インタビュー
2023年7月、ChatGPTに新機能「Code Interpreter(コードインタープリター)※」が追加されました。有料プランユーザーのみが使えるGPT-4のβ版機能として提供されています。データの分析や読み込み、変換などが簡単にできるCode Interpreterを使い、BtoBマーケティングの業務はどこまで効率化できるのか? 株式会社ウィット代表の渥美英紀氏にGA4とGoogle Search Consoleのデータ分析デモを通して解説いただきました。
前編はこちら>>ChatGPT新機能Code Interpreterとは?実際に使ってみた【実例デモ画面付き】
※2023/8/29現在、Code Interpreterは「advanced data analysis」に名称変更しています。
今回はBtoBマーケティングでよく使うアクセスログデータの分析をCode Interpreterでどこまで効率化できるかを実際に画面を操作しながら見ていきます。
サンプルとしてBeMARKEのアクセスログデータをGA4で出したものを使います。まず、GA4である月のPVや平均エンゲージメント時間、ページタイトルを含むデータをCSV形式でダウンロードします。
CSVをCode Interpreterで読み込む際に文字コードでエラーが出る場合があるためヘッダー情報を編集しています。
「あるウェブサイトのアクセスデータです。このデータを読み込めますか?」
という指示とともにデータをアップロードすると読み込みを開始し、下図のように「データに含まれる項目」をリストで出し「分析方法」を問いかけてきます。
「平均エンゲージメント時間が短いものから順番に並び替えてください」
という指示を出すと、10記事分をリスト化してくれました。記事タイトルや分数はデータ通りの情報ですね。
ーーこのデータを使いどのような改善施策につなげられますか。
例えばSEO記事を分析する時に、流入はあるものの閲覧時間が短い、離脱が早い場合には内容を改善する必要があるでしょう。
Webサイトの方向性や目的に対して閲覧数を伸ばしたいのに伸びないページをリスト化したり、記事の重要度や役割ごとにエンゲージメント率を精査し可視化したりすることで次に何をすべきか整理できます。
ーーデータを元に指示を出すことで分析結果を自動でリスト化でき、改善につなげられるということが分かりました。
分析の方向性が定まっていればプロンプト次第でさまざまなデータをクロスして出すこともできるでしょう。例えば表示回数が1000回以上だけれどエンゲージメント率が低いページをリスト化する、Webサイトにおける重要な項目や条件を設定し改善リストを出す、など活用の幅を広げることができます。そのためにもGA4をいかに使いこなせるかが重要ですね。
次に、Webサイトのデータを月ごとに比較します。まず(1)の次月のデータを読み込ませ「先ほどのデータと比較できますか」と投げかけます。
先ほどと同様に平均エンゲージメント時間が短いページを順に出してきました。
次の指示を出し月ごとの比較を行います。
#指示
Webサイトのアクセスログデータを2つ期間が異なるデータを提供しています。
2つの期間のデータについて指定された要素について比較し、具体的な前後の数字比較を示して
#要素
・増加が大きかったページをTOP10、何回増えたか
・減少が大きかったページをTOP10、何回減ったか
・エンゲージメント率が上昇したページTOP10、どのくらい増えたか
「要素」を工夫することでさまざまな角度から分析できるでしょう。
条件をつけた月ごとの比較をGA4で行おうとすると意外と手間がかかるのでこのように簡単に出せれば業務効率化につながるのではないでしょうか。
例えばページの表示回数順位が100位から一気に10位以内に入ってきたという場合の差分を見るときにGA4のみで分析するよりChatGPTを使ったほうが簡単にできることもあるでしょう。
次の指示を出しデータを出力します。
#指示
それぞれの分析要素をシートに分けてExcelで出力してください。
#要素
ページ名|前期間の値|後期間の値|前後の差
データ形式はExcelの他、CSV、うまく設定すればPowerPointで出すこともできます。現在はデザインを反映することはできませんが、今後データにデザインを入れるなんてこともできるようになるかもしれません。
今回はデモ用にTOP10としていますがTOP100など大量のデータを扱うこともできます。
ーーきれいにまとまっていますね。
そうですね。ひとつ注意点としては日本語表記の読み込みや出力に若干不安があることです。今のところ、文字化けせずに出力するにはCSVよりExcelが良い印象です。元データの表記を英語にするのもひとつの方法ですね。
ーーその他に注意すべきことはありますか。
この機能はまだβ版ですので裏側でどのような処理がされているか不明瞭です。そのため機密情報はなるべく入れないといった対応が必要だと思います。データ分析する場合はキーワードやページ名をIDに変えてサンプル情報として作り直し読み込ませるということをしています。
あるいは、新たに設定ができるようになった「Chat history & training」をオフにすることで、履歴を残さず、再学習させないような処理も有効だと思います。
Google Search ConsoleでWebサイトにおける検索キーワードの表示回数やクリック数、ランクのデータを取得します。
検索上位にも関わらずクリック率の低いキーワードや順位は高くないのにクリック率が高いキーワードなどを調査し改善するという流れをCode Interpreterを使ってどこまで自動化できるかデモしてきます。
今回はサンプルデータを用意しアップロードします。データの内容を表で出してくれました。
