インタビュー
BtoB企業のマーケティング活動においても、BtoC同様に顧客理解は必須であるといわれます。しかし、実際に取り組みを行えているBtoB企業はほんの一握りです。企業が重要性を理解できていない場合もあれば、データに関する理解が不十分で、実践しようとしても成果を出せずに終わってしまう場合もあります。「顧客理解を全社的に推進すべきである」と理解できたとしても、その実現にはいくつもの壁があるのです。
壁を乗り越え、データの活用により顧客理解を推進するために、企業はどのような考えを持って取り組むべきなのでしょうか。本記事では、「顧客解像度を上げるためのデータ活用とは何か」について、データ分析とマーケティングのプロフェッショナルである株式会社グロースXの松本健太郎氏にお話いただきました。
株式会社グロースX 執行役員 マーケティング責任者 兼 コンテンツ責任者
龍谷大学法学部卒業後、エンジニア業務に従事。データサイエンスの重要性を痛感し、多摩大学大学院でリスキリング。その後、消費者インサイト等の業務に携わり、2023年1月にグロースXに入社。 政治、経済、文化など、さまざまなデータをデジタル化し分析することを得意とし、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌にも登場している。主な著書に『人は悪魔に熱狂する 悪と欲望の行動経済学』『データサイエンス「超」入門 嘘をウソと見抜けなければ、データを扱うのは難しい』(以上、毎日新聞出版)、『なぜ「つい買ってしまう」のか?~「人を動かす隠れた心理」の見つけ方~』『誤解だらけの人工知能』(以上、光文社)、『データから真実を読み解くスキル』(日経BP)など。
――BtoBマーケティングの現場で、顧客理解が浅いことで起きる弊害を3つ挙げるとしたら何ですか。
「顧客理解」をどう定義するかで答えが大きく変わります。
BtoBはBtoCと異なり、購買者あるいは意思決定者と実際の利用者が違うケースがほとんどです。BtoB向けSaaSプロダクト以外で想像してみましょう。例えば生産用機械製造業や鉄鋼業といった業種の企業の場合、納品先のお客様はもちろん、事業所の最前線で販売に携わっている人の気持ちも理解しなければなりません。販売に携わる複数の部署、役職をまたがって登場人物の理解ができていないなら、顧客理解とはいえない、という前提があるのです。
こうした前提を踏まえていうと、顧客理解が浅いことによる弊害の1つめとして「誰を顧客として認識すれば良いか分からず、効果的なアプローチが取れないこと」が挙げられるでしょう。
BtoB領域では、中間の卸の方々も、その先におられる方も顧客と見なす場合があります。製造業のお客様であれば、購買担当者と意思決定者、実際の使用者が、それぞれ本社と事業所と工場に分かれており、同じオフィスにいない可能性も高い。こうした場合に、「どうやって連絡を取っているのか」まで含めてまずファクトをとらえなければ、お客様に適切な提案を行えません。
例えば、購買部と言っても、バイイングパワーが低く単に発注業務を担っているだけの場合もあれば、日本のみならず海外にまたがって素材を調達するため非常に強い力を持っている場合もあります。BtoB事業の顧客にはさまざまな状況がありうるため、顧客解像度が低いままでは誰にどのようにアプローチすべきかも明確にならず、成果を上げることが難しくなると考えます。
STPの1つにポジショニングがあります。ポジショニングについて、僕は「お客様からどのように見られているか」という観点で考える場合があるのですが、弊害の2つめとして、「自社やプロダクトのポジショニングを設定できないこと」が挙げられるでしょう。