者。2017年に働き方改革の支援会社であるクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日、複業(専業禁止)を実践。800社以上の業務改善、会議改革や事業開発を支援。講演・講座は年間400件以上で平均満足度は94%。
著書に『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『17万人をAI分析してわかったいやでも成果が出る考動習慣』(アチーブメント出版)、『29歳の教科書』(プレジデント社)など多数。
——著書である『AI分析でわかったトップ5%セールスの習慣』で定義されている「トップ5%セールス」とはどういうものかを詳しく教えてください。
越川慎司氏(以下、越川氏):「トップ5%セールス」の定義は3つあります。まず1つ目の要件として、私がクロスリバーという会社を経営しており、これまで815社の営業改革やマーケティング改革をご支援させていただきました。その815社のクライアント企業の従業員様が対象になっているということ。対象になっている企業は、経済産業省が定義しているいわゆる大分類の産業項目に関してはすべてカバーをしています。製造業や流通業が多く、小売業や観光業、公共サービスなども含まれています。当然、BtoBの業界もかなり入っていて約7割を占めています。
2つ目は所属先企業の人事評価でトップ5%の評価基準を実際にいただいている方ということです。各企業で評価基準はバラバラではあるものの、その企業においてトップクラスの評価を得ている方が対象になっています。各社からトップ5%社員のリストを秘密保持契約でいただいて、本人に気づかれないように調査をしています。
最後の定義は、職種が営業職でかつ“成果を出し続ける人”です。具体的には、運に左右されることなく3年連続で目標達成をはたしている人になります。
——今回、執筆されるにあたり、どのような方に届けたいという思いがあったのでしょうか。
越川氏:これまで6年間、800社超の営業改革やマーケティング改革をご支援させていただいた中で、実は救いたいと思える組織・ビジネスパーソンのモデルが大きく2パターンありました。
1つ目は、営業職で頑張っているけど成果が出ない人。決して手を抜いているのではないものの、日々頑張って努力して労働時間も長いが成果に結びついていないというケースです。
2つ目は、人間関係に悩みを持っている人。調査を進めて分かったことでもありますが、やはり営業は「個人戦」ではなく「チーム戦」の方がうまくいきやすい。チーム戦のためには自分1人ではなく、同じチームの他のメンバーや部門を超えた他のメンバー、時にはお客さまやパートナー企業を巻き込む必要がある。そんな中で、人間関係を悩んでいる方が全体の74%もいました。チーム戦で営業活動を行うために、人間関係に悩みがある方を救いたい。この2つのモデルの方々を救いたいと思って書籍を書くことを決めました。
——頑張っても成果がでない方々に共通する点として著書でも指摘されている、「顧客とのすれ違い」について、越川さんはなぜ起きているとお考えですか。
越川氏:すれ違いが起きる理由は2つあると考えます。まず1つは売る側(セールス)と買う側(顧客)の目的が違うからです。売る側は商品・サービスを販売することが目的であり、買う側は「悩みを解決してほしい」という目的をもっています。この一致していない目的をすり合わせることができる人がトップ5%セールスになれるのです。
売ることが目的ではなくお客さまの課題・悩みを解決する「嬉しさ」を増したい。それを実現できる人が結果的に自社商品・サービスを売る。
2つ目は、売る側の問題として買う側が購入するのは「伝達すると相手は理解して購入してくれる」の3ステップだと思っている営業担当者が82%もいるということです。今回の調査で分かったことで、どうも買う側は理解したから買ってくれているわけではなく、メカニズムを分析すると、その理解の後に「納得」という、いわゆる自分ごと化して行動を変えていこうというような腹落ち感をうまく醸成しないと、次の購買プロセスに移行しにくくなっていることが分かりました。
——「納得」という部分が今まで注目されていなかったの、どのような理由があると思われますか。
越川氏:お客様が求めるものが変わってきたからだと思います。例えば5年前でいうと悩みや不平・不満・不快がなくなればそれでいい、と思うお客様が7割以上いた。今は、悩みなんかないと。悩みはないけども何とか良くしたいといった漠然としたニーズに変わってきていて、不平・不満や不快を取るだけではなくて、お客様の嬉しいことを増やす、楽しいことを増やす、新たな経験ができるという要素が加わってきた。そうすると、「理解」だけではなく、本当にそれをやると私は嬉しいのか、ベネフィットを獲得できるのか、とお客様側が感じるようになったことで4ステップになったのだと思います。
