基本ノウハウ
マーケティング用語として、「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という言葉を耳にすることがあります。各用語の意味について、「マーケット(消費者ニーズ)本位の開発・生産およびセールス方針」「プロダクト本位の開発・生産およびセールス方針」と漠然と認識している方も多いのではないでしょうか。
この記事では、マーケティング専門家でなくても聞く機会の多い「マーケットイン」「プロダクトアウト」についてくわしくご紹介します。正確な意味を理解したい方、意味はある程度理解していても後輩や部下に説明できるか自信が持てないという方は、ぜひ参考にしてください。
マーケットインとは、顧客や消費者が抱える要望(ニーズ)に基づいて、商品・サービスの開発やセールスビジネスを行っていくというマーケティングの手法を指します。
マーケットインでは、アンケート結果やSNSでの「バズり」など、マーケットの反応や収集したデータを基に顧客が何を求めているかを徹底的に調査・分析します。
その上で、消費者に求められている要素を的確に盛り込んだ商品やサービスを作り上げ、最終的にマーケットへ展開してヒットを狙うのです。
顧客の目線で分析を繰り返して「消費者が欲しがっているもの」を作り出すことで、競合他社との差別化ができます。多彩な商品やサービスがすでに市場にあふれている現代においては「確実に必要とされ、選ばれるものを作る」手段として重要視されています。
プロダクトアウトとは、自社が「開発したい」「作ってみたい」という純粋な動機や「市場に広めて世の中に役立てたい」という意欲に基づいて、商品・サービスの開発やセールスビジネスを行っていくというマーケティングの手法を指します。
マーケットインが購買層をベースにして生産や販売を考えることであるのに対し、プロダクトアウトはあくまで自社の開発力や技術力をマーケットへ提案する意味合いで生産や販売が検討されます。
マーケットインとプロダクトアウトのいずれも「こういうものが欲しい/こんなものがあったら良い」という動機の本質は共通しています。しかし、マーケットインの場合「欲しい」と思うのは主に消費者であり、プロダクトアウトの場合は主に作り手と売り手が「欲しい」と考えているという違いがあります。
マーケットインもプロダクトアウトも、現代のセールスビジネスやマーケティングで一般的に用いられている考え方です。しかし両者それぞれにメリットとデメリットがあり、用いる作り手や売り手はデメリットを克服しメリットを生かして実践する必要があります。本章ではマーケットインのメリット・デメリットを解説します。
顧客のニーズに基づくマーケットインのメリットは、以下の3つです。
データを基に、顧客や一般消費者がそのとき「欲しい」と思うものを計画的に生み出して的確なタイミングで市場に展開できます。ニーズとの齟齬が生じず「確実に売れる」商品やサービスを生み出せ、手堅いセールスを実現できます。
ビッグデータなどを活用して分析を行うため、求めているユーザーがどれくらいいるのか、価格はどの程度が適切かなど、生み出すべき商品・サービスのプロフィール設定がしやすくなります。生産や販売の計画も「消費者がいつ欲しいのか」に沿って立てられるため、作って売るための目標も設定しやすくなるでしょう。
「何人ぐらいにいくらでいつ頃売れるのか」を基準として、商品やサービスを作って売ることができるため、市場に展開してからの売上予測も容易になります。事前にデータに沿った売上の予測が立てられ、将来的な事業計画の立案にも有用となる点は大きなメリットです。
顧客ニーズやデータを重視するからこそ生じるデメリットもあります。マーケットインのデメリットは、以下の3つです。
外部からのデータが基準となるため、自社の独自性や得意分野を商品・サービスに反映できるとは限りません。自社の技術やセールス力に強みを持っていた場合、ユーザーニーズありきの考え方が足かせとなる可能性があります。
また、自社の強みが生産や販売に生かせなくなることで、これまで確立してきた自社やブランドのイメージが、意図せず市場で変化してしまうことも考えられます。
データを集めて把握できるニーズは似たものになるため、自社の展開と同時期によく似た特徴を備えた商品やサービスが展開されるリスクがあります。優位性を得るためには、入念な調査や独自の技術などを用いて差別化ポイントを作る必要があるでしょう。
