インタビュー
注目のSaaS企業のマーケ戦略を深掘りする連載企画「急成長SaaSのマーケ戦略 大解剖」。今回は、電話応対システム「IVRy(アイブリー)」の企画・開発・運営を行う株式会社IVRyにお話を伺いました。2020年11月のリリース以降、順調に認知度を高め、現在までに登録者数5000アカウント、着電数は累計500万件を突破。50の業界で利用されており、月約1,000件のMQLを獲得するなど、電話DX領域での注目度の高さが伺えます。
マーケティングの戦略設計やチームマネジメントを担当する今坂良平さんに、成長のきっかけとなった3つのターニングポイントとマーケティング施策について語っていただきました。
――「IVRy」の特長について教えてください。
当社が手がける「IVRy」は、月額3,000円で電話応対の課題を改善するためのサービスです。安価な額面で電話業務を効率化できるという点が、既存の製品やサービスとは大きく異なる部分だと思います。
従来、電話の自動応答システムの開発から導入には、数百万から数千万円のコストがかかるとされ、金額面の負担から、電話業務のDX化を踏みとどまっていたスモールビジネスや中小企業も多く見られました。
そこで当社では、安価で誰でも利用できるシステムを開発。「大企業だけでなく、中小企業やスモールビジネスの方々にも価値提供をしたい」という思いでサービスの設計と改善を進めてきました。
参照元:https://ivry.jp/
――使いやすい「操作性」も評価されていますね。
そうですね。ノーコードで自由に設定ができるため、マニュアルも必要ありません。当社代表の奥西が前職時代にUXディレクターを務めていたこともあり、PC業務に慣れていない人にとっても受け入れやすいシステムを構築しています。
――さまざまな企業で導入されていますが、特にユーザー数の多い業界はありますか?
現在「IVRy」のアカウントで最も多いのが病院・クリニックです。とはいえ、リリース当初から「この業界を攻めていこう」と明確に定めていたわけではありません。
病院・クリニックの業界でユーザー数を増やすきっかけとなったのが、リリースから約半年後のあるクリニック様からの声でした。「当院に対してコロナワクチンの予約に関する電話が殺到しており非常に困っていたが、IVRyを利用することで通常業務が回るようになった。これは全病院・クリニックに知ってもらうべきだ!」と言っていただいたことがありました。そのときに「どうやったらみんな知ってもらえるでしょうか?」とご担当者様にお伺いしてみると「病院やクリニックのスタッフは普段からFAXを見ることが多いため、認知手段としてFAXを活用してみては」というアドバイスをもらいました。
当時、主な集客はリスティング広告のみでしたが、このアドバイスを受けてFAXマーケティングに着手。FAXDMサービスを利用し、作成したクリエイティブを病院・クリニックに宛てて送信したところ、月20件だったMQLが約2.5倍の50件に伸ばすことができました。これが最初のターニングポイントだったと認識しています。
――FAXマーケティングが「第1のターニングポイント」とのことですが、どのような点が成功要因だったと感じていますか?
「業態ごとの本質的なお困りごとの解決」にタッチできたことではないでしょうか。どのチャネルで情報を伝えれば、本当に知ってほしい顧客に伝わるのか? を顧客自身から教えていただいたことで、日常業務に「FAX確認」という業務が組み込まれていることが分かり、FAXDMの活用は有効だと判断することができました。同様に、薬局や不動産管理会社でも、FAXを活用したマーケティングは効果があると考えています。
また、FAXマーケティングを展開しはじめた2021年の5月頃は、コロナ禍の真っ只中。医療機関は、ワクチンや発熱外来への問い合わせ対応でひっ迫していた時期です。この結果から、「世の中のニーズがサービスとマッチしていると、高い反応が得られやすい」ということを、改めて実感することとなりました。
――FAXDMのオプトアウトにも、「IVRy」を活用したそうですね。
そうですね。今回のように、FAXやメールなどでDMを送信する際は、停止連絡…つまりオプトアウトするための導線も用意しておかなければいけません。なるべくIVRyに興味を持っていただけそうな方にご連絡するよう努めていますが、どうしてもニーズに合致せず連絡が不要だという方もいらっしゃいます。
そのため配信停止の手続きに関しても、IVRyの分岐設定と文字起こしなどの機能を使ってスムーズに行えるように体制を整え、FAXをお送りした企業ご担当者様の、停止依頼に伴う手間の削減にも努めています。
――今坂さんは1人目の専任マーケターとして、2021年12月にジョインしていますが、以前はどのような体制だったのでしょうか?
