インタビュー

3年間でリード数を3倍、商談数を10倍に伸ばしたThinkingsのマーケ戦略

3年間でリード数を3倍、商談数を10倍に伸ばしたThinkingsのマーケ戦略

注目のSaaS企業のマーケ戦略を深掘りする連載企画「急成長SaaSのマーケ戦略 大解剖」。今回お話を伺うのは、Thinkings株式会社です。同社は2020年1月、イグナイトアイ株式会社と株式会社インフォデックスが経営統合する形で設立されました。

メインとなるサービスは「sonar ATS」。2012年3月に提供開始し、イグナイトアイ社とインフォデックス社が協業して展開してきた、クラウド型の採用管理システムです。導入社数は、2023年7月時点で1500社以上にのぼり、企業規模を問わず幅広い支持を集めています。

いわば日本のSaaS・HR Tech黎明期の一角を担ってきた「sonar ATS」。現在の実績にいたるまでには、どのような局面を乗り越えてきたのか。ローンチから現在までのターニングポイントを3つに分け、各時期における施策の背景や狙い、成果をSolution Sales Div. 執行役員の遠藤薫さんに詳しくお聞きします。

目次

サービス提供開始10周年。強みは採用フローの可視化と自動化

ーーまず、事業内容について教えてください。

クラウド型の採用管理システム「sonar ATS」を提供しています。採用は、どの企業にとっても大切でありながら、大きな手間がかかる業務の1つ。フェーズ管理、エージェントを含めた関係者とのやり取り、日程調整など、煩雑なタスクがたくさんあります。「sonar ATS」は、そのような課題を解決し、採用業務の効率化を図ることを目指して開発されました。

Thinkings株式会社 Solution Sales Div. 執行役員 遠藤薫さん

ーー採用管理システムとして、どのような点を強みとしているのでしょうか。

採用フローの可視化と自動化ですね。候補者のフェーズをフローチャートで表示したり、エージェントとのやり取りを集約して閲覧したりすることができる他、候補者との日程調整やリマインド連絡を自動で行うことも可能です。直感的な操作性にもこだわっているため、誰でも簡単に業務負担を減らせます。

さらに特徴的なのは、カスタマイズ性です。企業によって採用課題は千差万別であるという認識のもと、細かいところまで各社のニーズにあわせて調整できるような仕様になっています。また、他社の各種HRサービスとも連携しており、それらHRサービスの検討・導入支援も「sonar store」で行っています。「sonar ATS」を利用する中で浮かび上がった課題があれば、それを解決できるHRサービスを「sonar store」を介してアドオンするという使い方が可能です。

採用領域では、さまざまなDXサービスが展開されていますが、採用管理システムにおいても、メディアに紐づくものや一部の採用領域に特化したものなど、多様なサービスが増え続けています。「sonar ATS」は、新卒も中途も含む、あらゆる採用業務を一元管理することができ、様々なHRサービスと連携しエコシステムを実現する、採用のプラットフォームとなるシステムです。

1.サービス立ち上げ期に、大企業へアプローチ

ターニングポイント図

ーー「sonar ATS」については、サービスローンチ時から独特な戦略を実践されていたと伺いました。

サービス立ち上げ期のターゲットは、新卒採用を実施されている、ある程度の規模がある企業に絞っていました。SaaSの営業では、導入ハードルが比較的低い中小企業からアプローチしていくのが一般的ですが、当社では初期から大手企業も含めてアプローチしていたのです。

背景には、人的リソースの問題がありました。サービスのローンチ当初は、企業規模がまだ小さく、セールスは役員を含めてわずか数名。少数精鋭で最大限の成果を出すためには、採用規模が大きく、ATS導入のニーズが高い企業にフォーカスするのが得策だと考えました。

ーー創業間もない企業がローンチしたばかりのサービスを、大企業に導入してもらうのは、難度が高いと想像しますが。

確かに、ITスタートアップが開発したサービスを、実績もない中でいきなり大企業に導入してもらうことは難しい場合も多いかもしれません。

しかし当社は、代表の吉田をはじめ、採用コンサルタントとして経験を積んだメンバーたちが創業した会社です。大企業の採用業務も理解していたからこそ、柔軟性の高い「sonar ATS」で、大企業のニーズにフィットした提案ができていました。

しかも採用管理システムは本来、大企業との相性が良いサービスです。新卒採用を行う大企業は、採用規模が圧倒的に大きい分、採用管理システムの導入によって大幅な負担軽減が見込めます。

導入メリットが大きいターゲットに対し、ニーズに合致したサービスを提供していたので、結果的に成約確度が高くなったのだといえます。

ーーサービスをローンチした2013年は、HR Techのクラウド化が進み始めて間もない時期でしたが、企業の反応は前向きだったのでしょうか。

システムへの感度が高いIT企業を中心に、多くの企業に興味を持っていただけました。

当時多くの企業が導入していた採用管理システムは、ほとんどがオンプレミス型。年度が切り替わる度に大きな費用をかけてシステムを更新しなければならず、現場には大きな負担がかかっていました。

