基本ノウハウ
「問い合わせフォームが作れるようだから」「競合他社が活用しているようだから」――例えばそうした理由でMAの導入を検討し始めたのであれば、一度立ち止まって考えてほしいことがあります。
確かにMAで問い合わせフォームを作ることはできますし、競争力アップも実現できるかもしれません。しかしあなたの組織にマーケティングの下地や案件創出(デマンドジェネレーション)の仕組みがなく、この先も取り組む計画がないとしたら、MA以外のツールの選択をおすすめします。
なぜならMAの本質は「案件創出」なので、それにまつわる業務の効率化や仕組み化が計画から抜け落ちて導入自体が目的となっている状況では、導入が失敗に終わってしまう可能性があるのです。
そこでこの記事では、MAの基本情報のほか、導入に失敗しないためのポイントを解説します。MAが自社の目的や方針に合致しているかどうか見極めるのに役立ててください。
まずは、改めてMAの基本情報をおさらいしておきましょう。MAの役割・機能の例と、近年MA活用に注目が集まるその背景を解説します。
MA(Marketing Automation)とは、名前の通りマーケティングに関するさまざまな業務を自動化・効率化するための仕組み、またはツールのことです。定型的な業務や膨大な作業を自動化することで、効率を高めることにつながります。
・リード管理
・リードスコアリング
・フォーム作成
・シナリオ作成
・メール配信
・個人トラッキング
・SFAやCRMとの情報連携
MAを導入する企業は年々増えていますが、ニーズが高まっているのにはどのような背景があるのでしょうか。その理由は、近年の日本企業の営業活動を取り巻く環境の変化にあります。
一昔前であれば、BtoBの製品やサービスの情報を持っているのは営業担当だったので「とりあえず担当者に会って話を聞いてみよう」という流れになることが一般的でした。またBtoC向けの製品やサービスであれば、TVCMや雑誌などマスメディアで発信される情報を基に購入の意思決定をすることがほとんどだったのです。
しかし企業各社がWebを活用して製品やサービスの情報、また購入の意思決定に役立つノウハウを発信し始めたことで、まずは顧客自身がWebで情報収集を行い、ある程度の意思決定をするようになりました。 さらにWeb上でサービスの購買から使用までが完結するクラウドサービスの普及も、購買行動におけるWebでの情報収集と検討が顧客サイドで進む要因になったのです。
MA拡大の背景には商品の差別化が難しくなってきていることも挙げられます。言い換えると、商品のコモディティ化が進み、ユーザーのあらゆるニーズが満たされるようになっています。企業には顕在化していない顧客ニーズを掘り起こしてソリューションとなる商品やサービスを売り込む必要が生じましたが、その複雑化した個人ニーズの把握と管理が課題になりました。 しかし見込み顧客を増やさないことには、成約件数が伸びず、売上の維持・拡大につなげられません。そこで見込み顧客を増やすための管理とアプローチに力を入れる必要が出てきたのです。
前章でお伝えしたように、MAは、本来は案件創出をサポートするためのツールです。そのため、あなたの組織にマーケティングの下地や案件創出の仕組みがなく、この先も取り組む計画がないのであれば、MAの導入は見送る方が良いでしょう。以下の1つでもチェックが入ったら導入の再検討をおすすめします。
今後も既存顧客のクロスセル・アップセルを中心に営業活動をしていく場合、新規案件の創出を行うためのツールであるMAを導入したとしても活用できずに終わってしまうでしょう。会社の方針としてデマンドジェネレーションを行う計画がないのであれば、MA導入を見送るのが賢明です。
デマンドジェネレーションを行う場合、「リードジェネレーション」「リードナーチャリング」「リードクオリフィケーション」という3つの取り組みを進めることになります。
リードジェネレーション・リードナーチャリング・リードクオリフィケーションそれぞれを管轄する部門が異なる場合は、複数部門が連携しデマンドジェネレーションに取り組む必要が出てきます。例えば展示会を管理している広報部門や、基幹システムで取引データを管理している情報システム部門、見込み顧客の名刺を持っている営業部門などがセクションを横断して連携する必要が生じるでしょう。
デマンドジェネレーションは会社全体を巻き込み、場合によっては組織体制の変更も視野に入れることになるため、全社的なプロジェクトとして取り組めるかどうかをよく検討してみてください。
それでもなお、全社を挙げてマーケティングに取り組み、案件創出に力を入れていく心構えがあるならば、MAの導入をおすすめします。
時に組織を変革するほどの大規模なプロジェクトとなるならば、できるだけリスクヘッジをしておきたいもの。
導入したは良いもののMAを活用した業務の効率化や案件創出が未達に終わり、ツールが活用できず経費の無駄遣いになっている状態は導入に失敗していると言えます。よくある「失敗を招くケース」とその対策をまとめてみたので、参考にしてください。
