基本ノウハウ
人手不足を背景に「アウトソーシング」は年々その需要を増しています。アウトソーシングをすることで、社員は本来注力すべき業務に取り掛かれるようになるほか、人件費の削減を図ることができます。一方で、情報漏えいリスクや業務のブラックボックス化懸念から、アウトソーシング時には対策は必須です。今回はアウトソーシングについて、その意味やメリット・デメリット、BtoB企業事例などについて解説します。
アウトソーシングとは経営資源の有効活用や人件費のコスト削減などを目的に、一部の業務を外部へ委託することです。例えば、コールセンター業務のアウトソーシングは、自社の人材ではなく、外部のスタッフにコールセンター業務を代わりに行ってもらう、ということを意味します。またアウトソーシングの対象業務例としては以下が挙げられます。
なお、アウトソーシングと似た概念に「BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)」があります。BPOはアウトソーシングの一種で、業務プロセス全体を外部へ委託することです。業務の一部を外部に委託するアウトソーシングとは、「委託する範囲」に違いがあります。
アウトソーシングの需要は年々高まっています。IT専門調査会社・IDC Japan株式会社では、国内BPOサービス市場の2021年~2026年の年間平均成長率が3.9%、2026年に同市場規模は1兆717億円に上ると予測しています。
参考:国内BPOサービス市場予測を発表|IDC Japan 株式会社
こうしたアウトソーシング需要の高まりの背景には「恒常的な人手不足」が挙げられます。生産労働人口の減少が続く日本では、さまざまな業界・業種で働き手が不足しており、多くの企業が対策を迫られています。
こうした背景の下、人手不足を補い、競争力の維持・拡大を図るために、専門性の高い業務についてはアウトソーシングで外部の力を借りることで、企業活動の根幹となる「コア業務」へ経営資源を集中させる企業が増えてきているのです。
アウトソーシングと混同しやすいサービスに「人材派遣」と「シェアードサービス」があります。ここではアウトソーシングと両者の違いについて解説します。
アウトソーシングと人材派遣の大きな違いは「業務の管理者」です。
アウトソーシングは業務遂行に係る管理・指示を委託先のアウトソーシング会社が行います。一方、人材派遣とは派遣元から人材を労働者として送ってもらうサービスのことです。人材派遣の場合は、業務の管理や教育などを行うのは、派遣先である自社の従業員になります。
このように両者には、業務に係る管理者が、「アウトソーシングは委託したアウトソーシング会社であるのに対し、人材派遣の場合は派遣先企業である」という違いがあります。
アウトソーシングとシェアードサービスの違いは「業務を外部に委託するかどうか」です。シェアードサービスとはグループ企業間の共通部署を1ヵ所に集約する手法です。
例えば、各グループ会社の人事部について、グループ内の1社に共通部署をつくることで、その機能を集約する手法がシェアードサービスになります。外部に業務を委託するアウトソーシングとは異なり、シェアードサービスは「外部に委託することなく、グループ企業内で業務が収まる」点に違いがあります。
ここからはアウトソーシングのメリットを3つ解説します。
生産性の低い業務や売上に直結しない業務、特別なスキルを必要としない業務などをアウトソーシングすることで、社員は本来注力すべき業務に十分なリソースを投下できるようになります。その結果、より優れた商品・サービスの開発や売上UPなど、企業は競争力の強化を図れます。
業務量に応じて依頼できるアウトソーシングを利用することで、人件費を外注費として変動費化し、コスト削減を図れます。
売上状況に関わらず常に発生するコストである人件費を、例えばコア業務を行う正社員に絞り、必要に応じてアウトソーシングを行って労働力を適宜補完することで、余計な支出を抑えることが可能です。また、人件費の変動費化により、経営状況の変化に対して身軽に対応できるスリムな組織に変革させられます。
アウトソーシングは、業務の属人化の防止にもつながります。業務の属人化とは、「特定の社員しか業務の遂行が難しくなる」状況のことです。業務の属人化が生じると、企業内でノウハウが共有されないほか、その特定の社員が退職した場合に、業務に支障が生じる恐れがあります。