——納得の部分にいかに向き合えるか、気がつけるかがトップ5%とそうでない方の違いの部分にも大きく関わってくるのでしょうか。
越川氏:おっしゃる通りです。納得を促すためには3つのアクションが必要だということが分かりました。
1つ目のアクションは「お客様に興味・関心を持つこと」です。書籍の第1章でも紹介していますが、まずは基点が相手でなければいけません。相手がどうしたら嬉しくなるのか、相手がどうやったらプラス感情になるのか、という相手に興味関心を持つことが今とても求められています。
2つ目は「伝える資格」です。例えばテレワーク中に、我々はテレワークを成功に導くサービスを持っていますという人がもしテレワークをやっていなかったらやはり伝える資格がありません。お客様はそのセールスマン、もしくはそのセールスマンが所属している企業が、本当に提供している製品サービスを使って成果を出しているのかを求めています。つまり再現性です。「自分でできるからあなたにもできます」ということを言っているのかどうかです。
3つ目はベネフィットです。先ほども言いましたが、ただ不平・不満をなくすだけではなく、嬉しさを増すということをお客様が求めるようになりました。嬉しさを増すという要素を提案できるか、セールスのマーケティングコンテンツの中に入れられるかどうかですね。
我々の調査で、不平不満を解決するだけですと競合他社との比較検討で価格を下げられるという傾向があったのですが、お客様の嬉しさになる部分をしっかりと事前ヒアリングなどで見つけて、そこにアプローチすると、提供価格などが実はベンダー側でコントロールしやすいということも分かった。競合他社と差別化するために相手の嬉しさを見つけてしっかりと追求していくことです。
——いまお話いただいたすれ違いについて、特BtoBの現場で起きているものでは何か傾向に違いがありますか。
越川氏:結論から言うとB2BとB2Cにはさほど大きな差はないです。ただ、あえてBtoBで言うと、意思決定者をしっかりと見ずに、どうしても接客しているお客様だけをフォーカスしてしまうBtoB向けのセールスマーケティングが多いのは事実だと思います。
相手に興味・関心を持つということは、お客様がどういう状態でどういう意思決定プロセスで誰が最終決定者なのかを理解しないと、それに対していわゆる正しいアプローチができない。トップ5%セールスは、言ってしまえば「相手がコーヒーを飲みたいと思ったらコーヒーを出す人たちです」。担当者ではなく、意思決定者が今本当に何を飲みたいのか。どういう要望があって、どういう決め方の癖があるのかまでを調べています。意思決定者を探ってその人の趣味趣向、意思決定プロセスのパターンを深掘りするというのがBtoB(のトップ5%セールスの特徴)ならではだと思います。
——ここからは「トップ5%セールス」にクローズアップしていきます。この方たちの特徴や共通性は具体的にどのようなものがあるのですか。
越川氏:まず共通性について、これは調査していてとても興味深い内容でした。彼らは営業をする上で「成功を目指さない」という変わった特徴があります。彼らは一時的な成功を目指すのではなく、「成功のメカニズム」を見つけるプロフェッショナルです。成功ではなく、成功し続けるための学びを獲得するということが基本ポリシーです。
一方で、成果を出していない、頑張っているけど成果を出せていない人たちは、どうしても成功を目指してしまう。そうすると何が起きるか。やはり失敗が怖いので初動が遅い。そして行動量が少ない。それが、いわゆる頑張っているけど成果が出ない人の特徴になります。
トップ5%セールスは、失敗してもそれを学びに変えていけば良いと割り切り、失敗か成功かではなく、失敗の先に成功があると考えて、ローリスク・ローリターンの行動実験を積み重ねています。これが彼らの特徴の1つです。
もう1つは、「巻き込み力」です。お客様ももちろん巻き込みますが、彼らは社内の巻き込みがすごく上手でした。特に、営業部門内ではなく、営業部門外の人、例えば人事部や総務部とかマーケティング部の人たちを巻き込んで共同作業するのが非常に上手です。上から目線で「お客様のためにやれ」というような開発的動機づけで巻き込むのではなく、「このセールスの方の言っている通りだな。だったら協力したい」というような共感を得ながら協力者を増やしているのが彼らの特徴でもあり強みと言える部分ですね。
