インタビュー
AIチャットサービス「ChatGPT」は、さまざまな企業の業務に取り入れられ始めており、今後ますますの普及が予想されています。
前回の記事では「ChatGPT活用がBtoBマーケティングにもたらす変化」を主題に、BtoBマーケティングに15年以上携わる株式会社ウィットの渥美英紀氏に解説いただきました。
第二弾となる本記事では、ChatGPTをBtoBマーケティングの実務に具体的にどう生かせば良いのか、「セミナー集客メール」「問い合わせ返信メール」「Web広告キャッチコピー」の3つの活用例と今後の展望について、渥美氏に引き続きお話いただきました。
セミナーの概要が固まってさえいれば、セミナーの集客メールに利用する「キャッチコピー」をはじめ、「メリット」や「どんな人に受講してほしいか」などの文章を無料版のChatGPTで量産できます。以下に手順を示します。
【1】プロンプトの用意
【2】セミナー情報を入れて訴求点を出す
【3】回答を掘り下げる
【4】メールの冒頭文を作成する
【5】メール本文の叩き台を作る
【6】SNSやLP向けに変換する
セミナー集客メール作成にあたって、まずセミナーのキャッチコピーを作ります。以下はセミナーの訴求点を生成するプロンプト(動作を指示する文章)の例です。
以下の講座があります。
---情報を入力する領域---
この講座のキャッチコピーを以下の訴求点で作って。
メリット訴求:顧客が得られるメリットを入れる
価格訴求:コストパフォーマンスの良さを入れる
課題訴求:課題を訴える
声訴求:実際のお客様の声を活用する
権威訴求:権威のある情報を入れる
数字訴求:数字をつかう
社内にいる優秀な方にプロンプトづくりを担当してもらい、その人のノウハウが他の人に継承されるようにしましょう。成績の良い営業やインサイトセールスが顧客にどのようなメールを送信しているかを分析し、ChatGPTで再現できるようにするイメージです。
セミナーページからセミナーの概要をコピーして、プロンプトの「---情報を入力する領域 ---」の部分に上書きペーストし、セミナーの訴求点を生成します。
【実際の入力文】
以下の講座があります。
営業現場から始めるクイックウィン営業DX
昨今、「DX」の推進や顧客の情報収集のオンライン化によって、営業改革を実施する企業が少しずつ増えてきています。
上層部からの指示やDX推進事業部の発足などで大々的に「営業DX」を進めていこうとしている一方で、大きな変革故に、営業現場がついていけない、営業現場の実情と合致していないケースも散見されており、結果として、DXの推進が瓦解してしまうことも少なくありません。
本セミナーでは、小コストで目に見える変化を生み出す「クイックウィン」の考え方に基づいて、営業現場ですぐに始められる営業DXの考え方や進め方、明日からでも始められるクイックウィン施策等について解説していきます。
このような方におすすめ
これから営業DXを始めていきたいけれども、何から始めればいいかわからないご担当者
営業現場でデータを活用した営業スタイルを確立させたいと考えるご担当者
商談創出でお困りのご担当者
この講座のキャッチコピーを以下の訴求点で作って。
メリット訴求:顧客が得られるメリットを入れる
価格訴求:コストパフォーマンスの良さを入れる
課題訴求:課題を訴える
声訴求:実際のお客様の声を活用する
権威訴求:権威のある情報を入れる
数字訴求:数字をつかう
訴求点の部分は、企業がどういったPRを行いたいかによって内容や定義を変えると良いでしょう。一度テンプレートを作ってしまえば、使いまわして常に複数のパターンを出せるようになります。
セミナーの訴求点が分類別に生成されました。
ChatGPTは何回も質問すると違う回答が出ます。意図と異なる回答であった場合は、同じプロンプトを何度も試してみたり、言葉を言い換えたりしてみましょう。
前回の結果では物足りなかったためもう一度試してみると、「最大20%向上します!」のように文章の表現が変わりました。
さらに、得られた結果から良い回答を選んで掘り下げられます。「2つの訴求点を入れて」⇒(1個しか出なかったため)「5個出して」と指示します。
訴求点を組み合わせた5パターンのキャッチコピーが示されました。このやり方を覚えておけば、パターンをいくつか出した後で、その中から複数を組み合わせることによって大量の候補を出せるようになります。
示された5パターンのうち4番目のキャッチコピーが使えると判断して、このキャッチコピーを「件名」にした場合のメールの冒頭文作成を依頼します。
冒頭文を作成する際に、参考にできそうな文章が生成されました。
セミナーの情報を【2】のときと同様に入力してから、今度は訴求点ではなくメリットについての文章作成を依頼します。
「この講座のメリットを400文字以内の文章で作成して」と送信します。
受講のメリットについての文章が生成されました。出力の形式を指定すれば、箇条書きで出すこともできます。集客メールの本文に挿入するメリットの説明として、十分叩き台にできるでしょう。