だからこそ、導入コストが低い上に、個社ごとに個別開発しなくても自社に合わせて柔軟に画面上でカスタマイズできるSaaSという形態が、魅力的に映ったようです。

2. The Model型組織への転換で、商談の質と量が向上

The Model型組織への転換

ーー少数精鋭の営業で導入社数を増やしていた中、2019年以降、The Model型組織への転換を図ったのはなぜですか。

スケールするにあたり顧客接点の総量を増やす必要があったためです。比較的規模の大きい企業の顧客開拓が進んだことを受け、ターゲットをより社数の多い中小企業にまで広げようとしていたのですが、当時の体制のままでは営業リソースが不足すると考え、組織体制を変更しました。

当初の営業スタイルは、1対1のアカウント営業。顧客の課題ヒアリングからアポイント獲得、商談でのサービス提案まで、全てセールスが行い、導入初期のオンボーディングも、営業とカスタマーサクセスが共同で実施する体制でした。

顧客に深く関わり、信頼関係を構築するという観点では、確かにアカウント営業は有効でした。実際、サービスの草創期から今にいたるまで、継続して利用してもらっている顧客もたくさんいます。

Thinkings株式会社 Solution Sales Div. 執行役員 遠藤薫さん

ただ、アカウントセールス1人が担当できる顧客は多くても数十社。社数が多い中小企業にアプローチするには、その分だけセールス人員も採用しなければならないことになりますが、さすがに現実的ではありません。最低限の人数で、最も効率的にグロースを実現する方法を検討することになりました。

そんな時、社内でSalesforceを導入したことが大きな転機となりました。顧客への営業に関するデータを一元管理し社内で共有できるようになったことで、リード獲得から受注までのフェーズごとに役割分担しながら営業活動を行う環境が整いつつあったのです。

またSalesforceは、営業プロセスの分業体制「The Model」を確立し、SaaS営業の効率化を図ったサービスでもあります。当社もSaaSの成功例にならい、組織内でより細かく分業していこうと決めました。

ーーThe Model型組織にするにあたり、取り組んだことを教えてください。

まずは、新規部門の人員補強です。マーケティングについては、それまで専任者が不在だったため、外部からの採用がメインでした。一方のインサイドセールスは、営業人員の一部が異動して立ち上げ、その後外部採用も追加した形です。

マーケティングでは、ひとまずリード獲得の定石といわれるチャネルを一通り開拓することから始め、デジタル広告やSEO、外部メディア、オウンドメディアなど、幅広く挑戦しました。各施策の効果がある程度わかるようになってきてからは、コスト効率を基準に優先順位をつけて施策を実施。当時コスト効率が高かったセミナーは、自社開催・共催、オフライン・オンラインを問わず、積極的に実施しました。

インサイドセールスではナーチャリングに注力できるようになりました。リードを育成し、商談を作るという役割です。たとえサービスに関心があるリードでも、1回の連絡で商談機会をもらえるわけではありません。その企業の採用戦略や採用スケジュールによって、導入を検討できる時期は変動するからです。インサイドセールスは、定期的に接点を持ってリードのモチベーションを高めつつ、商談化のタイミングを見極めることに集中していきました。

ーーThe Model型組織にしたことにより、どのような成果があったのでしょうか。

商談の質と量、双方が大幅に向上しました。まず質については、ナーチャリングされた有望リードに対して商談を行うことで、有効な商談が増加しました。マーケティング施策やインサイドセールス担当者と継続して接点を持つ中で、サービス理解が深まった顧客が増え、結果として成約率があがったのです。

さらに商談件数も倍増という結果でした。それまでは、営業が全てのプロセスに関わっていたために工数に限界があり、各企業の商談化タイミングを漏れずに追いかけるのが難しかったのですが、インサイドセールスの部門ができたことで、効率的に商談化できるようになりました。

その他、組織の人材開発においても、成果がありました。分業体制にしたことで、個々の職種で求められるスキルを特定できるようになり、採用や育成がしやすくなったのです。各チームにおけるノウハウの蓄積も進み、顧客の課題に合わせた商談ストーリーの研究などを通して専門性をさらに高めていけるようになりました。

3.大型の資金調達を経て、マス広告に投資

マス広告に大型投資

ーー組織体制の変更により大きな成果を得る中で、2021年ごろからは新たな取り組みを開始されています。

マーケティングの大型施策に、思い切って投資しました。TVCMや電車広告などの、いわゆるマス広告を展開したのです。背景となった課題は、サービス認知度の低さでした。

The Model型組織に変えたことで、リード獲得からナーチャリング、商談化、成約までの流れは最大限に効率化できたのですが、高い成長目標を掲げていたことから、さらに手を打つ必要がありました。

社内における調査などから、最初の「認知」のフェーズにまだまだ伸びしろが大きいことがわかってきました。サービスに関心を持ち、当社の営業プロセスに入った顧客に対しては、成約までの道筋が確立されてきた状況でもあり、さらなるグロースのためには、顧客のATS検討段階で必ず選択肢に入るように、サービス認知を高める必要があると考えました。

確かに営業の現場においても、顧客数は着実に増え、満足度も高いにもかかわらず、市場での認知はまだまだ低いという実感はありました。そこで大型の資金調達を機に、マス広告に集中的に投資することにしたのです。