越川氏:冒頭でもお話しした通り、個人戦よりもチーム戦の方が成果を出しやすい。1人で複雑な課題は解決できないから周りのメンバーを巻き込んで強み弱みを掛け合わせて1+1を3とか5にするような、社内の調整の方にこそ力を入れた方がお客様に魅力的なオファーを出せるということを理解しています。
社内の打ち合わせや、その際の他のチームへの感謝の仕方、褒め方というのは非常に特徴的です。
——周りを巻き込むためには、案件やPJの時だけでなく、普段からのコミュニケーションが大事に思えます。
越川氏:最近はコロナも落ち着いて出社の比率もすごく高まっていますよね。そんな中、トップ5%セールスは、同じセールスのチーム内で食事する人が極めて少なくて、出社したときは他の部門の方と食事に行くという比率が一般のセールスの3.5倍というデータもあります。そうしたところで関係性を醸成できているのが、彼らのいわゆる巻き込み力の実践につながっている。彼らは出社1つ、食事の機会1つを無駄にしないし、とにかく徹底している。偶然の出会いを必然にするという行動ポリシーを持っていますので、行動量をたくさんしていったら例えば1人の人とずっと食べるよりも10人、20人と、他の人とランチを取る方が何か良い情報が得られたり、新しい関係が構築できると思っています。
——95%セールスの行動にはどのような傾向があるのでしょうか。
越川氏:結論からいうと95%セールスの方も無駄だと思って時間を費やしていることは1秒もないんですね。振り返ったら無駄だったということが現状だと思います。ですから、トップ5%セールスのように、振り返って内省をして無駄なことをやめていきましょうという内容を書籍に書かせていただいています。
95%セールスの最たる傾向として、手段を目的化してしまう点が挙げられます。例としては提案書作成に時間をかけて、すごく凝って作って自己満足のある7色のカラフルなものを作ったけど、お客さまに受け入れてもらえなかったり、手段として1案件取れて成功したら振り返らずに一喜一憂して同じノリでまたトライしようとしてしまう。成功のメカニズムを見つけようとしていないんですね。運で案件を取れることもありますが、その運を引き寄せる再現性のあるメカニズムを持っていないので、つい手段を目的化してしまう。一喜一憂して振り返らないというのが95%セールスの特徴かなと思います。
——BtoBセールスの担当者がトップ5%に近づくためには、例えばどのような考え方や準備をしていけば良いでしょうか。
越川氏:ポイントは時間の使い方と、アクセルとブレーキの踏み分け方の2つに尽きると思います。営業の方の99.5%が忙しいと答えます。つまりやらなければいけないタスクをこなす時間が足りないという方が99.5%いらっしゃるということです。時間が足りないことに不平不満や愚痴を漏らすのではなく、時間を生み出すタイムマネジメントが必要になってきます。
実践できることとして、1つ目が社内会議の改革です。働く時間の45%が社内の打ち合わせ、ミーティングに費やされています。営業本部は現場のセールスがお客さまと対応する時間をもっと増やさなくてはいけないのに約半分が社内調整に費やしている。特にセールスのチームミーティングはコロナに入ってから増加傾向にありますので、この会議時間を減らさないと自分の時間が生み出せません。例えば60分の会議を45分にするとか、共有はITツールでやるとかの会議改革ダイエットをぜひセールスの方を起点として実践してみてください。
2つ目は緊急度だけで仕事の優先度を決めないことです。ポイントは、緊急度は低いけども重要度が高い仕事にエネルギーをかけて、逆に重要度が低くて緊急度が高い仕事はやめていくような優先順位付けをする。これがアクセルとブレーキの踏み方のことです。書籍では「捨てる客を決める」という言い方をしていますが、結果的に重要度の高い客にフォーカスして時間を使う、つまりアクセルを踏めるようになってくると、短い時間で成果を出し続けることにつながることが分かっています。
——1つ目の「タイムマネジメント」について、会社の慣習や組織のルールが障壁になるケースも想定されますが。トップ5%セールスの方はどのように乗り越えているのでしょうか。
越川氏:17万人の調査データやワークショップで分かったことですが、働く時間の中で自分がコントロールできない時間というのは平均して75%あると言われています。逆を言うと25%は自分の時間としてコントロールできるのです。入社1年目の方であっても1週間で17%は自由な時間があると言われますので、その意味で17%から25%は自分の時間です。