マーケットインは「そこそこながら確実に売れる」商品やサービスの作り方ともいえ、一定の売上は得られるものの、斬新さや画期的なアイデアで注目される商材を生むことは難しくなるでしょう。ヒット商品を生み出したいと考えている場合、マーケットインの手法では難易度が上がるかもしれません。爆発的に売れることはなくても、市場のニーズに合わせた堅実な作り方・売り方で確実に売上を確保することを意識し、自社の成長につなげていくと良いでしょう。
次に、プロダクトアウトの手法で商品・サービスの開発と生産販売を行うメリットとデメリットを2つずつ紹介します。
作り手・売り手主導のプロダクトアウトにおいては、以下2つのメリットがあります。
プロダクトアウトの考え方では、消費者や他社が従来予測しなかった斬新な特徴や性質を備えた商品やサービスを生み出せる可能性があります。市場のニーズに合致した場合、大きく注目を浴びて大ヒットを生み出せる可能性もあります。
プロダクトアウトでは、自社が持つアイデアや独自の技術を生かした「売れるモノやサービス」を生み出せます。
他社と明確な差別化が図られた商品やサービスを生み出しやすく、商材に加えて自社ブランドの独自性をアピールする機会も得られます。特に、自社の商品やブランドのイメージがある程度確立できている場合は、独自性の強い商品やサービスを生み出すことでさらなる自社のイメージアップにつながるでしょう。
自社の技術力を生かした商品・サービスの発信を重視するプロダクトアウトは、顧客のニーズを最優先に置いていないために以下2つのデメリットがあります。
プロダクトアウトの考え方では市場のニーズにかかわらず、自社の強みや技術力が重要視されます。この性質の都合上、そのとき消費者に求められている商品やサービスを的確に市場へ提供できないという可能性も低くはありません。
もし作った商品やサービスが市場のニーズやトレンドに合わなかった場合、計画通りの売上を得られなくなったり、予想より伸び悩んでしまったりすることも考えられます。
せっかく商品・サービスの企画や生産・販売に経営資源を潤沢に使えても、その商品が売れなければコストをかけた分だけ大きな損失につながってしまいます。
商品が売れずに損失を招くおそれがある場合、不振の原因を分析して見直しを行わなければなりません。最新の現状のニーズやセールスの課題を再確認し、商品・サービスの内容刷新や販売戦略の変更などを実施する必要も出てきます。これらの作業を追加で行った場合、多くの手間やコストが生じてしまうでしょう。
商品・サービスの開発と販売において、マーケットインとプロダクトアウト、いずれの手法を選ぶべきなのかを厳密に決める必要はありません。
消費者側でモノやサービスの選択肢が無数にある現代においては、新奇性で目を引くものより確実に役立つものが求められており、マーケットインの時代といわれる機会が多くなっています。
実際「プロダクトアウトは市場が成熟していなかった昔の考え方」「これからはマーケットイン。プロダクトアウトはもう古い」といった極端な意見もときどき見られます。しかし、本当に現代にはマーケットインしかマッチせず、プロダクトアウトは良くないという考えが通用するのでしょうか。
マーケットインとプロダクトアウトを語るときは、上記のようについ二元論に終始してしまいがちです。しかし、マーケットインとプロダクトアウトにはそれぞれ異なるメリットがあり、モノを作って売る企業としていずれも大切にすべき考え方です。
時代に合わないと言われがちなプロダクトアウトも、「ユーザの要望や意見を無視すべきである」などという考え方ではありません。実際に「最終的に顧客に選んでもらい、喜んでもらえる商品・サービスを作っている」という観点では、マーケットインもプロダクトアウトも同様です。
「マーケットインだから良い、プロダクトアウトは良くない」と二元的に考えてしまうより、1つの方針に縛られず消費者に選ばれる商品開発や販売戦略を考えていくことが重要なのです。
マーケットインとプロダクトアウトについて理解を深めると、つい「どっちを選ぶ」という姿勢を採りがちになってしまいます。しかし、両者は商品開発や販売戦略における異なった概念でしかなく、対極的に考えるものではないでしょう。
マーケットインとプロダクトアウトのどちらで生産やセールスを行うかではなく、「どのようにして商品・サービスを選んでもらい、価値を感じてもらえるか」を大切に考えていくと良いでしょう。手堅く成果を得られるマーケットイン、インパクトや感動を与えられるプロダクトアウトと、性質は違って見えますが、結局いずれも消費者に選んでもらっている結果なのです。
商品・サービスを生み出すときには、どの手法を採るかより「いかに選んでもらえる価値を提供するか」を最優先に考え、生産・販売に盛り込んでいくと良いでしょう。