ただし、400文字という字数指定は日本語では正確に反映されません。あくまで目安としてとらえ、厳密にする必要がある場合は別途計算を行いましょう。
生成した文章は、SNSやLP(ランディングページ)向けに文章を変換して利用できます。以下に例を示します。
他にも、「ディスクリプション」「ミドルページに載せるための要約」「社内文書」などさまざまな形式での出力が可能です。
最初は「SNSでPRする文言を考えて」とそのまま尋ねてみましょう。条件を指定し過ぎると、ChatGPTがどの程度まで指示を解釈できるのかが判別しにくくなります。
文章のキャッチーさが増し、SNS向けに表現が柔らかくなりました。
ただし、「もっとキャッチーにして」のように質を求め続けると、「!」が増え続けるなどうまく文章を生成できない場合があります。無料版を利用する場合は質を求め過ぎないようにしましょう。
「どんな人が受講すべきかリストアップして」と依頼することで、LPにある「この講座は〇〇な方におすすめ」といった文章の参考にできます。
インプットする情報と質問を変えれば、セミナーに限らず製品・サービスのLPにも利用できるでしょう。
ChatGPTの利用により、問い合わせメールに対しスピーディに返信メールの叩き台を作成できます。「◯◯に関する問い合わせには◯◯と入力する」と条件を決めておけば、新人でも作成が可能です。
【1】返信メールの作成を依頼する
【2】インサイドセールスへの引き継ぎ文を作成する
【3】BANT条件を確認する文言を入れる
「BeMARKEに広告を出稿したいが料金はいくらか?」という問い合わせがあった想定で、その回答作成を依頼します。
当たりさわりのない文章が出力されました。内容が薄いため、より詳細な内容になるよう追記します。「広告出稿の流れをいれて」「打ち合わせ日程の候補日をいれて」と2つの条件を追加しました。
広告出稿の流れと、日程候補が追加されました。手作業で編集すれば、叩き台として十分利用できる文章です。
さらに、お客様に打ち合わせの前に確認しておいてほしいページがあるため、「サンプルページとして以下を告知して」とURLを追記します。
サンプルページへの案内文も追加されました。
お客様とメールをやり取りして商談が決まった場合、流れや決定事項をインサイドセールスに報告する文章を考えてみましょう。「ここまでの流れをインサイドセールスに報告するメールを書いて」とChatGPTに依頼します。
インサイドセールスに報告するには簡潔な方が望ましいため、箇条書きを指示します。
箇条書きで分かりやすくなりました。フォーマットや定義を適切に指示すれば、GPT-3.5の無料版であっても、SFAなどの情報共有のツールにフィットする書き方にできるでしょう。
またプロンプトに「お客様の課題」「リクエストされている内容」「提案した内容」「打ち合わせ日程」といったカテゴリーを作って指示すると、その通りに振り分けて文章が生成されます。
商談前にBANT条件を聞き出せるかどうかで、その後の営業活動に影響します。メール内にBANT条件について確認する文言を入れてみましょう。
試しにChatGPTにBANT条件について尋ねます。
BANTのTは一般的には「Timeframe」を指すため正確な結果ではありませんが、この結果をヒントに、「Timing(タイミング)を引き出すための質問文を作って」と追記します。
「いつまでに掲載を開始されたいですか?」「お客様の商品・サービスに関する特別なイベントやキャンペーンの予定はありますか?」という文章が追加されました。この文章に返信があれば、営業に引き渡しがしやすくなります。
営業マネージャーも、返信の内容に応じて、エースを投入すべきか、とりあえず話だけ聞くだけで良いかといった判断がしやすくなるでしょう。
Web広告では、ユーザーの目を引くキャッチコピーが重要です。マーケターが活用できるWeb広告の文章をChatGPTで作成します。
【1】セミナーの情報からコピー生成を依頼する
【2】訴求点をコピーに入れる
【3】英語でコピーを出す
【4】ターゲットに応じてコピー内容を変える
セミナーの概要文を入れ、「以上のセミナーについて20文字のコピーにして、10パターン出してください」と指示します。これが製品・サービスのWeb広告なら、製品ページの概要文を貼り付けるといった応用ができます。
10パターンが示されましたが、キャッチコピーにするには1文が長かったため、10文字で再指定します。
10文字と指定しても出力された文字数は正確ではありませんが、20文字で指定したときよりも短いコピーを生成できました。
特定のテーマを入れてコピーを作りたい場合も、その通りに入力すれば生成されます。【1】のプロンプトに訴求ポイントの一覧を貼り付け、「いずれかの訴求ポイントを必ず入れて」と指示します。
訴求ポイントを反映したコピーを生成できました。