実際にMAを使いこなし、デマンドジェネレーションを推進するのは自社の社員。「とりあえず導入すればマーケティング業務を効率化できるだろう」「顧客が増え、売上も向上するだろう」という安易な考えのもと、導入すること自体が目的になってしまうのはMAに期待し過ぎというものです。
解決策
事前にMA導入の目的・活用目標・運用設計を検討しましょう。
- 導入の目的:自社のマーケティングや営業スタイルをどのように変革したいのか、そのためにMAを導入して何を成し遂げたいのか
- 活用目標:目的を達成するためにどのような目標を設定すれば良いのか
- 運用設計:目標達成のためにどのような体制で運用し、どの程度のリソースを充てるのか
よくあるのは、MAを導入しても「メール配信にしか使っていない」「ランディングページを作成するだけ」といった具合に、活用する機能が一部に限定されてしまうケースです。せっかくマーケティングに幅広く活用できるさまざまな機能を搭載しているのに、これでは「宝の持ち腐れ」状態です。
また機能活用のためには各種設定をする必要がありますが、ツールと担当者のマーケティング理解度や操作スキルにギャップがあることでも「使いこなせない」事態が生じてしまいます。
導入目的や活用目標、運用設計に対してマッチしたツールを選ぶことが重要です。場合によっては、MA以外のツールの採用や、MA導入を見送って従来の方法を継続する方が適切なケースもあります。導入する前に製品のデモ版や無料版を活用して、使いこなせるかシミュレーションしてみましょう。
また担当者の習熟度に対して運用サポートが十分であるかも確認をすると良いです。初めてMAを導入する場合は多機能なツールではなく、機能がシンプルで操作が簡単なツールを選ぶことも有効です。
MAを活用すればどんなに多くの顧客に対してでも一斉にメルマガを配信することができます。しかし「営業から回収できた名刺がわずか」「リストの精査をしたらメルマガを送付できる企業がほとんどなかった」といった理由でアプローチできるリストが思ったように創出できないケースも。
MAの活用を始める際には、ある程度の保有リードがあると良いでしょう。保有リードがない場合は、まずはリード管理・獲得の取り組みを優先すべきです。「営業部門から見込み顧客の名刺を回収する」「過去の展示会やセミナーなどで集めた個人情報を集約する」など、アプローチ対象となるリードを確保することから始めてみてください。
リードナーチャリングをするためには、顧客の興味関心に合わせた内容のメールを配信したり、オウンドメディアに誘導したりといったアクションが必要になります。 またWeb上の顧客の行動を分析して興味関心を予想するためにも、製品・サービス紹介、カタログ、DL資料といったある程度のコンテンツが必要です。 リソースや予算がないといった理由でコンテンツが作成できないとマーケティング活動を展開できません。
マーケターや営業担当者がコア業務の傍らでコンテンツ作りを行うのは、リソースやノウハウの観点から難しいでしょう。自社でのコンテンツ制作が難しい場合は、外部スタッフを活用することも検討してみてください。
色々と注意点はありますが、導入前に完璧に対策するのは不可能なうえ、準備に時間をかけるほどデマンドジェネレーションに着手するのが遅れてしまいます。 まずはExcelなど身近なツールでリードを管理するところから始めて、無料もしくは低価格で利用開始できるサービスを活用するなど、自社の習熟度や戦略に合わせて徐々にMA導入を検討してみるのが良いでしょう。
MAを導入するまで、また導入してからも操作や活用に慣れるまでが大変ですが、デマンドジェネレーション担当業務には以下のようなやりがいもあります。
デマンドジェネレーションを行うには、コンテンツが不可欠です。コンテンツの制作は目的設定→企画→情報収集→執筆→デザインというフローで進めることになるため、担当することでおのずと情報収集力やライティング力、表現力などが身に付きます。これらのスキルは営業やマーケティング業務に限らず、コミュニケーションが必要とされるあらゆる仕事で活かされるでしょう。つまり、MAの担当をすることによって、幅広い業務で活かせるスキルが身に付くのです。
デマンドジェネレーションは、マーケティングや営業、商品開発、カスタマーサポートなど、多くの部門と連携を取りながら進めていくことになります。各部門のミッションや事情を踏まえながらプロジェクトを進行していくために、そのヒアリングや背景理解を繰り返すことで、結果的に自社の商品やマーケティングに詳しくなれます。マーケティングや営業活動に限らず、商品開発や新規事業の展開といった場面でも頼られるかもしれません。
良くも悪くも、MAでは施策の成果が数字で表れます。MAはもともと営業成果を維持または向上させ、効率化や経費削減を実現するために導入されます。そのため、成果と効率については厳しく結果を求められがちです。導入して間もなくは効率的な運用が難しく、MA担当にとってはプレッシャーとなるかもしれません。
しかし、それを乗り越えて狙った結果を出せるようになれば、会社への貢献度は数字上で明らかとなります。
MAを使いこなして成果に結びつけるまでには時間がかかるため、長期的な視点で取り組むことが大切です。少しずつデマンドジェネレーションに取り組むことで、自社のマーケティング力や営業力を高めていきましょう。