「縦軸にCTR、横軸にrankでグラフにできますか?」と投げかけると指示通りグラフにしてくれました。グラフの形式は自動的に最適なものを選んでくれます。
「ランクが高いほどCTRが高い傾向が見られます。これは、検索結果の上位に表示されるキーワードほど、ユーザーがクリックする可能性が高いことを示しています」という分析コメントも出力されました。
グラフの活用法としては、順位が低いにも関わらずクリックされているキーワードを発見して、SEO対策を強化するなどの方法が考えられます。
表示順位が高いにも関わらずCTRが低いページもいくつか散見されますので、さらに分析・データを抽出し改善につなげましょう。
「rankが5以下、かつ、CTRが0.1以下のキーワードはいくつありますか?」と聞いてみます。
「全体で40個」という回答ですのでそれらをCTRが低い順にソートしリスト化したExcelデータをダウンロードしてみます。
Excelデータに指示した内容がしっかりまとまっていますね。
Code Interpreterはまだβ版ですので機密情報はアップロードせず数字などに変換して分析するのが良いでしょう。
Google Search Consoleでは上から200位〜1000位と見ていくのは大変ですのでこうして自動でリスト化できると業務効率化できるのではないでしょうか。
改善すべきキーワードを発見したら、Google Search Consoleに戻り該当するページを表示させます。タイトルタグ、メタディスクリプションをキーワードに合わせて最適な内容にリライトすることでCTRを向上させる、といったように改善につなげていきます。
ChatGPTを活用することでSEOのリライトや調査・改善にかかる業務の効率化が図れるようになっているということです。
今回、最も注目すべき点は、Code Interpreterにデータを読み込めるようになったことで、分析・データ化・改善という一連の作業をChatGPT上で完結できるということです。
さらに、Code Interpreterの操作画面上の「show work」をクリックすると今まさに動いているPythonのコードを表示しコピーができるのも画期的です。一つひとつのアクションをPythonコードと連結することでさらに業務の自動化が進む可能性があります。
ーーそうすると、人間が担当した方が良い業務や準備すべきことは何でしょうか。
大きく2つあると考えています。
ひとつは、今ある業務をChatGPTを使い自動化・標準化するためのプロンプト作成を進めることですね。
もうひとつは、リソース不足や工数削減のためにこれまで取り組めていなかった業務をChatGPTで自動化しその上で独自性のある情報を付与し価値を高めていくということです。
例えばメルマガの件名を何パターンも出して検証したいけれどそこまでエネルギーをかけられないという場合に、件名のバリエーションをChatGPTで出して結果を分析する、など。
またお問い合わせフォームに届いたメールへの返信にかかる作業をChatGPTを使い自動化するというのも良いでしょう。お客さまの関心が高そうな資料やセミナー情報を付与する作業をプロンプト化し、その代わりに人間が個別対応を行うというイメージです。
今後求められる人材は、業務全体を俯瞰で見つつプロセスや詳細にも通じていて、ChatGPTの特性をつかみ活用できる人ですね。この業務にはこんなプロンプトがあれば効率化できそう、ここはまだ無理かな、といった判断ができる勘どころのある人材をどれだけ育成できるかということが重要な気がします。
Code Interpreterを使ってみた一番の感想は、操作する側の習熟度が問われるということです。これまではお手本となるブロンプトをコピペすることでChatGPTを使えていましたが、これからはデータ分析やコードについての知識も必要です。今回の機能追加は、みんながお遊び的に使えるものから本格的なツールの入り口に立ったといえます。
そういう意味では、これまで以上に本格的に自社業務にフィットさせるためのやり方を考えていかなければならないフェーズに突入しています。そんななか、人間の習熟度を高めつつ業務の自動化・効率化を進めるには、社内で情報共有しながらPDCAサイクルを高速でまわせる質の高いチームづくりが必須でしょう。
ーーありがとうございました!
渥美英紀(あつみ・ひでのり)
株式会社ウィット代表取締役。BtoBのさまざまな業界の売上アップ・ブランド強化・営業改善など450以上のプロジェクトを担当。特にリード獲得や売上アップに高い成功確率を誇る。著書に、自身のノウハウをまとめた「ウェブ営業力」(翔泳社、2009)、 「Webマーケティング基礎講座」(翔泳社、2011)がある。2017年には「BtoBウェブマーケティングの新しい教科書」(翔泳社)を上梓。アクセスログ解析システム、メール配信システムなどの開発も手掛けたことから、ウェブマーケ ティングの遂行に不可欠かつ広範囲な分野について専門性を生かした"総合的"かつ"現場に根差した"ウェブマーケティング支援を得意とする。
ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング(株式会社ウィット)
note:ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング
BeMARKE編集長。これまで15年以上Webメディア運営・コンテンツ制作に携わる。前職では美容系Webメディア編集長としてサイト規模を2年で28倍の2,800万PVに成長させる。2022年より現職。BeMARKEのコンテンツ編集・制作方針や計画の策定、取材・執筆などを担当。
X(旧Twitter):@maisuzuki_bmk