以前は、事業開発者である代表の奥西ともう1名のセールス担当が業務の一環としてマーケティングを兼任していました。とはいえ、マーケティング戦略において専門的な知見があったわけではありません。
問い合わせの内容や顧客のニーズ、問い合わせ数に対して「世の中に需要がある」と確信しつつも、「さらに増やすためには、どうすべきかが分からない」という状態。特に、電話応対サービスは未成熟な市場だったこともあり、「早めに優位性を持ちたい」という奥西の強い思いがチームの組成につながりました。
2021年12月に私が参画して以降、専門性の高い人材を積極的に採用し、マーケティング専門のチームを発足。現在は6人でマーケティングを運用できるようになり、より戦略的な施策を行うことが可能となりました。具体的には、リスティング広告やSNS広告などの「ペイドメディア」、オーガニックサーチの流入UPを目指した「SEO対策」、見込み客が当社製品への意識を高めるための「ナーチャリング」などの施策を実行しています。
このように、専任チームの組成が第2のターニングポイントとなり、MQLを約100件から約1,000件まで伸ばすこととなりました。
――施策を行う上で、大切にしていることを教えてください。
当社では「検証の方向性」に重きを置き、数多くのチャネルをスピーディーに検証するようにしています。その上で、CPAが合うかどうかの「兆し」が見えたら、素早くコストをかけて高さを出していくスタンスです。そして「高さが出たチャネル」をどんどん増やしていくことで、MQLを効率良く伸ばしていくんです。
しかし、新しいチャネルが増えるほど、人的リソースは不足していきます。それを回避するために、検証チャネルにおいては、「判断のボーダーライン」をできるだけ下げた状態で着手するように意識しています。
このような仮説検証ができるのも、スタートアップならでは。専門的な知見に加えて、素早い意思決定ができる環境があるからこそ、MQLを伸ばせたのだと感じています。
――MQLが急激に伸びたことで浮き彫りになった課題はありましたか?
セールスの負担が急増したことです。時には1人で1,000件弱のMQLに対応しなければいけないこともあり、人材拡充を急務と定めて、採用を進めました。現在、セールス社員は10人程度に増えましたが、さらに増やさなければいけない状況です。
また、マーケティングとセールス、双方で人数が増えることで、連携強化にも力を注ぐ必要があります。特にマーケティングチームの検証方法によっては、セールスのメンバーにしわ寄せが及ぶ可能性もあるため、現状と目的をしっかり共有した上で施策を動かすことが求められます。現在は、週一で定例ミーティングを設け、互いの情報共有に努めています。
――「東横イン様の全店舗導入」が、3つ目のターニングポイントだったとのことですが、どのように接点を持ったのでしょうか。
「東横イン」様はインバウンドからの流入でした。マーケティング活動を展開する中で、規模の大きい企業がインバウンドで入ってくることは珍しくありません。
企業の規模が大きくなるほど、従業員へのヒアリングや使い方の検証など、導入までにかなりの時間を要しますが、そこを乗り越えて導入いただければ、一気に認知度が拡大します。当時は、エンタープライズ企業様へのアプローチは積極的に行っていませんでしたが、東横イン様の導入をきっかけにホテル業界からの問い合わせ数が急増。「業界におけるセンターピン企業に使っていただく」ことによる効果を実感することとなりました。
――特定業界の「センターピン獲得」による成果を教えてください。
まずは、同業種の利用が格段に増えたことです。また、ホテル業界のユーザーの利用が増えるにつれて、業界特有の課題も見えてくるようになりました。例えば、ホテル業界では「スタッフの業務時間の多くが電話対応に取られている」ことに悩みを抱えていることが明らかに。「電話対応の時間を節約できれば、顧客満足度向上のために視野を広げられるのに」と考えているスタッフが多いということがわかってきたのです。
このように、業界内の課題が明確になることで新たな機能開発へのヒントを得るだけでなく、各機能を安価に提供できるようになるため、より良いインサイトへと深まっていくと感じています。
今回の事例から、「IVRyはホテル業界との相性が良い」ということがわかりました。ビジネスホテルだけでなくリゾートホテルも視野に入れ、エリアの分析も行いながら、チェーン企業・フランチャイズ企業向けのマーケティングにも注力していく予定です。そして、センターピンとなる企業様に、IVRyの良さを伝えていけるようにチャレンジしていきたいですね。
――最もインパクトが大きかったのは、どのターニングポイントだったと考えますか?
やはり2021年12月の「マーケティングチームの組成」ではないでしょうか。専任チームができたことで、ターゲットニーズやトレンド、顧客の分析や、チャネルの検証をしっかり行った上で、マーケティング施策を展開できるようになりました。
当社のバリューの一つに「Simplify x/あらゆることを簡素化する」という考えがあります。新しい施策に着手する際は、この考えに基づいて、伸びない要因や伸ばすための課題を因数分解し、「ピンポイントで取り組む」ことを心がけています。「何事も単純化して検討する」というマインドのもと、今後もさまざまな手法に挑戦していきたいですね。
また当社では「部署」を設けず、クォーターごとにプロジェクトを入れ替えて進めています。時期ごとにやるべきことがどんどん変わるため、「組織」として固めすぎずにいることで、その時々のKPIに注力しやすい体制が築けています。この柔軟さも、施策の検証と運用のスピード感に直結していると言えるのではないでしょうか。
――今後の展望を教えてください。
「IVRy」のサービス名も、電話の業務効率化も、まだまだ世間一般では浸透していません。「電話とは『人』が対応するもの」という概念が根強く存在しているからです。「電話でのコミュニケーションを少なくすることが、業務の効率化と顧客満足度向上につながる」と認識してもらえるよう、マーケティングチャネルの開拓・強化とともに施策を展開していきたいと考えています。
チャネルを検証した上でコスト効率が良いところを伸ばしていくスタンスは変えずに、「重点的に伸ばすべきチャネルは何か」の追求に尽力し、Simplify xを意識した筋肉質な組織を築いていきたいと考えています。
ーーありがとうございました!
株式会社IVRy(アイブリー)
事業内容:クラウド型電話自動応答(IVR)サービス(IVRy)の運営
本社所在地:東京都台東区元浅草3-7-1 住友不動産上野御徒町ビル4F
設立年:2019年3月
代表取締役社長:奥西 亮賀
https://ivry.jp/company/
【取材・執筆:佐藤有香、株式会社YOSCA、編集:BeMARKE編集部】