また、GPT-4(有料版)で依頼した場合の結果は以下のようになります。
簡潔ながら複数の種類のコピーが生成できました。
文字数の指定は実際の文字数を期待するというより、抽象度の度合いの目安として入れます。少ない文字量ほど抽象度が高くなりますが、多く指定すると関係のない情報も取り込みやすくなります。1回に出力する量は、最大でも400文字程度にするのがおすすめです。
Web広告のメインビジュアルを作る場合に、英語の表記の方がデザインを作りやすいケースがあるため、英語のコピーも作成してみましょう。
日本語の指示に「英語で」と足しておけば、英語のコピーが生成できます。今回は「英語で3単語以内のコピーを10個」と指示します。
出力された10個のコピーのうち、特に良かった「Data-driven sales」について「このコピーが気に入ったので併記する日本語のコピーを5個考えて」と依頼すると、上記のようにいくつかの候補が示されました。
ChatGPTに役割を指示することで、ターゲットに合わせたコピーの叩き台ができます。さまざまな条件をかけ合わせながら試してみると良いでしょう。
子どもに説明するように言って
難解な内容を分かりやすく説明したいときは、「あなたは先生なので子どもに分かるように説明してください」とChatGPTに役割を与えることで、出力される文章もやさしい内容になります。実際に試した例では、物流会社の事業のコピーを考えるテストで、「私たちは笑顔で荷物を運びます」というコピーが生成されました。
学生向けに言って
何度か試してみましたが、ChatGPTはどの程度の学生かを判断できないようで、あまり変化がありませんでした。
採用担当になったつもりでコピーを考えて
無料版のGPT-3.5では役割の指示を正確に理解してくれないケースが多いものの、GPT-4であれば採用担当の立場で書かれた文章が生成されました。
「自社運用で10アカウント分の広告運用が必要」「Facebook広告の画像パターンが20個必要」のように広告コピーの大量のバリエーションが必要なとき、ChatGPTは即戦力として活用できるでしょう。ただしWeb広告はただバリエーションがあれば良いわけではなく、あくまでCVを目的としています。Web広告を成功させるための基礎を学んだ上で、ChatGPTを活用しましょう。
ーー戦略設計を担当するマーケターの方もいますが、高度な思考力が必要な領域にもChatGPTは活用できるでしょうか。
「本当にその戦略を取るべきか」「他社をどう分析・差別化するか」といった判断は人間が行うため、ChatGPTが完全に取ってかわることはないと思います。ただし、情報の整理や多角的な視点を得るなどの面においては、活用できる領域は広がっていると感じます。
例えばChatGPTでは昔ながらのフレームワークを利用したアウトプットが行えます。「SWOT分析・クロスSWOT分析をしてくれ」と指示すれば、色々な業種に対応した分析が可能です。また、「ペルソナになったつもりで答えて」という指示もできます。正確性の問題は残りますが、トレーニングのために利用するには十分です。
インハウスで企画している方であれば、WebサイトやWeb戦略を練るRFPに準じるものをChatGPTと一緒に作ることもできます。RFPは型がある程度決まっているため、目的や手法の整理、提案者に良い提案をしてもらうための土台づくりを上手に行ってくれるのです。
ーー悩みややりたいことが漠然としていて、プロにどう伝えたら良いか分からない方が活用できそうです。
私も試しにChatGPTと一緒にRFPを作ったことがあります。「どうすればプロに正しく伝えられるか」「どう目的の整理をしたら良いか」「どのKPIを重視すべきか」といった内容を、ChatGPTに相談しながら整理できるのです。
そのときはリードを増やしたい、ランディングページも編集できるようにしたいと目的をあれこれと書き過ぎてしまって。「予算が大変なことになりそうだが、どうしたら良いか」とChatGPTに相談したら、「それは優先度をつけて、予算内で提案してもらうようにしてください」と怒られてしまいました(笑)。優先度をランク付けして、「この予算の中でなるべく多く実施したい」と記述を入れるなど工夫すれば、RFPを出すための情報整理は一定の精度で実現できるでしょう。
お客様の側で優先度がきれいに整理されていれば、コンサルティングを行う際にもお客様に刺さる提案がしやすくなります。また、共通言語化によってお客様と同じ理解のもとで物事を進めやすくなるため、プロジェクトの達成スピードも早められるかもしれません。
ーー数字の分析やレポーティングの効率化はどうでしょうか。
色々と試していますが、数字の分析は必ずしも正確ではないため、完成形レポートのアウトプットはまだ難しいでしょう。データの分析・出力に関しては、現段階では他のツールの方が適正がありそうです。
「得られたデータの分析をどう行えば良いか」といった相談であれば、ChatGPTにも可能かもしれません。しかし、数値を入力して実際に分析結果を導きたい場合は、APIのない無料版のChatGPTでは期待できないと思います。