まず1つ目のポイントとして、自分がエネルギーをかけていわゆる変えられるエリアをいわゆる「内円」というふうに呼んでいますが、自分がエネルギーをかけられて、かつ結果を変えられるエリアを見極めるということです。ここを7割とか10割目指そうとする方々が多い。でもそれは絶対無理です。役員会議や上司の意向で実施されるものもあるでしょう。自分がエネルギーをかけられるところをまずは見極めることが大事です。
2つ目は17%から25%の時間でいかに工夫できるかです。自分でコントロールできる時間があっても何も工夫しない方が全体の7割以上います。どうせ変わらないと認識して何もしてないのが95%セールスです。トップ5%セールスは、会議改革の例で言えば60分ではなく45分の会議をまず今月1回だけやってみようと提案する。そこで9割以上の人が「意外と良かった」というような回答が得られれば、「では継続してみませんか」とローリスク・ローリターンの小さな行動実験をして相手を説得していきます。つまり25%のコントロールできる時間の中で自分の行動実験をやってその成果やプロセスを周りに見せることによってどんどん巻き込んでいくのです。
自分の時間は25%しかないですが、他の方も25%持っているわけですから、単純にそれを組み合わせればより大きなことができる。そこでインパクトを残してそのインパクトによって周りを巻き込んでチーム全体でさらにインパクトを最大化していく。これが実践できる2つ目のステップでもあります。
——BeMARKE読者に向けて、アドバイスをいただけますか。
越川氏:メッセージとして2つをお伝えします。まず1つ目、“もうこれ以上頑張らなくていい”です。営業は頑張れば頑張るほど成果が上がることではないですし、そもそもこの記事を読んでくれる方や私の書籍を手にしている方々は努力もしているし意欲も高い方々です。これ以上頑張ろうとすると心も体も壊れてしまいます。ですから、もうこれ以上頑張るのではなく、“頑張り方を変えましょう”。
2つ目のメッセージは、これから変化は予想以上に激しいと感じています。Chat-GPTなどはほんの一つの兆しでしかなく、世の中の変化は加速していくと思います。この変化にしなやかに生き残るのは恐竜ではなくて雑草です。つまり変化にしなやかに変わっていくということが最強のセールスです。そのためには、アンテナを張り巡らせて変化を察することです。そして、しなやかに変わっていくためには、行動の選択肢をたくさん持っていたほうが良いです。
例えば対面での営業手法、オンラインでの営業手法、部長向け・課長向けの営業手法などの選択肢を持っていれば、相手に合わせて選択肢を変えて行動の選択肢をピックアップしていけば良い。ぜひトップ5%セールスを目指すためにさまざまな行動の選択肢、テクニックなどを増やしていただければと思います。
そして、この選択肢を増やすためには小さな行動実験の積み重ねでしか習得はできません。ぜひ今回の記事や書籍の中から、全部やる必要は全くないので、どれか1つやってみて、自分に合ったものをピックアップして、自らの小さな行動実験を続けていただきたいなと思います。
——ありがとうございました。
【2023年6月13日取材、執筆:BeMARKE編集部】
本書で紹介している「5%セールス」とは、単に営業成績が上位5%というだけではありません。
運に左右されずに安定して成果を出すメカニズムを見出すべく、「3年連続で目標を達成している人」という条件を含めました。
つまり、3年連続で目標を達成し続けて、かつ社内の営業成績が上位5%に入っている人を「5%セールス」としたのです。
5%セールスは成果を出す習慣を身につけているので、他部門へ異動しても、他社へ転職しても、良い成績を出し続けます。すなわち5%セールスは、再現性の高い行動習慣を持っている人たちなのです。
5%セールスには、意外な共通点がありました。
・「プレゼンが苦手」だと思っている
・大型案件の獲得は「運」だったと思っている
・個人戦よりも「チーム戦」を重視している
・商談の最初は「よろしくお願いいたします」で始めない
・営業資料は3色以内。「余白」や「白抜き文字」を活用している etc…
こうした5%セールスの特徴を、一般的な「その他95%セールス」が9か月間真似をしてみるという「再現実験」を、のべ2万1000人で実施しました。すると、再現実験を行った「95%セールス」の成績が平均1.2倍上がったのです。
もちろん、営業成績には運や縁はあります。でも、その運や縁を引き寄せるメカニズムも少しずつ見えてきました。
こうした再現実験を特別に1万時間以上行い、再現性の高かった行動習慣をまとめたのが本書です。
【書籍情報】
タイトル:『AI分析でわかったトップ5%セールスの習慣』
発売日:2023年4月21日
刊行:ディスカヴァー・トゥエンティワン
仕様:四六判/248ページ
ISBN:978-4-7993-2941-2
定価:1760円(税込)