ーーマス広告で工夫されたポイントと成果を教えてください。

採用市場の変化を促すような、課題提起につながるクリエイティブを作ったことは、特徴的だったと思います。

SaaSをはじめとしたIT関連サービスのマス広告では、ひたすらサービス名を強調するようなクリエイティブが目立ちます。認知拡大において、名称を知ってもらうことももちろん大事ですから、方策として間違っているわけではありません。しかし、広告は企業ブランドに直結するもの。当社は名称よりも、どのような課題意識を持ち、どのように解決しようとしているプロダクトなのかをアピールすることで、ブランディングにつなげたいと考えました。

Thinkings株式会社 Solution Sales Div. 執行役員 遠藤薫さん

TVCMでは、顧客企業とその内定者に出演していただき、企業側と応募者側という双方の立場の声をもとに、採用活動と就職活動に変化が求められていることを伝えました。電車広告で山手線ジャックを敢行した時も、就職活動をする学生の疑問や本音をキャッチコピーにして展開。リアルな声を伝えることで課題提起につなげ、「sonar ATS」というサービスの役割を浮き彫りにしたのです。

課題提起型の広告は功を奏し、リード数や商談数が増加しました。特にオフラインの展示会では、ブースに立ち寄っていただける企業が目に見えて増え、認知が広がってきたのを実感しました。

マーケティングは、ビジネスサイドの舵取り

ーーこれまでのターニングポイントを振り返って、どのように評価していますか。

2つ目のターニングポイントである、The Model型組織への転換以降が、大きなインパクトを持っていたと考えています。実際、組織転換後に大型資金調達を実施する前である2019年と現在(2023年)を比較すると、リード数は約3倍、商談数は約10倍になっています。

とはいえ、まだまだ組織改善の余地はあります。The Model型組織は、分業体制のため、各部署の連携が不可欠。全体の足並みが揃っているかどうか、常に気を配らなくてはなりません。

肝となる情報連携については、現場でどのような情報をどのタイミングで残すか、日々ブラッシュアップしているのはもちろん、部門マネージャー同士も定期的にMTGを行い、戦略のすり合わせを行っています。それでも、言葉の定義が部門ごとにズレており、認識の齟齬が生まれることもあります。

例えば、「受注率」という言葉を1つ取っても、分母となる商談の範囲をどのように規定するかによって大きく数値が変わります。特に定義を決めないまま放置してしまうと、各部署が都合のよい解釈をしてしまい、同じ言葉で違うことを指しているという事態が起きかねません。だからこそ、言葉の認識がズレていると感じた場合は、まめに定義を統一するようにしています。

また、マーケティングがすぐには成約にいたらなさそうなリードを獲得したことに対して、フィールドセールスが不満を示すことも一般的によく起こりうることです。フィールドセールスは常に「今日、成約を決めたい」と考える傾向がありますが、マーケティングやインサイドセールスにおいては、「将来、成約するかもしれない」企業も同時にターゲットにしています。両者には時間感覚のズレがあるのです。営業プロセス全体を見れば、現在の収穫と未来の種まきを同時にしなければなりませんから、マネージャー側から細かく施策の意図を伝えることを心がけています。

ーー今後の目標を教えてください。

営業プロセスのサイクル

営業プロセスのサイクルを精緻化し、導入社数を増やすことと並行して、現状では非常に低い解約率の維持にも取り組みます。

マーケティングは、ビジネスサイドの舵取り。狭義にはリード獲得を志向した活動を指すこともありますが、むしろセールスやカスタマーサクセスなども含めた営業プロセス全体が、マーケティングの本質だと考えています。

営業プロセスは、各フェーズだけを見れば直線的ですが、全体を俯瞰すれば円環的な構造となっています。だからこそ、受注できなかった顧客とのコミュニケーションもそれで終わりではなく、再度ナーチャリングして適切なアプローチを続けることが大切です。当社は情報連携を密に行いながら、このサイクルの精度を高めています。

Thinkings株式会社 Solution Sales Div. 執行役員 遠藤薫さん

また、サービス提供期間が長くなるにつれ、顧客を増やし続けるだけでなく、減らさないという施策もますます重要になってきました。現時点でも、利用状況やアンケートを通じて、カスタマーサクセスがきめ細かく対応するようにしている他、顧客の声をプロダクト改善に生かすべく、プロダクトマネジメントや品質管理を担う専門チームを作っています。

今後は現在の仕組みをさらに洗練させ、採用を入口に企業の組織づくり全体を支援する存在を目指したいと思います。

ーーありがとうございました!

Thinkings株式会社
事業内容:HR Tech事業(sonar ATS、sonar store)
本社所在地:東京都中央区日本橋本町4-8-16 KDX新日本橋駅前ビル5階
設立年:2020年1月31日
代表取締役会長:瀧澤 暁
代表取締役社長:吉田 崇
従業員数:190名(2023年2月現在)
https://thinkings.co.jp/

【取材・執筆:山田奈緒美、編集:BeMARKE編集部】


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BeMARKE編集部
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