ーーバリエーションが増えてサードパーティーが広がれば可能でしょうか。
BtoBマーケティングのノウハウを持っている方が、「どのような人物に、どんなソリューションを提供するのか」をAIに勉強させた上で、優先度の判断方法までロジック化できるようになれば可能だと思います。APIの利用でコメント付きのレポートを自動的に出すようなしくみを作るのも、技術的には難しくないでしょう。
ChatGPTは予算やプロジェクトのおおよその枠組みは示してくれるものの、実行に移すのはあくまで人間です。その点を踏まえた上で、最初に当たりをつけるところまでなら活用できるのではないかと考えています。
――当たりをつけた上で、意思を持って実行するのが人間なのですね。
――BtoBマーケティングの働き方そのものが変わっていきそうです。
ただ、ChatGPTは「やりたい」と考えたことをそのまま実現できる万能なツールではありません。多くの人が、今の業務をそのままChatGPTに置き換えて実行させようとしますが、それは難しいのです。現在の業務の棚卸しを行って、ChatGPTが得意とする業務の形に設計し直す必要があります。
メール文を作るにしても、独創的なメルマガを作成しようとするとどれだけプロンプト書いても終わりません。時事ネタをまとめたページを作成する、基本用語をクイズ形式に変える、メルマガのネタを増やす、型の決まったLPやコンテンツを大量生産するなど、ChatGPTが得意な形式のコンテンツを見つけて増やしていくことが大切です。ChatGPTの特徴を早くつかんで、AIが得意な形に業務設計を切り替えられるかどうかが次の段階の勝負になるでしょう。
ーーセンスが必要な業務・標準化できる業務を棚卸しして、ChatGPTに適応させる必要があるのですね。
センスが必要な業務においても、相談ごとをChatGPTで行ったり、優れたセンスがある方のロジックをプロンプト化したりといった活用の余地はあると思います。この場合も、ChatGPTやAIの特性を理解して、従来の「人が行う」やり方とは異なる業務設計を考えることが重要です。うまく適応できた会社は、とんでもないスピードで物事を進展させられるかもしれません。
ーーRPAやCRMなどのツールを業務プロセスにどう組み込むかを考えてきたのと同じように、ChatGPTありきでどう業務を変えるかを考えていくべきだと。
RPAと大きく違うのは、ルールベースではない点です。RPAの場合はルールベースで同じ作業を大量に行うだけですが、ChatGPTはルールベースにプラスして、パーソナライズやカスタマイズまで踏み込んで業務設計をし直すことがポイントになると思います。当たりさわりのない内容の自動返信メールではなく、初動でカスタマイズされた返信メールが何秒後かに届くような世界が実現できるでしょう。
ーー業務設計の見直しの重要性を認識できても、今の立場では難しい方もおられるかと思います。ChatGPTを活用しながらの働き方を模索する方たちにメッセージをお願いします。
私もアカウント開設から二週間放置してしまった側ですが、とにかく触ってみることが大切です。お客様とディスカッションすると、「このツールはチェックレベルにしか使えない」と話す方もいます。私からすると、ChatGPTはチェックが一番使えません。このような基本的な誤解をしている方が、まだ多くいる印象です。
ChatGPTは何であれば上手に行えるのか、聞き方次第でどこまでの出力が可能なのかを把握することが重要です。その点が理解できていれば、新しいツールが次々に登場したとしても勘が働くようになります。現時点で業務設計が整理できていないから標準化は難しいと考えている方も、ぜひ「試しに触ってみる」ところから始めてほしいと思います。
株式会社ウィット代表取締役。BtoBのさまざまな業界の売上アップ・ブランド強化・営業改善など250以上のプロジェクトを担当。特にリード獲得や売上アップに高い成功確率を誇る。著書に、自身のノウハウをまとめた「ウェブ営業力」(翔泳社、2009)、 「Webマーケティング基礎講座」(翔泳社、2011)がある。2017年には「BtoBウェブマーケティングの新しい教科書」(翔泳社)を上梓。アクセスログ解析システム、メール配信システムなどの開発も手掛けたことから、ウェブマーケ ティングの遂行に不可欠かつ広範囲な分野について専門性を生かした"総合的"かつ"現場に根差した"ウェブマーケティング支援を得意とする。
ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング(株式会社ウィット)
note:ChatGPTを活用したBtoBのウェブマーケティング
BeMARKE(ビーマーケ)は、BtoBマーケティングの課題解決メディアです。 BtoBマーケティングのあらゆる局面に新しい気づきを提供し、リアルで使える「ノウハウ」を発信します。