一方、アウトソーシングをする際には、業務内容や業務プロセスの可視化が必要です。この業務可視化の過程を経ることで、業務の属人化を防ぐ効果があります。また属人化してしまった業務についても、その業務をアウトソーシングで外部のプロに委託すれば、属人化を解消させることができます。
メリットだけでなく、アウトソーシングのデメリットも把握しておきましょう。
アウトソーシングには、社内にノウハウが蓄積されにくいというデメリットがあります。アウトソーシングは、社外スタッフが社外のやり方・ノウハウを用いて業務を行うためです。アウトソーシング先が倒産もしくはアウトソーシング事業の撤退などをした場合、委託していた業務を自社で遂行することが難しくなったり、質が低下したりする恐れがあります。
アウトソーシングしているからと言ってすべてを丸投げするのではなく、委託先とコミュニケーションを取りながら、担当者は委託業務の業務プロセスを細やかに把握しておくことが大切です。
アウトソーシングによって、企業情報を持つ組織・人間が増えるにしたがい、情報漏えいのリスクは高まります。業務内容によっては機密情報も共有しなければなりません。機密情報が流出してしまうと、企業の信頼に大きな傷がついてしまいます。
アウトソーシング時には、セキュリティ対策に注力している委託先を選定した上で、情報の取り扱いに関するルールの取り決めおよび契約を締結し、情報漏えいリスクを抑えるようにしましょう。
アウトソーシングをして外部スタッフに業務をお任せすると、業務の中身が見えづらくなるため、一部業務がブラックボックス化する恐れがあります。業務のブラックボックス化が進むと、余計なコストが掛かっていたり、効率の悪い働き方をしたりしていたとしても、それを発見して指示を出すことができない状態になりかねません。定期的にミーティングを開催したり、自社の社員にも委託先の業務に携わらせたりと、業務の実態を把握する工夫が必要です。
最後にアウトソーシング会社の支援を受けるBtoB企業の事例を紹介します。BtoB企業がどのようにアウトソーシングを活用しているのかを理解し、自社の活動に生かしてください。
バリューマネジメント株式会社は、ウェディングに関するコンサルティング、ホテル・旅館の運営などを事業の柱とするBtoB企業です。同社は、多様な業務を抱えるプランナーの業務負荷低減を目的に、ウェディング関連の見積書入力をアウトソーシングしています。具体的な委託内容は、パートナー企業から届く帳簿のチェックおよび同社システムのルールに則った入力作業です。ウェディングは繁閑差が激しい業界で、多い日には1日に約200件の入力を依頼しています。アウトソーシングの結果、同社プランナーは本来すべきコア業務である接客や提案に充てる時間を増やし、コア業務の質向上を達成しました。
出典:事例紹介 バリューマネジメント株式会社様|NOCアウトソーシング&コンサルティング株式会社
インターネット通販のバックオフィス事業を展開する株式会社ライフエスコートは、集計業務やレポート作成補助業務、リサーチ作業をアウトソーシングしています。同社は、ほかの業務に追われ、集計業務まで手が回らずに後回しになっていた状況を改善するためにアウトソーシングを利用し始めました。アウトソーシングの利用の結果、集計業務をしていた担当者は1週間で10時間程度の業務時間短縮を実現したほか、業務負荷低減による精神的なストレス緩和にもつながりました。
出典:導入企業インタビュー 株式会社ライフエスコート さま|株式会社ニット
株式会社Delta Valuesは、テレビの視聴率やラジオの聴取率に関するデータを解析するデータサイエンス事業を営むBtoB企業です。同社は、毎日業務が発生しない可能性のある経理業務全般をアウトソーシングしています。同社の企業規模の場合、事務職を採用するとしても1人になります。そこで、同社は業務の属人化が生じるリスクをなくすために、アウトソーシングを利用しました。アウトソーシングの結果、業務の属人化を防止するとともに、本業に集中できる職場環境をつくることができました。
出典:事例紹介 株式会社Delta Values様|NOCアウトソーシング&コンサルティング株式会社
アウトソーシングを行うことで、社員は本来すべき業務へより多くのリソースを注げるようになるほか、コスト削減も図れます。一方、外部に委託することから、社内にノウハウを蓄積しづらく、また業務のブラックボックス化も懸念されます。そのため、アウトソーシングを利用する場合には、委託先との十分なコミュニケーションが必要です。委託先と相談し、デメリットへの対策を講じながら、アウトソーシングを上手く活用してみてはいかがでしょうか。